特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

ETV特集『基地で働き 基地と戦う』と映画『モリーズ・ゲーム』&『バーフバリ2 王の凱旋 完全版』

ぐずつき気味だった先週から一変、今週は暑くなりそうです。皆さま、体調の変化にお気を付けください。
●朝の日差しが急に眩しくなりました。


週末の土曜 深夜に放送されたETV特集基地で働き 基地と闘う〜沖縄 上原康助の苦悩〜』は大変面白かったです。


ETV特集 - NHK


沖縄出身で初めて大臣になった上原康助が昨年8月に亡くなりましたが、このほど彼の未公開ノートが見つかり、それを基に氏の生涯を追ったものです。ボク自身、名前はなんとなく聞いたことがあったのですが、殆ど知らない人でした。
上原氏は本土復帰前の1951年 高校を卒業後、米軍基地に就職します。当時では、沖縄の住民に対して賃金差をはじめとする差別待遇が横行していました。そこで上原が中心となって基地労働者の組合(全軍労)を結成、委員長となる。全軍労は沖縄で最も存在感がある労働組合として解雇撤回や待遇改善などの成果を勝ち取ります。70年 上原氏は戦後初の衆院選挙に社会党から立候補、10回当選、93年に細川内閣で沖縄開発庁長官になります。96年には社民党副党首。
しかし、98年 社民党基地問題に対する態度は硬直化しているとして、『日米安保はアジアの安全保障の共有財産であり、基地問題はそれを前提に解決を図るべき』という『沖縄 もうひとつの選択』という声明を出して、社民党を離党&除名、民主党に移ります。2000年の選挙では社民党/沖縄大衆党の候補相手に落選、政界から引退。

○上原氏の死亡記事:上原康助氏が死去 全軍労、衆院議員、初の県選出大臣 84歳 | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス



軍政下のアメリカ軍は勝手に住民の土地を収用したり、兵士が犯罪を犯してもまともに裁かないなど、やりたい放題だったわけですが、基地で働く労働者に対しても低賃金でこき使い要らなくなったら使い捨て、労働者としての権利は全く守られませんでした。しかし当時の沖縄にはまともな産業、就職先は少なかった。多くの人が仕方なくアメリカ軍基地に就職していたそうです。


上原氏が率いる組合はストをも辞さない強硬な態度で戦います。当時の写真を見るとアメリカ軍は組合の労働者たちに本当に銃剣を突き付けています。刺されて怪我した人も居るそうです。びっくりしました。文字通り『闘い』でした。
組合のストに対して、米軍は兵士の夜間外出禁止で対抗します。そうすると基地周辺の店が商売が成り立たない。商店主や従業員らは組合に抗議したり、スト破りなども行ったそうです。沖縄の人たち同士の対立です。上原たちは商店主たちと話し合いながらも、断固としてストを続け、待遇改善を勝ち取ります。


復帰後、国会議員になった上原氏は沖縄への基地集中の改善のために戦い続けます。だが孤軍奮闘 力が及ばない。外務省の壁は大きかったそうです。大臣になって『入ってくる情報が100倍違う』と上原氏は驚いていたそうですが、それでも力は及ばない。
と、同時に基地を否定するだけの硬直した社民党にも疑問を抱くようになる。上原氏たちの闘いの結果 基地労働者の待遇は改善され、組合は基地撤廃を否定するようになります。沖縄にとっては基地はまだ貴重な職場であり続けました。労働者たちの気持ちを良く判っていた上原です。だからこそ、『安保体制は冷戦終了という環境変化に応じて見直さなければならない』としながらも、『日米安保はアジアの安全保障上の公共財産』という発想に繋がりました。
2000年 上原氏は社民党を離れ民主党に籍を移して選挙に臨むも落選、政界から引退します。社民党がその頃の沖縄ではそんなに強かったのも驚きです。


米軍に銃剣を突き付けられてもめげなかった上原氏は97年の国会答弁で『基地の縮小がなされないなら、沖縄の住民が日本から独立することも考えられる』とまで、言っています。そこまで思いつめながらも、現実を見つめると『沖縄からの基地の全面撤廃は簡単には出来ない』という上原氏から学ぶべき点は今も多いと思いました。現実は白黒を簡単につけられるものではない。


ちなみに今週 金曜29日 夜10時からのETVドキュランドへようこそ』でロバート・ライシュ先生の「みんなのための資本論」が放送されます。BSでは何度か放送されてますが、地上波では初めてじゃないでしょうか。面白いし大変ためになるドキュメンタリー民主主義を取り戻すには:映画『みんなのための資本論』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)ですのでお知らせしておきます。


ドキュランドへ ようこそ! - NHK

●確かに新聞もひどいもんですけど、文字通りバカが支持する政権ってことをバカな大臣自らが暴露するのもなあ。ただ、野党は自分たちが国民という現実を見てないってことを反省しなきゃダメ。



ということで六本木で映画『モリーズ・ゲーム映画『モリーズ・ゲーム』| TOHOシネマズ 日比谷ほか絶賛上映中!

