特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『出生数の90万人割れ』と思わず背筋が伸びる映画:『プライべート・ウォー』

 今朝の日経1面を見て驚きました。今年の出生数(生まれる赤ちゃんの数)は年間90万人を割る公算が高いそうです。


www.nikkei.com

 2016年に100万人を割ったときは『えっ~』と驚いたものですが、たった3年で10万人も減ってしまった。驚くべきスピードです。団塊世代は200万人/年、それ以降だって100万人以上はいたんですよ。ま、お先真っ暗のこの国で子供を作ろうと思う人が少ないのは仕方がありません。
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 少子化は年金や医療の費用の増加だけでなく、人手不足や国内市場の縮小をもたらします。出生率を上げるには女性が働きやすい環境を整備するしかないのはフランスや北欧の例を見てもはっきりしてますけど、対策は遅々として進まない。

 しかも日本の男の多くは家事をしないし、企業や社会の文化もそれを是としてしまっている。『(自称)伝統的な家庭の価値観』(笑)を強調する日本会議が懸命に日本を滅亡の道を歩ませている。

 いつもの話ですが(笑)、バカな男が家事をしないから日本は衰退していくわけです。


 それによってどのようなことが起きるか、具体的なことを2つ挙げましょう。
 一つは消費税の税率。前回 『消費税廃止なんかできるわけねーだろ』ということを書きましたけど、今後は消費税が10%で済むかどうかすらわからないということ。
diamond.jp
 
 今後 所得税を払っている勤労世帯、労働力人口はガンガン減っていきます。生産年齢人口(15~64歳)は18年から65年にかけて約3000万人(今の約4割!)減少する。一方 現行の水準を維持する限り社会保障費は下がる見込みはありません。

 ボクだって『金持ちを中心に所得税最高税率)を上げろ』とは思いますけど、それだけでは人数が少ないからとても足りない。そもそも所得税を払う人の数がこれから4割も減るんです。
 ただでさえ減っていく現役世代に重い負担を被せるんですか?アホか(笑)。どこまで税率を上げるかは別にして、所得税を払ってない年寄りにも消費税で負担してもらわなきゃ無理ですよ。もちろん相続税100%というのが景気の面でも格差の面でも一番望ましいですけどね。

 消費税は金持ちに有利な税制ですけど、世代間格差を縮小させる効果もあります。物事には両面あるんです。一方的に消費税廃止なんていかに無責任か。山本太郎やその信者がいかにバカで思考停止しているか、ってことです。そういう信者連中って自分でデータを見て裏を取ったことなんかないんじゃないの(笑)。


 もう一つは昨晩NHKスペシャルでやっていた『大廃業時代』がやってくる、ということ。
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www6.nhk.or.jp

 中小企業庁は『今後 日本の企業の3社に1社、127万社が2025年に廃業危機を迎える』と予測しています。GDPで22兆円、雇用は650万人失われるそうです。
diamond.jp

 主な原因は後継者不足。日本の場合 中小企業の多くは国内市場をメインで展開してますけど(欧州などの中小企業はガンガン輸出している)、人口が減っていけば国内市場だって縮んでいく。そんな企業なんか継ぎたくないですよね(笑)。後継者不足になるのは当然です。

 番組の内容自体は常識的なもので『中小企業が倒産する前に踏ん切りをつけて、自分で清算したり他社にM&Aで事業を買ってもらうほうが良い』というもの。
 ボク自身もそういう現場に何度も関わったことがあります。当事者にとっては辛いけれど、従業員や取引先のことを考えれば限界を迎えた企業の廃業や事業譲渡は仕方がない。ボクの知る限り、清算できた経営者は終わった後は皆ほっとした顔をしている。体調だって良くなっている(笑)。会社を清算したことで経営者も従業員も、むしろ幸せになったのは間違いない清算できる会社って恵まれてるんですけどね)

 デビッド・アトキンソン氏が言うように『他国に比べて多すぎる中小零細企業がより大きな企業に統合されていくことで生産性が向上するチャンス』と捉えるべきなんだと思います。
 中小企業を守れ、というと美しく聞こえますが(笑)、本当に守るべきは人であって、企業ではない。エキタスなんかは『中小企業に税金回せ』とコールしてますけど、それはとんだ考え違いです。
 
 今後 少子高齢化で税金は上がっていくし、企業も減っていくのは避けられません。新しい産業やサービスを生み出したり、無能なジジイ連中を少しは厄介払いするチャンスでもありますけど、大変な時代であることは間違いない。
 せめて男がもう少し家事をすればいいのにね(笑)。



 と、いうことで、実在した女性ジャーナリストを取り上げた伝記映画です。日比谷で映画『プライべート・ウォー
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privatewar.jp

