特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

全ては嘘から始まった:ドラマ『チェルノブイリ』

 寒いですね~。仕事も始まって、のんびりしたお正月は遠い昔の事のようです(泣)。
 流石にこの頃はコロナに感染した人の話をそこいら中で聞くようになりました。自分だって症状が出ていないだけで感染しているかもしれません。

 政府はやっとPCR検査を拡充する方針を出してきたようですけど、はっきり言って『1年遅い』。



 飲食業や非正規雇用の人など多くの人が苦しんでいるというのに、未だに日本の政治家からは危機感なんか感じられません。

 感染を防ぐ有効な対策どころか、国民に説明しようという言葉すら、政治家にはない。そりゃあ、国民に協力しろと言ってもムリに決まってます。

 感染を抑え込むことができた国は検査をバンバンやって、感染者を隔離してます。そして国民に理を尽くして説明し、協力を要請しています。台湾やニュージーランド、とは言わないにしても、日本の政府はどれだけ無能なんだよって思います。

 昨日も、感染者が発生した中国河北省で1000万人のPCR検査を一気に行う、それも複数回、というニュースが流れていました。

mainichi.jp

 明治維新にしろ、戦後の復興にしろ、他国の後追いはかって日本のお家芸でした。しかし今や他国の成功事例に学ぶ、そんなことすらできない、認知が歪み劣化した国になってしまったんですね、日本は。

 先日のアメリカでの暴動について今日、シュワルツェネッガーが『オーストリア育ちの自分はクリスタル・ナハト(水晶の夜)を思い起こした』と発言しました。初めて告白したという自分の父親によるDVの事にも触れながら、DVも暴動も『全ては嘘から始まった』と述べている感動的なスピーチです。
 クリスタル・ナハトとは1938年にナチが扇動したユダヤ人を標的にした暴動で、割られたガラスが水晶のようだったということから『クリスタル・ナハト』と呼ばれています。ユダヤ人弾圧が進む切っ掛けになった事件です。


www.huffingtonpost.jp


 今回 ガラスを割って議会に乱入した連中にはネオナチ、白人至上主義者が大勢いたことが判っています。ナチスのよう、ではなく、現代のナチそのものです。
 自分たちの主張を通すために暴力を用いる連中は民主主義を脅かす存在、ただのテロリストです。彼らを産んだのは『嘘』、そして『陰謀論』です。嘘やデマを振りまくことは言論の自由ではありません。暴力は民主主義とは両立しないし、デマを振りまく自由を認めてしまったら言論は成り立たないからです。
●これ、面白い視点です。如何に日本人がデマに弱いかを数字で示しています。

 そういうことすら判らない連中がアメリカにも日本にもいるようです。そこまでいかなくても、デマやフェイクを流したりリツイートしている連中が右でも左でも大勢います。百田尚樹とか山本太郎なんかその典型です。
●れいわの大阪公認候補のtweet。もはやカルトの吹き溜まり、オウムみたい(笑)。

 ボクは右でも左でも嘘やデマ、フェイクには出来るだけ目くじら立てるようにしています(笑)。

 嘘やデマはウィルスと一緒で放っておけば増殖し、やがて世の中の空気がおかしくなっていくからです。

 これはハーバード大を卒業して民主党下院議員の秘書になったがもっと世の中を変えたい、と、ロック・ギタリストになったトム・モレロレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの今回の暴動を受けてのtweetです。『ナチには生きる資格はない

 ボクもそう思います。




 と、いうことで、今回は配信のTVドラマです。お正月に見てびっくりしたのがこれ。アメリカのTVドラマのミニシリーズ『チェルノブイリ
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www.hbo.com

 アメリカでは19年に放送されて、エミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞など10部門、ゴールデングローブ賞のTVドラマ作品賞、助演男優賞などTVドラマ関連の賞を総なめにした、一部では完全無欠なTVドラマ?と呼ばれているのは聞いていましたが、なかなか見る機会がありませんでした。

