特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『エル ELLE』と『ワンダーウーマン』

だんだん秋らしい陽気になってきました、窓を開ければ聞こえてくる虫の声にほっとします。空の色も秋らしくなってきた。



週末は北朝鮮が核実験をやりました。この数日トランプと安倍が電話会談を何度もやってたのはこれだったんですね。核実験は別にこれが初めてというわけではないし(6回目)、所詮 食べ物もないくせに良くやるよ、と思います。一方 日本の政治家からは緊張感が感じられません。


武力衝突が起きないことが誰にとっても利益なのですから、アメリカは裏でもいいから北朝鮮と直接対話をしてもらわないと。強硬論ばかりが目立つ日本政府なんか相手にする必要なし(笑)。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170904/k10011125791000.html



一方 週末に決まった民進党の執行部は良い布陣だと思います。保守とリベラルのバランスもちょうどいい。長妻が選対委員長をやるということは野党共闘にも前向きなんでしょう。これでまとまれるかどうか。あと人間が軽い前原がバカなことを言いださないかどうか。

●最新の世論調査。こんなもんじゃないですか。相変わらず安倍の不支持率は支持を上回っています。



今回は女性映画、充実の2本です(笑)。
まず、六本木で映画『エル ELLE

ゲーム会社の社長、ミシェル(イザベル・ユペール)はある日、自宅で覆面の男性に暴行されてしまう。ところがミシェルは警察に通報もせず、訪ねてきた息子にも普通に対応する。翌日もいつも通り出社して共同経営者で親友のアンナと仕事をし、夕食の席で自分が暴行されたことを平然と友人に告白する。その陰で彼女は一人、犯人捜しを始めていた


カンヌ映画祭でグランプリこそ逃したものの極めて高い評価を受け、主演のイザベル・ユペールゴールデングローブの主演女優賞、全米批評家協会賞主演女優賞を獲得、アカデミー主演女優賞にもノミネートされた、非常に評判の高い映画です。と、同時に監督がポール・ヴァーホーヴェンという普段だったら見たくない人なので警戒しながら(笑)でかけました。原作は『Oh』というフィリップ・ディジャンという人の小説だそうです。


お話しの方はいやーな感じです。(この監督得意の)露骨な暴力シーンは避けられているとは言え、女性が暴行されるというお話は好きじゃありません。判って見に行ったわけですが、やはり気分が悪い。
また、主人公のミシェル以外の登場人物が驚くくらいのクズばかり。定職につけず金銭的にも頼っているくせにミシェルを嫌う一人息子と身勝手で超性悪な妻。ヴァンサンの父親で売れない小説家のコンプレックスを抱えた前夫。ミシェルの豪邸の家の前に住んでいて思わせぶりな視線を向けてくるエリート銀行員の男と信仰にすがりつくその妻。ミシェルの老いた母親は若い男と寝ることに夢中です。会社にはやたらと反抗的な腕利きプログラマーとミシェルに首ったけの若い男性社員。共同創業者で親友のアンナだけはまともですが、アンナの夫はロクでもないスケベオヤジです。登場人物はどうにもならない奴ばかりで、これでこの映画をどう好きになればいいのか(笑)。が、それを補って余りあるのがミシェルを演じるイザベル・ユペールの演技と美貌です。
●エレガントなファッションは見ていても楽しいです。


ミシェルは独立独歩、自分で自分の道を切り開いてきました。幼少時の経験から親も社会も警察も頼ることはできないと思っています。そして自分で自分の会社を興し成功した。会社でも彼女の美貌は羨望の対象としても見られていますが、容赦なくダメ出しするワンマン経営で多くの部下から嫌われています。が、彼女が経営者として有能であることも皆わかっています。そこがまた反発を買う原因になっている。
年齢を重ねた人間らしく自分の感情や欲望を表面には出すことは少ないですが、心の中には激しい憎しみや性欲が煮えたぎっている。そしてそういう自分を自分で良くわかっている。でも表面上は洗練された女性として振る舞う。何かトラブルがあっても眉毛一つ動かさない。こわー。でもカッコいい!
●ミシェルは豪邸で黒猫と暮らしています。

