特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『立憲民主・枝野氏出演の「報道1930」』と映画『略奪者たち』(イタリア映画祭2021)

 昨日の日曜日は久々の晴れ、気持ちよかったです。
 駒沢公園等々力渓谷は人が多くて、休日はとても近寄れません。家の周りの東西南北を歩き回って苦節1年(笑)、やっと我慢できる程度に人が少ない散歩コースを発見したところです。

 今までは運動がてら街へ出て、映画を見ていた面もあったのですが、本当は電車も乗りたくないし、人が多い街もあまり行きたくはありません。休日の映画はオンライン、散歩も近くで済ませる方が精神衛生上は望ましい。ますます出不精になっちゃうなあ。
 
 とにかく街に溢れるマスク無しの下等人種とは極力関わりたくない。憧れの閑居生活にまた一歩近づきました。

●近所のイタリアンのテイクアウト。四国の漁師さんが活き締めした鱸を使ったフィッシュ・バーガー。もちろんタルタルソースも完全手作り。デカい!うまい! 


 先週水曜のBS-TBS報道1930』は中々チャレンジングな企画でした。

 立憲民主党の党首、枝野氏をゲストに、『設立当初に比べて立憲民主党の勢いが鈍っているのではないか』ということを議論したのです。
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 もうちょっと具体的に言うと、『枝野氏の言ってることはマトモ、正論であることが多いのに、最近はそれが人々に伝わっていないのではないか』ということです。

 菅の支持率は下がっても立憲民主の支持率は頭打ちだし、結党当時の盛り上がりはどこへ行ってしまったのか。
 ボクも含めて、そう感じている人は多いのではないでしょうか?番組は聞きにくいことを本人にはっきり問いかけていたので興味津々。


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それに対して、枝野の答えはこうでした。
今は選挙と選挙の間、選挙の時のように熱いことだけ言ってもダメで、今は党の政策をまとめ、地方組織を立ち上げることを優先した。

 まあ、それは正しい。逆に甘いバラマキみたいなことばかり言ってたら、ボクは立憲民主に失望したと思う。前回の選挙以降 立憲民主と国民民主、社民党との合流という大きな出来事があったのですから、調整が必要だったことは判る。ただ、そんな事情は国民とは関係のないことでもある。それもまた事実。

 議論の中で政治学者の岡田氏が『小選挙区制では政権交代や国会の伯仲状態を作るには大量に得票する必要はなくて、もう400万票とれば良い』ということを持ち出したことを受けて、枝野はこんな話をしました。

今回「枝野ビジョン」という本を出したが、必ずしも多くの人に読んでもらえるとは思わない。まず学者やジャーナリスト、指導的立場の社会人など社会のインフルエンサー立憲民主党の考えていることを伝え、更に400万票を取るための下地作りにしたい

 発売されたばかりの『枝野ビジョン』の内容は番組でも一部紹介されました。枝野氏の言葉とは裏腹に売れ行きも好調で、発売1週間足らずで2回重版がかかっています。

人口が減少する、これからの日本は経済成長にも限度がある。そのような環境では過度な自己責任論から脱却し、支え合う経済と、機能する政府を取り戻さなくてはならない。具体的には政府による所得の再分配機能を高めて低所得者層の所得を底上げし消費拡大につなげることや、医療や介護、保育といった「ベーシック・サービス」を拡充して、経済をテコ入れする。

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 『枝野ビジョン』はまだ未読ですが、大筋はマトモそうです。地方を中心に公共事業のおこぼれで多くの人が生計を立てる昭和の経済構造を変えて行くのは大変ですが、消費税廃止のような空理空論のバカ話とは遥かにマシ、雲泥の差です。

 ただ、枝野氏は『政権交代の準備は出来た』と言っていましたが、ボクはそうは思えませんでした。

 やっぱり立憲民主はまだまだ人材も足りない。政党の体をなすにはまず、組織も政権構想も固めなければならないことは判ります。でも決定的にスピードが足りない。
 それは人材が足りないからです。この番組にも出演した元官僚の小川淳也氏とか中村喜四郎氏のような理屈が判る人材や経験のある人材がまだまだ足りない。例え弁護士とか元アナウンサーとか言っても、山尾とか石垣のように足を引っ張るだけのバカは要らない。

 デジタル庁にしろ、こども庁にしろ、自民党は次から次へと次の手を繰り出してきます。また最低賃金上げだってやるでしょう。そして毎朝TVの視聴率やネットの世論を分析して、どうすれば露出が増えるか、どうすれば受けるか、を真剣に検討している。
 大して手間もお金もかからないのだから、立憲民主だって、その程度は戦略的にならなければ勝負はできません。

