特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

立憲民主党の『#東京大作戦FINAL』と映画『エルネスト』と『散歩する侵略者』

選挙の結果は不愉快ですが元々が酷かったのですから、そう考えれば捨てたもんじゃありません。前回よりはマシじゃないですか。立憲民主党は野党第1党になったし、これから(まともな)野党の再編が進むでしょう。


まあ、もうちょっと投票率が高ければ とは思いますがお天気を考えれば、前回をやや上回った今回の投票率(約53%)は高い、と言えるのかもしれません。だいたい日本は選挙に行かない人間に社会的に甘すぎる。オーストラリアのように棄権する人間には税金をかければいいんです。一人一人が政治参加することが民主主義の前提ですからね。投票に行かないんだったら北朝鮮に住めばいい(笑)。
●ゴミだらけのネットで孤軍奮闘しているBUZZFEED NEWSの編集氏のツイート

https://this.kiji.is/294835761294591073


土曜日は新宿で行われた立憲民主党の大規模街宣『#東京大作戦FINAL』に行ってきました。雨を全くものともせず 8000人もの人が集まった光景は新聞各紙の1面を飾りましたが、立憲民主党の集会だってことは書いてなかったですね。公職選挙法をビビってるんでしょうけど、ネットや一部の記事ではちゃんと報じてるのにおかしいでしょ。


始まる時間の30分前に行って様子を見ていたのですが、驚いたのは殆どがボランティアで運営されていることです。司会の女の子も、誘導をする人も、強い風で幟が飛ばないように押さえている人も、ダンマクで通路を確保している人も、みんなボランティア。スタッフなんて数人しかいなかったんじゃないでしょうか。枝野氏が徒手空拳で立ちあげた政党であることが良くわかります。政党や市民団体の集会で見る光景とはだいぶ違います。


街宣は元SEALDsの本間君のスピーチから始まりました。


その後 演壇に立ったのが元TBSのアナウンサー、今はエッセイストの小島慶子氏。今まで政治活動など一切やったことないという彼女のスピーチが最も感動した という声も多く聞きました。

そのあと東京4区候補者の井戸まさえ、東京1区海江田万里が演壇に立ちました。

時間が空いたところを司会の女の子や小島慶子氏が頑張って間を持たせていると、福山哲郎、枝野氏が到着しました。彼らのスケジュールを見るとまさに東奔西走です。新宿南口は割れんばかりの枝野コールで包まれます。駅前を人が埋め尽くしているだけでなく、道路を挟んだ向こう側や遠くの陸橋にまで聴衆が居ます。


枝野氏は『今まで自分たちは永田町の論理にとらわれ過ぎていた。議席数とか、支援団体とか、そういうことばかり考え過ぎていたんじゃないか、ということが今回の選挙戦で良くわかった』と言っていました。組織の支援がなくても徒手空拳でここまでやれたという実感でしょう。福山哲郎はいつものように2年前の国会前の話をしたあと、『選挙が終わっても我々を監視してください!永田町に籠ってしまわないよう私たちを見張っていてください。』と言っていました。


枝野氏は『選挙運動は今日で終わりだが、民主主義を取り戻す戦いは明日から始まります。一緒に戦ってください。』と言って締めくくりました。小沢チルドレンの政治家が典型ですが『××をお約束申し上げます』っていう政治家のスピーチはボク、大嫌いなんですよ。まさに利益誘導じゃないですか。なめるんじゃねえ。ところが枝野氏も福山氏も『一緒にやろう』という民主主義は政治家だけが作るものではないことを良くわかっている。政治家に政治を白紙委任しちゃいけないんですね。これだけ市民の側を向いた政党が今まであっただろうか、という感慨を持ちました。ただ、今はそうでも、彼らが元に戻らないよう、市民は見張っていなければなりません。


本当は枝野氏にだって、ボクは言いたいことはあるんですよ。彼は311当時の官房長官であり、大飯原発再稼働時の経産大臣ですから。でも今の枝野氏も福山哲郎も6年前とは違う と思う。福山が自分で言っているように、2年前の安保法制反対運動は一部の政治家の意識を大きく変えました。法案は通ってしまったが、大勢の人が立ち上がったのは無駄ではなかった
今後 北朝鮮の問題や憲法の問題が具体的に出てくるでしょう。経済や国の財政の問題だってある。右でもなければ左でもない。大企業のものでもなければ組合のものでもない雨の中 動員もないのに8000人も集まったこの街宣も民主主義の芽生えの一つだと思います。これからが新しい民主主義の始まりでしょう。
これから、ですよ。

●ご参考 新宿と同じ日に行われた秋葉原の安倍との対比。秋葉原にはネトウヨ新興宗教顕正会)と動員ばかりだったそうです(笑)

●1回くらいの選挙結果はどうあれ、長い眼で見れば、どちらがどうなのか、答えは明快だとボクは思います。




ということで、新宿で映画『エルネスト映画『エルネスト』公式サイト - 3月28日(水)Blu-ray&DVD 発売!