 今回 時間が出来たお正月にやっと約1時間のドラマ5本のシリーズを見ることが出来ました。ボクはアマゾンで見ましたけど、スターチャンネルなど色々な配信やレンタルで見られるようですね。
www.star-ch.jp

 dvdも出ているし。

 お話は1986年のチェルノブイリ原発事故の発生から収束、そして原因の追及までを様々な人たちのエピソードをもとに描いたものです。

 中心となるのは3人の人物です。
 実際に事故の収束を指揮した原発の専門家、レガソフ博士(ジド・ジャレット)、

 事故対策の最高責任者として現地で指揮にあたった副首相のシチェルビナ(ステラン・スカルスガルド)、

 彼らをバックアップする科学者のホチェック博士(エミリー・ワトソン)。

 彼女だけは収束にあたった様々な科学者のエピソードを取りまとめた架空の人物だそうですが、その他は実話をかなり忠実に再現したドラマです。
●左からシチェルビナ副首相、レガソフ博士、ホチェック博士

第1話:午前1時23分47秒
第2話:落ち着いてください
第3話:地球よ、広く開け
第4話:全ての人道的行為の幸せ
第5話:永遠の記憶

 86年4月26日深夜の1時23分47秒、チェルノブイリ原子力発電所4号機で爆発が起こります。原子炉が爆発するなど発電所の技師たちも含めて全く想定外でした。
職員たちは何が起きているのか判らない。駆け付けた消防は消火活動に入りますが、通常の火事だと思っている。市民たちは離れたところから大きな火事を見物しています。彼らの頭の上から、白い灰のようなものが降ってくる。しかし、誰も気に留めない。白い灰はもちろん、あれです。
それが事故の始まりでした。

 朝になっても発電所所長や技師長は単に水蒸気のタンクが爆発しただけだと、原子炉の爆発を否定し続けます。地元の共産党は町を封鎖し、人々の出入りを止めると同時に電話線も切って情報を遮断する。もちろん住民に避難なんかさせません。共産党中央部にも事故は大したことがない、という報告がなされる。

 しかし中央では原発の専門家、レガソフ博士が『本当は大事故が起きているのではないか?』と主張します。ゴルバチョフから現地の最高指揮をゆだねられた副首相のシチェルビナはレガソフ博士を連れて現地へ向かいます。

 二人が乗ったヘリから見えたのは原発の建屋の屋根に原子炉の炉心に使われている黒鉛が散らばっている光景でした。原子炉が爆発したことがここで初めて判ります。

 チェルノブイリ事故の収束にはのべ70万人以上の人が関わったといわれています。そして30万人以上の住民が避難を強いられた。
 ですから、ドラマでは様々な人たちの様々なエピソードが展開されます。原発の職員、消防士とその家族、地元住民、兵士、科学者、共産党の幹部たち、KGB
 ビックリするようなエピソードの連続です。例え知っていることでも、映像で見るのとは全然違う。お話も映像も音楽も大迫力です。

 チェルノブイリ発電所の幹部たちは普段から尊大で部下に威張り散らしていました。そして事故が起きても責任逃ればかりやっている。
 
 一方 共産党はとにかく事故を隠そうとします。処罰を恐れる地方幹部は中央に対して、中央は海外に対して情報を隠蔽する。
 当初は『原発の事故など起きていない』と言い張る。放射性物質が海外で探知されると、今度は『事故はアンダーコントロールだ』と言い訳する。
 日本でも政府(これは民主党)も東電もメルトダウンを否定し続けました。アンダーコントロールと国際社会に公言した首相もいました。歴史は繰り返す(笑)。

 放射能が漏れていることすら当初は知らされませんでした。原発事故の知識も装備もなく訓練も受けたことがない現場の人々はどんどん被ばくしていく。最初に駆け付けた消防士たち、発電所の職員たち、動員された兵士たち、見物に集まった地元の人々。

