特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『新聞に出るニュースと出ないニュース』と映画『ザ・シークレットマン』

昨晩の東京は強い風と雨でした。今月になってもう、3度目だそうです。文字通り、春の嵐でした。
電車のダイヤは乱れるし、ぐしょぐしょにはなりますけど、一歩一歩温かくなると思えば、そんなに嫌な感じじゃないです。今日の気温は昨日より10度くらい上がりました。春が待ち遠しいです。
●築地で『勘八のあら煮定食』950円。頭ごと全部食べられる煮物は『人生のご褒美!』と思うくらい美味しかった。煮汁まで全部 飲み干しました。市場関係者の店を教えてくださったHoneyPeachさん、ありがとうございますhttp://d.hatena.ne.jp/HoneyPeach/20170729#p1


今週は3月11日の日曜日に大規模集会があるため、金曜官邸前抗議はお休みです。



ボクには縁のない話ですが(笑)、今週 毎年恒例の雑誌フォーブスの世界の金持ちランキングが発表されました。ベスト10はこの連中です。

ジェフ・ベゾスが初の首位に フォーブス世界長者番付2018 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)


アマゾンのジェフ・ベゾスが長年1位だったマイクロソフトビル・ゲイツを抜いて、初めて世界1の金持ちになりました。ベゾスはアマゾンからは約1000万円/年の給与しか受け取ってないことで有名ですから、ほとんどはアマゾンの株価上昇に伴うものです。アマゾンは社是が『消費者のために安売り』、そのためには『消費者のためなら利益は出さない、株主に配当も払わないし、税金も極力払わない』。こんな企業とは普通の企業は競争できません。今や小売業だけでなく、金融業もメーカーも世界中の企業が自分たちの領域にアマゾンが攻めてこないか、戦々恐々としています「アマゾン地獄」の幕開け:日経ビジネスDigital。それを象徴する出来事です。


問題は同率8位の二人のコック(コーク兄弟)です。石油会社などを経営するコーク兄弟は二人の財産を併せるとジェフ・ベゾスビル・ゲイツを抜きます。トランプですら生ぬるいとする極右のコーク兄弟はティーパーティー運動を組織したり、右翼シンクタンクに金をつぎ込んだり、リベラルな議員の選挙区で偽情報のCMを流して落選させたり、更に自分たちの息がかかった国会議員約50人で議会内に極右の党派フリーダム・コーカスを作らせ、政治を乗っ取ろうとしています。それこそ、アマゾンがコーク・インダストリーを潰してくれないかなあ(笑)。
●以前もご紹介しましたコーク兄弟の悪行は2010年代になって、やっと明るみに出ました。読書『ダーク・マネー』と『0512再稼働反対!首相官邸前抗議 feat. #高浜原発再稼働反対』+『#金曜国会前抗議』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)

ダーク・マネー―巧妙に洗脳される米国民

ダーク・マネー―巧妙に洗脳される米国民



さて、この前 定期的にお会いしている大臣の元政策秘書氏に新聞に出ない話を聞いてきました。面白いと思ったことを2点、ご報告します。ボクが聞いたのは少し前ですが、森友の話にしろ、北朝鮮にしろ、今流れているニュースがどういう構造かわかります。
1.財務省の森友文書改竄と改憲
朝日は『確認』と言っていて文章は手元に持っていない可能性もあり、本当かどうかはまだわからない。ただし自民党の二階まで怒ったのは今まで財務省から聞かされていた話が違ったから。そういう意味では二階の怒りは目くらましではなく、本当の話。官邸は今年中の改憲発議、できれば年末に国民投票をするつもりだったが、今回の問題で難しくなった
*注 木曜日の毎日夕刊で、国会に提出されたものとは別の書類があったことがスクープされました。これで朝日の報道は裏付けられました。