 政権交代、それ以前に与野党伯仲状態にならなければ、世襲・縁故と社会不適合者のバカだらけの無能政府のままです。与野党伯仲に持ち込める可能性がある野党は今は立憲民主しかありません。
 涙の大言壮語(笑)やバラマキで選挙の『風が吹く』のを期待するのは間違いだと思います。もちろん選挙に勝つには『風が吹く』ことは必要です。が、それだけでは政権は維持できない。
 望み薄かもしれませんが(笑)、日本人がどれだけ大人になれるか、政党や政治家を育てられるか、それが問題なのだと思います。


 と、いうことで、オンラインでイタリア映画祭2021、映画『略奪者たち』(原題 ''I predatori'')
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www.asahi.com

舞台は現代のイタリア。ブルジョアでインテリ層のパヴォーネ家と、プロレタリアートファシストのヴィズマーラ家。別々の世界で交わることなく生きてきた二つの家族が交通事故によって交わることから、連鎖するように様々な出来事が起きていく。

 黒沢清監督の『スパイの妻』が銀賞を取った昨年のヴェネチア国際映画祭で、革新的な作品に与えられるオリゾンティ部門の脚本賞を受賞した作品です。スタイリッシュな群像劇のブラックコメディと表現したらよいでしょうか。

 映画は海沿いの街で老婆が詐欺に引っ掛かるところから始まります。年金の支給日 老婆は息子のクラウディオから言付かってきたという男に自分の年金、千ユーロを渡してしまいます。日本でも良くありそうな話です。老婆を始めとしたヴィズマーラ家の面々はお金はありませんが、家族同士の繋がりは強いのです。
●ヴィズマーラ家の誕生パーティ。銃器店を営む彼らは裏社会とも関りがあると同時に熱心なファシストでもあります。家族の繋がりは強固です。

 とにかく映像がスタイリッシュです。画面の構図からして、良く計算された絵画のようです。冒頭 タバコの煙をうまく使ってお話が動いていくのも面白い。こんな映像は見たことがありません。色彩も美しい。

 登場人物は皆 非常に饒舌ですが、説明らしい説明は全くありません、だからお話は中々つかみにくいのですが、映像がカッコいいから全く退屈しません。
●クラウディオの一家


 年金詐欺の後、ニーチェに心酔する学生が出てきます。この、パヴォーネ家の面々は先ほどの下町然としたヴィズマーラ家の面々とは雰囲気が違う。

 彼の母親は映画監督、父親はプロデューサー、叔父は医者。哲学を学んでいる息子は教授にクビを宣告され、親たちは不倫関係にある。

 お金はあるけれど不穏な雰囲気です。誰もが驚くくらい饒舌で毒舌なところだけが、ウィズマーラ家の面々と共通している。
●パヴォーネ家の兄弟。兄は医者(写真左)で弟はプロデューサー(写真右)。弟は兄の妻と不倫関係にあります。

 本来 交わることのない両家でしたが、パヴォーネ家の医者がヴィズマーラ家のおばあちゃんを救ったことから両家には奇妙なかかわりが生じます。

 感謝の念を伝えようと、クラウディオは無理やり病院へ押しかけます。

 ファシストのヴィズマーラ家とリベラルなブルジョアのパヴォーネ家、階級や環境は全く異なりますが、ある点では似ています。誰もが自己主張が強く、腹に一物持っている。

 イタリアにおいてファシストと言うのは今も市民権があるんだなーと思いました。日本で言うところのネトウヨなんかより遥かにメジャーなんでしょう。零細の自営業者やプロレタリアートがそういうものを支持するのも各国共通の現象です。

 一方 インテリの側はそういうものは歯牙にもかけない、バカは全く相手にしない。論争にすらならない。無視です。この分断の深さは日本では想像もできない。

 共通しているのはイタリア人は自分の欲望に忠実に生きているということ。

 邦題は『略奪者たち』ですが、原題のPredatorの言葉を直訳した『捕食者たち』の方が相応しい。男も女も捕食者、そういう内容です。

 辛辣なブラックギャグと本当に良く練られた脚本、そしてスタイリッシュな映像と非常に完成度が高い、ボクにとっては満足度が高い映画でした。これくらいレベルが高いものを見せてもらうとかなり楽しい。面白かった!

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