特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『自己責任病』と映画『ジュディ 虹の彼方に』

 この週末、東京は突然の大雪でびっくりしました。今年初めての積雪です。
 そんな中、『外出の自粛』なんて責任や損失を国民に押し付ける政府の無責任なやり方は、やっぱり不愉快です。

 税金を払ってないのなら『自己責任』で構いませんけど、こちらは金を払っているんですからね。
 『東京都は本当は2週間前に外出を控えるよう警告を出す予定だったそうですが、オリンピックの中止の決定が遅れたため警告も遅れた』、と、マスコミ関係者から聞きました。所詮 政治家の私利私欲を守るために決断が遅れたということですね。
 オリンピックと命、どちらが大事だと思ってるんだ、馬鹿どもめ。

 わざわざニュースの時間を狙った、安倍晋三の記者会見も内容は皆無、ただただ、不愉快でした。


 現実問題として映画館もレストランも休みになってしまったので、この週末は家と近所で静かに過ごしました。もともと人ごみの中に出ていくのは嫌いですから、それはそれで悪くありません。

 そろそろ冬物の服をしまい始めたところでしたが、雪と満開の桜の組み合わせなんて初めてかも。地面が白いのは、花びらだか雪だか良く判りません。東京では土曜と日曜で気温が20度も変化しました。皆様、お大事になさってください。


 ただ、ですね。経済的な問題はこれからますます大きくなっていくでしょう。まさに『危機』という言葉がふさわしい。
 近年の日本はバブル崩壊に始まり、97年の山一ショック、ITバブル崩壊、小泉不況、リーマンショック東日本大震災(311)、と危機の連続です。
 この30年、およそ5年に1回は危機が起きているんです。

 リーマン・ショックの時は銀行など金融がやられただけで、モノやサービスを作って消費する実需はそれほど悪くありませんでした。311の時は原発の問題はあったし、心理的には恐ろしかったけど、実需は大丈夫だったし、影響の範囲は日本だけでした。メーカーだったら輸出すれば何とかなった。

 今回はモノやサービスの実需が壊滅状態だし、日本だけじゃなく、世界中の需要がダメ、尚且つ終結のめどが立ちません。なかなか厳しいものがあります。アビガンのような薬が効いたりすることで、あっさり解決することだって無いわけではありませんけど。

 身の回りを見ても飲食業やホテルが厳しいのは当然として、洋服屋はいきなり春物のバーゲンを始めているし、需要はかなり落ちているのでしょう。日給ベースで働いている人たちは本当に大変だと思う。 

 めっきりお客さんが減ったと嘆いている、毎日お昼を食べている中華料理屋のお母さん(福建省出身)には『こういうときこそ、美味しいものを食べなくちゃ』って言ってるんですが、そういう店がつぶれたらどうしようと思います。800円で食べられるけれど、福臨門や中国飯店みたいに一人何万円もする店より美味しい街場の店なんて貴重です(材料は違います、技術の話)。

 その中華屋だけじゃなく、こんな時だからこそ外食するようにしているんですが、最近行ったフレンチにしろ、イタリアンにしろ、そういう店が万が一無くなったら、代わりはない。やはり雇用は大事です。これが長引けば正直 ボクの勤務先だってどうなることやら、と思います。
●五目焼きそば、800円。ほとんど天国に近いうまさです。


 相変わらず消費税を減税しろ、とかバカの一つ覚えの認知症が一部で湧いているみたいですが、外に出られないんだから消費減税してどうすんだよ(笑)。本当に困ってる人のことを考えろって。


 ピンチはチャンスでもありますから、ウィルス危機のめどがついたら、一気にV字回復を狙っている向きもあるとは思います。株を買い込んでいる人もいるでしょう。長い目でみれば今のような危機でも、所詮は歴史の中の一コマ、絶望するには及ばない。

 それでも、このような危機があると何でも自己責任で解決できるなんて考えが如何に浅はかで現実にマッチしてないか、と思います。
 現実には人智が及ばないことだってあるんです。まして、そんな危機が5年に1回の割合で襲い掛かってきている。まったく、大変な時代です。

 自己責任は大事だけど、自己責任だけでは物事は解決できない

 どうして、そんなことすら判らない人が多くいるような世の中になってしまったのか。ボクは不思議でなりません。



 ということで 新宿で『ジュディ 虹の彼方に
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gaga.ne.jp
 かって映画『オズの魔法使い』で大スターになったジュディ・ガーランドレネー・ゼルウィガー)は、子役だった当時から覚せい剤を投与され、無茶苦茶なスケジュールで働かされていた。その結果 健康と精神を害するようになり、数度の結婚に失敗、仕事も遅刻や無断欠勤を重ねて干されるようになる。借金を返すために巡業ショーで生計を立てる毎日を送っていた彼女は、1968年、子供たちと生活をやり直すために単身イギリスへ渡り、半年間のロンドン公演に臨むことになったが。

 『ブリジット・ジョーンズ』シリーズのレネー・ゼルウィガーが今年のアカデミー主演女優賞を獲得した作品です。彼女はこの数年うつ病でスクリーンから遠ざかっており、不遇だったジュディと重なる境遇であるのも話題になっています。