森友文書:別文書に「特殊性」の表現 国会開示にはなし - 毎日新聞


2.北朝鮮情勢
アメリカは依然 武力攻撃をやる気はある。その場合は日本も韓国も被害が出ることも想定済み。ただし、ここに来て情勢が変わってきた。まず、中国の仲介で密かにアメリカと北朝鮮の直接交渉が始まった
*注 このことは木曜日の朝日も報じています。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180308-00000006-asahi-int
一方 アメリカはシリアでロシア人雇い兵300人を空爆したりシリア:米主導空爆で「ロシア雇い兵300人死傷」報道 - 毎日新聞、元来NATO加盟国のトルコがロシアに接近するなどシリア情勢が再び緊迫しており、アジアで事を構える余裕がアメリカに無くなりつつある。アメリカにとっては北朝鮮より中東の方が重要。トランプの最重要関心事は秋の中間選挙で、選挙目当てに攻撃を仕掛ける可能性はあるが、北朝鮮ICBMだけ廃棄させて核保有は認める可能性もある。いずれにしても日本も韓国もアメリカに相手にされてない。


北朝鮮の脅威ばかり煽っている、強硬論一辺倒のNHKのニュースとはだいぶ違いますね(笑)。この元政策秘書氏は与野党で勉強会をやっていますから、入ってくる情報は良くも悪くも日本の政界の常識的な線だと思います。政治家や役人が考えていることとTVで国民に知らされていることとはずいぶん違う。特に北朝鮮の話は米朝会談がどうして急に行われるようになったのか、理由が良くわかります。いずれにしても、そんなに悪い話じゃない。



国有財産を私物化した森友・加計の疑惑我々の生活を脅かす高プロ裁量労働制の問題は我々はもっと怒らなければ、いつの間にか幕引きになってしまいます。
また北朝鮮が核を持っても、日本のリスクは今とさほど変わりません。北朝鮮のリスクは連中がノドンだのテポドンだの、日本に届くミサイルを山ほど持っていることであり、原発を狙われたら通常弾頭でも核ミサイルと一緒です。ICBMアメリカの問題であって日本には関係ない
日本にとっては『朝鮮半島で戦争が起きないこと』、『統一朝鮮が出来ないこと』が重要なのであって、北朝鮮の核と共存する現状維持なら御の字です。生きているのかいないか判らない拉致被害者を取り戻すのだって、現状維持の方が確率は高いに決まっています。


いずれにしても日本人はもっと事実を基に議論をしなければいけないと思います。森友や加計のような国有財産の私物化と証拠隠ぺいは真実はどうだったのか追求しなくてはいけません最低でも麻生はクビ、役人は刑事罰でしょう(9日AM 近畿財務局に自殺者が出たニュースが流れていますhttps://www.jiji.com/jc/article?k=2018030900756&g=soc。佐川が辞めたくらいで幕引きなんてとんでもない。


北朝鮮問題だって、憲法守れじゃなくて平和を守るためには具体的にどうするか。どんな外交をしなくてはいけないか、どんな軍備を持たなければいけないか。軍備一つとったって野党は具体論がちっとも出てこないし、今更 空母だの戦車だの巡航ミサイルだの無用の長物を買い込もうとする政府もお花畑です。今回の北朝鮮の件でも政府の連中が役に立たないのが良くわかった。とにかく安倍晋三には一刻も早く、辞めてもらいましょう!



ということで、最近のアメリカ、そして日本の政治情勢にぴったりの映画がありました。まるで45年前の前川元事務次官を描いたような作品です。
渋谷で映画『ザ・シークレットマン映画「ザ・シークレットマン」公式サイト 2018年2/24公開

1972年 大統領選挙の133日前 民主党本部に不法侵入した男たちが逮捕される。捜査を担当するFBI副長官のマーク・フェルトだが、ニクソンから送り込まれたFBI長官代理グレイが干渉し、捜査を制限しようとする。フェルトはTIME誌とワシントン・ポストの記者に連絡を取って‐‐ー

