特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『王様しいたけ』と映画『パブリック』

 今週は1年で最も熱くなる、と天気予報が言ってます。全くそんな感じはしませんが、もう立秋、なんですよねー。
 朝6時でも朝陽はこんな感じです。

 最近は低糖質の食事が流行っています。実際ボクも糖質の摂取を減らして運動を増やしたら、体重も減ったし、体調も良くなりました。
 この前 青山を歩いていたらこんな看板を見つけました。犬猫の食事にも低糖質ブームが押し寄せているようです(笑)。

 糖質を減らしていると比較的好きなものを食べられるのがメリットです。最近美味しいなーと思ったのが『王様しいたけ』。写真の料理はロールにした太刀魚とシイタケ(右側)

 横からみると身が異様に厚い。

 こちらはアワビと一緒に蒸したものですけど、貝の汁を吸いこんで、シイタケのほうがアワビより遥かに美味しかった。

 『王様しいたけ』は北海道にある農場が作っています。農場の直販と一部のレストランにだけ出荷しているそうです。農協の画一的な流通やスーパーの大量販売にはそぐわないのでしょう。大量生産されるものはいつしか真似される。

『王様しいたけ』のように目に見える範囲で質にこだわり、特徴あるものを作っていればバカが騒いでたTPPなんか関係ない。

 変に凝ったもの、高価なものより、普通だけどちゃんとした材料で普通に調理したものが一番おいしいし、飽きないなーとボクは思います。材料の質や自分の腕の問題(笑)もあるけど、やっぱり家庭料理みたいなシンプルな食べ物がいいなあ。 


 と、いうことで、新宿で映画『パブリック 図書館の奇跡
f:id:SPYBOY:20200801194014p:plain

 舞台はオハイオ州シンシナティ市。記録的な大寒波で連日 死者が発生する中、シェルターに入れなかったホームレスたちが図書館のワンフロアを占拠する。フロア担当の図書館職員のスチュアート・グッドソン(エミリオ・エステヴェス)はホームレスたちと行動を共にする。しかし市長選立候補前で手柄を欲している州検察官(クリスチャン・スレイター)がメディアを利用して、スチュアートは危険人物に仕立てられてします。騒ぎが大きくなる一方の状況で、暴力的手段を躊躇していた市警察の現場指揮官(アレック・ボールドウィン)もとうとう突入を覚悟するが。
longride.jp

 懐かしい『ブレックファスト・クラブ』や『トップガン』などに出演していた俳優のエミリオ・エステベスが監督・脚本・製作・主演した作品です。
 彼は各種デモに参加して70回超も逮捕された経験を持つ超リベラルな俳優チャーリー・シーンの長男、麻薬と女癖の悪さで有名なスキャンダル王マーティン・シーンの兄としても有名です


 前半の図書館の描写が面白いです。主人公やその同僚、図書館長も含め、職員たちは学問や言論の自由を守ろうとする矜持を持っている人も多い。
●主人公の図書館のフロア係、グッドソン(エミリオ・エステベス)は本の虫です。どことなく影がある男です。

 その一方 図書館には色々な人がやってくる。近年増えてきたのはホームレス。

 ただ本を読んでいるだけなら良いのですが、身体中から悪臭を漂わせていたり、突然 服を脱いで歌いだしたり、おかしな言動を並べていたり、トラブルも多々あります。しかし職員たちはそれでも敢えて受け入れる。
●グッドソンはホームレスのリーダー(右)から、寒さから身を守るためホームレスたちが一晩 図書館を占拠することを告げられます。
 

 折しもシンシナティには大寒波が襲来、シェルターに入れないホームレスたちは夜も図書館を開放することを求めて、フロアを占拠します。路上にいたら死の危険すらあるからです。

 しかし規則では図書館は夜間は閉館しなくてはならない。それでなくとも図書館は市の役人からのプレッシャーにもさらされている。フロア担当の職員スチュアートは内気な性格でホームレスたちにきつくあたることは出来ません。困惑しながらも、彼はホームレスたちと行動を共にすることを決意します。なぜ、そんな行動に出たのでしょうか。

 その事態を受けて様々な人が集まってきます。今回の事件を自分の手柄にしようとする輩も出てくる。次回の市長選に立候補予定の州検察官もその一人です。彼はホームレスたちに対する強硬策を主張します。
●州検察官(クリスチャン・スレイター)は今回の事件を強硬に解決して、自分の市長選の足掛かりにしようとします。

 図書館に限らず公共施設がそういう力学の上で成り立っているのは、程度の差こそあれ、日本も一緒ではないでしょうか。感染症対策の主役になるはずの保健所が維新などに減らされてしまったのもその例だし、図書館だってツタヤに民営化されたり、司書などの職員もどんどん非正規化されている。

 先週土曜日のTBS報道特集が持続化給付金について『事務作業を2次下請け、3次下請けにどんどん丸投げした結果、経営危機に陥っている業者への給付が遅々として進まない』実態を報じていましたけど、それが今の『民営化』の実態です。
 日本こそ 私利私欲ばかりの政治家や『改革』や『民営化』などワンフレーズのキャッチフレーズにすぐ載せられる国民の頭の悪さで、まさに公共が自壊しつつある。一部のバカが煽っている『消費税廃止』だって、そんなことをしたら公共予算の財源が減ってますます公共や福祉が破壊される結果になることは目に見えている。


 そんな状況で言論や学問の自由を守れと言っても無理な話で、ある意味 行政改革で無駄を省こうとする住民自身が自分たちの首を絞めている。役所が自ら貧困を作っている。いたずらに公共予算削減を主張する国民も同罪です。

 エミリオ・エステベスの、激情を隠しているけれど内気な図書館員役というのは良いです。どことなく不穏さが漂っています。そして警察の指揮官役のアレック・ボールドウィンも久々にまともな役をやっている。麻薬中毒で家出中の彼の息子もホームレスたちに加わっているんじゃないか、と疑いながら、図書館を封鎖している。強行突入すべきかどうか悩んでいます。
●警察の指揮官(アレック・ボールドウィン)はホームレスたちの中に家出中の自分の息子がいるんじゃないかと疑っています。

 他にも図書館長や彼の同僚、ホームレスたちも魅力的なキャラが描かれています。登場人物一人一人に世相のどんな側面を描写するのか、役割が決まっている。

 ただお話、脚本はちょっと甘いかなー。スチュアートやホームレスなど登場人物たち、それに現場に集まってくる市民たち、視聴率のためならデマだって平気で作り出すマスコミの描写なんか良いところまで言ってるんだけど、多少物足りなさは感じます。すこし盛り込みすぎた感じかなあ。


 それでも感動する映画です。様々な登場人物たちの行動が、映画の題名通り『パブリック(公共)』とは何か、ということを観客に突き付けてくる。

 世の中の格差が広まりポピュリズムが広まった結果、どこの国でも政治家は誰かを標的にして、自分の人気や権力を高めようとします。『パチンコ』や『夜の街』が良い例です。もっと悪いのは、往々にして標的になるのは『生活保護』や『路上生活者』や『マイノリティ』など弱い立場の人たちだってこと。

 でも、それでいいのか。真正面からそれを問うエンタメが作られるアメリカは、自己責任論が幅を利かす日本人とは、まだまだ意識が違うこと、を痛感させられます。民度が違う。ニューディール以来の伝統でしょうか。
 心意気はよし。もう少し丁寧に作ってあれば、大傑作になった可能性もあると思います。良い映画です。

映画『パブリック 図書館の奇跡』予告編