特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『真夏の狂気』と『6月の賃金』と映画『ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密』 

今週 ボクは小旅行なので、官邸前抗議はお休みです。
●何年ぶりかで潮の香りを味わいたくなったんです。香りだけですが😸



台風明けの東京は37度、狂気のような猛暑になりました。狂気の沙汰と言えばトランプと北朝鮮です。ちょっとヤバいんじゃないでしょうか。
9日 北朝鮮が核弾頭の小型化に成功したという自国の調査機関の報告を受けてトランプが北朝鮮を恫喝しました。


すると アホの将軍様が妄言をさく裂させます。


NHKのTVニュースもBBCもグアムのことしか報じませんでしたが、産経だけは『日本列島を焦土に』を見出しで報じています。本当にそんな発言があったのでしょうか?改めて産経は面白いなあーと思ったんですが、これ本当に新聞なんでしょうか😏。便所のチリ紙じゃなくて?😜


ボクが心配しているのは7月に大部分の駐韓アメリカ軍と家族はソウルから撤退して80キロ南の平沢という新基地に移ったからなんです。ちょっと前にトランプが『死ぬのは向こう側の人間でアメリカ人じゃない』と発言したのはそれが理由です。

それにアメリカは自国民は8月中に北朝鮮から退去しろ、という警告も出しています。まさに戦争の準備じゃないですか。空母も8月中にまた2隻体制になるそうですし。

挙句の果てには中国まで軍事力を出してきました。アホ2人のチキンレースだけでも危ないのに、第1次大戦のように偶発的なこともありえる。まさかとは思いますが、ニューズウィークが言うように↓軍事的衝突が起きても不思議ではない状況です。


これらを受けて、どんな人間よりも正直な🤑株式市場も変調を来しています。


北朝鮮リスク、市場が警戒 日本・アジア株は全面安に :日本経済新聞


このような状況で庶民が大したことを出来るわけじゃありません。でもやらなくてはいけないことはある。例えば前述の産経のように人を煽る報道があります。こういうのはどんどん増えるでしょう。自民党内では敵基地攻撃能力を持て、と言いだす奴が出てきました。そんなことが物理的にできるのか、子供でも判るような議論です。こういう時だからこそ、情報を複数見比べて取捨選択する、そして日本はどうしたら良いか冷静な考えを持つ、まさに国民の知的能力が問われていると思います。



先週の5日 厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、6月の名目賃金は前年同月比0.4%減となりました。減少に転じるのは1年1カ月ぶり。実質賃金も0.8%減少、下落幅は2015年6月以来、2年ぶりの大きさだそうです。今夏の賞与の減少と物価の上昇傾向が続いていることが原因です。
6月の名目賃金0.4%減 1年1カ月ぶりマイナス :日本経済新聞


賃金の動きと消費者物価をグラフにして見ましょう。毎度の話ですが、名目賃金というのは実際に受け取る賃金、実質賃金は物価の変動を考慮した賃金です。
アベノミクスが始まってからの名目賃金、実質賃金、消費者物価指数の前年同月比推移


いつも言ってることですが、アベノミクスが始まって以来 消費者物価指数(黄緑)が上がったけれど、名目賃金(青線)は大して上がらず、実質賃金(赤線)は前年を下回る傾向が続いていたことがわかります。アベノミクスの目標として掲げていたデフレ脱却=名目賃金上昇も失敗したばかりか、みんなの暮らしは悪くなっていたんです。さらに2016年からの動きで見てみます。

●2016年1月〜2017年6月の名目賃金、実質賃金、消費者物価指数の前年同月比推移


昨年の11月頃から物価(黄緑)が上昇したけれど、名目賃金(青)は大して上昇せず、実質賃金(赤)は低下傾向にあったことがわかります。そして6月は名目賃金も下がり、実質賃金もさらに下がった。ニュースで2年ぶりの下落幅と報じられたのはそういうからくりです。この傾向がどこまで続くのかはわかりません。でも、物価は上がり給料は下がり、実質賃金も下がった我々がいるのはそういう場所なんです。こんなのおかしいに決まってるじゃん🖕😾