英サンデー・タイムスのアメリカ人特派員メリー・コルヴィン(ロザムンド・パイク)は、数々の特ダネを上げてきた戦争ジャーナリスト。戦争で苦しむ民衆の実態を知らせるために、危険を顧みず戦地に赴いて自分の眼で取材することをモットーにしていた。
 2001年、ジャーナリスト入国禁止を無視してスリランカ内戦を取材していた最中、砲弾を受けて左目を失明する。それ以降 PTSDに苦しみながらも眼帯のジャーナリストとして、フセインの死体発掘など特ダネをモノにする。
 肉体的にも精神的にも蝕まれていく彼女だったが、世間の関心を紛争地域に向けるために戦場を駆け巡り続ける。2012年、シリア内線下、政府軍に包囲された都市ホムスに潜入したメリーは、民間人は傷つけていないと言う政府の嘘を暴くため、CNN,BBCで同時ライブ中継を行おうとするが- - -

 アジアから中東まで最前線の戦場を伝え続けた隻眼の女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィンのことはボクも名前だけは知っていました。著名なジャーナリストでしたし、彼女の死は日本でも報じられたくらいです。
www.afpbb.com

 今迄ドキュメンタリーばかりを撮ってきた監督、マシュー・ハイネマンは今回 初めて劇映画を撮った理由を『戦争とフェイクニュースが蔓延する世の中で真実を伝えようと苦闘するジャーナリストたちを祝福したかった』と言っています。時代的背景、必然性があるわけです。
●本物のメリー・コルヴィン@エジプト

 劇映画と言っても、映画はリアルそのもの。
 スリランカイラクリビア、時折ロンドンのシーンが挟まるほかは激しい戦場のシーンが続きます。兵士だけでなく一般人、ジャーナリストも当たり前のように傷つき、死んでいく。死とはこんなにあっけなく、簡単なものなのでしょうか。自分の眼で目の当りすると、やはり驚かざるを得ない。
 彼女の最後の取材先となったシリアのロケは隣国のレバノン。難民役は実際にシリアから逃げてきた人たちだそうです。インタビューの内容は実話。実にひどい、厳しい内容です。主人公を演じるのは『ゴーン・ガール』の超美人女優、ロザムンド・パイクですから見てられるんですが、こんなことがあっていいのかと思う。世の中の理不尽さを嫌と言うほど思い知らされます。
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 メリー・コルヴィンは戦争の結果などどうでもいい、一般の人々がどんな目にあっているかを伝えることが重要だ、という堅い信念があったそうです。ノーメイクで彼女になりきったロザムンド・パイクの姿はその意志の強さを体現しているかのようでした。
 

 映画で見るだけでも恐ろしい戦場は徐々に彼女の心身を傷つけていきます。
●ジャーナリストでも時には銃を突き付けられます。

 砲弾の音、死体、破壊、目の前で起きる死、彼女はPTSDに苦しめられ、強度のアルコール中毒、そしてセックスに溺れるようになります。
●ジャーナリストといえども、危険は兵士と変わりません

 この映画は彼女の30代から50代までを描いています。その間 何度も彼女は戦場取材から身を退こうとします。兵士にだって退役はあるのに、彼女は戦場生活を20年以上続けているのです。
 彼女が仲間のジャーナリストに下着姿を見せるシーンがあります。『いつ死んでも良いように常に高級下着を身に着けている』と笑いながら語る彼女。そんな緊張が続けば私生活が破たんしたり、アルコール中毒で精神のバランスを失していくのは無理もありません。
●数々のスクープをものにし、ジャーナリストとしては栄光に包まれる彼女ですが、心身は傷ついています。

 なぜそこまで彼女はそこまでするのでしょう。映画の中では、『傷ついている民衆のことを世界に知らせたい』という彼女の思いが描かれます。それにしても、です。 
●独裁者のカダフィに対しても臆せず、都合の悪い質問もぶつけます。逆にそのような姿勢が信頼を勝ち得ていたそうです。

 しかし、使命感が彼女を突き動かします。人々が戦火の犠牲になっている。それを伝えることが彼女の戦いでした。
 当時 シリア政府は市民には攻撃をしていない、と公言していました。戦地に潜入した彼女の目の前で起きていることは違います。大勢の人々が死に、傷ついている。彼女たちはそれを世界に伝えます。
 すると政府軍は彼女たちジャーナリストも標的にしてきます。彼女は政府軍の包囲下の都市、ホムスに潜入、ネットで生中継をする。そこを狙ってシリア軍は攻撃を加えてきます。
●シリアでの彼女(本物)。死の直前。
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 こういう人がいなければ我々は世の中で何が起きているか知ることができなかったんです。日本で戦場で被害にあったジャーナリストを『自己責任』とか言う低能がいますけど、とんでもない話です。そんなことを言ってる奴は、罪もない子供や女性を殺しているアサドと同罪でしょう。


 映画のエンドロールでは、実際のメリー・コルヴィンが戦場の恐怖を語るインタビューが流れた後、彼女が取材した特ダネ記事の数々が映し出されます。それを見ていると感動すると同時に、思わず背筋が伸びてくる気がしました。理不尽な世の中とそれに対する怒りをメリー・コルヴィンの生涯を通じて表現した、出色の映画です。

映画『プライベート・ウォー』本編映像