特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『私たちは怖れていない(Women's March)と』映画『沈黙』

トランプの就任演説、日曜の新聞で読みましたけど、酷いですね〜。『忘れ去られた人々のために働く』とか言ってますけど、中産階級を見捨ててきたのはトランプ政権に入っている連中だろって。この30年、製造業は人件費が安い海外へ移転し、小さな政府を唱えて公共予算は削り、アメリカ国内は規制緩和の名のもとに金融やITなどの高賃金の産業と低賃金のサービス業とに二分させていった。金持ちには減税し、貧乏人の福祉を削減した。外国が悪いわけではないし、まぎれもなくお前らがやったことだろって。そういう政策を日本も後追いしているわけです。これから本当に代替案なしにオバマケアを失くせば2000万人の健康保険を取り上げることになる。
トランプ政権の閣僚は3Gと言われています。大富豪(Gazillionaire)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)の3G。要するに中産階級や労働者が没落し、富がお金持ちに集中する中で利益を得てきた連中です。反エリートとか反エスタブリッシュメントとか言ってるけど、こんな連中に政権を任せるのは泥棒に泥棒の番をさせるようなものです(笑)。ラストベルトの労働者諸君はわざわざ自分たちの天敵に投票したわけ(笑)。

一方 就任式翌日の21日、全世界で行われた、トランプへの抗議Women's Marchには感動しました。見てください。これ。



●マドンナのスピーチ:私たちは怖れていない!

マドンナ、首都ワシントンDCで行われた女性のマーチに参加。スピーチの全文訳を掲載 | NME Japan
                             
●NYタイムスが報じた全世界のWomen's March。リンク先をご覧ください。圧倒的な風景に涙が出ました。ボクたちは一人じゃない。Pictures From the 2017 Women’s Marches on Every Continent - The New York Times

                   
21日の抗議には全世界80か国で480万人が集まったとも言われていますhttp://www.asahi.com/articles/ASK1Q4QRZK1QUHBI00X.html?iref=comtop_list_int_n02。それだけの人が集まった抗議が平和裏に行われた20日の暴徒をマスコミは反トランプ派といってたけど、あれはアナキストですから。一目見ればわかるだろって!)。『Happy』の世界的大ヒットで有名な歌手、ファレル・ウィリアムスが言うように我々の未来は女性にある (一部のクズを除く)。日本の場合は市民から遊離した旧来の運動には期待できないですし、とりあえず、ボクは全世界のまともな女性たちの後からついていきます(笑)。


                           
ということで、新宿で映画『沈黙映画『沈黙‐サイレンス‐』公式サイト

江戸幕府によるキリシタン弾圧が進んでいたころ、イエズス会の宣教師フェレイラ(リーアム・ニーソン)が幕府に捕まって棄教したとの噂を知った彼の弟子ロドリゴアンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライヴァー)は、マカオに漂着していた日本人漁師キチジロー(窪塚洋介)の導きで日本に潜入する。彼らは、隠れキリシタンの人々と出会いながら、師の消息を探そうとする
                          
遠藤周作の小説「沈黙」を、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などのマーティン・スコセッシが映画化したもの。題材が宗教ということで『抹香臭かったら嫌だな』と思いながら、期待しないで見に行ったんですが、これがこれが、大変面白かった。


マカオを拠点にしていたイエズス会の宣教師、アンドリュー・ガーフィールド君扮するロドリゴは師の棄教という知らせを聞いて日本に潜入し、師の消息を探ろうとします。彼の中には布教への情熱と自分の師を信じる気持ちが煮えたぎっています。
●延々迷い続け、悩み続ける役柄のガーフィールド君、頑張っています。

                                  
しかし長崎奉行の井上(イッセー尾形)の厳しい追及は次第にキリシタンたちを追いつめ、ロドリゴも捕えられてしまいます。ポルトガル人という設定のロドリゴも、長崎奉行隠れキリシタンの面々も、巧拙はありこそすれ、英語を喋るのには違和感を感じます。じゃなければお話が成り立たないから仕方ないんでしょうけど(笑)、それ以外は描写は非常にリアルです。
●宣教師と隠れキリシタン。さすがスコセッシで欧米人と日本人、きちんと対等な立場の人間として描写しています。



