特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『国家が破産する日』(2)と読書『国運の分岐点』、それに『1115再稼働反対!首相官邸前抗議』 

 朝晩は寒くなりましたねー。もう冬物のコートを着て通勤するようになりました。今年もあと1か月と2週間!
●まぶしいくらいの今朝の朝陽。寒くなってきて数少ない良いところは空が澄んでくるところ。
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 忘年会の日程も決まり始めましたけど、今からウンザリ。今だって週1回は宴会やパーティの出席を断っています。周囲には『あの人は来ない』と思われているから(笑)、だいぶ楽になったとは言え、逃げられないものはどうしても出てくる。出席するにしろ、欠席するにしろ、あるのは心理的苦痛と徒労感です(笑)。
桜を見る会前日の安倍晋三後援会の宴会が『買収』ではないかと話題になってます。会費5000円だそうですが、ホテルオークラでパーティーやれば食事代は1万以上かかる他に、別に場所代や備品代もかかりますからね。ボクも先月オークラで行われたパーティに出たばかりです。


 さて、前回 月曜日のエントリーで韓国映画『国家が破産する日』を取り上げましたが、映画を見ながら思ったことを2つ書きたいと思います、しつこいですが(笑)。
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1.これ以上 バブルを作りだすようなことはやるべきではない。
 ちょうど今週 水曜日の朝日朝刊で編集委員が「映画『国家が破産する日』と山本太郎など反緊縮論者のMMTとの関連」について取り上げていました。
digital.asahi.com

 結論から言うと、この映画で描かれたことは『他人事ではない』、というのです。珍しく朝日とボクの意見が一致しました(笑)。中心部分を引用します。

(『国家が破産する日』は)韓国では昨年375万人を動員するヒットに。通貨危機当時、韓国政府は通貨や財政を守るために多くの国民生活を犠牲にした。あのとき国民が国家に抱いた不信感を、おそらくこの作品が呼び覚ましたのだろう
 中略
 日本では最近、財政赤字をいくら出しても良いというMMT(現代貨幣理論)支持者が増えつつある。彼らは、自国通貨を発行できる国家が破産し滅びることはありえないと主張する。確かに政府は戦争に負けても、財政が破綻(はたん)しても存続してきた。
 ただ、そのとき政府は一方で巨額の借金を国民に押しつけている。終戦時には超インフレや預金封鎖、重い財産税などで国民の財産を収奪し、国家財政を立て直した
いま財政が急に追い込まれたら、介護や医療の質を著しく落とす、年金支給年齢を大幅に引き上げる、消費税率を30%にする、といった対応は十分ありうる。それらも一種の財政破綻の帰結ではないか。
 しかも、それは遠い将来の話ではない

 近年、ドグマや陰謀論に囚われたアホ左翼だけでなく、もっとマトモな人たち、元内閣参与の水野和夫先生やサマーズ元米財務長官に至るまで『資本主義はもう成長の限界に達している』ということを言い出すようになりました。

 70年代以降 アメリカを中心とした資本主義経済は、金融と実物経済が分離して、循環するマネーを増やすことで成長してきました。資本主義経済が成熟し、実物経済だけでは高成長を見込むことができないからです。
 実物経済で蒸気機関や自動車など画期的なイノヴェーションが開発される代わりに、実物と関係ないヴァーチャルな商品、デリバティブや様々な証券など新たな金融商品が開発されました。この時期 ITは画期的な進歩をしましたが、物理的なものではありません。実物とヴァーチャルの間、という感じでしょうか。
 マネーの額は年々膨らみ、現在では例えば、デリバティヴを含む為替取引額は物のやり取りである貿易額の60倍にもなっています実体経済超え膨らむマネー 市場のリスク(平山賢一)|株式・投信|NIKKEI STYLE

 そのマネーがバブルと不良債権を作り出しているわけです。その結果が日本のバブル崩壊だったし、山一ショックだったし、ITバブルだったし、リーマンショックだった。アベノミクスの金融緩和も土地なのか、アパートなのか、株なのか、それともアメリカの社債に流れているのかわかりませんが、少なからずの不良債権を作っている筈です。

 国はいくら借金しても大丈夫だからガンガン財政出動しろ、というMMTはバブルを作る政策です。でもオランダのチューリップ・バブルの崩壊以来 歴史的に見てバブルは必ず崩壊する。そのツケは後世の子供たちに回る。