競技スキーのオリンピック代表選考会で大けがをしてしまったモリー・ブルーム(ジェシカ・チャステイン)は、選手生活を諦め、合格していたハーバードのロースクールに通うまでの1年間、LAで過ごすことにする。勤務先の上司から秘密のポーカーゲームのアシスタントをするよう命じられた彼女は、巨額の金を賭けるハリウッドスターや企業経営者が夜な夜な訪れる世界に触れる。持ち前の知性と度胸でノウハウを学んだ彼女は自分でゲームを主催するようになり成功を収めるが、FBIに逮捕されてしまう。


これは実話です。現実のモリー・ブルームが捕まった際、ディカプリオやベン・アフレックなどが顧客だったと言われる秘密ポーカーは日本でも話題になりました。彼女の手記を映画化した監督は『ソーシャル・ネットワーク』、『ティーヴ・ジョブス』などの脚本を書いたアーロン・ソーキンどちらの作品も通常の倍くらいのスピードでまくしたてる台詞と斬新な構成が印象的でした。この『モリーズ・ゲーム』は今年のアカデミー脚色賞にノミネートされています。
●セレブを集めた秘密ポーカーを主催する女性が主人公です。実話。


主役のジェシカ・チャスティンという人、なかなか好きなんです。アカデミー助演女優賞にノミネートされた『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』やテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』、アカデミー主演女優賞にノミネートされた『ゼロ・ダーク・サーティ』に、素晴らしかった昨年の『女神の見えざる手』。メジャー作品から一癖ある作品まで、ボクが見るようなアメリカ映画にはやたらと出てくる。そうやって見ているうちに段々好きになりました。
●主演のジェシカ・チャスティンと本物のモリー・ブルーム(右)

Molly Bloom, daughter of former CSU professor, reacts to biographical film ‘Molly’s Game’ - The Rocky Mountain Collegian

映画は主人公がスキーのオリンピック代表選考会に出場したが大けがを負って競技生活をあきらめ、大学院に入学するまでの間にバイトを始めるところから始まります。華やかな西海岸に居を定めた主人公はひょんなことから、ハリウッドのスターや大金持ち相手のポーカーに関わるようになります。
●主人公はハーバードのロースクールに合格、さらにオリンピック代表に選ばれる寸前のところで怪我をしてしまいました。


ただ、この映画、ポーカーのことはボクは全くわからないし興味もないので、正直 そのシーンは退屈でした。その分 ジェシカ・チャスティンがきらびやかな衣装を次々と着せ替えするので、そこでカバーできる(笑)。普通のセリフの倍くらいのスピードでまくしたてられる会話劇はスリリングで面白かった。役者さんはこういうチャレンジをやりたいんだろうなあ。


オリンピック候補の選手で、美貌に恵まれ、更にハーバード・ロースクールに合格するほど頭脳明晰なモリーが何故 巨額の資金が動くポーカークラブにのめりこんで行ったか。有り余る金と権力を持った億万長者や政治家、セレブを集め、巨額の掛け金をやりとりし、なおかつギャングなどを排除しながら、秘密クラブを運営する。そのスリルにおぼれていったんです。


強烈なプレッシャーに耐えながら、権力者の男たちと戦う孤独な姿は、ジェシカ・チャスティンがいつも演じている『男社会の中で一人で闘う女』なのが途中で判りました。そう思うと、主人公に共感できる。権力を握っている男たちと戦うモリーの姿は、素晴らしかった昨年の『女神の見えざる手怖くて素敵なお姉さまたち:映画『女神の見えざる手』と『アトミック・ブロンド』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)や『ゼロ・ダーク・サーティ虚しさへのシンパシー:映画『ゼロ・ダーク・サーティ』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)の主人公たちと同じです。いつもながら、ジェシカ・チャスティンの演技、素晴らしい。
あと横暴でスパルタな父親役を演じるケビン・コスナーNASAでキャリアを切り開いた黒人女性たちを描いた昨年の名作『ドリーム(Hidden Figures)』『BOTTOM UP DEMOCRACY 10.09 新宿アルタ前大街宣』と、心と頭を刺激するエンターテイメント:映画『ドリーム』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)もそうでしたが、かっての2枚目スターは今や、クソオヤジ役が見事に定着したんじゃないでしょうか(笑)。
ケビン・コスナー(左)はいやーな男権主義の父親役です。もちろん、それだけで終わるのだったら彼が出る理由はありませんが


モリーはポーカーをあくまでも合法に運営するため、手数料を一切取りませんでした。受け取る金はチップだけ。それなら合法、さすがハーバード・ロースクール合格です(笑)。しかし、ごく一部だけ受け取ってしまった手数料をFBIに目をつけられて逮捕されてしまいます。FBIの本当の狙いは顧客名簿。ハリウッドだけでなく、金融関係者に、世界中のさまざまな有力者。FBIにしてみればモリーを捕まえるより、名簿さえ手に入れらればいいのです。FBIはモリーを無罪にする代わりに、名簿のハードディスクを要求します。はたして彼女の選択は?
●映画は彼女の法廷劇と秘密ポーカーの様子が交互に描かれます。


