特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『スローなコロナ・ライフ』(笑)と映画『銀座二十四帖』

 時折は雨も降るけれど、5月らしい爽やかな陽気が続いています。

 徐々に街に人は増えてきましたけど、ボク自身は元々街にでかけようという欲求はほとんどありません。むしろ、この2か月で人混みや商業施設などへの拒否感は一層強くなった気がします。
 唯一、外食して自分では作れないような美味しいものを食べたい、という欲求はありますけど、それくらいでしょうか。


 この2か月、経済は大変でした。このままだと5月、6月はもっと厳しくなるでしょうから、早く経済活動を再開しないとえらいことになります。
news.yahoo.co.jp


 しかし生活感としては現在のように徒歩通勤で、ある程度スローな毎日を過ごしていると『定年までの時間が早く過ぎて欲しい』、『さっさと隠居したい』という思いが普段にも増して募ってきます(笑)。

 ホントは仕事も世の中も大して興味ない。まだ仕事は生活の糧となるお金と引き換えだから仕方ないかもしれませんが、税金払ってこんな政治なんだから全く酷い話ですよ。


 私利私欲に固執する無能な安倍晋三も間抜けな野党の政治家はもちろん、一般国民も選挙を棄権するようなバカはさっさと死んでほしい。それだけなんですよね。

 こんな連中ばかりなら、心を開いて世の中とつながりを持っても良いことはなさそうです。どうせロクなことがないのだから、世の中の雑事や人間とはあまり関わり合いになりたくない
 人生で価値あるものは本や音楽、映画、美味しい食べ物、あと、犬、それくらいかも。

 これが諦観というものかもしれませんが、小学校6年生の時に『徒然草』を読んでから、おっさんになった今に至る迄、変わらない宿願です。

 
 それでも最低限の火の粉は振り払わなくちゃいけないのが辛いところです(笑)。

●署名:NHKは「検察庁法改正案」を審議する国会の中継を行うこと!
chng.it


 ということで、古い映画です。DVDで川島雄三監督の1955年作品『銀座二十四帖』(amazonの配信もあり)
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銀座二十四帖 [DVD]

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  • 発売日: 2019/03/02
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 終戦後10年、賑わいを取り戻した銀座の街。一人娘を残したまま夫と別居した人妻、京極和歌子(月丘夢路)は自立した生活の糧にするため、亡父が残した絵を銀座の画廊に持ち込んで売りにだそうとする。その中には幼い頃 奉天で、五郎という放浪画家に描いてもらった「自画像」があった。GMとサインがあるその絵を手掛かりに、実は彼女は“五郎"との再会を夢見ている。銀座の顔役で花屋の三室戸完こと通称コニイ(三橋達也)は、彼女を助けてGMの正体を探そうとするが- - -


 1963年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病で46歳という若さで夭折した川島雄三監督の作品です。この人の幕末太陽傳』、『洲崎パラダイス』であまりにも感動したので、少し追いかけてみようと思ったのです。

 江戸、明治、大正、昭和と4時代を跨ぐ感性フェミニズムや反権力の香りもある、庶民の自由を希求する姿勢、洒脱さを失わない知性を併せ持った川島監督がもっと長生きして沢山 映画を作っていれば、今の日本の文化状況も少しは違ったんじゃないか、とすら思えます。
 後年出てきた映画や音楽のように、商業主義に身も心も売った作品やベタベタした演歌とかフォークソングのような気持ち悪いものはもっと影が薄かったかもしれない。
 川島監督の作品は商業映画ですが、甘ったれた、定型的な大衆文化とは一線を画しています。商業主義を軽やかにいなし、かと言って体制にも迎合せず、普遍的な人間の喜びや悲しみを大人の感性でお洒落に訴えかけてきます。 


 この作品は当時の週刊朝日に連載していた小説を原作にしたものです。軽妙洒脱なエンターテイメントですが、結構 深い映画でした。というか、現代に生きるボクが軽すぎるのか(笑)。

 若々しい森繁久彌のナレーションでお話は進んでいきます。撮影は1955年頃だと思いますけど、既に銀座にはビルが立ち並ぶようになっています。路面電車や自動車が走り、昼も夜も人でにぎわっています。これが戦争で焼け野原になってから10年も経っていない光景なのか。驚きでした。

 そんな銀座で三橋達也演じるコニイ(笑)は花屋を営んでいます。
三橋達也(中央)はハンサムだったんですね。服は変ですが(笑)


 以前は夜の世界にいたコニイですが、今は夜の客に花を売る商売で堅気の道を歩んでいます。華やかさを取り戻した銀座ですが、裏では麻薬(ヒロポン)や売春がはびこっていた。コニイはそれを憎んで、真っ当な街にしたいと願っていました。
●銀座の花屋がなんと平屋です!

