特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

TV『マネー・ワールド 資本主義の未来』と読書『抗うニュースキャスター』、不覚にも胸が熱くなる(笑)映画『SCOOP!』

週末に放送されたNHKの『マネー・ワールド 資本主義の未来』、大変良かったです。
土曜日は、今や巨大企業が国家まで圧迫しているという話でしたNHKドキュメンタリー - NHKスペシャル マネー・ワールド 資本主義の未来(2)国家VS.超巨大企業。予算では国家をしのぐような巨大企業が税金逃れをしたり、国家を訴えたりしている。日本も含めて世界各国で排外主義や国粋主義が盛り上がっていますが、実はもう国民国家というものに限界が来ているのは多くの人が共感するところではないでしょうか。極右やバカサヨがナショナリズムを掻き立てて19世紀の産物である国民国家リバイバルさせようとしても所詮無理がある。番組で描かれていたISD条項だって、日本政府のように自由経済をゆがめようとする理不尽な政府をけん制する良い点もあります。それに対して、ジャック・アタリ先生が『だからこそ、国家の枠を超えた世界的な統治機構を作らなければならない』と言っていました。ボクもそう思います。夢物語と思う人もいるかもしれませんが、夢見ることから新しいことが生まれるんです。欧州復興開発銀行元総裁のアタリ先生はEUの推進役の一人ですから、それを良くわかっている。本当は番組でEUで検討しているトービン税(金融取引税)についても触れてくれたら良かったんですが。これが金融資本主義にブレーキをかけるキーになるからです。また衣食住については競争を否定することで雇用も収入もふえているスペインの村の話も面白かった。

                                      
民進党のブレーンをやっている井出栄策慶大教授が出演していた日曜日の格差の話はもっと頑張ってましたNHKドキュメンタリー - NHKスペシャル マネー・ワールド 資本主義の未来(3)巨大格差 その果てにティーパーティーの黒幕、極右の大金持ちコーク兄弟にまで言及していましたからね。

アメリカの真の支配者 コーク一族

アメリカの真の支配者 コーク一族

番組でロバート・ライシュ先生が言っていた『格差が社会の分断を引き起こし、その分断は社会そのものを危うくする』が現代の根本的な問題だと思います。それに対して番組で取り上げていた富裕層への増税を訴える億万長者の団体『パトリオティック・ミリオネア』や社員の最低年収を7万ドルに引き上げたフィンテック企業の話も面白かった。その社長が犬を連れて出社していたのをボクは見逃しませんでした!(笑)。番組としては情報量が多すぎて、見る人が見ればわかるという形になってはいましたが、時間的制約があるからしょうがないんでしょう。
      
                                      
ボクがこの問題にこだわるのは結局 世の中を動かしているのはカネ、だからです。良く(頭の悪い)左翼系の人が言っている、軍需企業が世の中を動かしているとか、遺伝子組み換え作物を作っているモンサントが世界の農業を支配しているとか、ちょっとピントがずれています。世界最大の軍需企業ロッキードだって一社ではやっていけなくて何度も他と合併しているし、モンサントだってドイツのバイエル社に買収されてしまいました。動かしているお金の規模から考えてもラスボスはウォール街だし、多かれ少なかれ皆が加担している金融経済の仕組みです。

結局 お金は手段であって目的じゃない、ってことを皆がもう一度思い起こさなくてはいけないんでしょう。民営化万歳、規制緩和万歳なんてもう時代遅れです(笑)。規制で東電や農協、テレビ局のような独占企業を生かしておくのは良くないけど、どこまで競争を取り入れるか、どこまで市場経済を適用するかを考える、それが当面の答えなんだと思います。何事もやり過ぎは良くない。お金万歳は良くない。そして皆が得をしなければ、世の中はうまくいかない良く考えればごく当たり前の事ですよね。ごく当たり前のことを実現するためには、我々はもっと賢くならなければならないんです
26日夜、29日夜に再放送があるそうですので、見逃した方は是非。


同じく この週末のTBS『報道特集』、これも、とても良かったです。他のTV番組では殆ど報じない高江の様子、警察が住民に如何に強圧的なことをやっているかが良くわかりました。金平キャスターが抗議が行われている現場を中継したり、ヘリパッド建設に対する意見を高江の全世帯にアンケート調査までやっていました。結果は反対が圧倒的。それに沖縄の人に『土人』や『シナ人』と暴言を吐いた、税金泥棒のゴミ警官の顔をきちんとアップで放送していたのも偉い!。大阪の恥でしょ、あいつ。あんな輩が野放しで道を歩いてるというだけで恐ろしい。
公平な立場で報じながらも内容も判り易かったし、現地の状況が良く伝わってきました。今回は最近の『報道特集』の中でも断トツの内容だったと思います。良い仕事です。