 『オズの魔法使い』、小説も映画も超名作ですよね。子供の時 夢中になって読みました。あれだけ面白くて、心が温まる話はなかなかありません。その裏で、主役のドロシーを演じたジュディ・ガーランドがこんな運命をたどっていたとは全く知らなかった。

 オズの魔法使いが大ヒットしたおかげで、ジュディー・ガーランドは大スターになります。しかし、母親とMGM(映画会社)に寝る間を惜しんで働かされ、子供らしい自由時間すら無くなってしまいます。当時は合法ではあった覚せい剤まで投与され、睡眠時間まで削って働かされます。
 母親は彼女を仕事漬けにするために、薬漬けにした。そしてMGMの幹部はジュディの容姿や体重などを欠点としてあげつらって、彼女をマインドコントロールした。
●『オズの魔法使い』の撮影風景も再現されます。
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 それによって健康と精神を害した彼女は何度も結婚・離婚・自殺未遂を繰り返します。覚せい剤睡眠薬、それにアルコール依存も重なりスケジュールに穴をあけるようになった40半ばの彼女は映画の仕事もなくなり、子供を抱えたまま、ドサ周りで糊口をしのぐようになっていました。
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 映画は彼女の前半生と40半ばの現在を繰り返しながら描かれます。特に最初のステージのシーンは素晴らしい、説得力抜群です。
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 レネー・ゼルウィガーはジュディを真似て徹底的な役作りをしたそうですが、感動的と言っても良いくらいの歌唱シーンを見せてくれます。その華やかな描写があるから、トラブル続きの私生活との対比が鮮やかに浮かび上がります。
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 子供は愛しているけれど、過去のトラウマやショーへのプレッシャーからアルコールとクスリに溺れるジュディ。
借金を背負って、住むところさえなくなってしまいます。前夫など助けの手を伸ばしてくれる人はいるけれど、プライドが高すぎてその手をはねのけてしまう。
 にっちもさっちも行かなくなった彼女は子供を前夫に預け、ロンドンでの公演に再起を賭けます。
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 明らかに彼女は犠牲者ではあるけれど、ここで描かれるジュディには、ボクはあまり感情移入はできませんでした。
 ドラマとしては起伏に乏しく説得力に欠けます。彼女の描き方も平板で内面が良く伝わってこないんです。我儘でアル中&ヤク中でプライドだけ高い、かっての大スターが転落していくのもしょうがないかなあ、という感想が先に立ちました。
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 薬に依存し、アルコールに依存し、男に依存し、常に何かに依存せざるを得なかった可哀そうなジュディ。
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 明らかに犠牲者ではあるけれど、自業自得の面が強いから、ある意味 救いがない。
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『観客との愛情』ということもキーワードで出てきますが、終盤に唐突にそれが持ち出されるから、??という感じでした。
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 レネー・ゼルウィガーの演技もステージを除いては、同じくアカデミー賞にノミネートされた『マリッジ・ストーリー』のスカーレット・ヨハンセンには正直 及ばないと思います。
 ただ、アカデミー賞授賞式でレネーが『ジュディ、これはあなたの賞よ』とスピーチしたのには感動せざるを得ません。扱いにくくなって映画会社に捨てられたジュディ・ガーランドは『オズ』以降に主演した『スター誕生』で絶賛されたにも関わらず、アカデミー主演女優賞を取れなかったのです。
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 中盤 彼女のファンであるゲイのカップルがお話に絡んでくると、俄然 お話が息を吹き返します。自分の存在意義さえ疑問に感じていた彼女が、一途に思いを寄せてくれる彼らに触れることで生きる実感を取り戻す。スクランブル・エッグを作るシーンが実に楽しそうで、そして哀しいこと!。

 このカップルは創作だそうですが、実際のジュディ・ガーランドもゲイ・アイコンとしても知られています。
 『オズの魔法使い』に出てくる、頭脳のないかかし男、心のないブリキ男、勇気のないライオンなど、コンプレックスを抱えた登場人物に理解を示す主役のドロシーにLGBTQの人たちは思いを重ね、ジュディもそれを否定しなかった。彼女の父親は実は同性愛者で、成人した後も周囲には何人目かの夫も含めて同性愛者が沢山いたそうです。

 『そう来たか』と言うラストシーンも含めて虐げられてきた者同士の感情の触れ合いは、差別が広がりつつある現代の世相ともシンクロしていて、ここはかなり感動しました。
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 他にもレネー・ゼルウィガーのステージ・シーンやイギリスでの世話役を演じるジェシー・バックレイなど見どころはあります。
ジェシー・バックレイ。いかにもアイルランド娘っぽくてかわいい!
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 個人的にはジュディがロンドンで暮らすホテルが、ボクも泊ったことがある老舗ホテル『クラリッジ』(多分)というのも楽しかった。

 ただ、演技は良かったけどお話や演出など映画としては食い足りないところはありました。勿論 水準には充分達しているし、見て損はしない映画だとは思います。

【公式】『ジュディ 虹の彼方に』3.6公開/本予告