 バブルが崩壊すると、そのしわ寄せは弱者へ行く。例えハイパーインフレにならなくても、朝日のこの記事にあるように、日本の場合は福祉や医療の切り捨て、年金の支払い減額などへ向かうでしょう。バブルのツケは庶民に回る。それも歴史が証明しています。

 かといって、昨今のような景気で緊縮財政なんてこともできるわけがない。それはそれで不景気になります。現実的には、富裕層への増税で少しずつ税収を増やしながら、財政支出やマネーサプライを維持しながら、冨の配分を見直して消費を増やし、バブルを少しずつ萎めていくしかない、とボクは思います。


 ちなみに朝日の記事にあるように、日本は小泉時代を除けば緊縮財政なんかやっていません。だから世界1の借金国、国債GDPの2倍もの額に膨れ上がっているわけですが(笑)、山本太郎やそのブレーンである立命館松尾匡などの反緊縮論者はそんな当たり前の事実の認識すらできていない。だからバカっていうんです。正確には都合の悪いことには触れないだけでしょうけど、消費税廃止を唱えている連中こそ、減税で格差を拡大させた新自由主義的発想の持ち主だと思います。

2.(『国家が破産する日』の財務次官が言うように)『中小企業を減らし、大企業中心の経済にしていくべきか』
 今 この本が売れているそうです。『国運の分岐点

 著者のデービッド・アトキンソン氏は元ゴールドマン・サックス(GS)のアナリストで、当時は日本の不良債権の実態を暴いたり、日本のメガバンクは多すぎる、などの提言を行い、多くの反響、時には反発を呼びました。ただ後日振り返ると、それらの提言は当たっていました。不良債権は莫大な額だったし、メガバンクは3行に集約されました。その後アトキンソン氏は日本文化に惹かれてGSを退職、今は古美術品修復を請け負う中小企業の社長をやりながら著述を行っています。

 元金融、しかもGSのおっさんですから必ずしも全ての意見に賛成できるわけではないんですが、それでも以前『日本人の勝算』という著書をこのブログでも取り上げました。
spyboy.hatenablog.com

 この本が言っている、少子高齢化の日本の経済を救うには、生産性を向上させるしかなく、そのためには毎年少しずつ最低賃金を引き上げるのが有効である。それが払えないような企業は淘汰するべきだ、というのは、全くその通りだと思います。確か最低賃金を1300円くらいまでは上げるべきだ、という主張でした。

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

 今回の本ではこういう主張をしています。
 結論:「日本は、2060年までに中小企業の数を現在の半分以下、160万社程度まで積極的に減らしていくべきである」
 日本の経済成長率が1%台にとどまり、デフレが続き景気が上向かないのはなぜか。停滞の原因は「人口の急減少」と「生産性(就業者1人あたりGDP)の低迷」に分解できるが、少子高齢化はもう避けられないのだから生産性を上げるしか日本の活路はない。そのためには国が最低賃金の引き上げを主導し、GDPのおよそ半分を占める個人消費を刺激することで生産性を向上することが必要だ。

 ここまでは以前の彼の著書にもある通りです。全面的に賛同します。では日本の生産性を上げるにはどうしたらよいでしょうか。
 日本の企業数のうち99.7%は中小企業が占め、国民の雇用の7割を占めている。一般的に、中小企業は大企業に比べると賃金が低く、賃上げも難しい。かといって効率を高めようにも、小規模組織ではIT活用や柔軟な働き方に割く資金的な余裕にも乏しい。生産性の低い中小企業の退出を促し、本当に競争力のある企業に経済活動を集約して初めて、国全体の生産性は高まる。個人消費を増やすには毎年5%程度の最低賃金引き上げが望ましく、対応できない企業は統廃合されてよい―

 一般に零細企業より中小企業、中小企業より大企業の方が生産性は高いです。一人当たりの売上を見れば大体そうですよね。それが社員数万人単位の超大企業になると却って生産性は落ちていくのも面白いです。正確には大企業だから良いというわけではなく、業種や経営者の能力によって、組織には最適な大きさがあるのでしょう。ちなみに、こういうデータがあるそうです。
 OECD経済協力開発機構)のデータによれば、従業員数20人未満のいわゆる零細企業に勤める人が働く人の全体に占める比率は、日本の製造業では18.9%(2016年)。米国(9.9%、15年)、スウェーデン(16.1%、17年)などと比べ高水準にある。そして、先進国では零細企業の比率が高いほど、国全体の生産性は低くなる傾向にある。


