特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

NHK2題『終わらない人』、『京都人の密(ひそ)かな愉(たの)しみ  月夜の告白』(すみれちゃん)、それに映画『オーバー・フェンス』

韓国もアメリカもデモが盛り上がってます(笑)。日本のマスコミは国内のデモは殆ど報じないですが、海外のデモはちゃんと報道するんですよね。不思議だ(笑)。

韓国:ソウル26万人、朴氏退陣要求 深夜警察ともみ合い - 毎日新聞
こちらは韓国のデモを伝えるtwitter


                               
韓国の方は主催者発表で100万、警察発表で30万人弱、もの凄い人数です。しかも日本との人口比で考えれば倍の人数、ですよね。ネットでデモ隊が警官のごぼう抜きをやってるのを見ましたが(笑)、これはもうなかなか抑えられないでしょう。権力者が理不尽なことをやったら抗議の声を挙げるという点では韓国の人たちは日本人より当事者意識が強いと言わざるを得ません。利害関係で言えば、日本にとっては慰安婦の人たちを支援する財団の設立など、慰安婦の問題が解決の方向へ進むまでは今の政権が潰れてしまっては困る、と思うんですが、韓国の人たちが怒るのも当然だろうなあと思います。
こちらはアメリカです。都市部を中心に若者が怒ってます。





ニューズウィークへのロバート・ライシュ先生の寄稿:民主党は議会からクソ議員を叩き出すか、我々が新たな政党を作るか、だ。
Robert Reich: The Democratic Party Needs to Clean House

                                                             
アメリカの方は勿論、日本からどうこう出来る話じゃありません。かといって関係ないと頬かむりしているとアメリカから有形無形で伝わってくる日本への影響を相対化することができない。例えば、ここ数年 日本の役所は女性活用に熱心でしたが、それは役人がクリントン就任に備えていたのも大きな理由でした。そこいら辺のことも意識してないと、いつの間にか自分も踊らされてしまいます。
これから来年の大統領就任にかけて抗議が盛り上がっていくんだと思います。アンチ・トランプだけでなく、民主党の改革にもエネルギーが向かえば良いのですが。それにしてもイギリスのEU離脱にしても、アメリカの大統領選にしても、年寄りが愚かな選択をしたのは共通しています。一方 何だかんだ言って若い人たちはまともな方へ投票した。未来に対する責任、当事者意識をどちらが重く感じているかを象徴しているようにボクは感じます。

しかし、日本では盛り上がりませんね!閣僚の『土人』発言擁護と言い、白紙領収書の問題と言い、今の政権の連中がやってることはトランプとあまり変わらないと思うのですが。日本人は自分の未来の事なんか考えたくないのかな(笑)。良く日本を守れとか平和を守れとか憲法守れとか、左右を問わず言いますけど、本音では守りたいものなんかないのかもしれません。
●ベネッセの創業家の元社長、福武總一郎という人が日経ビジネスでこんなことを言ってました。こう言いたくなる気分には共感します。
『日本は大好きだよ。本当に大好き。しかし、経済のことばかり考える政治家や経営者がこの国をダメにしている。この国にはもう、将来ないよ』
『狂っているよ。グローバリズムは。国際企業が作った新しい帝国主義ですよ。』