現実のジェシカ・チャスティンも男女不平等と積極的に戦う女性として知られています。世の中には不条理なこと、不平等なことはいくらでもあります。それを何とかしようとすると、逆に不利益を被ったり、孤立に追い込まれたり、逆に攻撃されたり。日本は特に酷い。伊藤詩織氏の例が典型ですよね。財務大臣や市長が『セクハラ被害者は名乗り出ろ』などセカンドレイプになりかねないようなことを言う最低のバカが平気で公職にのさばっている。そんな社会でどうやって戦っていくか。
そういう世の中だからこそ、『モリーズ・ゲーム』は共感出来てしまうんです。


もうひとつ 新宿で映画『バーフバリ2 王の凱旋 完全版映画『バーフバリ 王の凱旋』完全版公式サイト

河のほとりの村で育てられたシブドゥは巨大な滝に現れた女神のような女性に惹かれて滝を登り、彼女の願いに従って古代インドの大国マヒシュマティ王国の王宮で鎖に繋がれた王女を奪還する。シブドゥは自分が圧政を敷く国王バラーラデーヴァに殺された伝説の王、バーフバリの息子だということを知り、復讐を誓うが


今年初めに見た『バーフバリ2 王の凱旋』は衝撃でした『名護市長選』と映像に圧倒される映画2題『ジュピターズ・ムーン』と『バーフバリ 王の凱旋』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。架空の古代インドの王国マヒシュマティを舞台にした王位をめぐる2代の愛と復讐の物語は、エキストラ3万人(笑)という圧倒的なスケールの大きさ、日本なんか問題にならないIT先進国インドの見事なCG、奇想天外なお話しの面白さ、登場人物たちの魅力、で完全に参ってしまいました。内容はともかく(笑)面白さだけだったら生涯ベスト1かも しれない。
そう思ったのはボクだけではないらしく、映画は公開半年を経てDVDが発売されてもロングランが続き、6月からは今まで公開されていた2時間半のインターナショナルバージョンに代わって、インドで公開された3時間の完全版が上映されることになりました。

バーフバリ 伝説誕生 [Blu-ray]

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この映画の唯一の欠点は面白すぎて、2時間半という上映時間が短すぎること!(笑)。だから3時間の完全版は願ったりかなったりです。ちなみにこの映画の前編にあたる『バーフバリ 王の凱旋』も2時間半、両者を合わせて5時間、これでも短い(笑)。面白すぎてすぐ終わっちゃうんですよ。



完全版はインド映画につきものの歌とダンスのシーンが追加されたと同時に、描写がより細かくなりました。前半部はよりコミカルに、後半部は復讐がより凄惨になった、という感じでしょうか。観客は女性が8割、男性2割という感じでした。世の中でヒットを作り出すのはまず女性というのが鉄則ですが、女性が面白いものに敏感なのは感心します。というか、男は文化は全然ダメなんですよね。
この映画、前編を見なくても大丈夫です。全編がクライマックスなので(笑)、前篇を見てなくても十二分に面白いです。2を見ると前編をDVDで見たくなる。そうすると2をまた見たくなる。ボクはこの無限ループに嵌りました(笑)




この映画の魅力は色々ありますが、古代をテーマにしたお話でも、ちゃんと共感ができるように価値観がソフィスティケイトされているところが大きいです。最初は王様の話なんか興味ないと思って、前編の『バーフバリ 王の凱旋』は映画館には見に行かなかったんです。でも、それは間違ってました。調子に乗ってブームに便乗した文芸雑誌『ユリイカ』のバーフバリ特集に『女性でも不愉快にならない家父長制』と言う論文が載ってましたが、まさにそうで、ここに出てくる女性たちは強く、賢く、自分の考えを持っていると同時に、ヒーローたるバーフバリも女性蔑視を絶対に許さない価値観を持った人間として描かれています。

まさに拍手喝采!というシーンが続きます。 財務省のセクハラ事件の時、バーフバリ2のシーンが引用されたツイートがネットでバズってましたが、麻生太郎財務省のバカ福田次官もさっさとバーフバリに成敗されてしまえばいい、と思った人が大勢いる と思います。


ボクは天皇制も王政も大嫌いですが、マヒシュマティ王国の臣民だったらなりたいです。リーダーは私利私欲のためにいるのではなく、民衆のために尽くすことによってリーダーになるからです。安倍晋三やトランプとは真逆、まさにサーバント・リーダーを絵に描いたよう。今も映画館にはマヒシュマティ王国の臣民と称する人たちが大勢、夜の『絶叫上映』にコスプレして集まってるそうですけど、まさにそういう気持ちになります。
朝日新聞や日本TVで報じられた『絶叫上映』の様子。


映画が始まって5分でもう、スクリーンのバーフバリの雄姿に土下座したくなります(笑)。文字通り、土下座させてください、と言いたくなる。花びらとスパイスが舞い散り、民衆だけでなく、子供も動物もみんな万々。ずっとこうして居られたらいいんだけどなー。そういう素晴らしい映画です。スクリーンで見るのは映画というより、一生モノの体験かも。サントラもカッコいいです。