他のTV局は何をやってるんだよ。ボクは知りませんが、関西のワイドショーでは差別を擁護するようなクズのコメンテイターのデマばかり流してるんですって?。このところミナミの差別寿司屋に、差別アナウンスを流した電車に(南海)、差別切符を発行したバス(阪急)でしょ。全部世界で報じられてます。石原みたいなヘイト知事を輩出した東京が他所のことを言える立場じゃないですが、今や関西は野蛮人だらけの差別地帯と世界から思われるんじゃないですかね。


その TBS『報道特集』のキャスター金平茂紀氏の近著抗うニュースキャスター』の感想です。

抗うニュースキャスター

抗うニュースキャスター

以前取り上げた、自民党の情報戦略を描いた『情報参謀』とある意味 ネガとポジのような関係になってる、と思いました。『情報参謀』と対象となっている期間もほぼ同じだし、片方はマスコミを利用する側、もう片方は利用されるマスコミの側の記述です。具体的には2008年から2016年までの朝日の雑誌『ジャーナリズム』での連載からの抜粋を中心にまとめたものです。
情報参謀 (講談社現代新書)

情報参謀 (講談社現代新書)

                                  
この間 政権交代原発事故、北朝鮮のミサイル、秘密保護法、安保法と様々なことがありましたが、金平氏の問題意識は『社会に自由の気風を保つどころか、報じることでかえって委縮させていないか』というところにあります。具体的にはこの時期 権力に対して監視役を果たすどころか、自己規制が進んだTVメディアに対する異議申し立てです。金平氏はマスコミの姿勢を『自己隷従』と呼んでいます。この本を読んでいると、マスコミの自己隷従は民主党政権の時から一貫しており、安倍政権になって、その傾向は酷くなっただけのようです。
彼の指摘で一番印象に残ったのはマスコミの記者たちは権力側と同じ感覚、官尊民卑の感覚を持っている、ということです。これは何となく頷けます。ボクはそんなに多くの記者を知ってるわけじゃありませんが、朝日新聞にはそれを非常に強く感じます。TVは免許事業、電力会社同様 規制で守られた独占企業です。規制に守られて、一般企業の倍近い高給を得ている記者たちにしてみれば、報道の自由より組織に奉仕することを優先してしまうのは理解できないでもありません。元から権力寄りの体質を持っているからこそ、メディアは政府発表を無批判に垂れ流すのだし、反原発デモも秘密保護法や安保法案、沖縄の基地建設への反対運動をまともに伝えないのだ、と金平氏は述べています。大マスコミの記者たちは特権階級!なんですね。それは判るなあ。


既に齢60を超えた金平氏はこの本の中で『後輩の育て方を間違えた』と悔やみながらも、TV局の現状に警鐘を鳴らし続けます。どこか虚しさも感じないではないです。報道に対する志も能力もある、そしてTBSの社内的にも執行役員にまでなった金平氏でもTVの現状に警鐘を鳴らし続けることくらいしか出来ないとしたら、かなり絶望的な状況じゃないでしょうか。

                                                         
もちろん金平氏は非常に良い仕事をされていると思います。そこは大事。もともとボクは昔からやたらとロックと政治の事を結びつけて報じたがる金平氏に注目していました。この本の中で彼がロックや映画に拘る理由は、社会に対する複眼的な視野を持つため、と説明しています。なるほど、だから 彼は権力に過度におもねらない仕事ができるのかもしれません。権力機構であるマスコミの中で正気を保つには、違う世界を知っておくことでそれを相対化することが必須だと思うからです。サラリーマンも一緒です(笑)。

ただ彼がTV報道に対して持っている思い入れには共感できません(笑)。TVなんか、最初から当てにしてない(笑)。どうせ衰退していくメディアです。くだらない番組は皆がどんどんボイコットして、TVの衰退を加速させていった方がいいんじゃないでしょうか。現在は活字、電波、ネット、それぞれが問題を抱えています。具体的には活字と電波は権力体質、ネットはバカばかり(笑)。TVと新聞は規制で資本を分離させる、TV局の免許制度はもう少し緩いものにする、ネットにはもう少し知能指数がある人間が関わる、そうやって活字、電波、ネット、複数のメディアが互いに競い合って切磋琢磨していくのが望ましいとボクは思います。東京電力のような企業は勿論、連合のような組合も一緒です。所詮 競争がないものは腐ります。
ともかく、金平氏には頑張ってもらいたいです。今やまともな報道をやってるのは東京のキー局ではTBSの一部だけ、じゃないですか。


と、言うことで、新宿で映画『SCOOP蔵[kura] |
大根仁監督、福山雅治二階堂ふみちゃん主演の作品です。

写真週刊誌に芸能人のスキャンダル写真を売って生計を立てるフリーのカメラマン静(福山雅治)。ある日 週刊誌の編集長、定子(吉田羊)から新人記者の野比二階堂ふみ)とコンビを組むよう命じられる。まるっきりの素人の野火に手を焼く静。それでも修羅場をくぐるうちに二人のチームワークも生まれ、スクープ写真を生み出すようになっていくがーーー

