特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『穏やかな秋の海』と映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』

 今日 『桜を見る会』に関する公設秘書の事情聴取を受けて、#安倍晋三の逮捕を求めます、のタグがトレンド入りしました。当然ですよね。


 安倍晋三にしろ、トランプにしろ、権力者が堂々と私利私欲を追及することが当たり前になってしまった。何かあってもシラを切れば済んでしまう世の中になってしまった。
 それでもバイデンを選んだアメリカは前途多難とは言え、まだ社会の復元力が残っていることを示しましたが、果たして日本人はどうでしょうか。


 さて、週末は海を見に、熱海へ行ってきました。感染者は増えてますが、人ごみを避けながら通勤圏内の移動ならリスクは低いと判断しました。

 税金使って感染を拡大させたGO TOキャンペーンがやっと見直されるようですが、ボクは昨年もこの時期にでかけましたし、キャンペーンが始まる前に予約しています(言い訳)。キャンペーンがあろうとなかろうと関係ありません。

 国民のニーズは経済と感染予防の両立の筈。どちらか片方ではない。それを補助金を大判ぶるまいして日本中に大移動を起こしちゃうんですから、そりゃあ感染だって広がるに決まっています。この国には旧日本軍のバンザイ突撃みたいな極論しかないのか。

 昨年来たときは人もまばらだったのですが、今年は熱海の街も人が多くて、ちょっとしたバブル状態みたいでした。こんなことやってるとキャンペーンが終わった後に観光業もおかしくなると思います。商店街や農業の補助金と一緒で、人為的に作られたブーム的な需要は提供する製品やサービスの質を低下させるからです。
 少し前にあれだけ行列ができていたタピオカの店なんか今は影も形もないじゃないですか。
●品川から熱海まで新幹線で僅か40分ですけど、乗車率4割くらい。これでも混んでる部類です。

 ボクが泊まった宿は10部屋足らずと小さいので殆ど他の客を見ることもないのですが、それでも客層は普段と違っていることは判りました。静かに過ごしたいだけの客には、はっきり言ってキャンペーンは迷惑極まりない。

 部屋に入ったら、海を見ながら本を読んでるだけ、です。どこか観光地へ出歩こうなんて考えたことすらありません。着いた日は曇っていましたが11月の割には暖かくて、ベランダで寝転ぶにはちょうど良いお天気でした。

 陽が落ちたら、ご飯を食べて、


 翌朝は早起きして夜明けの海をぼけーっと見てました。時間の変化とともに太陽の位置が変わり、海の色が変わっていくのを見るのは楽しかった。

 その後は朝日を見ながらお風呂とご飯。

 今年もあと少しです。この国は相変わらずロクでもないし、年末にかけて忙しくなるし、嫌なことばかり。

 それでも健康に気を付けて、なんとか耐え忍んで年末を迎えたい、と思います。


 と、いうことで、新宿で映画『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
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phantom-film.com

 舞台はIT企業の進出で地価が高騰するサンフランシスコ。旧来からの住民は家賃が高くなりすぎて、住むことが出来なくなりつある。主人公のジミーは施設育ちだが、かって祖父が建て、自分も幼少期に暮らしていたが、今は裕福な白人夫婦が住んでいるビクトリアン様式の家に深い思い入れを持っていた。ある日、観光名所となっているその家を家主が売りに出したことを知ると、ジミーは劇作家の親友モントと共に、その家で再び暮らそうとするのだが。



フロリダ・プロジェクト』などシリアスだけど趣味が良い映画ばかり作っているプロダクション’’A24’’がまたまた送り出した映画です。

 新人監督が体験した実話を元に、クラウドファウンディングで資金を集めて制作、サンダンス映画祭で監督賞を受賞しました。
 オバマ元大統領が2019年のフェイバリット映画に選んだことでも話題になっています。このブログでご紹介した『フェアウェル』や『ブックスマート』、『パラサイト』や『マリッジストーリー』も入っていますね。