ということで、銀座で映画『ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密

1954年、ミルクシェーキのミキサーのセールスマン、レイ・クロック(マイケル・キートン)はカリフォルニアでマクドナルドと言うハンバーガー屋に出会う。マックとディックのアイルランド出身の兄弟のハンバーガー屋にほれ込んだレイはフランチャイズの契約を結び、全米各地にハンバーガー店を出店する。拡大意欲に燃えるレイは拡大を望まない兄弟と仲たがいし、マクドナルドという名前ごと乗っ取って、ハンバーガー帝国を築いていく。



マクドナルドと言うと、毎日マクドナルドのもビックマックだけを食べるとどうなるか、監督が自分の身体で人体実験したドキュメンタリー『スーパーサイズ・ミー』を思いだします。実験台になって血圧、コレステロール、体重が激増し、1年近く体調を崩したスパーロック監督は気の毒ですが、ドキュメンタリーとしては大変面白かった。

スーパーサイズ・ミー [DVD]

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今回はマクドナルドの創成期を描いた実話です。にも拘わらず、マクドナルドは協力していない(笑)。できない映画です😛。
大企業マクドナルドの実質的な創業者レイ・クロックが、カリフォルニアでハンバーガー店を経営していたマクドナルド兄弟と出会ったのは既に52歳。今まで様々な職に手を出してきたがうまくいかない彼はミルク・シェーキのマシンを全米各地のドライブインに売り歩いて暮らしていました。成功を夢見て、『積極的考え方の力』という自己啓発本の朗読レコードをかけて自らを励ましながら行商を続ける彼ですが、なかなかうまくいきません。
この『積極的考え方の力』はトランプのバイブル、愛読書でもあるそうです。それだけでレイ・クロックがどんな人間かわかります。

【新訳】積極的考え方の力

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あるとき 彼は大量のミルク・シェーキマシンを注文してきたカリフォルニアのハンバーガー店を訪れます。そこには信じられないような光景が広がっていました。
●当時はウェイトレスが注文を取って、席に座って食べる、というのがドライブインでも当然だったそうです。窓口で注文するなんかあり得ない。


当時のドライブインは様々なメニューを用意し、それをウェイトレスが客席のテーブルや車まで届けるのが普通でした。その店はウェイトレスはおらず、メニューはハンバーガーとポテトとシェークだけ。客は窓口で注文すると、30秒で作り置きした品物が渡されます。ナイフとフォークも渡されず、客は包み紙でハンバーガーを持って食べるのです。店の中ではケチャップやピクルスの量まで決まっていて、同じ質のものを素早く提供するシステムが整っている。しかし、価格は従来のハンバーガーの半分以下。お店には客が行列をなしています。


人の良いマック、ディックのマクドナルド兄弟の創業の話はとても面白いです。店内の動線を工夫し、調理道具を工夫し、オペレーションを標準化して、早く、安いハンバーガーを提供する。映画を見ている観客もワクワクすると思います。
●マック(左)とディックのマクドナルド兄弟。勿論 スコットランド系です。


レイ・クロックも同じです。ただし、彼はそれに惚れ込んだだけでなく、マクドナルドをどんどん大きくしようとする。フランチャイズで全米各地に開いていこうとするのです。拡大することに興味がない兄弟を説得するために、『この素晴らしいシステムを広げるのは国家のためだ』と、大法螺をかまします。
●レイ・クロックはスラブ系(確かチェコだそうです)。彼の名前ではハンバーガーは売れません。ピロシキなら良いのかもしれませんが😇。



ここからがレイ・クロックの悪戦苦闘物語です。これも面白い。誰よりも朝早くから、誰よりも遅くまで働く。自分で『根気』と言い聞かせながら、困難にあってもくじけない。ハンバーガー以外の商品を売ろうとするフランチャイズのオーナーたちと大喧嘩する。やっとの思いで手に入れた自宅も抵当に入れて運転資金にしてしまう。ほっぱらかしにされている奥さんとの仲はどんどん冷え切っていきます。
●当時は店や車の中で座って食べるのが普通だったそうです。駐車場のベンチで食べるなんてありえなかった。


今やアカデミー俳優のマイケル・キートンって悪役顔ですよね。こういう役は似合います。事業が拡張するにつれて表情がどんどん曇っていく奥さん役のローラ・ダーンも芸達者な人ですが、前日にTVで見た『ジュラシック・パーク』で若き日の彼女を見た後だったので、疲れた奥さん役は奇妙な気持ちがしました(笑)。
●お話が進むにつれ、奥さん役のローラ・ダーンの表情はどんどん曇り、顔は疲れ切っていきます。

