特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『ETV特集 こんなはずじゃなかった』と、いくつになっても恋は(笑):映画『タレンタイム』と『未来よ、こんにちは』

もう4月も3日が過ぎてしまいました。日曜日は穏やかなお天気でボクの家の周りの桜も7分咲きくらいになりました。華やかな色彩が目に飛び込んでくると、一気に春がやってきたような気がします。


滅多にTVを見ないボクでも最近は時々電事連原発CMを見かけることがあります。連中はまだ懲りないんですね。電気料金使ってインチキCM流しやがって、本当に頭きます。出演している石坂浩二も全面ボイコットすることに決めました。ボケジジイはさっさと●ねって。クズ芸能人。
なお 今週金曜は春のイベントの最後?、ライブへ行くので官邸前、国会前抗議はお休みします。
●日曜日のどうぶつ茶会。ベイブ君とひつじ君たち




4月1日、土曜の夜に放送されたNHKのETV特集こんなはずじゃなかった 在宅医療 ベッドからの問いかけ」は非常に考えさせられる内容でした。

ETV特集 - NHK
             
番組は京都 西陣で堀川病院という地域密着の診療所を運営してきた医師、早川一光さん(93歳)が主人公です。彼は日本の在宅医療のパイオニアとして知られていましたが、がんになって、今まで自分が構築してきた在宅医療を受ける立場になりました。現代の科学では治療が難しい骨髄腫にかかった彼の、死を見つめるメッセージを取り上げたものです。


大抵の人は病院より、住み慣れた自宅で最期を迎えたいんじゃないでしょうか。少なくともボクはそうです。早川さんは京都の西陣で地元密着の医療活動を進めるうちに、患者があまり望まない病院での死に疑問を抱き、地域ぐるみで在宅医療の態勢を整えてきました。「地域の人々が最期まで安心して暮らせる仕組み」 「自分の体は自分でまもる」をスローガンに「堀川方式」という在宅医療の仕組みを作ってきたそうです。それに共感する人が増え、今では日本全体でも1割くらいが在宅で死を迎えるまでになった。その在宅医療のパイオニア、今まで「畳の上で大往生」を説いてきた医師自らが今回は患者になったわけです。
早川さんは自分なりに地域医療のシステムを作ってきました。医師と看護師、介護してくれる人が定期的に自宅を訪れて、痛みの緩和と介護サービスを受ける。医療と介護が連携してクオリティ・オブ・ライフを極力維持する体制です。しかし今、それですべてが満たされるわけではないことを彼は実感しています。
現役の医師だったころ、早川さんは急患に備えて枕元に電話を置く生活でした。今は携帯を抱きしめるようにして寝ています。電話を待つのではなく電話をかけるため、夜の寂しさを慰めようと誰かの声を聴くためだそうです。自分は患者の気持ちを本当に分かっていたんだろうか?と早川さんは自問自答しています。京都新聞聞き書きのコラムを持っている早川さんは哲学者や僧侶、学生などと時折議論をしています。より良い看取りとは何か、彼は今も考え続けているのです。京都新聞|弔い模様
以前 上野千鶴子の『おひとりさまシリーズ』を読んで、ボクも在宅で死にたい、自分なりにそういう体制を考えなきゃと思ってました。

おひとりさまの最期

おひとりさまの最期

でも実際に死に直面すると、それだけじゃすまない死を迎えるためには考えるべきことはいくらでもあることを早川さんの生き様を目で見て実感しました。

彼が診療所を開いた1950年代、日本ではまだ健康保険はそれほど普及しておらず、診療費が払えない人がざらにいました。そのような中で医療を優先させた早川さんは事務員などの給与を優先させ、自分は生活保護で生計を立てていた時もあったそうです。それだけの覚悟をもって医者という仕事をしていたんですね。ぼくも子供の時『君たちの天分を生かそう』を読んで非常に影響を受けた医師・歴史家の故松田道雄氏と早川さんのつながりも番組で語られていました。実践と柔軟な思考が組み合わさった京都のリベラルの伝統の一端に触れた気がします。大変奥深いドキュメンタリーでした。4月6日の夜0:00〜に再放送があるそうです。



ということで、今回は若い人と年配の人、2つの恋物語です。年齢は違っても、どちらも、個人のしなやかな心の持ちようを淡い色彩で描いているのが面白かったです。
青山で映画『タレンタイム 〜優しい歌映画『タレンタイム〜優しい歌』|2017年3月25日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!

