特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『おしゃれをとめるな♥』とアカデミー作品賞「パラサイト」の元ネタ!?:映画『しとやかな獣』

 この週末は残り少ない(笑)髪の毛を切りに、久しぶりに神宮前へ行ってきました。
 電車や近所の駅では人は確実に増えていますが、渋谷や原宿はまだ閑散としています。
 土曜日でこれですからね。


 ボクが幼稚園の頃は、表参道にはフランセ(東郷青児の包み紙で有名な昔のケーキ屋)とかレモン(芸能人ばかりの喫茶店)や外人スーパー、米兵相手の土産物屋くらいしかありませんでした。あ、あと、ボクが生まれた病院もあります(笑)。
 とにかく、今のこの風景を見て、昔は原宿も人がまばらだったのを思い出しました。


 髪の毛を切った後、いつも通っているアイスクリーム屋さんへ行きました。オーナーの実家の牧場のミルクで作った、甘くないけどコクがあるソフトクリーム。
 一口食べると、思わず『ああ、美味いなあ』と声が出てしまいます。太るリスクがあるので、2,3か月に1回しか食べないようにしてるんですけどね。
●この日はティラミス・アイス。換気のために店のドアは開けたまま。この前 まいうーの石塚君が取材に来たらしい。ちなみに石塚君はうちの近くをサウナスーツを着てジョギングしてます。彼もダイエットしてるんです(笑)。

 しかし東京を代表するような繁華街の原宿ですら、潰れた店を幾つも見かけました。表参道ヒルズですら空き店舗があった。
 

 都市部はどこもこうでしょうから、これから大変です。それなのに政治はこんなのばっかりで良いのでしょうか。国民のレベルが反映されていると言えばそれまでですが。

 政治家もワイドショーばかり見ている国民も文字通りバカばかり

 先入観念や先延ばしばかりで現実を直視しない連中ばかり、だからこうなる。

 例えば大阪の雨合羽の話も実に恥ずかしい。政治家も政治家ですが、邪魔になる雨合羽を送る市民も市民ですよ。最初からこうなることは判ってるのに頭が悪すぎる。

 往々にして、バカの善意が間接的に人を殺すんです。

 コロナ危機がどうしてこういう大事になったのか。少なくとも日本では感染防止より、オリンピックを優先させようとしたからです。

 そんな世の中ですけど、ボクは青山で休業中の店舗に飾ってあった、この言葉↓に希望を託したいと思います。
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 造物主が作ったウィルスと一緒にするのは気が引けますが、残念ながら、この世界には悪しきモノがあります。ネトウヨ安倍晋三のような連中だけでなく、我々の心の中にも悪しきモノがある。
 だけど、悪しきモノの中に我々の中に確かにある、善きものを埋もれさせてはいけない。

 おしゃれもその一つです。 
 そういえば、今年はまだ、一度も春物のスーツを着てないや。



 と、いうことで、アマゾンの配信で映画『しとやかな獣
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 舞台は出来たばかりの近代的な団地の一室。そこには元海軍中佐(伊藤雄之助)と妻(山岡久乃)が暮らしている。しかし芸能プロ勤務の息子(川畑愛光)は横領、娘(浜田ゆう子)は愛人稼業、父と母はその上前を撥ねて生計を立てている。そこに息子に金を横領された芸能プロ社長(高松英郎)と会計係の幸枝(若尾文子)が押しかけてくる。知的でしとやかに見える幸枝は実は男から男を渡り歩き金を巻き上げるしたたかな女だった……。

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 原作・脚本/新藤兼人、63年に逝去した川島雄三監督の晩年、1962年の作品です。彼の50年代の作品を3作見たので、今度は60年代の作品を見てみようと思ったのです。2年前にデジタルリマスターされた評価の高い作品だそうです。


 主演の若尾文子は映画出演本数およそ160本。半世紀以上にわたって銀幕を彩ってきた大女優、有名建築家、黒川紀章の奥さんですね。
 実は最近 若い女性の間でこの人の人気は高くて、一昨年には東京映画祭でこの人の旧作が上演、今年3月にも『若尾文子映画祭』が開かれたほどだそうです。

www.tbsradio.jp

 でも、ボクは見るのは初めて(笑)。ホント、ボクは芸能界って疎いんです。この人も名前しか聞いたことしかありません。
若尾文子

 舞台はできたばかりの晴海の団地。今はタワマンが立ち並ぶ一等地ですが、当時は工場ばかりです。
●当時の晴海。荒々しさと眩しさを感じます。

 その一室では上品そうな言葉遣いの夫婦が調度品を片付けています。居間に飾ってある絵をしまい、テーブルクロスや灰皿を安っぽいものに変える。最後は二人が安っぽい服に着替えて完成です。奇妙だなと思っていると、やがて芸能プロの社長の一行が押しかけてきます。
●左側が芸能プロ社長(高松英郎)と会計係(若尾文子)。中央の白いスーツのインチキ臭いおっさんは小沢昭一