 レガソフ博士は孤軍奮闘を続けます。やたらと『(命令を聞かなければ)銃殺』を連呼する副首相シチェルビナを説き伏せ、軍や資源を投入させる。渋る地方政府に命じて住民避難を行わせる。
 とにかく爆発の火は消さなくてはなりません。まず、火を消すために軍のヘリでホウ素と砂を投下します。投下するにもヘリは放射線が高い原発の真上を避けなければいけない。至難の業です。
 砂とホウ素で火は沈下の方向へ向かいますが、覆われた核燃料の温度が上がってメルトダウンの恐れがでてきます。今度は燃料の温度を冷やすため、日本と同じようにヘリで水を放水します。しかし原子炉の下にその水が溜まり、これまた日本と同じように水蒸気爆発の危険が出てくる。

 原発にたまった水で水蒸気爆発が起きれば4号機の燃料が飛び散るだけでなく、他の炉にまで被害が及ぶ可能性があります。そうなれば東ヨーロッパまで被害が及びます。というか、東ヨーロッパ全滅です。
複数の原子炉が崩壊して東日本全体が死の土地になる可能性は福島でもありました。天皇を関東から避難させることも検討したのですから。

 他に手段はありません。原子炉の下にたまった水を抜くため、職員の決死隊が派遣される。原子炉の地下にたまった水をかき分けながら進んで、手動でバルブを開けるのです。下手なホラーより怖い。
 
 文字通り決死の行動で水が抜けると、核燃料の温度が上がってメルトダウンの危険性がでてきます。溶けた燃料が下へ潜っていき、地下水の層にまで達すれば、東ヨーロッパを流れる大河、ドニエプル川が汚染され、これまた東ヨーロッパ全体が死の土地になりかねない。

 燃料が地下水の層に達するまで残された時間は数週間。ブルドーザーなど重機は使えません。数百人の炭鉱夫が集められ、原発の地下に手でトンネルを掘り、そこから国中の液体窒素を集めて燃料を冷却することになります。高熱と作業性の問題もあって、彼らは防護服を着ませんでした。原子炉の下で彼らは、裸のままトンネルを掘ります。

 こんな感じで次から次へと困難が起こります。事実ではありますけど、息をもつかせぬ展開で、ドラマから全く目が離せません。

 一番の難題は原発の屋根に散らばった原子炉の炉心の黒鉛でした。レガソフ博士たちは無人の月面探査車などロボットを使って処理しようとしますが、あまりにも放射線量が高く、直ぐ壊れてしまう。福島でも炉の中はそうみたいですね。

 結局 防護服を着た兵士たちが人力で90秒ずつ作業して黒鉛を除去することになります。作業に加わったのは約3800人。彼らには恩給が与えられます。

 多くの職員も消防士も炭鉱夫も兵士も後日どうなったか、は推して知るべし、です。しかしそれしか手段がなかった。現場だけでなく 最高指揮官の副首相シチェルビナもレガソフ博士も後日 放射性障害を発症しています。

 ドラマでは現場だけではなく、病院がどうだったか、避難地域がどうだったか、まで丁寧に描かれます。病院だって戦場のようです。それに放射性物資を拡散させないため、避難地域で被ばくしたペットたちを殺して回る任務を受け持った部隊なんて全く想像がつきませんでした。
とにかく、ものすごい迫力のドラマです。
 

 現場での収束作業が進むにつれ、お話は事故原因の謎解きに移っていきます。日本でも伝えられた通り、発電所側が無茶な出力低下実験をやり、オペレーションミスを起こしたのが直接の原因でした。しかし、チェルノブイリでは最後のセーフティネットである緊急停止装置が効かなかった。それは何故だったのか。
 ソ連の中央、それに科学者たちは緊急停止装置の欠陥を長年隠していたのです。
 折しもチェルノブイリの所長や技師長らの裁判が開かれ、レガソフはその証言に呼ばれます。迷いに迷いましたがレガソフはKGBの意向に逆らって、法廷でそのことを告発します。


 普通にドラマとしても脚本、音楽、撮影、素晴らしすぎる作品です。
 元来 水と油の存在である、科学者のレガソフ博士や共産党幹部のシチェルビナ副首相のキャラは面白いし、その二人の間に次第に信頼関係が出来ていくところは涙なくしては見られません。