キューバ革命の指導者チェ・ゲバラは革命成就後、世界を解放するという夢を抱いてキューバを離れ、最初はコンゴ、次にはボリビアでゲリラ戦を始めます。その彼と行動を共にした日系人、フレディ・前村の生涯を描いた作品です。

日本、キューバの共同制作、主演はオダギリ・ジョー、監督は阪本順治オダギリジョーはともかく、監督はいまいち好きじゃないんですがが、他でもないゲバラ関連の映画ですから、公開初日に見に行きました。


映画はゲバラが広島を訪れるシーンから始まります。キューバからの経済使節として日本を訪れたゲバラは全く予定になかった広島を無理やり訪問します。日本側はゲバラのことなんか知らず、随行したのは県庁の担当者と地方の新聞記者1名のみ。原爆記念館の展示を見て、慰霊碑に献花しするゲバラ。彼が言った『君たち日本人はアメリカにこんな目にあわされて、どうして怒らないのか』という有名な台詞も再現されています。
広島平和記念公園で献花するゲバラ


どうせ映画は適当に作ってるんだろうと想像して見に行ったのですが、当時のホテルの様子などかなり気合が入って作られています。ゲバラ役の人も勿論 迫力は本物に及ぶべくもないんでしょうけど(無理に決まってます)、嘘っぽくない程度にはゲバラに見えます。なかなかいいです。
帰国後 ゲバラは広島のことを演説でしばしば語ります。また『誰もが広島を訪れるべきだ』という感想をカストロに伝えます。それを忘れなかったカストロゲバラの愛娘が30年後 広島を訪れたのは感動的なエピソードです。
ゲバラニコンのカメラを肌身離さず持っていたことで有名です。意地悪く映画を見ていたんですが、ちゃんとニコンでした。

キューバは革命でアメリカの大企業や大金持ちから資本を取り上げて富を分配するだけでなく、国民の教育・医療を無料化します。特に医療は自国だけでなく外国からの学生も受けいれて医師を育成するのです。
その奨学金制度でボリビアからやってきたのが、日系3世のフレディ前村です。
若い学生たちの寮生活。前村を演じるオダギリジョーは全編スペイン語です。長台詞だとさすがにネイティヴには聞こえないですが、見事にスペイン語で演技しています。ラテン系の学生の中に入っても違和感ありません。
オダギリジョーは確かに日系人らしく見えます。

厳しくも楽しい学生生活は突如戦争の脅威を脅かされます。CIAが裏で操る民兵によるヒロン湾侵攻、そしてキューバ危機です。キューバ侵攻が目前に迫るなかで学生たちも動員される。映画がどうして広島訪問のエピソードから始まったのかと思ったのですが、世界が核戦争の一歩手前まで追い込まれたキューバ危機に繋がっていました。そこいら辺の構成は見事だと思います。
●危機のさなか、カストロが学生たちの寄宿舎に訪れてきます。


前村はゲバラカストロと直接触れ合ううちに、医学ではなく、戦うことで人々を救いたいという気持ちが目覚めてきます。
●フレディはボリビア出身のシングルマザーに恋します。当時からキューバはシングルマザーでも学業を続けられる体制が整っていたのには感心しました。


そこで起きたのが母国ボリビアでの軍事クーデター。故国の家族から独裁政権の暴虐の話を聞いた彼は医者になることを諦め、ボリビアへ帰国して戦おうとします。決意の固い彼を見たキューバの当局者は彼をゲバラのゲリラ部隊に抜擢し、ジャングルで訓練を受けさせます。キューバ危機後 自分たちはソ連の手駒に過ぎないことに気づいてソ連批判を強めたゲバラは、ソ連の援助で支えられていたキューバでの居場所を失くし、海外でのゲリラ戦を試みたという見方もあります。カストロにとってもゲバラは邪魔だった、と。ちなみに『エルネスト』というのはゲバラの名前ですが、ゲリラ戦に従事する前村の偽名でもあります。


前村の話自体は元から知っていたのでストーリー自体は驚くようなところはありません。なんと言ってもオダギリ・ジョーの演技には心を打たれます。特にゲリラ戦当時の彼のやせ細った姿、ギラギラ光る視線には驚かされました。まさに入魂の演技です。それだけで涙が出ました。また前村を殺したボリビア軍の兵士が昔 前村が可愛がっていた貧しい農民の子だったというのは(これは事実かどうかは知りません)、住民たちの支援をあまり受けられなかったゲバラたちのゲリラ戦の実態を良く描いていると思いました。