 父親(伊藤雄之助)の息子が芸能プロの金を着服した、どうしてくれる、というのです。会計係の女は無言ですが、やけに存在感があります。一方 やたらと腰が低い父親は謝罪しながらも、ひたすら惚け続けます。
●元海軍中佐という父親(伊藤雄之助)。終戦後様々な商売に手を出しますが失敗を続けています。どこか胡散臭い。

 部屋にはTVだの、冷蔵庫だのが家電がやたらと揃っています。そして近代的なコンクリート造りの部屋に豪華そうな絵がかかっている。登場人物たちはどこか胡散臭い。この部屋に似合っていない。この微妙な雰囲気づくりは見事です。

 実は夫婦はバー勤めだった長女をベストセラー作家の2号さん(愛人)に仕立ててお金を巻き上げさせ、さらに息子にも芸能プロダクションのお金を横領させています。一家はそのお金で豪勢な暮らしを営んでいるんです。
●やたらと色っぽい長女(浜田ゆう子)

 一家はかって極貧にあえいでいたようです。終戦直後 雨風が吹き込む長屋暮らしを、夫婦が『あれは犬や猫だって耐えられないねえ』と語るシーンがあります。単にそのセリフと表情だけで恐ろしいほどの貧困であったことを観客に納得させてしまう名脚色です。

 その貧困から抜け出すためには手段を選ばない。一家は心に誓っています。
●母親役の山岡久乃。『御免あそばせ』などやたらと上品な言葉づかいなのに佇まいは上品じゃない。どんなことがあっても全く表情を変えない。この映画の中で最強・最狂の役柄です。

 若尾文子演じる会計係は団地を訪れたときは一見しとやかそうでした。にこにこして一言もしゃべらないがやけに存在感がある。が、団地から出たばかりのこのシーンを見れば男たちとの力関係は明確になります。

 そう、会計係の女は一家の息子、それに芸能プロの社長、税務署の担当官など様々な男を自分に夢中にさせて、金を巻き上げていたんです。
●息子は女に夢中です。横領した金は大方 彼女に巻き上げられていました。

●社長も彼女に夢中です。

 最初万引き家族みたい、と思ってたのですが、途中からアカデミー作品賞の『パラサイト』そっくり、と思いました。どちらも極貧だった一家が金持ちや会社に寄生して、豪勢な暮らしを営もうとする。
 団地は当時の庶民にしてみれば豪邸でした。豪邸を舞台にした一家のドラマなのも同じです。そして、一家を凌ぐラスボスがいた、というお話の筋も全く同じです。どちらも貧困と金に狂った世相を皮肉る密室劇です。

 敢えて違いを言えば『パラサイト』はエンタメよりに振ったのに対して、『しとやかな獣』は知的・芸術的な脚色へ振った、また中心が『パラサイト』は男優(父親役のソン・ガンホ)、『しとやかな獣』は女優(もちろん若尾文子)という感じでしょうか。

 登場人物たちのセリフには、『安保といったって、よその国が他国を守ってくれるわけがない』とか『あの飛行機は核爆弾を落とす訓練をしている』といった印象的なものがあります。当時の人々はそう考えていたんでしょうね。今の政治家や国民の何も考えてない、もしくはアメリカ盲従の姿勢をみたら、彼らはビックリするかもしれません。
『しとやかな獣』の狂言のような音楽、時折 急展開する演出はカッコよすぎます。まるで武満徹の前衛音楽を視覚、聴覚、演技の総合芸術としてやっているかのようです。

 そして人生の抽象的なシンボル、暗くて白い、長い階段。女は常に階段を登っていく。


 スタイリッシュで切れ味鋭いブラックコメディ。実にカッコいい。
 もちろん今の方が生活は豊かですが、当時の日本人の感覚は今よりおしゃれ、モダンな面もあったことが良く判ります。日本人は60年前より劣化したのかも。

しとやかな獣