特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『好き』という気持ちが全てを救う:映画『ブリグズビー・ベア』

いやあ〜、暑いです。日中は家の中にいても、おかしくなりそう。週末 家に一人でいるときはクーラーをかけるのはもったいないですからね(笑)。
汗をかくから、部屋は湿っぽくなる。布団乾燥機や除湿器をかければ部屋は熱くなるし、部屋を暖めたいのか、冷やしたいのか、もう何が何だかわかりません(笑)。夕方になって、ようやく息を付ける感じです。
●今朝も空の青さが鮮烈でした


今朝の朝日新聞に、『1972年5月の沖縄返還直後 日本の外務省が日米安保条約の「極東条項」を外そうと交渉した』という記事が載っていました。基地の根拠「極東条項」廃止を提起 沖縄返還直後に政府 - 沖縄:朝日新聞デジタル。『極東条項』とは、日本の安全保障とは直接関係ない朝鮮半島や東南アジアなど極東地域で何か起きた場合、日本の国内から米軍が出撃することが出来る、つまり米軍が日本の基地を自由に使える根拠だそうです。


アメリカからの強い拒否にあって交渉は実を結びませんでしたが、日本政府も当時は自国の利益を真剣に考えていたわけです。1972年と言えばベトナム反戦の機運が世界的に高まっていました。日本国内の世論も今とはかなり違っていたはずです。当時の大平正芳外務大臣が主導的に動いて外務省がそういう議論を提起したそうです。のちに首相になった大平氏老子を信奉していたそうですが、世論の後押しと彼のように知性と哲学を持つ人がマネジメントしていれば、どこの国の利益を追求しているのかわからない日本の外務省と言えども、そういうアクションも起こせるということなんですね。


ボクは米軍にでも駐留してもらってないとアホな日本人がまた侵略戦争でも仕掛けかねないから日米安保は有っても良い とは思います。しかし安保にしろ、日米地位協定にしろ、もうちょっと時代に即した議論は合っても良いはずです。そうした議論の繰り返しが日本人に自治意識を目覚めさせていくでしょう。
まあ、個人的には日本なんて国はさっさと解散して、アメリカの51番目の州になるか、映画『バーフバリ』に出てきたマヒシュマティ王国の臣民でいいんじゃないか、と思ってるんですけどね(笑)。
●六本木にある外国。六本木ヒルズから徒歩3分足らず、正面左側の建物は米軍施設、建物の裏はヘリポートです。柵には沖縄の米軍基地同様 立入禁止の看板がかかっています。すぐ近くの狸穴にあるアメリカンクラブもそうですが、東京の真ん中でこういうものを見ると日本はまだ占領下、と思います。


●今週金曜日の官邸前抗議は翌日土曜日に大規模抗議集会があるので、お休みです。ブログのアップも土曜日の夜になります。




と いうことで渋谷で映画『ブリグズビー・ベア映画『ブリグズビー・ベア』公式サイト

25歳のジェームスは家の外の世界を知らないまま、砂漠のシェルターで両親と一緒に生活してきた。数学の才能があるジェームスだが、毎週 家に届けられる特撮子供番組『ブリグズビー・ベア』に夢中で、それ以外のことは頭に入らない。ある日 家に押しかけてきた警察にジェームスは保護され、自分の親は誘拐犯で、自分は他の親の子供だということを知らされる。突然 外の世界に放り出されたジェームスはどうやって生きていくのか


この映画の主演と脚本のカイル・ムーニー、監督のデイブ・マッカリー、脚本のケヴィン・コステロアメリカの人気TV番組『サタデイ・ナイト・ライブ』で活躍しているそうです。3人は中学生からの友人で、カイル・ムーニーの私生活を基に映画を作りました。映画のプロデュースは昨年の『俺たちポップスター』のコメディ・グループ『ザ・ロンリー・アイランド』が務め、メンバーのアンディ・サムバーグも出演しているということで、ボクは公開初日に見に行きました。何度も書いてますが『俺たちポップスター』は、全てのものをタブーなしで下ネタで笑い飛ばす、不朽の名作?です『死霊の盆踊り』と映画『俺たちポップスター』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)