舞台はマレーシアの都会。1人の女子高生と3人の男子高校生が、学校で行われるタレンタイムという芸能コンテストに出場することになる。彼らは自分や家庭にそれぞれの複雑な事情を抱えていて- - -


マレーシア映画を代表する女性監督ヤスミン・アフマドの8年前の作品、遺作だそうです。長らく各地で自主上映が続いてきたそうですが、評判が高く、今回が初めてのロードショーとなったそうです。

最初はスルー予定でしたが、映画館で予告編を何度も見て、気に入ってしまったんです。何気ない地味〜な感じの作品ですが、登場人物たちの柔和な表情穏やかだけど印象に残る音楽に心惹かれてしまいました。

                               
女子高生のムルーは英国系とマレー系の混血の父とマレー系の母の下に生まれてイスラム教徒として育っています。彼女と恋に落ちるマヘシュは耳が聞こえない聴覚障碍者で、インド系のヒンドゥー教徒として母と姉と暮らしています。中華系のカーホウは学校でトップの成績でしたが転校生のハフィズに抜かれてしまい、拗ねてしまいます。ハフィズはマレー系の母子家庭育ちですが、母は末期の脳腫瘍で入院しています。

学校で行われるのど自慢大会『タレンタイム』に、ムルーはピアノの弾き語り、ハフィズはギターの弾き語り、カーホウは二胡の演奏で出場、マヘシュは出場者の送迎役になります。

登場人物の出自はマレー系、インド系、中華系、白人系と複雑です。話す言葉も生活習慣も全く異なります。貧富の差もあります。民族も宗教も文化も異なる人たちが暮らしているマレーシア社会の縮図です。
●ムルー。ちょっとクラシックな、キャロル・キングみたいな歌を歌います。

●ムルーと聴覚障碍者のマヘシュは恋に落ちます。

高校生たちは互いの違いをいつの間にか乗り越えていきます。言葉が違っても、宗教や生活習慣が違っても、音が聞こえなくても違いは乗り越えられる。例えば高校生の男女が一晩中 話し込んで、いつの間にか一つの枕で寝込んでしまうシーンがあります。明け方 二人に親が毛布を掛けてあげる。なんと美しいシーンなのかと思いました。厳しい環境ですが、映画はところどころユーモラスな描写を交えながら、優しい視点を失いません。
●マヘシュと姉。インド系です。

音楽が非常に素晴らしいです。Pete Teoというマレーシアのシンガーソングライターが担当しているそうですが、西洋風の美しいメロディに素朴な歌声、それに二胡が絡んだり、エスニックな風味が添えられている。登場人物たちの複雑な事情を解きほぐしていくような優しさときらめきがある。音楽が映画の第2の主役と言っていいほど、見事な説得力があるんです。
●高校生たちの生活にもそれぞれの神や文化が息づいています。


この映画には全編 夜明け前の穏やかさが漂っているかのようです。高校生たちの瑞々しさを大人の温かな視線が包み込んでいます。最後には高校生たちは自分なりに、一歩大人になります。ボクは最後は感動のあまりギャン泣きしちゃいました。柔らかな表情、柔らかな音、柔らかな感性。異なる価値観に対する排外的な風潮がはびこっている今の世の中ですが、この映画はそれとは全く対照的です。声高には語りませんが、人間ってこういうものだろうってことを登場人物たちが示してくれます。人々が皆 違っていて良いことを称える素晴らしい秀作です。機会がありましたら是非、ご覧になってください。しなやかで力強い、素晴らしい作品です。

 
もうひとつ、銀座で『未来よ、こんにちは『未来よ こんにちは』公式サイト 2017年3月25日(土)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次ロードショー!

舞台はサルコジ時代のフランス。主人公は50代後半の高校の哲学教師。子供たちは独立し、狂言自殺を繰り返す独り暮らしの母親に悩まされながら、授業と哲学書の執筆に忙しい充実した毎日を過ごしている。ある日 彼女は夫から別の女性の存在を告げられる。付き合いの長かった出版社からも契約を打ち切られる。更に母親も介護施設に入院して亡くなってしまい、彼女が飼っていた猫の世話を押し付けられる。バカンスシーズンの直前に一人ぼっちになってしまった彼女は気分転換の為に、かねてから目をかけていた若い教え子の元へ出かけていくが。