 当時のソ連共産党は今の日本政府同様 無能で嘘ばかりついていましたが、副首相自らが命に係わるレベルまで被ばくして現場で奮闘するのは明らかに日本とは違います。

 撮影もここまでやるかと思いました。
 東海村の事故で起きたように、人間は強度の被ばくをすると免疫が壊れ細胞組織が崩れ、徐々に溶けていくそうです。モルヒネも効かずひどい痛みが数週間続く。そうやって亡くなった広島の被爆者の方の写真を原爆資料館で見ましたけど、このドラマはあれを映像で再現してるんです。光をうまく使って正視に耐えられるレベルに加減はしていますけど、ここまでやるのかと思った。しかし、やらないと事故の本質はわからない。
 簡潔で迫力ある音楽もすごいです。

 それに大迫力のセット。チェルノブイリと同型で廃炉になったリトアニア原発でロケをし、CGも多用したそうです。予算もすごいんでしょう。
 欠点がないドラマ、とまで言われていますが、確かにそうかもしれません。

 チェルノブイリの事故が起きたとき 日本政府は『ソ連と日本のものとは違う』という説明をしていました。たしかにソ連原発はコストダウンのために格納容器はありませんでしたから、ボクもそう思ってました。しかし、このドラマを見てはっきりとチェルノブイリも福島も本質は一緒ということが良く判った

 チェルノブイリ事故の本質は嘘の代償』ということでした。
 欠陥を隠していたのも、事故を隠そうとしたのも、事故の被害も嘘でした。ソ連が公式の統計を取ってないのではっきりしませんが、事故の直接の犠牲者は数千から10万人近く、と言われています。副首相のシチェルビナのように数年後に亡くなった人もいますから犠牲者の数は正直 判らない。
アカデミー賞を獲ったドキュメンタリー『チェルノブイリ・ハート』で告発されたように、生まれつき奇形や病気、障害を持った子供もたくさん生まれています。放射性物質が最も多く降り注いだウクライナとベルルーシは事故から6,7年経ってから人口が急減、ともにピーク時から1割減っています(約5~600万人減)。

 ゴルバチョフ回顧録で『ソ連崩壊の原因はチェルノブイリ事故かもしれない』と述べています。『嘘の代償』はあまりにも莫大でした。
 福島だって長年 GEの原子炉の欠陥を隠していたわけです。予想される津波の大きさだって東電は都合の悪いデータを取り上げませんでした。政府や東電は原発は『絶対安全』と嘘をついていた
 チェルノブイリみたいに、いきなり炉心が爆発しなかったから良かったものの、事故の本質としては福島も同じです。福島の事故処理コストは補償まで含めた金額はいまだに公表されていません。公表できないでしょう。相変わらず政府や東電は嘘をつき続けている。

 日本でもう一回福島のような事故があったら、おしまいです。安全性の問題だけでなく、既に世界最大の国の借金を抱え、少子高齢化で今後50年は落ち目が続く日本経済にそんな余裕はない。
 どんなものにでも欠陥や人為的ミスはあるし、ましてや人間は嘘をつく存在です。そして、いざ事故が起きたら、泣こうが喚こうが、お金を払おうが権力が圧力をかけようが銃殺にしようが、コントロールできない。311で我々が体験したことを、このドラマはしっかり追体験させます。
 

 ドラマの中でレガソフは『人々は何が真実かより、誰が悪いのかばかり求めたがる』と述べています。日本人もそれと一緒、いや、真実を見ようとしないのはもっとひどいのではないでしょうか。

 チェルノブイリの事故も福島の事故も全ては嘘から始まりましたソ連の崩壊も嘘から始まったともいえる。日本の衰退も嘘から始まるのではないでしょうか。
 『チェルノブイリ』は日本のTVとは月とスッポン、1億倍は素晴らしい大傑作、必見のドラマです。
www.youtube.com