特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『真理が彼女を自由にする』と映画『リトルボーイ 小さな子供と戦争』

東京は午後から、やや強い雨が降っています。
今日はちょうど1年前に可決された安保法反対の集会を国会前でやってるというので行こうか迷ったんですが、主催が『戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会』の人たちで強行採決から1年!戦争法廃止!9.19国会正門前行動 | 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動、相変わらずの段取りの悪さで集会のアジェンダもはっきりしてないし、それでなくともジイさんたちの頭の悪いスピーチを聞かされたり、リズム感ゼロのマヌケなシュプレヒコールをするのは気が進まず、ぼくは自宅待機(笑)しました。それでも今日は主催者発表で23,000人が集まり、全国で400か所以上の抗議があったそうです。


昨年夏の10数本の安保関連法案を纏めて出して、まともに審議もしなかった政府の進め方はおかしいし、政府が約束したはずの法案の必要性の説明も未だにまともになされていません。だけど依然 法案反対、憲法守れというだけなのはボクもさすがに抵抗があるんです。原発もそうですが、こういうものは色んな意見があります。ボクは海外派兵は絶対反対ですが、グレーゾーンの問題は考えなければいけないと思います。昨年夏は、安保法案に賛成の人でも政府の進め方はおかしい、と思ったから、反対運動があれだけ盛り上がったんです。政治って考えが異なる人々の間で最大公約数を見つける努力です。例えば官邸前抗議には『原発即時停止』の人もいるし、『時間をかけて廃止』という意見の人もいます。その最大公約数として『再稼働反対』ということを打ち出しているんです。だから大勢の人が集まったし、長く続いている。今の政府のやり方は強引すぎて明らかにおかしいと思うけど、だからこそ対抗する側は最大公約数を見つける努力が必要です。旧来の左翼がバカぞろいなのは判り切ったことですが、全員が全員とは言いませんが普通の護憲派と言われる人たちも思考停止していることはないか、考えてみた方が良いと思うんです。


                                             
この前 高校生の姪っ子ちゃん(笑)と二人で六本木にご飯を食べに行ったんです。受験生の彼女が大学選びのことを聞きたいと言ってきたので、ご飯を食べながら話を聞いたんです。シングルマザーの彼女の母親(ボクの妹)は芸大なので、一般の受験のことは全く分からないそうです。付属校出身のボクも大学受験をしてないので似たようなもんですが、それでも少しはマシだろう、という彼女なりの判断だそうです(笑)。職場でもそうですし、肉屋でも女子会(笑)を良く見かけるけど、最近の女性って、お肉が好きですね。いずれにしても良く食べる人、特に良く食べる女性はボクは大好きです。一緒に居て気持ちがいい。
●バターに浸っている(笑)ステーキは二人分ですが、アイスクリーム(2枚目 右)は彼女が一人で全部食べました。ま、ボクもティラミス(左)を全部食べましたが(笑)。

ボクは『受験勉強なんか真面目にやるとアホになる』と思っているので、『自分の行きたいところへ行けばいい、自分の考えで自分が選択することが大事。ただ卒業後は経済的に自立しなきゃいけないんだから、そのことだけはきちんと意識しなさい』と言ったんですが、高校生にも色々世俗のプレッシャーはあるみたいですね。今はマスコミやネットがうるさくてクダラナイ情報が多いので、それは可哀想な気がしました。それに対抗すべく(笑)、ボクは彼女の誕生日のたびにPerfumeBabymetalに紛れて上野千鶴子やSEALDs、井出英策慶大教授の本、それにチェ・ゲバラの伝記やDVDなんかを送ってるんですが、『嵐大好き!』の彼女は呆れていると思います(笑)。
                        
ボクは国会図書館の受付の柱に彫り込まれている『真理はわれらを自由にする』という言葉http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/shinri.html が大好きなんです。国立国会図書館法の前文の言葉だそうで、当時国会議員だった羽仁五郎が聖書から引っ張ってきたそうです。羽仁五郎は色々物議を醸した人ですが、少なくとも少し前の日本人は言葉で大事なことを伝えようという真剣な意識があった、と思います。
姪っ子ちゃんには政府やマスコミ、それに賢しらな他人が言っていることをそのまま信じてもらいたくない。自分の頭で考え、自分で決めて欲しい。ボクは、この世の中のどこかには本当のことはあると信じています。でも、それは彼女自身が自分で見つけるしかない。それが『真理は我らを自由にする』の意味だと思います。今の世の中は情報に溢れ、目まぐるしい変化が起きています。バブル崩壊に山一ショック、ITバブル崩壊にリーマンショック、それに311、この30年間、5年に1回は大ショックが起きているじゃないですか。これから変化はもっと激しくなるでしょう。そんな時代を生きなければならない彼女たちの世代こそ、こういう言葉が必要です。
『真理が彼女を自由にする。』 