ロドリゴが出合う日本人たちの造形が素晴らしいです。隠れキリシタンとして信仰をかたくなに守る農民役の塚本晋也(映画『野火』の監督・主演)。朴訥とした風貌の彼が犠牲になることを自ら名乗り出て、苦しみながら磔で死んでいくところは忘れ得ぬシーンです。
日本兵も農民もぴったりの塚本監督(右)は如何にも日本人的な顔なんでしょうね(笑)

                         
窪塚洋介演じる漁師のキチジロー。命のために踏み絵に何度も応じ、神父を救ったかと思えば裏切り続ける彼の造形は我々に最も近い人物じゃないでしょうか。難しい役だと思うのですが窪塚はイノセントさと下卑さをうまく出しています。彼がスコセッシ監督に高く評価されたというのはうなづけます。
●徹底的に卑しいキャラクターを演じる彼の目が良いです。

                         
通訳役の浅野忠信、理知的に神父を追いつめていく姿は怒涛のような迫力があります。笑顔が凶悪。やっぱり彼は悪役の方が似合います。

                                   
ですが、何と言ってもキリシタン弾圧の親玉、長崎奉行『井上さま』を演じるイッセー尾形。歩く姿、そのしぐさだけでも凄い。一目見て圧倒されました。日本語では勿論、英語でひとこと喋るだけで、どういう人物なのか明確に表現してしまう。アンドリュー・ガーフィールド君も熱演していると思うんですが、イッセー尾形が出てくると、その場の雰囲気を全部持っていってしまう。今さらながら、凄い役者さんだと思いました。
イッセー尾形、超カッコいい。最強です。ちょっと植木等みたいでしたが(笑)、そこもいい。

                              
お話はキリスト教がどうのという話にとどまりません。キリシタンたちとロドリゴとの関係は、信仰を守ることに何の意味があるのかという疑問につながっていく。踏み絵をすれば許される、踏まなければ殺される。神は沈黙したまま救ってくれない。愛を説く神父としてはキリシタンたちに踏み絵に応じるよう勧めるべきではないのか。自分たちが日本に来たからこそ、多くの人が弾圧を受けるのではないか。
またロドリゴが捕まってからは、彼自身の信仰が問われていきます。『我々の宗教が正しい、普遍的なものである』とするロドリゴに対して、日本側の役人 井上たちは『君たちの土地ではそうかもしれないが、この場所では違う。我々の仏教も他人への愛を説いている。世の中には正しいものは色々あるのだ』と論じます。圧倒的に日本側の役人が言ってることのほうが正しく思えるんですね(笑)。ロドリゴもそれは次第に判ってくる。だから彼の精神的な葛藤はより大きくなっていく。
                               
この映画のテーマは宗教だけじゃない。世界中の誰にでも当てはまる普遍的なお話です。自分の信念と社会とのぶつかり合いは、自分が社会の中でどうやって生きていくかってことにもつながります。これってサラリーマンも専業主婦も兼業主婦も学生も、我々みんながぶち当たる問題ですよね。この映画は1宗教に過ぎないキリスト教を題材にしながらも、誰にでも当てはまる命題に昇華させることに成功しています。
●リーアム・二―ソンのいつもの暴力オヤジぶりは今作では封印(笑)

音楽はディランのバックバンドだった『ザ・バンド』のロビー・ロバートソン、スコセッシ作品の常連です。静かながらも効果的な音楽を作り上げています。この映画が持つ空気感を表すのにかなり大きな役割をしています。実際のロケは舞台となっている長崎ではなく台湾だそうですが、この映画はセミの声で始まり、セミの声で終わるんです。

                                      
                                            
こんな地味な題材で作品を撮るなんて巨匠のスコセッシだから出来るんだろうな〜とは思います。でもテーマは哲学的かもしれませんが、俳優さんたちの迫真の演技と効果的な音楽が相まった巧みな雰囲気づくりで、考えさせながらも楽しめる立派なエンターテイメントになっています。見ていて飽きないどころか、どんどんお話に引き込まれていきます。リアルさは保ちつつも、過度な暗さも残酷さもありません。今さらながらスコセッシ監督の手腕は素晴らしいです。こういう映画もあるんですね。びっくりするような当たり作品でした。