 アトキンソン氏によれば、『日本で中小企業が激増したのは、1963年に成立した中小企業基本法が中小企業を税金などの面で過度に優遇したため、企業を大きくするインセンティヴが上がらなかったからだ』としています。更に『このまま日本の生産性が上がらなければ、将来避けられない大地震などの災害の際、日本は金がなくて復興もできなくなる。そうなると唯一 復興資金を出せるのは中国であり、将来の日本は中国の属国になるしかない』、と締めくくっています。

 映画『国家が破産する日』では通貨危機に乗じて中小企業をつぶし、韓国を大企業中心の経済にして効率化しようという財務次官が暗躍しました。現実に韓国経済は通貨危機を通じて、財閥への集中が進みました。サムソンやLGが日本企業を脅かすほどの大企業に成長したのも皆さん、ご存知の通り。一方 失業者は大幅に増え、社会の格差は拡大しました。韓国にとってはどちらが良かったのか。

 ちなみに映画の中では国民を救おうとした主人公(写真中央の女性)が財務次官と対立しましたが、『韓国経済全体がつぶれたらどうするんだ』という次官(写真左)の主張に反論することが出来ませんでした。

 アトキンソン氏の本が言っていることは、『成程~』、と思わせることばかりです。
 確かに少子高齢化はもう避けられないし、だとしたら日本は他国より劣る生産性を上げていくしかない。そのためには最低賃金を上げ、それが払えないような経営者はクビ、企業は統合して高い賃金が払えるような大企業にしていくしかないではないか。

 経済成長しなくても良いという考え方もあるけれど、そうなると膨れ上がる一方の医療や介護の費用が払えなくなるしかも今の日本は世界最悪の借金国。大災害でもあったら復興資金は中国にでも頼るしかないというのも、そうかもしれません

 だとして、アトキンソン氏の主張するように生産性の低い企業をどんどん淘汰、統合していって良いのでしょうか。

 ボクは肝心なことが一つ欠けていると思う。まともな給料を払えない中小企業はつぶしても良いけど、労働者に対する失業保障や職業教育はもっと手厚くすべきです。経済的主体に過ぎない企業、法人は市場原理で考えれば良い。関電や東電、東芝など独占企業の過ちを我々は十分見たはずです。独占企業や腐敗企業はつぶせばよい。しかし個人の生活を保証するのは国家の義務です。憲法に書いてある(笑)。

 高い給料を払えないような経営者は無能です。クビにすべきです。だけど企業が潰れて、すんなり労働者が統合した他の企業に再就職できるとは限りません。
 業種、地域、職能のミスマッチで大量の失業者が発生してしまう恐れはかなり高い。昨日まで建設現場で働いていた人に明日からプログラマーになれ、と言ったって無理に決まってます。

 だったら、他の職業や企業に転職するだけの時間的猶予やスキルを身に着けるだけの教育は国の責任で充実させるべきです。その上でまともな賃金を払えないダメな企業をつぶしていく。それが高福祉社会を実現させた北欧諸国のやり方でもあります。
 アトキンソン氏の言ってることは正しいと思うけれど、『個人を守る』という観点が不足しています。 


 この本は売れているそうです。中小企業基本法は90年代末に方針が変わり、中小企業は一律に保護すべきだという方針は変わっています。しかし、まだまだ中小企業は保護しなくてはならないという社会的雰囲気は色濃い。ボクは見たことありませんが『下町ロケット』などのドラマなどはそういう空気をさらに拡大再生産している。
 その割に、中小企業に勤める労働者への職業教育の充実や失業保障は全然進んでない。


 財源だってまともにないのですから消費税を下げるのではなく、最低賃金を上げて多くの人が消費できるようにするべきです。今や日本の賃金は先進国の中では指折りに低いのだから、賃金を上げなければ競争が出来るわけがない。それが払えないような経営者は無能だし、社会悪です。社長とか言ってデカい面をする権利はない。デカい面をしてなくても(’笑)、経営者としての社会的責務を果たせてない。中小といえどもそんな企業を優遇したり、税金で救済する必要はないし、今の日本にはそんな金もない。

 右左問わず、今の日本には『守るべきは個人であって、企業ではない』という大事な視点が欠けています。日本が、強いては資本主義が岐路に立っている今、我々が大事な物は何か、守るべきものは何か、よく考えてみる時ではないでしょうか。



 ということで、今週も官邸前へ。#金曜官邸前抗議
 朝方は冷えましたが、今日はさわやかなお天気でした。午後6時の気温は13度。コートを着ていれば気持ちいいくらいです。参加者は200人くらい。
●今日の抗議