ゲバラの死から数年後 CIAが後押ししたクーデターで倒されたチリのアジェンデ政権もそうですが、アメリカは合法・非合法の手段で経済的・社会的に南アメリカを支配してきました。ゲバラや前村のゲリラ戦にしろ、アジェンデ大統領の社会主義改革にしろ、そんな状況に対抗する手段だったのだと思います。今だったら賛同しかねる面もありますが、当時はそれを否定することは誰にも出来ないでしょう。
これは理想を実現しようとした若者たちの物語です。彼らの想いが伝わってきます。日本人監督、俳優が演じるには無理がある題材であることは間違いないんですけど、ちゃんとした映画にはなっていました。個人的に外れが多い阪本監督の中では一番良かったかも。


もうひとつ、新宿で映画『散歩する侵略者

崩壊寸前だった若夫婦、鳴海(長澤まさみ)の夫・真治(松田龍平)が、突然 行方をくらまして、数日後 別人のようになって帰ってくる。疑念を抱く鳴海は、真治から「地球を侵略しに来た」と告白されて戸惑うばかり。一方、フリーランスの週刊誌記者(長谷川博巳)はある一家の惨殺事件の現場で奇妙な少年から、行方をくらました一家の娘を一緒に探すよう強引に頼まれる。成美と記者、それぞれに不思議な現象が発生し、不穏な空気が漂い始める。


芸大教授でもある黒沢清監督が、劇作家・演出家の前川知大が結成した劇団イキウメの舞台を映画化したものだそうです。黒沢監督の映画はゴダールっぽくて好きなんですが作品の半分くらいがホラーなので、ホラー嫌いなボクは見る機会がどうしても少なくなる。今回は久方ぶりの非ホラー作品です。
とりあえず黒沢監督の映画ということだけで見に行ったのですが、出演者は大変豪華です。長澤まさみ松田龍平、長谷川博巳、それに脇役にあっと驚くような人がいっぱい出ています。


宇宙人の姿は目に見えません。人間に取りついて地球の知識を得るために、人間の脳から次々と物事の「概念」を奪うという設定です。この『概念を奪う』という設定は非常に面白い。『家族』、『所有』、『愛』の概念を奪われると人間はどうなるでしょうか。


長澤まさみって昔は嫌いだったんですが、いい女優さんになりました。とびぬけた美人でありながら、旦那にキーキー当り散らす等身大の演技を見せています。こんなスタイル抜群のこんな美人は普通 街中を歩いてないだろうって思うんですが(笑)、感情がこもった演技は説得力があります。
長澤まさみは平凡な若妻役ということで地味〜なファッションなんですが、そもそも こんなスタイルが良い人は街中を歩いていませんよ(笑)


長谷川博巳もエキセントリックな役が似合いますね。週刊誌記者のうらぶれた感じと、時折見せる知的な感じが魅力的です。
●殺人事件を調査する週刊誌記者(長谷川博己)は現場で出会った不気味な子供から、『人間社会を理解するためのガイド』になってほしいと頼まれます。


あと宇宙人役で暴れまくる恒松祐里という女の子の身体能力には恐れ入ります。厚労省の役人役の笹野高史も不気味で慇懃無礼、実にかっこよかったです。
●宇宙人役の恒松祐里(中央後ろ)は見事なアクションで男たちを殺しまくります。


人間の概念を奪うことで侵略しようとする宇宙人、事件を闇に葬ろうと暗躍する政府、そして いざとなったら右往左往するだけの一般大衆。お話しも結構面白いし、俳優陣と演出もいいです。黒沢監督らしく政府の不気味さが見事に描かれています。宇宙人より遥かに不気味です。また白黒の光線や陰影を使った画面もきれいで、印象に残る画面がいくつもあります。非常に美しい。
ただ時折 挿入されるCG、宇宙人の侵略はともかく、自動車事故や無人機の攻撃などは嘘っぽかった。高空からミサイルで暗殺をする米軍の無人機が低空飛行で襲ってくるなんてことないじゃないですか。わざとやってるんだろうけど、こういうのは止めてほしいなあ。
●最後は純愛エンターテイメントで着地します。変な特撮なんか入れなければお話は格段に深まったとは思います。


黒沢監督なんだから、もうちょっと皮肉っぽくても良いとは思いましたが、夫婦の再生と絡めた立派な純愛?エンターテイメントです。誰が見ても楽しめる作品だと思います。面白いです。特に長澤まさみと長谷川博巳の姿は心に残りました。