 
ニクソン大統領が大統領選に際して民主党の選挙本部を盗聴したことが暴露されて失脚した『ウォーターゲート事件』。それを暴いたワシントンポストの報道は有名ですが、その情報源は長らく謎に包まれていました。その情報源はマーク・フェルト、当時のFBI副長官。彼を描いた物語です。原題は’’Mark Felt: The Man Who Brought Down the White House’’
FBI副長官のマーク・フェルトは普段は人を殴る役ばかりの(笑)リーアム・ニーソンが演じています。

監督は実話物を撮ってきたマイケル・ランデルマン。今月末に公開される、こちらはベトナム戦争の秘密文書の報道を描いた映画『ペンタゴン・ペーパーズ』でワシントンポストの記者を演じるトム・ハンクスがこの映画のプロデュースを務めているのも面白いです。リドリー・スコットもプロデュースに加わっています。トランプが大統領に選ばれてしまった時代です。ハリウッドの映画人には、今 こういう映画を世に出さなくてはいけないという意思があると思います。

映画はニクソン政権の関係者がFBI副長官のマーク・フェルトに、『エドガー・フーバーFBI長官を辞めさせられないか』と圧力をかけるところから始まります。フーバー長官は約50年もFBIの長官を務めて近代的捜査を取り入れると同時に、非合法な盗聴や脅迫などの手段で政治家、有名人のスキャンダルを握って、誰も手だしが出来ない存在として有名でした。イーストウッドの映画でディカプリオ君が演じてましたね↓。女装趣味の男色家であったことも暴露されています。共和党ニクソンと言えども、フーバーは邪魔だったんです。

しかしマーク・フェルトニクソンの関係者の依頼を拒否します。彼自身はフーバー時代も非合法な手段には手を染めず、実務を取り仕切っていました。彼にとってはFBIが政権から独立した捜査機関であることが何よりも重要だったのです。
ほどなく高齢のフーバーは死去します。フーバーが持っていたスキャンダルを調べた秘密ファイルを手に入れようとホワイトハウスの人間が押しかけます。しかしマーク・フェルトはその前に全て処分してしまいます。


ニクソンは言うことを聞かないFBIを自らの手に収めようと、腹心のクレイを長官代理として派遣します。彼は大統領へのおべっかばかりで実務能力はありません。フェルトは自分の長官昇進を期待していなかったわけではありませんが、組織人として、またFBIを独立した捜査機関として守るためにクレイに従います。多くのFBI職員はフーバーの死後 心機一転、FBIを公明正大な組織に生まれ変わらせようと張り切っています。一方 フーバーの死後 フーバーの直接指揮下で汚れ役を担当していた一部の捜査官は不満があります。彼らにしてみればマーク・フェルトは手を汚さずに副長官にまで昇進した、と見えるのです。彼らはニクソン側につきます。フェルトはそんな状態で組織をマネジメントしていかなければなりません。
●大統領の意のままに組織を動かそうとするニクソンの腹心、クレイ(左)から、フェルトは組織を防衛しようとします。


やがてウォーターゲート事件が起きます。しかしマスコミの報道は低調です。どこかの国みたいですね。一方 大統領選を控えたニクソンFBIの捜査を妨害させ、盗聴に自らが関わっていないことにしようとします。このままではニクソンが再選されてしまいます。フェルトはとうとう情報のリークを決意します。


りーアム・ニーソンはどちらかというと粗暴な暴れん坊というイメージが強いのですが、ここでは痩せこけて、やや神経質そうな、堅物のマーク・フェルトを演じています。これが超カッコいい。映画の中でダイアン・レイン演じる彼の妻の『子供をあやす時もスーツの上着を着て、その中に銃を入れているような男』というセリフがありますが、仕事命、捜査命のマーク・フェルト像は魅力的です。劇中 彼は殆ど表情の変化を見せません。常に沈着冷静で顔色一つ変えない。その下には悲しみと権力に忖度しないプライドがある。
映画の殆どの画面は青白く撮られています。それがマーク・フェルトの像にぴったり合っている。