 彼の店には少女たちが働いています。15歳の浅丘ルリ子らが演じているんですが、戦災孤児という設定です。コニイは彼らに働き口を提供しながら、夜学に行かせている。
 『銀座の花売り娘』とは聞いたことがありますが、実態はこういうことだったのか。冒頭から驚きました。やっぱり川島監督の映画は一筋縄ではいかない。
●花を買いに来た人妻(月丘夢路)(右)と花売り娘役の浅丘ルリ子(左)、15歳!

 ある日 その花屋に美しい中年女性(月丘夢路)がバラを買いに来ます。

 女性は夫と別居中で近くの料亭に身を寄せています。彼女は親が残した絵を生活の糧にしようと銀座の画廊で絵を売ろうとしていました。
 その中に少女時代の彼女を描いた一枚の絵がありました。戦前 外交官の娘として奉天!にいた彼女は、その絵を描いた放浪画家に恋心を抱いていました。画廊で絵を売ることで、彼女は生き別れた画家を探そうとしていました。この奉天というのも、要は満州国
 多くの人の人生に、まだ侵略と戦争が影を落としている。映画はそこから目を背けようとしません。
奉天時代の彼女を描いた絵。中国服を着ています。右の男は女癖が悪い売れっ子画家

 その絵に描かれたGMというサインを見たコニイは俄然興味を持ち、画家探しを手伝い始めます。

 お話はGMの正体を探すミステリー仕立てで進んでいきます。その中に様々なキャストのエピソード、当時の世相が挟まれる。当時見たらどう思ったか判りませんが、今見たらめちゃめちゃ面白いです。

 その頃 ボクは生まれてませんけど、画廊が立ち並んだ銀座にしろ、戦病の物乞いが大勢いた渋谷にしろ、この映画で描かれた香りだけは幼少期の記憶がある。今見ると想像するよりモダンだし、ワイルドだし(笑)、江戸の香りがあるし、お洒落です。何よりも、今より人々は自由に見える
 

●当時の銀座。映画の中で『銀座の川!がどんどん埋め立てられていく』というセリフがありました。

●野山が拡がる当時の渋谷!バックの建物は渋谷駅と東急百貨店!。

cedarben.blog.ss-blog.jp

 キャストはボクは殆ど見たことないですが、有名な人ばかりです。当時のオールスター映画なのかな?
 『洲崎パラダイス』に続いて三橋達也(カッコいい)、自立を目指す美貌の人妻役の月岡夢路は以前NHKで放送された、原爆が投下されてわずか8年後に現地ロケした映画『ひろしま』の人ですね。

独立プロ名画特選 ひろしま [DVD]

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 大阪から上京してくる人妻の従妹役の北原三枝、画面ではコケティッシュで魅力的でしたけど、石原裕次郎の奥さんとして老境の姿しか見たことない。コニイの子分役のジャンキーの佐野浅夫、まるっきり小僧だった彼が後年水戸黄門になるとは想像もできません。他にも当時15歳!の浅岡ルリ子、野球選手役の岡田真澄(痩せててジャニーズみたい)、とにかく皆、びっくりするくらい若い。
北原三枝(1枚目左)

 当時のキャバレーにはクロークがあって、バンドは生演奏(すごい)。今だったら超豪華、高級店です。賑わいを取り戻した銀座ですが、一歩 店の裏に入ると麻薬(ヒロポン)の密売や外国人相手の売春がはびこっています。その中でコニイはGMの謎を追っていく。当時の日本の警官が米軍のMPみたいな制服なのも面白かった。


 お話の完成度は『幕末太陽傳』や『洲崎パラダイス』に負けるかもしれませんが、普通に面白い、いや、かなり面白い映画でした。
 ナレーションの森繁久彌だけ何が良いのかわからなかったけど(笑)、有名スターぞろいのキャストは見ていて楽しい。当時の銀座や世相も非常に興味深い。1950年代のこの頃から『(経済優先の)せちがらい銀座になりつつある』なんて登場人物が言ってます。いつの時代もそんなものなのかも(笑)。


 笑って、ちょっとはらはらして、ちょっと泣かせて、ちょっと苦い。人情も描いているんだけど、べたべたしない、ある種の諦観が根底にある乾いた感性が素晴らしい。物事に執着しない、お洒落です。
 画面に映るのは昔の光景ですけど古さは感じない。当時のお洒落な風俗、デザインは新鮮だし、何よりも登場人物たちの人間描写が普遍性を感じさせます。男も女も子供も自分たちで考え、自分たちの思う通りに行動する。最近のドラマなんかより人物描写がはるかに豊かで深い。
 DVDだけでなく、アマゾンでも、たった300円で配信してますので、機会があればぜひ。

銀座二十四帖(冒頭)