ミア・ハンセン=ラヴという監督はボクの大好きな名監督エリック・ロメールの再来と言われている人だそうです。この作品で昨年のベルリン国際映画祭で監督賞を受賞しています。主演はフランスを代表する女優のイザベル・ユペール
●主人公(イザベル・ユペール)は50代後半、高校の哲学教師。

●この人、目茶目茶スタイルが良いんですね。



主人公は哲学を高校生に教えることに情熱を燃やしているだけでなく、プライヴェートな時間も哲学の本を読んでいるような女性です。リベラルな価値観を持つ彼女はかっては共産党員でしたが、共産党に限界を感じて脱退、今は哲学とそれを若い世代に伝えていくことに生きがいを感じている。認知症気味の母親の介護を続けながら、仕事も諦めません。
●自殺未遂を繰り返す、元女優の母親(右)は彼女を困惑させます。老齢になっても母は女であることを忘れません。


彼女のお気に入りがかっての教え子、ファビアン(ロマン・コリンカ)です。彼と共著を出すほど可愛がっています。彼は哲学を学ぶだけでなく、急進派のアナキストでデモなどに積極的に参加するだけでなく、政治運動を起こして世の中を自ら変革することを志しています。政治信条は異なりますが、かって同じような変革の思いを抱いていた彼女はそういう点も彼を可愛く思えるのです。
●ファビアンを演じるロマン・コリンカ(右)はジャン=ルイ・トランティニャン(『男と女』の主役)の孫だそうです(笑)。

                                
主人公の夫も教師ですが、超保守派です。社会はなかなか変わらないもので、変革なんかバカらしいと思っている。政治的立場は彼女とは水と油ですが、二人は20年以上 夫婦生活を続けてきました。ところがある日 夫から若い恋人がいることを告白されます。彼女の生活は一気に急変します。
●政治的な立場はさておき、同士のような存在と思っていた夫でしたが。

主人公はサルコジに悪態をつくようなリベラルですが、学校を封鎖するような学生運動には冷ややかな目を向けます。大人です(笑)。急進的なアナキストのファビアンに『日和っている』、『個人的な立場に逃げ込んでいる』とまで非難されますが、子どもじゃないんです。彼女は声高に反論もしないけれど、自立した一人の人間として自由に生きていきます。愛情も大事、政治も大事、生活も大事、仕事も大事。ベタな愛情や感傷に流されたりしない。
●自分のために、花を買う。

                                
1人になった彼女はバカンスに愛弟子が山中で共同生活している場所を訪れますが、やはり若いアナキストたちには違和感を覚えます。『(スラヴォイ・)シジェクなんて胡散臭い』極左の有名な哲学者)、『ユナ・ボマーの本なんか読んでるの』(反文明を標榜する爆弾犯)という反応になるわけです。主人公がアホ左翼を嫌いなところは個人的にすごく共感できました(笑)。
●バカンスの季節、山中のアナキストのアジトを訪ねた主人公でしたが

ブルターニュの海岸が出てきたり、バカンスの話であったり、緩やかな太陽の光が使われるなど美しい静物画のような描写は確かにロメールに近いです。そして女性を美しく撮るところも
ブルターニュの海岸、バカンス。まさにロメールの世界です。好き(笑)


                      
この映画の最大の見所は主人公を演じるイザベル・ユペールです。哲学教師を、娘を、母を、若い子をいつくしむ一人の女性を演じる演技は勿論ですが、お姿が異様に美しい(笑)。この人、実際は今年64歳だそうで、顔も皺で一杯だけど、ミニスカートにブーツ履いても全然サマになっている。水着シーンまであるけど、違和感もない。背筋もピンと伸びてスタイルがめちゃめちゃ美しい。シルエットが美しいんですね。それを誇示しないから、余計 上品に見える。ファッションも一見 地味〜なんだけど、コントラストが効いていてセンスが異常に良い。男のボクでも真似したくなりました。この人を見ているだけで、全然飽きません。


                    
介護、子どもや夫からの女性の自立を語る映画でもあり、女性のキャリアを語る映画でもあり、恋することと恋に惑わされないことを語る映画でもあり、女性が老境を迎えることを語る映画でもあり、イザベル・ユペールのスター性を見せつける映画でもあります。ドロドロした人間関係になりがちな設定ですが、この映画はあくまでも一人の人間の生き方を爽やかに描いています。やっぱり、こういう作品はこれから老いていく自分のお手本になります。見ていて為になったし、楽しかった。甘さ、苦さ、酸っぱさ、様々な味わいを何度もかみしめるような映画です。DVD出たら買っちゃうと思います。