特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHKスペシャル『ベイリーとゆいちゃん』と『目撃!にっぽん 辺野古に住んで見えたこと~“移設先の町”4か月の記録~』、そして映画『未来を乗り換えた男』

 とにかく、寒いですね~。朝晩は身を切るような寒さです。
あと、もうちょっとの我慢、と思いつつ、一年で最も寒い2月がやってこようとしています。

 ボクがまともにTVを見るのは日曜だけです。平日は帰宅して、夕飯を作り、食べて、お風呂に入ったら、もう9時過ぎになります。10時前には寝てしまいますから、TVを見ている暇はありません。日曜に撮りためておいた番組を早回しで(笑)、見ることにしています。時間がもったいないですからね。

 ちょうど昨日の日曜日、NHKで面白い番組が2本、やっていました。

まず、NHKスペシャル『ベイリーとゆいちゃん』

www6.nhk.or.jp

 病院で働くセラピー犬、ベイリーくんと難病で手術を控えた10歳の女の子を追ったものです。
 犬は人間に対して様々な癒し効果をあたえることは知られています。犬と人間は見つめあうと、お互い親愛の情を占めるホルモンが分泌されるそうです。番組の中でも犬がやってくると、認知症で混濁状態にあった人が意識を取り戻したり、喋れるようになった例が紹介されていました。
 小腸を90%切除し、それを引き延ばすという難手術をうけたゆいちゃんも、ベイリーくんが病床にやって来ると苦しそうな表情がさっと明るくなります。その変化は驚くほどです。手術後 痛みで歩けない時もベイリーくんと一緒なら歩こうとする。

 ベイリーくんも超賢い。普段は看護師の言うことを何でも聞くのですが、手術の翌日は指示を受けても、ゆいちゃんから離れようとしません。前の晩 手術の痛みで眠れなかったゆいちゃんはベイリーが添い寝すると始めて、安心して眠りに落ちたのですが、ベイリーくんは彼女が眠り始めると、ようやく自分からベッドを降ります。

 これはどう考えても、犬の方が人間より賢い。やはり、犬に総理大臣なり、首長になってもらった方がこの国は良くなるのではないか。改めて実感しました。人間、いらね。


 もう一つは 早朝やっていた『目撃!にっぽん 辺野古に住んで見えたこと~“移設先の町”4か月の記録~』。NHKの若い女性ディレクターが辺野古に4か月間住み込んで、住民の話を聞いた記録です。

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 辺野古の住民は新基地を容認している人の方が反対より多いことで知られています。しかし、狭い地元ですから賛成派も反対派も口が重い。そこでNHKの若い女性ディレクターが辺野古に4か月間住み込んでルポを作った。そんな番組です。

 辺野古の街は超さびれています。米軍キャンプに近い辺野古は昔は米兵相手の商売でにぎわっていました。ベトナム戦争当時は200軒あった飲食店は現在は20にまで減っているそうです。画面に映るのは空き店舗ばかり、まるでゴーストタウンです。かといって、他に産業があるわけではない。
●3年に1回、辺野古で行われるお祭り。美しい光景ですが、人々の間に分断が横たわっています。

 新基地に賛成の立場としてこのオッチャン↓が出てきます。彼も当初は基地反対でしたが、『どうせ国策は止められないのだから、条件闘争をやって補償金をもらうべきだ』という立場です。お金で転んだというのは簡単です。でも、原発もそうですが、いざ当事者に成ったら、そういう考え方もあるのは、それはそれで理解はできます。

賛成派は個別補償を要求していますが、国はのらりくらり、かわしています。それでも番組の取材中 沖縄防衛局が『法的に個別補償はできない』と言ってくる場面がありました。賛成派の人たちは『裏切られた』と怒りを露わにしますが、確かに個別の補償は利益供与になってしまうから法的にはムリです。賛成派の人たちは結局、『国を信じるしかできることはない』という立場をとらざるを得ません。それが彼らの限界でもある。



 基地反対の立場としてはこのおっちゃん↓が出てきます。孫に負の遺産を残すことはできない、と、20年以上反対を続けてきた。しかし、狭い地域故の血縁関係や友人関係もあります。『もう疲れた』と辛そうです。

 賛成、反対どちらの人も今まで自分たちがやってきたことを無駄にしたくないということは共通しています。ここが賛成・反対双方の最大公約数になるのではないか。20年という時の積み重ねがあります。この問題に目を向けなければ基地問題は解決できない、と思いました。
日本政府が今迄やってきたように沖縄の話を聞かずに強引に工事を進めるのは最低・最悪の愚行ですが、基地に反対する人だけでなく、賛成している人の話も聞かなくてはならないと思いました。


