特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

クソオヤジなんか要らない!:『EU離脱』と映画『神様メール』

イギリスのEU離脱『BREXIT』を問う国民投票の結果の衝撃は依然覚めません。しばらく経済状況は大揺れでしょう。某みずほ総研(笑)によると円は6円高くなり、株は3000円下がる可能性があるそうです。円は初日に6円上がりました(笑)。投票結果が判明した金曜日の夕方に送られてきたクソみたいにいい加減な数字ですが、世界中の経済はこれから更に悪化していく可能性はあります。日本だって7月からの景気はより一層厳しくなるかもしれません。大局的には資源の輸入に頼っている日本にとって円高は悪いとは思わないですが、輸出企業には影響はあるし、輸入企業は今までの損を取り戻そうとするから簡単に値下げしない(笑)。それに小売店が一息ついているインバウンド需要、銀座とか心斎橋に溢れている外人客は減ってしまうでしょうね。

                                        
多くの人が今回のイギリスのEU離脱を不思議に思っていると思います。ボクもそうです。アホにも限度があるだろって(笑)。EU離脱に投票したのが無知な高年齢層、マヌケなクソオヤジばかりだとしても、どうして、こんな愚かな選択をしたのか。色んな人が色んなことを言ってます。情況が良くわからない中でも、ボクがある程度 納得がいったのがこのチャートです。
●左=色が濃いのが移民が多い地域、右=色が濃いのがUKIP(離脱を訴えた極右政党)の支持率が高い地域

Mapped: where is Ukip's support strongest? Where there are no immigrants - Telegraph

                         
移民が少ない地方ほど、EU離脱を推進する極右の支持率が高いそうです。要するに移民のことを良く知らない人こそ、偏見に囚われている、ということです。10年くらい前 櫻井よしこの講演を聞いた時、彼女が『自分は中国に一回も行ったことがない』と恥ずかしげもなく豪語してたのを思いだします(笑)。
●同様の事はガーディアン紙も伝えています。曰く、『移民ではなく、移民への恐れがEU離脱をもたらした』、と。

Fear of immigration drove the leave victory – not immigration itself | Politics | The Guardian

要するに無知やデマが移民への偏見やヘイトを造り、EU離脱につながったんですね。これはボク自身も皮膚感覚として理解できます。日本でも右翼政治家やネトウヨはことあるごとに中国や韓国に対する、あることないことや偏見を煽り立てています(不思議と欧米に対しては歯向わないところがセコイ)。確かに普段の生活で見かける観光客などは、ゴミを散らかしたり、ギャーギャーうるさかったり、煙草をところかまわずガバガバ吸ったりする人もいるから、連中が言ってることは少しは理解できるところもあります。でも現地へ行ったり、仕事だと、驚くくらい優秀な人や、立派な人にも大勢出会います。最近の街中を見ても、屋上にゴジラがいる歌舞伎町のTOHOシネマの前で記念写真を撮ってる韓国や台湾のカップルなんて微笑ましいもんじゃないですか。ボクの友人はお客さんの招待に使う某高級旅館で打ち合わせをした際、『こういうところに来る中国の人は旅慣れてるし、日本人よりマナーもいいですよ』とフロントの人に言われたそうです(笑)。

                                 
彼らの感覚は確かに違うところはあるけれど、本質は日本人と同じです。どこの国だろうが、良い人もいれば、クズも居る。当たり前ですよね。丁度 先週 土曜日に行ったイタリア料理屋で、現地での修業が長かったシェフが言ってました。『イタリア人はとにかく、いい加減な奴が多い。でも真面目な人もいる。ロクでもない奴もいい人が居るのも日本と同じ。ただ自己主張の強さだけは違うかな。』

                                     
今回の投票結果を受けて経済学者のクルーグマンはNYタイムスで『これからイギリスは貧しくなるだろう。だが我々は冷静にならなくてはいけない。もっと心配なのはボリス・ジョンソンがイギリスの首相になることだ。』と言っていますBrexit: The Morning After - The New York Times
離脱を主導した極右のUKIPの幹部などは今日、公約の『移民はゼロにする』、『EUへの拠出金をイギリスの保険サービスの原資にする』は嘘だったことを認めました英EU離脱:公約「うそ」認める幹部 「投票後悔」の声も - 毎日新聞。ウソと認めるだけ、自分の非を認めない安倍晋三よりマシかもしれませんが(笑)、そんなクズどもが愚かな連中をだまして離脱を決めてしまったわけです。
経済が悪くなるにしたがって、質の悪い扇動政治家が台頭する。一時的にはバラマキなどをするかもしれないが、結局はもっと経済も悪くなる。日本だって、こういう負のスパイラルじゃないですか。アベノミクスなんかまさにそうでしょ。


                         
●おまけ。EUでイギリスが大損をしているというUKIPのデマを示すチャート。イギリスのEUへの一人当たり拠出金額は176ユーロ、イタリアやスペインより低いばかりか、338ユーロ払っているポーランドの約半分

BREXIT: Cost of EU membership infographic

ちょうど、『下流中年』という本を、他人事じゃないな、と思いながら読み流したところです。

                    
内容は冒頭の萱野稔人津田塾大教授と雨宮処凛氏の対談以外は価値がなかったんですが(笑)、この対談は面白かった。萱野氏は『リベラルは経済のパイが縮小していることに無自覚すぎる』と言うのです。いくらリベラルが弱者救済を訴えても、経済のパイが縮小していることを感じている多くの人にとってはリアリティを持たない、と。排外主義を唱える極右の方がそれに敏感だからこそ、支持を集めるのだ、とも。イギリスで起きたことは正にその通りだし、日本も含め、低成長にあえぐ多くの先進国でも起きていることです。だからと言って排外主義に走れば、もっと経済のパイの縮小は加速されるんですけどね!(笑)。