                                   
ということで、有楽町で映画『リトルボーイ 小さな子供と戦争

舞台は太平洋戦争が始まったばかりのカリフォルニアの田舎町.8歳の少年ペッパーは人より体が小さいことで『リトルボーイ』と呼ばれていた。町では悪ガキたちから苛められていたが、自動車修理業を営むお父さんとお母さん(エミリー・ワトソン)、兄と楽しく暮らしていた。ところが大好きだったお父さん(マイケル・ラバポート)が戦争でフィリピンへ出征することになった。神父さん(トム・ウィルキンソン)から、『お父さんが早く帰ってくるためには、他人に親切にしなさい』と言われたペッパーは、町はずれで独り暮らす日系人ハシモト(ケリー・ヒロユキ・タガワ)と知り合うのだが。

太平洋戦争が始まったころのカリフォルニアと言えば、スピルバーグの『1941』という映画を思い出します。日本軍がカリフォルニアに攻めてくるのではないか、と思い込んだ人々を笑い飛ばしたコメディです。『リトルボーイ』に描かれる風景も人々もそれを思い浮かべさせます。
●田舎町ののどかな光景。ペッパー君は背が小さいことから、村人に『リトルボーイ』と呼ばれています。もちろんこのあだ名はのちに落とされる原爆のネーミングとも重なっています。

コミカルな進行、どことなく懐かしげな建物や景色(撮影の色調の効果です)、お父さんが出征するまでは子供の幸せな暮らしがのんびりと描かれています。戦争もどことなくのんびりしている。村の人は戦争はすぐ終わるし、日本軍なんて、たいしたことないと疑いません。他人事なんです。
●ペッパー君は自動車修理工場を営むお父さんが大好き。

ペッパーくんは独り、お父さんが居なくなったことで疎外感を味わっています。心配した神父さんが収容所から釈放されたばかりの日系人を紹介し、彼に親切にするようにペッパー君に言いつけます。日系人のハシモトは村では思い切り差別されています。アメリカで数十年も暮らしてきた彼はアメリカへの忠誠を誓うことで収容所から釈放されたのですが、村人たちは彼の顔を見るだけで罵ったり嫌がらせをしています。ハシモトは村はずれで一人さびしく暮らしているのです。最初は黄色人種は敵だと思っていたペッパー君ですが、村の悪ガキに苛められる自分の身と重なり、いつしか一人暮らすハシモトと次第に心を通わせていきます。
●村唯一の日系人のハシモトは完全に村八分状態、孤独に暮らしています。

この映画の売り物は脚本と俳優さんたちの演技でしょうか。コミカルな演出ですが、どちらも非常に充実しています。最初はアメリカ人たちが軽く考えていた戦争が次第に誰にとっても悲惨な実態を見せていくこと、戦争中に日系人が受けていた差別、孤独だった男の子と日系人が心を通わせていく過程、リトルボーイと名付けられた男の子と原爆との関係。盛りだくさん過ぎの感はありますけど、見事なもんです。アメリカ映画にも関わらず原爆の悲惨さが描かれているのも感心したんですが、監督はメキシコ人だった(笑)。

                                 
俳優さんたちは皆 熱演です。戦争の悲哀を一身に背負ったかのような完璧演技のお母さん役、エミリー・ワトソン、『クレイドル・ウィル・ロック』や『ゴスフォード・パーク』の演技派女優です。
●この人はとにかく芝居が重いんですが(笑)、ボクはかなり好きな俳優さんです。

大恐慌時代を舞台にしたショーン・ペン渾身のリベラル映画です。

包容力溢れる神父さん役のトム・ウィルキンソンは昨年の『グローリー』でのリンドン・ジョンソン大統領役が記憶に新しい。

日系人ハシモトのケリー・ヒロユキ・タガワって90年代の人気TVシリーズ『刑事ナッシュ・ブリッジス』で主人公のドン・ジョンソンの上司のカンフーの達人役がボクは凄く印象に残っています。この3人の演技は非常に見ものでした。静かに悲しみを表すエミリー・ワトソン、自分の力で立てるよう男の子を導いていく文字通り慈父のようなトム・ウィルキンソン、孤独な世界の中から次第に心を開いていくケリー・ヒロユキ・タガワ、皆すごく良かったです。
●90年代、ボクは映画も音楽も世の中の動きからも、やや遠ざかっていました、シアトルで反WTOの暴動が起きるまで(笑)、ボクが夢中になったのはこのドラマとニール・ヤングのCDだけでした。マイアミ・ヴァイスのドン・ジョンソンリーサル・ウェポンのプロデューサーのカールトン・キューズが組んだ6シーズン121話、最近流行の長編ドラマのさきがけです。グレン・フライ(イーグルズ)やミート・ローフクラレンス・クレモンズ(Eストリートバンド)、クラウデッド・ハウスなど判る人だけが判る(笑)ロック畑の豪華ゲストも楽しかったです。ケリー・ヒロユキ・タガワは第1シーズンのみの出演。渋くて恰好良かったです。
刑事ナッシュ・ブリッジス シーズン1 [DVD]

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男の子の成長物語、戦争に対する一般人の無関心さ、日系人差別、原爆とお話が盛りだくさん過ぎて収拾が取れなくなったところもあります。脚本は見事だと思うけど、ちょっと凝りすぎかもしれません。だけど野心的な脚本と俳優陣の重厚な演技、それに美しい画面、と見る価値は充分ある佳作です。後味も良かったです。