●17日にはオバマ大統領の回顧録''The Promised Land''の発売に合わせて、在任当時に勇気づけられた曲のプレイリストが発表されました。彼は学生時代ヒップホップの同人誌に関わっていたそうですが、それだけでなくコルトレーンやマイルスからディラン、スプリングスティーンビヨンセまで幅広く趣味が良い選曲です。これ一つとっても、トランプとは天と地との違いです。

 映画はホームレスらしき男がゴールデンゲイトブリッジが見える道路で、何やら政治的な演説をしているところから始まります。
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 そして、何やら若い黒人が、古いけれど瀟洒な家に忍び込もうとしています。そして彼は窓枠にペンキを塗り始める。古い家の手入れをしているのです。
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 男の名前はジミー(下写真右)。左が親友の劇作家、モント。二人はいつもつるんでいます。
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 物語が展開するにつれ、彼はこの古い家に異様な思い入れを持っていることが判ります。100年以上前の様式で建てられた家ですが、彼は自分の祖父が第2次大戦後に建てたもの、と固く信じています。
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 シリコンバレーに近いサンフランシスコは物価が暴騰、世帯年収が1000万円あっても貧困層扱いだそうです。家賃も上がり、多くの人がホームレスになっている。この家も4億円以上の価格がついています。スーパーマーケットで魚を捌いているジミーにはとても手が出る価格ではありません。
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 ある日、ジミーは豪邸の白人夫婦が離婚、引っ越ししたのを知ります。家は財産分与のため売られることになり、空き家になっています。ジミーは親友の劇作家、モントと一緒に、その家に住もうとするのですが。
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 ジミーとモント、それに街にたむろする黒人の不良青年たち、白人の家主、登場人物の姿から様々なことが語られます。
 黒人差別、貧富の格差、かってはリベラルだったサンフランシスコの変化などが2時間、ゆったりとした口調で語られます。皆 行き詰っているが、人生に希望は失わない。
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 流される音楽も非常に効果的です。『みんな優しさを求めてサンフランシスコに集まってきた』とうたわれるリメイク版の『花のサンフランシスコ』はこの映画の主題歌のようです。牧歌的な歌詞が今はアイロニーとなって心を打つ。ジョニ・ミッチェルの名曲『ブルー』が流される場面では時間がとまり、空気が切り取られたかのようにハッとしました。ここはすごかった。
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Blue

Blue

  • アーティスト:Mitchell, Joni
  • 発売日: 1994/10/26
  • メディア: CD

 そして、豪邸で開かれる一人劇の場面。実にカッコいい演出です。いまどきのカッコいい演出とはこういうものか、と思いました。ここだけでも一見の価値あり。

 見ている時はジミーの家への過度な思い入れがいまいち共感できなかったのですが、あとになって思い返すとすごく印象に残る映画でした。見ている時より、見終わった後、哀しさ、諦め、温かさ、成長といった感覚が美しい映像ととも記憶に残るのです。
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 以前 ご紹介したオバマ元大統領推薦のドキュメンタリー『この行き止まりの世界で』と後味は非常によく似ています。一見 地味ですが、まるで、よくできた短編小説のような作品。まさに総合芸術です。

 余談ですが、こういう映画を好むオバマって人は本当にインテリだと思います。ローマ時代の賢帝、そしてひたすら悩み続けた男(笑)として知られる哲人皇マルクス・アウレリウスってこんな感じだったのでしょうか。そんな彼を『気取りやがって』と嫌いな人種がいるのも良くわかります。これもマルクス・アウレリウスと同じです(笑)。

 世の中の実態を冷徹にとらえようとするから、計算ずくで冷たく感じられるところもあるけれど、心の奥底には温かいものが流れている。ボクはこの映画そのものがオバマ氏への印象が重なりました。

10/9 公開『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』 本予告