でも、最後に萱野氏はこう言っています。『日本の高等教育(大学・専門学校)の進学率は全体では8割だが、貧困層では3割しかない。だが、貧困層の進学率を全体並みになるよう支援すれば、社会全体の生産性が高まり2.9兆円の経済効果がある。また、社会福祉の費用も1.1兆円減る。貧困層の進学を支援すれば社会全体で4兆円の効果がある。』

4兆円と言えば、消費税2%分くらいです!どこまで厳密に計算した話かは別にして、ロジックとしては理解できます。確かに弱者や困っている人を助けようと言っても、財源は限りがあります。だから補助金社会福祉などを増やしていく従来のやり方にも限度があります。これも先進国共通の問題です。それがリベラル派が信用されない理由でもあります。つまり先が見えない。そこに左右を問わず、デマや偏見が入り込み、人々の間に憎しみを煽り立てる連中が出てくる。だけど本質はこういうことなんだと思います。困っている人を助けることで、社会もより多くの利益を得られるやり方もある。福祉というより『投資』です(もちろん福祉でしか解決できない問題もあります)。リベラルの側こそ、発想を変えなければいけない。EU離脱を主張した労働者階級と残留を主張した英労働党のすれ違いも、そこに問題があるのかもしれません。



ということで、EU絡みでいきましょう(笑)。新宿で映画『神様メール

舞台はブリュッセル。実は神様は存在しており、ブリュッセルに住んでいた。神様はロクでもないクズ男で、毎日 スポーツ番組を見ながらビールを飲んだくれ、10歳の娘、エア(キリストの妹)や妻(女神)に当り散らしていた。時折 自分の憂さを晴らすために、世界を支配するパソコンを使って多くの災いと少しの善を人間にもたらしている。そんなクズの父親にうんざりした娘は酔っぱらって寝ている父親のパソコンから人間に余命をメールして家から脱走、人間界へ家出してしまう。自分の余命が判ってしまった人間たちはどうなるだろうか


冒頭 クレジットでベルギー映画ということが表記されます。ベルギー映画って初めてかも。原題は『新・新約聖書』です。人間界へ脱走した娘は適当に選んだ人間を新たな使徒として聖書を書き直していくんです。クソオヤジである神との契約なんか、さっさと書き換えちまえ!、というコメディです。
最初は、何が新約聖書で、何が使徒で、とかボクには良くわからなかったんですが、映画を見ていれば自然に判ってくる。主人公は良く考えたらキリストの妹だったことに途中で気が付きました(笑)。とても面白いお話です。
●神様一家。左から神様、中央は女神、右が神の娘、エア(10歳)

まず神様がロクでもないクズ男っていうのがいい。ビール飲みながらソファに寝転がってスポーツ番組を見てる。妻や子供には怒鳴り散らすクソオヤジ。ストレス解消は人間への災厄。時折 善行を見せて人間に希望を持たせるところが実に性格が悪い。こんなクズ神様要らねえよって、娘でなくても思います。

堪忍袋の緒が切れた神様の娘、エアはパソコンをいじって人類にそれぞれの余命をメールして、人間界に家出してしまいます。最初は半信半疑だった人間たちですが余命が本当だということが判った瞬間、多くの人は生き方を変えてしまいます。つまり、戦争とかつまんない会社勤めなどはやめてしまう。本来 自分のやりたいことだけをやるようになる。
●エアはクソ親父が泥酔して寝込んでいるうちに、世界を支配するパソコンを操作して、全人類にそれぞれの余命を送信してしまいます。

                                            
エアはパソコンの中から適当に人選して新たな使徒を6人、選びます。それぞれが悩みを抱えながら生きている人ばかりです。その悩みがいかにもヨーロッパのドラマらしい、一癖ある悩みを抱えた人ばかりです。片腕がない孤独な美人とか、子供の時に見かけた女性のことが忘れられないまま童貞の男とか、妻にいつも尻に敷かれている殺し屋とか、女装に憧れる少年とか、冷え切った夫との仲に悩む妻とか。その描写が如何にも形而上学的なんです。そこも面白い。エアは悩みを抱える彼らに奇跡を見せていきます。
●エアが選んだ使徒たち。一癖も二癖もあります。

●夫との冷え切った関係に悩む妻(カトリーヌ・ドヌーヴ)はゴリラを愛人にします。これも神の奇跡です。

                                                  
神様はエアを追って人間界へやってきますが、パソコンのない彼は単なる横柄なクソオヤジです。性格も態度も悪い彼は人間界でトラブルを起こしてはボコボコにされます(笑)。大変 痛快です。そんなクソオヤジは放っておいてエアの旅は続きます。使徒が揃ったとき、世の中はどう変わるのでしょうか。


痛快で深い、実に面白いドラマでした。スケールがでかすぎる話だし、女神の描写が手抜きなど、脚本に若干無理がないわけでもありませんが、見終わったあとの満足度は非常に高かった。エア役の女の子は実に可愛かったし。洋の東西を問わず、神様は一神教だとたいてい男ですね。この映画を観ていると、神様はなんで女性とかLGBTじゃないんだと思わせます。知的で笑わせてくれる、可愛さもあるし風刺も効いているユニークな映画です。これも年間ベスト10間違いなし。ほんと、面白かった。