特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

神戸から三陸、そしてフクシマへ:映画『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』

それにしても、北朝鮮のミサイル?人工衛星?ごときにどうしてこんなに大騒ぎするんでしょうか。確かにロクに食い物もない貧乏国家がロケットを打ち上げるなんてバカじゃねーのと思いますが、彼らは予告どおりやっているわけですし、わざわざ臨時ニュースまで出すようなものでしょうか。こんなことで大騒ぎするから北のトっちゃん坊主が図に乗るんです。だいたい以前は各ニュースは『飛翔体』とか『事実上のミサイル』とか言ってたけど、今度は『ミサイル』と断定している。今までと何か違いがあるんですかね(笑)。周回軌道に乗るミサイルってあるんでしょうか(笑)。それにわざわざパトリオットまで離島に移動させて(幾らかかってるんだ)、この大騒ぎは全部まとめて安倍晋三の宣伝ショーじゃないですか? そもそも湾岸戦争の時 パトリオットって相手を撃ち漏らした時の破片のほうがイラクスカッドミサイルより被害が大きかったそうですが(笑)、そういうことの検証は出来ているんでしょうかね。おまけに、こういう時になんで拉致被害者の連中までニュースに出てくるんでしょうか。全然 関係ないでしょ。
こんな臍で茶を沸かすようなマヌケなニュースがTVで流れてきたらボクは直ぐ画面を消してしまうからいいんですけど、こんなクソニュースを真に受ける人がいたらどうするんだ(笑)。このバカ騒ぎにはほとほと呆れました。台湾で困ってる人、日本で困ってる人、そういうことを伝えるのとどっちが大事なのでしょうか。

                  
先週末は、神宮前へ写真展へ行ってきました。題して『銃撃』。物騒なタイトルはボクは好きじゃありませんが、2011年以降の各地のデモを写した、『ひきがね』という写真集を出した島崎ろでぃーという人の写真展です。この写真集は311以降 大人も子供も、いかに多くの普通の人が路上に出てきているかを伝える、非常に勇気が出てくる本でした。残念ながらボクは写ってなかった(笑)。ギャラリーへボクが行ったときは本人や先日写真展写真展『植田千晶’’2015’’』と『週間報道LIFE』(BS-TBS,12/27)、それに2015年映画ベスト5 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)を見てきたSEALDsの植田さんらのトークショーをやっているところでした。
特定秘密保護法や安保法への反対、ヘイトデモへのカウンター、LGBTの権利デモなどの写真が収められています。帯は劇作家の宮沢章夫、本文の文章はラッパーのECD

写真集ひきがね 抵抗する写真×抵抗する声

写真集ひきがね 抵抗する写真×抵抗する声


さて、素晴らしい映画を見てしまいました。他にも映画の感想が溜まっているんですが、もうすぐ公開が終わりそうなので、こちらを優先します。冒頭にTVの悪口を書きましたけど、その舌の根も乾かぬうちに、まともなものもある、というお話です(笑)。
                                    
2011年の311直前に公開された、神戸大震災をテーマにしたNHKドラマを劇映画化した『その街のこども 劇場版』はすばらしい作品でした2011-01-24 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。震災から10年後、佐藤江梨子森山未來が演じる若い男女が、神戸の街を一晩中 歩き続ける(だけ)という、この作品の美しい映像と音楽は、ボクにとって生涯ベスト10に入る文字通り、宝物のような作品です。監督の井上鑑、音楽の大友良英、この二人は、その後『あまちゃん』を作り、大ブームを巻き起こしたのは皆さんも記憶に新しいと思います。『その街のこども』も『あまちゃん』もスタイルはだいぶ違いますが、多くの人に忘れ得ぬ傷を残した災害とそこからゆっくりと立ち上がろうとする人の心の奥底を静かに描いたという点では本質は同じでした。

その街のこども 劇場版 [DVD]

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この映画はその二人が再びタッグを組んで、福島の原発事故をテーマに描いた作品です。
青山のイメージフォーラムで映画『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版福岡の消費者金融でお金を借りるなら