世界から隔絶されて育ってきた主人公のジェームスは両親ととも砂漠の地下に作られたシェルターに住んでいます。外の空気は汚染されているとして外出することは禁じられている。外に出たことがないジェームスは勉強を元大学教授の母親から教わっています。スマホやネットなど現代のテクノロジーとは無縁の生活です。
●砂漠の中のシェルターに25歳のジェームス(左)は父親(スターウォ―ズのマーク・ハミル!)(右)たちと住んでいます。

彼の唯一の楽しみは幼児向け特撮番組『ブリグズビー・ベア』です。彼にとっては唯一の外の世界へつながる手がかりです。毎週1回郵便で届けられるVHSテープは数百巻を数えるまでになります。
●地下のシェルターで彼はブリグズビー・ベアに囲まれて生きています。クマは唯一の友人であり、外の世界です。


ところがある日、彼らのシェルターに警察が押しかけてくる。ジェームスは幼児の時に誘拐され、親と思っていた二人は誘拐犯でした。ショックを受けたジェームスですが、25年間離れていた実の両親に引き取られ、優しく迎えられます。しかし、ジェームスは外の世界に対して心を開くことはありません。無理もありません。25年間も両親から引き離され、社会から孤絶されてきたのですから。


ちゃちな特撮番組に見える『ブリグズビー・ベア』は実はジェームズを誘拐した偽の親が作ったものでした。デザイナーだった偽の父親(なんとマーク・ハミル!)がセットも着ぐるみも小道具も手作りして撮影していたんです。それをVHSビデオ!で毎週届けていた。今迄 彼にとって唯一 外の世界への窓だった『ブリグズビー・ベア』の新作が見られなくなって、主人公は意気消沈。優しく迎えてくれる家族にも学校にもどうしても馴染むことができません。
●最初に主人公と友人になったのは映画オタクの黒人生徒(右)でした。


学生時代に演劇をやっていた事件の担当刑事から、着ぐるみや小道具が残っていることを教えてもらった主人公は、自分で『ブリグズビー・ベア』の新作を撮影することを決意します。


夢中になって突き進む主人公にはいつの間にか友人が出来るようになります。彼の持っているブリグズビー・ベアのVHSは現代の子供たちには一回り回ってクールに見える。ネットに載せるとどんどん人気が広がっていきます(笑)。チープな80年代テイストと現代のテクノロジーが融合する。ここいら辺の展開は実にお見事です。
●ジェームスたちの撮影風景は実に楽しそうでした。映画の中の撮影風景として、出色だと思います。


新作の撮影を進めるにつれて、主人公はどうしても今の現実、そして過去の真実に向き合わなくてはいけなくなります。じたばたするジェームスの行動は痛いオタクの無謀な行動のように見えます。しかしそれでも、ただブリグズビー・ベアが好きだというジェームスの気持ちは、かってブリグズビー・ベアに出ていた出演者たち、ジェームスを誘拐した偽の親、現在の友人たち、今の親や周りの大人たち、つまり夢を無くしていた人たちを揺り動かします。そして、すべてが救われる。


ブリグズビー・ベアの着ぐるみ。2017年のコミコンにて。



一見 オタクのバカ映画のように見えますが、普遍性を訴えるところまで上手く着地させたなあ、と感心する見事な脚本です。何よりも、これだけ心優しい映画も珍しい多様性をよしとする価値観、寛容さ、テクノロジー&ノスタルジー、そして何よりも『好き』という純粋な気持ちを肯定する精神がこの映画には込められています。『俺たち、ポップスター』もそうでしたが、バカでもバカを徹底すれば美しくなる。全てが許される展開には驚かされたし、登場人物すべてが愛おしくなり、最後にはうれし涙がこぼれます
ボクはこういう映画が好きなんです。今年の上半期の映画の中でも出色の作品です。