迷走ベネッセ創業家・福武氏がついに口を開いた (2ページ目):日経ビジネスオンライン
                     
昨日のNHKスペシャルの宮崎駿特集『終わらない人 宮崎駿NHKドキュメンタリー - NHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」、彼が引退するなんて誰も思ってなかったでしょう(笑)。番組より、ある人の『このおじいさん、ずっと文句ばかり言ってるからつまんな〜い』という感想のほうが面白かった。
番組で印象的だったのが、ニコ動などのドワンゴの創設者で今は角川の社長、川上量生がAIを利用したCGアニメを宮崎駿に見せた時のこと。異形の人間?が不自然な動きで歩き回るアニメ映像を見せられて、宮崎は激怒します。『身体に障害がある人をバカにしているように見える。不愉快だ【画像】NHK『終わらない人』で宮崎駿がドワンゴ会長の川上量生に激怒&長編映画の構想を発表 : なんでもnews実況まとめページ目。ボクも動画を見て非常に不愉快でした。そんなものを見せられて間髪入れず激怒する宮崎は、さすが、です。宮崎の怒りは激しくて、川上が涙ぐむほどでした。それでも川上は『ただの実験だ』と言い訳してましたが、そんなことは関係ない。
たいていの物事は相対的なもので、人それぞれに言い分がある。モノには理由がある。世の中に絶対的に正しいことなんかない、とボクは思います。だから世の中に流布している大多数のイデオロギーや宗教はダメなんです。でも持って生まれた人の特性を貶める差別、他人を『土人』なんて言ってしまう感性、またそれを『実験』とか『人それぞれ』と弁解するような発想はダメです。本当の意味で物事の軽重が判ってない。宮崎は『生き物を冒とくしている』というようなことを言っていましたが、この世界にはやっちゃいけないこと、守らなければいけないことが何かある、と思うのです。倫理というか絶対的な基準と言ったらよいでしょうか。宮崎はそれがあることを信じている。ボクも『この世界には守らなければいけないことが何かある』のを信じています。
                             
閑話休題;週末は八重洲のエリックサウスERICK SOUTH - ERICK SOUTHで『ミールス』。南インド料理を広く紹介した草分けのお店でいつも行列が絶えません。ボクも美味しいとは思うんですが、良くも悪くも、如何にも日本人が作った料理、という感じがします。生スパイスの香りは心地良いし、きちんと作った料理ではあるんですけど、せせこましさを感じます。辛さ、苦さ、酸っぱさ、味が直線的なんです。(美味しい店で)インド人が作るともっと複雑で入り混じった、ある意味、いい加減だけど伸び伸びした味に感じるんです。不思議なもんです。これはこれで、美味しいんですけどね。


                         
さて、先々週の5日、NHKのBSで季節ごとに不定期に放送されている『京都人の密かな愉しみ』の3回目、『京都人の密(ひそ)かな愉(たの)しみ 月夜の告白』が放送されていました。
ザ・プレミアム - NHK

●これは以前の予告編

                                       
京都の風俗を織り交ぜたドキュメンタリーとドラマが入り混じった珍しい構成の番組ですが、さすがNHK、ドキュメンタリーの部分もドラマの部分も質が高くて、毎回楽しんでいます。録画を全く早送りしないで見る2時間番組も珍しい。今回 見ていて一番良かったのは嵐山の中腹にあるお寺。お寺のバルコニーからは桂川を挟んだ小倉山の向こうに京都の町を遥かに望むことができます。その寺にいるのが住職と柴犬のすみれちゃん(笑)。

暗くなって、人がいなくなったお寺の欄干からじっと京都の夜景を見ている住職とすみれちゃんの背中は美しかったです。
●誰もいない寺で市街の夜景を見下ろす住職とすみれちゃん。人生の理想じゃないでしょうか!

                         
                  
さて 今回はちょっと前に見た映画ですが、お蔵入りにするのは勿体ない、なかなかの作品です。新宿で映画『オーバー・フェンス

これまで好きなように生きて来た中年男、白岩(オダギリジョー)は仕事を辞め、妻にも見放され、東京から故郷の函館に舞い戻ってきた。彼は何もないアパートで独り暮らしをしながら、職業訓練校に通学しながら失業保険で生活している。ある日 白岩は、仲間の代島(松田翔太)に連れて行かれたキャバクラでエキセントリックなホステス、聡(蒼井優)と出会うのだが。

函館をテーマにした作品を数多く執筆して芥川賞候補になりながらも、41歳で自殺した小説家 佐藤泰志の作品を映画化した作品。『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続く「函館3部作」だそうです。監督は前田敦子主演の『もらとりあむタマ子』が素晴らしかった、そして関ジャニ∞渋谷すばる主演の『味園ユニバース』がいまいちだった(笑)山下敦弘

もらとりあむタマ子

もらとりあむタマ子

海炭市叙景』は見損なってしまったのですが、呉美保監督の『そこのみにて光輝く』は地方都市の貧困にあえぐ登場人物たちが仄かな希望を見出すさまが本当に素晴らしかったので、今回も期待して出かけました。
そこのみにて光輝く