例えば 彼女が待ち合わせたレストランで車を止めるシーン。縦列駐車でスペースが足りず、後ろの車を自分の車で押して駐車場所を作ります。イタリアやフランスの映画では良くある描写ですが、彼女は自分の丈夫な高級車を後ろの車にガーンとぶつけて、場所を作ります。哀れ、バンパーの落ちた後ろの車を見ても眉毛をわずかに動かしただけ(笑)。後でその車が自分の前夫のものだったと聞いても せせら笑ってとぼける、そんな人です。もっと、強烈なシーンはいくつもありますけど、敢えて書きません。


とにかくミシェルのキャラクター、またそれを演じるイザベル・ユペールの演技、表情がとにかく素晴らしい。彼女は既にカンヌ、ベルリン、ベネチアの三大映画祭で受賞経験がありますが、今作で主演女優賞総なめは当然です。それに流麗なファッション。今年64歳の彼女ですから表情のアップのシーンでは皺も一杯だけど、主人公の冷たい表情と年齢を重ねた深さはとにかく美しい。画面に引き込まれてしまいます。この映画はいったいなんなんだ。


歪んだ世界の歪んだキャラクターの中で、美しく洗練された主人公が超強靭な精神力で生き抜いていく。イザベル・ユペール本人はこの映画のことを『皮肉』と評しています。センチメンタルな感情など どこにも入り込む隙はありません。この映画で展開される話は全く共感できませんが、個人的にはミシェルのハードボイルドさにはすごく共感できました。
●今年5月 来日時のご近影 物議醸した問題作『エル ELLE』にはあちこちに深いテーマが…イザベル・ユペールが語る - シネマトゥデイ


いろんな映画がありますけど、これだけ魅力的な女性主人公も珍しいです。私を侮辱するものは許さない。話はクズですが、主人公は超カッコいい。
最初 主演はアメリカの女優で検討していたそうですけど、内容に皆 尻込みしたそうです。描写はどぎつくなく、品良く(笑)抑えられていますが、道徳観念皆無の脚本ですからアメリカでも無理かもしれません。イザベル・ユペールの強烈な演技力がなかったら、ただの変態クズ映画で終わったかもしれません。映画としては好きじゃありませんが、この映画のイザベル・ユペールは死ぬほどカッコいいです!



もうひとつは 新宿で映画『ワンダーウーマン

人間社会から孤立した女性のみの島で王女として生まれたワンダーウーマンガル・ガドット)は、ある日、彼女は島の近海に不時着したパイロットと遭遇する。ドイツ軍に追われる彼を救出したことをきっかけに、彼女は大量破壊兵器から世界を救うことを決意する


今年 世界では最大の大ヒットだそうです。特にアメリカでは女性の観客が半分を占めていたそうで、この種の映画としては異例です。ボクが観た際も女性客が多かったです。


ボクはマンガもアメコミも良く知らないんですが、『ワンダーウーマン』の原作者は熱心な女性参政権の支援者で、この漫画自体も女性解放運動のシンボルとしてよく使われているそうです。お話の設定も古代ギリシャ神話の時代 男たちに奴隷のように働かされてきた女性たちが反乱を起こして女だけの島に隠れた、というものだそうです。今回の映画もシャーリーズ・セロンアカデミー賞をもたらした『モンスター』を撮った女性監督パティ・ジェンキンスがメガホンを執っています。フェミニズム映画でしょう。それなのにAKBだか何だかに歌わせた日本版テーマソングが男に媚びる内容で、原作の意志を全く無視した酷さも話題になりました(幸いボクは聞いたことがありません)
●もちろん 映画には男に媚びるようなシーンは全くありません。


お話はまあ、いいでしょう(笑)。アマゾン族のプリンセスとして生まれたワンダーウーマンが、第1次大戦当時のドイツ軍が開発した強力な毒ガスによる殺戮を防ぐだけでなく、戦争そのものをやめさせようとする。戦争の悲惨な描写もかなり、ちゃんと描かれている。第1次大戦な凄惨な塹壕戦、それに民間人を巻き込んだ戦争の実態からもこの映画は眼をそむけません。ハリウッドのエンターテイメントものなのにね。
●民間人を巻き込んだ戦争の悲惨さもちゃんと描かれます。