 辺野古の新基地には沖縄の人でも賛否両論あります。ボクはまず、賛否それぞれの意見を聞きたいです。
 本土が沖縄に基地負担を押し付けているのはその通りですが、それでも、渋々かもしれないが賛成している人は沖縄でも4割近くいる。賛成・反対どちらにも理由があるはずで、両方の意見を聞かないと判断を誤ります。
でも 三上智恵の『沖縄スパイ戦史』などの作品などが典型ですが、ドキュメンタリーでは、丁寧に調査しても結局は反対派の言い分に偏った一方的な観方のものが多い。そんなの、ダメに決まってます。ボクはそれは知的怠慢だと思う。信用できません。

 そういう意味で、この番組は非常に優れている。若い女性ディレクターがアパートに4か月住み込み、地元の飲み屋にも通って人間関係を作っていっただけのことはあります。暮らしの中から出てくる等身大のリアルな意見に触れることが出来ます。

 『嵐』の解散や相撲取りを番組のトップに持ってくるような昨今のNHKニュースは完全に頭がおかしいと思いますが、こういう優れた番組もある。NHKを非難するだけでなく、良心的な番組は掬いあげていかなければいけないと思います。こんな番組、なかなか民放では作れないでしょうから。
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と、いうことで、有楽町で映画『未来を乗り換えた男

transit-movie.com

舞台は近未来のパリ。ドイツでは新たにファシズムが興隆し、大勢のドイツ人がフランスに逃れていた。やがてドイツはフランスも占領することを目論み、亡命者たちは南米などに逃れようとする。亡命者たちの一人、ゲオルクはパリで自殺を図った亡命作家に成りすましてメキシコ行を企てる。マルセイユまでたどり着いたゲオルクは、懸命に人を探している美しい女性、マリーに出会うが、


 原作は自分もナチからの亡命者だったドイツの作家アンナ・ゼーガースという人が第2次大戦下に亡命先のマルセイユで執筆した小説、それを現代に置き換えたドイツ映画です。

 お話し自体は大したことないんです(笑)。元レジスタンスらしい孤独な亡命者、ゲオルグが亡命作家と共に、追手から逃れてマルセイユへ向かう。道中 怪我を負った作家は亡くなってしまい、亡命者はその作家に成りすまして、作家が亡命先として招かれていたメキシコへ向かおうとする。
 ところが彼が立ち寄る先には必ず謎の女性、マリーが現れ、彼は彼女に惹かれてしまう。そのドラマ自体はあまり興味が持てませんでした。真面目に見るにはちょっと甘すぎる。
●だって孤独な亡命者と美貌の人妻とのメロドラマですもん(笑)
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この映画がすごいのは、舞台を現代に置き換えたことで、現在の難民問題、そして再び訪れるかもしれないファシズムや抑圧の恐怖が良く映し出されているところです。
●ゲオルグと亡命作家(奥)はドイツ軍とフランスの官憲から逃れて、貨物列車でパリからマルセイユへ逃亡します。
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 この映画の中の亡命ドイツ人たちはまるで、アフリカやシリアから逃れてきた実在の難民たちのように暮らしている。ビザを求めて1日中、大使館に並び、わずかな蓄えや食料も底を突こうとしている。抑圧する官憲の手を逃れて、ひっそりと暮らす彼ら。明るい地中海の光が対照的です。
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 着々とファシズムの手は迫ってくる。パリが占領され、段々と南へファシズムが押し寄せてくる。亡命ドイツ人たちは官憲、そしてファシズムから逃げ続けなければならない。だが、マルセイユまで逃げてしまえば、もう逃げる場所はない。
 
 どん詰まりの街に漂う絶望感。ある者はうずくまり、ある者は死を選び、ある者は生きようとします。
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 後半に展開される人妻マリーとゲオルグの心の交流は悪くはありません。悪くないけど、まあ、どうでもいいかな、と(笑)。衝撃のどんでん返しはメロドラマを一層盛り上げるけれど、良い意味で絶望感の方が勝る。
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 映画のタッチはちょっと60年代ぽいというか、懐かしい感じもあります。鮮やかさを抑えた、画面のくすんだ色彩がそう感じさせるのかな。
 多くの人が心の底にうっすらと感じているであろう、近未来のそんな予感、不安をこの映画は画面に映しだします。その絶望に親近感を感じてしまうんです。この感情をどう表現したらいいのか。ボクにはこの絶望がリアルに感じられて仕方がない。
●今日のニュース。日本だっていつこの映画のようになるか判りません。
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https://mainichi.jp/articles/20190128/k00/00m/040/009000c


 なかなかユニークな映画です。すごく面白いとかいう訳ではありませんが、雰囲気がある。見る価値がある映画です。今の日本では、ファシズムが再来する恐怖は他人事じゃないですからね。

謎が謎をよぶ冒頭3分映像『未来を乗り換えた男』