ただし、マーク・フェルトにも泣き所がありました。マーク・フェルトとその妻はリベラルな民主党支持者です。その一人娘はフルブライト奨学金に選ばれる超優秀な人間でしたが、ベトナム反戦運動に加わり、やがてヒッピーのコミューンに身を投じて行方不明になってしまいます。子供が家出した後、妻との仲もうまくいきません。もともと過酷なFBI勤務です。30年のうちに13回も転勤をして、妻にも大きな負担を強いています。仕事でも私生活でも悩みながら感情を表には出さず、娘を思う彼の姿もこれまた魅力的でした。
ダイアン・レインが今回は疲れた顔で(笑)、妻を演じています。


非合法な手段を否定してきたフェルトですが、過激派のテロ組織『ウェザーマン』に対しては盗聴を指示します。『ウェザーマン』についてはロバート・レッドフォードが『ランナウェイ 逃亡者』という映画で取り上げています。この映画も面白かったです。

ニクソンが盗聴事件に関与していたというリークに対して、当初 世間はそれほど関心を払いませんでした。民主党は内紛を起こしていたし、ニクソンは再選されてしまいます。しかしフェルトがリークを続けるに従い、マスコミの関心も高まってきます。そうなるとニクソンはただ黙っているわけではありません。捜査をやめるよう、FBIにもCIAにも陰に陽に圧力をかけてくる。しかし、FBIにもCIAにも大統領の意を忖度しない官僚たちがいました。フェルトの情報リークで反ニクソンの機運が高まる中、さすがの大統領も完全には捜査を止めることはできませんでした。


ニクソンはリークの犯人探しにも必死になります。映画には出てきませんが、ワシントンポストにはニクソンのスパイもいて、ニクソンはフェルトがリークしたことを掴んでいたそうです。しかしフェルトを追及したら、他のこともばらされるのを恐れて追及できなかった。他にもリーク元はいるかもしれませんし。一部のマスコミ、良心的な官僚の勇気があってこそニクソンを断罪できたわけですが、暗闘はすさまじかった。
●フェルトのリークは1回だけでなく、ニクソンを追い詰めるまで長期間続けられます。



ほどなくニクソンは議会からの弾劾を逃れるために、自ら辞任したのは皆さん、ご存知の通りです。ニクソンの失脚後 ワシントンポストの記者もマーク・フェルトも秘密を守り通します。彼が自分がリークしたことを認めたのは死の3年前、2005年のことでした。その時 既に彼は認知症を患っていたそうです。


マーク・フェルトの評価は2つに分かれています。自由を守った英雄という評価もあるし、裏切り者という評価もある。元FBIの最高幹部というのは印象悪いかもしれません。ボクも映画を見る前は印象悪かった(笑)。でも自分も歳をとり、組織の中で年月を重ねた今は、少しは彼のことが理解できる気がします。ボクは彼は英雄だと思います。彼は組織の中に居ながら、個人の良心に従って行動しました。フェルトの真意は自由を守るというより、独立した捜査機関であるFBIを政権の道具にしてはいけない、という想いだったと思いますが、彼は権力に忖度せず自分の良心に従い、結果としてアメリカという国やその民主主義を守りました。


これはまさに今を描いた映画です。トランプ時代のアメリカのことだけではありません。先日 朝日が報じた財務省の森友文書改竄も財務省か検察の中の誰かがリークしたのでしょう。マーク・フェルトみたいな人間がいたに違いない。文科省の前川氏もそうでしたよね。それと一方 忖度の挙句 自殺に追い込まれる役人もいる。
●今回の財務省の文書改竄は検察がリークしたという説を取る人もいます。


リーアム・ニーソン、とにかくカッコいい。青白い画面もスタイリッシュです。面白かった! マイケル・ランデルマンという監督のことは良く知りませんでしたが、これから追っかけてみたいと思います。実に良い映画でした。春物のダークスーツ買おうっと(笑)。