                                    
映画が始まると直ぐ、制作TV朝日という文字が出て、条件反射でいや〜な気持ちがします(笑)。TV局資本の映画なんてめったに見ないし。それでも深夜ドラマの秀作『湯けむりスナイパー』や『モテキ』の大根仁監督の新作です。彼は映画のほうも『モテキ』、『恋の渦』も良かったです。主演の福山雅治という人は良く知らないですけど、そこはボクの大好きな二階堂ふみちゃんも出るから±ゼロ、ということで、まことに低い期待値で見に行った次第です。

モテキ

モテキ

                                                                                 
パパラッチとして生計を立てる借金まみれの中年カメラマンが、個性豊かな写真週刊誌の記者らと共に巨大な事件を追いかけるという原田眞人監督の『盗写1/250秒』という80年代のTV映画のリメイクだそうです。大根監督は『太陽にほえろ』みたいな無頼風なダメ男を描きたかったんでしょうね。元は原田芳雄が演じていた役だそうです。今回は福山雅治がパブリックイメージを壊さないぎりぎりのところまで演じています。セクハラ、下品、ヘビースモーカーなんのその、汚い中年男が良く表現されていました。それでも普通の中年男と違って異常にハンサムなんですが(笑)。出し惜しみしないで汚さを演じるこの人はナイスガイだと思いました。(笑)
●汚い中年男なんだけどハンサム、こんなの居るわけないだろとは思いますが、映画だから(笑)。

相手役の二階堂ふみちゃんが演じる、赤毛で真ん丸目玉の新米記者というのは現実離れしていて最初はピンときませんでした。ちょっと童顔過ぎるんですよね。こんな奴、六本木や代官山にはいない。みんなもっとひねている(笑)。
●最初はこんな感じ。舐めすぎだろって(笑)

だけど物語が進むと、段々ふみちゃんの本領が出てきます(笑)。福山雅治が懸命に演じる汚い中年男とのコンビはコミカルなだけでなく、次第に重くなり、こんがらがってくる。三角関係、仕事に対する姿勢で有ったり、人間としての成長。それを演じる彼女の演技が全くわざとらしくないのは、さすがです。この人はこれでまた、一皮むけたかもしれません。

                          
最初はコミカルに、後半はシリアスにという話しの流れもうまいです。誰が見ても楽しめるし、中盤からのシリアスな展開、恐らく大根監督が一番描きたかったであろう、『自分は何をしなくてはいけないか』にお話が収束していくところはお見事でした。
●情報屋を演じるリリー・フランキーの怪演も見ものでした。

                                             
特筆すべきなのは、この映画では東京が非常に綺麗に映されているということです。夜の明りにしろ、路地裏にしろ、映っている光景が非常に美しい。今回は舞台が六本木や代官山ということで、ボクも見慣れた場所ばかりです。ここはあそこ、次はこの路地を曲がって、と良いところを押さえています。大根監督は東京の街を良く知ってるな〜と思いました。これがボクの知っている東京です。

他のキャスト、(誰でも褒めるであろう)リリーフランキーの怪演はもちろん、吉田羊、滝藤賢一、み〜んな良かったです。これもこの映画の特徴。吉田羊はちょっとウザかったけど、美人だし(笑)、二階堂ふみちゃんとの関係性がこの作品の見所でもあるんで許す(笑)。キャラではなく役柄として俳優さんたちの良さを引き出した監督の演出はとても優れています。
クライマックスの事件がちょっとせこかったのとロバート・キャパと絡めたオチは強引だったとは思いますが、許せる範囲です。
●副編集長の吉田羊、編集長の中村育二、副編集長の滝藤賢一。キャストの演技も含め、オフィスの様子が非常にリアルなのも感心しました。

                                       
後半の展開は二階堂ふみちゃん演じる新人記者が実質的な主人公です。それも正解。彼女が職業人として如何に育っていくか、描写はさりげないけど、非常に重い。彼女の静かな、だけどためらいのない演技に、育てる側、育てられる側、仕事をしている人ならだれでも、深い思いを感じるんじゃないでしょうか。

                                                              
残された人たちの物語が時間を取って描かれているのも素晴らしかったです。監督が持っている根本的なテーマ、自分が何をしなくてはいけないか、という想いが非常に伝わってくるだけでなく、人間観みたいなものまで感じられました。
                               
万人が見て楽しめるというだけでなく、この作品を見て勇気をもらえる人も大勢いると思います。一昔前のアメリカ映画には良くあった、見る人に勇気を与えてくれる作品って最近は少ないですよね。そういうイノセントさが、この映画にはある。これは監督とキャスト、双方の力だなあ。
ほんと、すっごく良かったです。8月以降に見た映画20本くらいの中で一番良かったかも。