レイの事業は当初はハンバーガーの商売でしたが、だんだん変質していきます。彼が参謀として迎え入れた弁護士のセリフが事業を象徴しています。『我々はレストランの商売をしているのではなく、不動産事業をしているのです。』 店舗の土地を買い、それをFCのオーナーに貸しつけ、土地代とハンバーガーと両方で儲けるシステムは、マクドナルドを全米に広がる大企業に成長させます。


やがて彼はマクドナルド兄弟と決別、金にあかせて強引にマクドナルドという名前を乗っ取ってしまいます。レイは名前を奪っただけでなく、マクドナルドという企業の『創業者』と名乗るようになります。文字通り、マクドナルドのすべてを彼が奪った。レイとマクドナルド兄弟が決別する決定的なきっかけとなったのが、レイが冷蔵庫の電気代をコストカットするために、ミルク・シェーキにアイスクリームではなくパウダーを使ったことだった、というのも、レイの事業を良く表していると思います。
最後になぜレイ・クロックがマクドナルドに惹かれたか、という謎明かしがなされます。日本人には良くわからない、意外な理由です。しかし、アメリカという国の成り立ちとよく似ていると思います。マクドナルドは様々な民族が集まって共同幻想を共有して作られたアメリカというものを象徴していたんでしょうね。
●カネと引き換えに、とうとう店も名前も奪われたマクドナルド兄弟。


いかにもアメリカらしい人物を描いた映画。良くできているし、企業の経営を描いた物語としてとても面白いです。勧善懲悪の単純な話なんかではない。今やマクドナルドは人類の1%に食べ物を供給しているそうです。多くの人がマクドナルドの食べ物を食べているし、レイ・クロック自体も金の亡者というわけではありませんでした。彼は贅沢をするわけでもなく、事業を拡大することしか興味なかった。彼の死後 財産は殆ど寄付されたそうです。


肉食系と言ってもいろいろある。金が欲しい人間、権力が欲しい人間、遊びたい人間、事業をやりたい人間、色々いるわけです。企業を創業して大きくしていくような人は多かれ少なかれ、レイのような性質、クレージーな性質とエネルギーが必要なのかもしれません。レイのような人たちが資本主義を作ってきたとも言えると思います。
しかしアメリカという国が落ち目になるのと同様に、こういう経営は時代遅れになりつつもある。近年 マクドナルドの経営は苦境が伝えられています。実際マクドナルドは健康に悪いし、値段は高いし、まずい。砂糖と脂肪の塊です。もっと味や健康に気を使ったハンバーガー店がどんどん業績を伸ばしているのが昨今です。消費者の嗜好は多様化している。また大規模・大量生産・低価格より、元来のマクドナルド兄弟のように適度な規模で自分たちの志を貫く経営の方が生き残りやすい、という考え方も最近では強くなってきました。


ただし現実に今も、こういう人物、企業が世の中に存在するのも事実。ビジネスでも、消費者としても、生活者としても、こういう人物や企業と関わらざるを得ない。個人的にはこういう際限のない肉食系の人間は嫌いです。疲れる。だけど我々が生き残るためにはこういう人物、企業と競争していかなくてはならないのも事実です。その中でどうやって生き残っていくか、自分の良心を保ち続けるかは、我々一人一人の課題だと思います。奴らと戦うためには奴らのことを知らなくてはなりません。


ちなみにボクはこの20年以上 マクドナルドは食べたことないです(笑)。どうしても他になければ仕方ありませんが、できればファーストフードは食べたくありません。仕事でハンバーガーを食べ続けたマクドナルド兄弟の兄もレイ・クロックも糖尿病で死んでいるから、というだけではなく、食事というボクにとって大切なものを無駄にしている気がするからです。
ボクがマクドナルドを始めて食べたのは、幼稚園の時、家の近くに住んでいたアメリカ人留学生が日本初上陸した店のチーズバーガーを買ってきてくれた時です。もう冷えてましたけど、その時はなんて美味しいんだ〜と思いました。子どもの頃のボクにとっては、マクドナルドは憧れの外国そのものでした。今は高くて不健康なブタの餌(笑)。あの時の憧れはなんだったんだろうなあ(笑)。