そこのみにて光輝く

結論から言うとオダギリジョーが異様にかっこいい映画(笑)。それに尽きます。

中年男の主人公は一人暮らしをしながら函館の職業訓練校に通っています。訓練校の面々は年齢も過去もバラバラ、共通しているのは大工の技術を身につけて職に就こうとしていることだけです。だけど、それも真剣さは感じられない。みなちゃらんぽらんです。その中で主人公は一人、ちゃらんぽらんでありつつも、どこか、距離を置いている。現実に染まりきらない冷たさを持っているんです。淡々と演じ続けるオダギリ・ジョーは格好いいです。それがキャラクターの説得力になっている。仕事にもカネにも女性にも執着しない、淡々とした男。自分自身にも執着してないのかもしれない。そこまではいいんですが、オダギリ・ジョーの場合は、やたらと色気があるのが凡人と違う(笑)。この雰囲気を出すのは中々出来ないと思います。

一方 蒼井優の演じる変わり者のキャバクラ嬢は本当に変わり者です。昼間は動物園のバイト、夜はキャバクラ。男にも酒にも夢中になる。自分のエネルギーを持て余しているような感じです。こういう気性の激しい女性がいるのはわかりますし、そういう人も魅力的だと思うんですが、やたらとダチョウの求愛の真似をするところまで行くとちょっと現実味がない。演技としては熱演しているし、それなりに魅力的ではあるんですが、あまり説得力は感じない。

一方 周りのキャラクターは面白い。主人公をキャバクラ経営に誘う代島(松田翔太)も、いつもクラスの顔ぶれに不満を漏らしていて危なげな元大学生(満島新之助)も、表面を取り繕うだけの教官までも、皆 どこか不穏な雰囲気を醸し出しています。常に一触即発の危うさがあるんですね。いつ爆発するのか、ちょっとホラーみたいな怖さすらありました。
●主人公をキャバクラ経営に誘う代島(松田翔太)。周囲の登場人物は皆、不穏な感じを漂わせています。結構怖かった。

                       
ここで描かれる函館の風景は『そこのみにて光り輝く』で描かれた、貧困にあえぐ緊張感のあるものとは少し違います。同じ様に鄙びた、かってのにぎわいを無くした場末の光景ですが、どこかおっとりと余裕のある世界のように見えます(一部は同じ場所も使われているようです)。お金や職があるわけでもない登場人物は皆、影を抱えていますが、『そこのみにて』のようにぎりぎりのところまで追いつめられてもいない。だけど、何か望みがあるわけでもない(笑)。その中途半端なところがこの映画の魅力です。映画で描かれるぽっかりとした『何もなさ』は我々が感情移入できる余地を残しているかのようです。キャバクラへ行って、女の子を道端でナンパして、居酒屋で安酒を呑んで、訓練校で教師とケンカして、タバコを吸いながら無為な会話を駄弁って、ただ、そんな日々が続くだけ。タバコも吸わなければ、キャバクラどころか居酒屋すら殆ど行かないボクには正直 良くわからないところもあったんですが、これもまた、我々の世界の一面ということを思い起こさせてくれます。

             
主人公とキャバクラ嬢、聡はひょんなことから付き合い始めますが、彼女は主人公の淡々とした態度を許すことができません。過去を含めて、彼のすべてを欲しがる。劇情家故かもしれませんが、そりゃあ、ムリだ(笑)。そんな折 訓練校の面々はクラス対抗のソフトボール大会に臨みます。主人公はケンカ別れした聡を大会に招きます。彼らを取り巻く日常には大したことは何も起こらないし、彼ら自身も大して変わったり成長したりもしません。登場人物たちは成長するなんて考えたこともないでしょう。それでも、生きている。なんとか生きている。誰かを愛したり、憎んだり、泣いたりしながら生きている。この映画はそんな人生の1つの断面を見事に切り取っています。
日経の映画欄では確か5つ星でした。そこまではいかないとは思いますが(笑)、見る価値がある映画であることは間違いはありません。

●終演後のトークショー。左側が山下監督、右側が『そこのみにて光り輝く』の呉美保監督。二人は同窓だそうです