実はボクは、ヒロインがバカな男どもをぶち殺す映画だと思って観に行ったんですが(笑)、女性だけじゃなくて、人間としてどうあるべきかという普遍的な話になっていました。これは一本取られた(笑)。
第1次大戦当時 女性には参政権はないし、会議で意見を言ったりするなんてもってのほか、という差別を告発するシーンはあります。それを目の当たりにしたワンダーウーマンの態度は全く痛快なんですが、それだけじゃなく普遍的なお話になっている。
映画の中には鮮烈な台詞が一杯あるんですが、特にワンダーウーマンが島を出るときの、この台詞にはしびれました。


この『私は自分で声を挙げられない人たちのために戦う』は原作からの基本的なコンセプトのようですが、これは素晴らしいと思う。日本でもアメリカでも、『自己責任』という言葉を非常に多く耳にします。でも今の世の中は金持ちが自分に有利なようにルールを作っています。例えば、株式の売却益に対する課税が労働に対する所得税より税率が低い。だから大金持ちほど税率が低くなる、というのは典型的です。そもそものルール自体が必ずしもフェアじゃない。だから自己責任という言葉は大事だけれど、世の中は必ずしもフェアにはできていない
さらに大事なことは、世の中には自己責任だけでは生きていけない人が居る、ということです。障害を負った人、重い病気にかかった人、それに性や国籍で差別される人は現実に存在します。自分だっていつそうなるか判らない。そういう人たちにとって自己責任という言葉はフェアじゃない。こんな根本的なことが判らないバカが大勢いる、というのが今の世の中です。
ワンダーウーマンの『I will fight for those can not fight for themselves』は、現代の自己責任という病を乗り越える一つの鍵になるんじゃないでしょうか。この台詞には涙が出るくらい感動しました。


誰もが言うことでしょうが、主役のガル・ガドットという人は確かに凄いです。元ミス・イスラエルで2児の母だそうですが、引き締まった彫刻のような身体でのアクションは、確かに絵になります。ミス・イスラエルと言っても体形は逆三角形だし(笑)、筋骨隆々です。かといってムキムキと言うほどでもない。ちょうど美しいと思えるようなバランスです。
●長い脚、身長177センチの引き締まった身体と筋肉はアクション映えします。


あと服を着たときのルックスもまるっきりモデルさんで(笑)、息を飲むような美しさは大したもんでした。

で、尚 且つこの人、演技ができる。阿修羅のような表情で男どもをぶち殺していたかと思えば、ほっとしたような表情も見せる。母性とか女性らしさを強調するのではなく、自然な表情が柔らかなんです。
●戦闘のシーンでも時折、実に柔らかな表情を見せます。


ただしこの人、国民皆兵イスラエル軍で戦闘トレーナーをやっていた。お前もイスラエルの人殺しの片棒担いでたんだろう、と思うと、画面での見事なアクションシーンや平和を説くワンダーウーマンの姿にも正直 抵抗は感じます。現実とフィクションは別、とはいえ、パレスチナの人の土地を強奪し一般の民間人にも爆撃を繰り返すイスラエル軍の姿とは全く逆ですから。
●ヒロインを戦場に導くアメリカ軍スパイ役のクリス・パインはどうでもいいかな(笑)。他には女王役でロビン・ライトも出演。ダイエットが大変だったそうです(笑)。


それを除けば非常に気持ちが良い映画です。ヒロインは女性差別ともドイツ軍とも、邪悪な神とも闘いますが、悪を倒せばいいという単純な話にはなっていない。男なみを強調するわけでもなく、あくまでも自然体です。演出の方も色気とか女性性を売り物にしてない。強いヒロインでも最後に男が手助けするとかドッチラケな展開もありません。新たな世界に乗り出したヒロインが自ら学び、成長するのがベースになっている。そしてヒロインだけでなく、普通の人間も各自が各々出来ることをやるという姿勢が徹底して貫かれています。素晴らしいです。脚本としてはもうちょっと頑張ってほしいとは思いましたが悪くはないし、クライマックスは感動しました。どういうものを描きたいかというコンセプト、姿勢がはっきりしているからでしょう。大ヒットはご同慶の至り。ボクはこの映画、好きです。