福島県東日本大震災に被災し、神戸に避難している女子高三年生の朝海(石井杏奈)のもとに、福島に残った同級生の本気(前田航基)から「母校の校庭に埋めたタイムカプセルを掘りに行こう」とメールが届く。朝海は神戸や横浜に避難している同級生、それに女子高の教師と一緒に、原発周辺の立ち入り禁止区域内の母校へ向かう。

                                        
この作品が昨年3月にNHKでTVドラマとして放映されたときは全くピンと来ませんでした。物語の最初の方で神戸の震災後作られて 実際に現地で歌われたという『しあわせ運べるように』という曲が流されるのですが、まず、それがどうにも耐えられなかったのです。『地震にも負けない 強い心を持って 亡くなった方々のぶんも毎日を 大切に生きていこう 傷ついた神戸をもとの姿に戻そう』という歌詞を聞いただけでボクはもうダメ。キモい。スピーチならまだしも、歌で歌われたら押しつけがましくて耳が腐りそうです。ボクはそこでドラマを見るのは止めてしまいました。
                                                       
ですが、『その街のこども』、『あまちゃん』というボクにとっては超Aクラス作品を作ったクリエイターですので、そんなはずはない、と思って、今回 映画版を未練がましく見に行ったわけです(笑)。今回の上映はTVで放映されたものに約30分追加され劇映画の体裁になっています。小劇場と言えどもスクリーンの大画面と音楽の音量、それに追加映像の効果は後で思い知ります。TVドラマとは全くの別物だったんです。

                         
映画ではまず、主人公が通う神戸の高校で若い高校教師が卒業記念の合唱会で『しあわせ運べるように』をやりたいと言い出します。高校教師は震災で兄を亡くしているため、この歌に思い入れがあるのです。だけど福島から神戸に避難してきている主人公の朝海はそれに猛反発します。浪江町(映画では名前は変えてあります)に住んでいた彼女にしてみれば、歌詞にあるように故郷が元の姿に戻せるはずがないから、です。折しも福島の二本松市に避難している同級生から『小学生の時 校庭に埋めたタイムカプセルを掘りに行こう』というLineを受けた彼女は各駅停車に乗って福島へ向かいます。
                              
神戸の駅、電車の中、途中下車する駅のホーム、その中に登場人物たちは溶け込んでいる。画面はまるでドキュメンタリーを見ているようです。二本松の駅で降りた彼らは検問をすり抜けて、故郷へ向かいます。

主人公の朝海を演じる石井杏奈という子はE-Girlsのメンバーだそうですが、殆ど化粧をしてない地味な顔は全くそうは見えません(笑)。表情豊かで意志が強そうな彼女には確かに主役にふさわしい、ちょっとしたカリスマを感じます。
●オレンジのスカーフを巻いたのが石井杏奈。赤髪の子はSDN48の子だそうです。どっちも今時の子という感じは良く出ていました。

神戸に避難した子、横浜へ避難した子、福島に残った子、子供たちはそれぞれ複雑な事情を抱えています。彼らは自分からは語らないけれど、時折、まるでこぼれおちるように事情が伝わってくる。それを知る度に観客のボクは不意を突かれ、打ちのめされます。

                                          
子供たちが故郷へ向かう途中で出会う大人たちも色々な人がいます。ニコッと笑って子供たちを見逃す検問所のガードマンが居ます。汚染地区に残っている牛に餌を運び続ける農場主が居ます。中村獅童が演じる農場主は勿論、時々官邸前抗議にも加わる『希望の牧場』のあの人がモデルでしょう。ともさかりえが演じるスナックの女は廃墟の街で津波に流された夫の帰りを延々待ち続けます。夫が見つからないことを祈りながら。
●スナックの前で

                                                                                        
この映画は本当に現地で撮影しています。廃墟の街、何もなくなった海辺の光景、家が流された後に残った土台、放射能などないように見える生命感あふれる緑の山と美しい海。その中で子供たちは時折会話を交わし、避難区域のなかを歩き続けます。
●廃墟となった海岸を歩く子供たち

●5年前の海岸はこうなっていたわけです。う〜ん。

                                             
映画の中での会話はそれほど多くありません。特にこの風景を目にしたら、なかなか言葉は出せません。それを補っているのが大友良英の音楽です。怒りも悲しみも寂しさも喜びも、子供たちの気持ちを表現するかのようにタイミングも音色もぴったりの音を挿入し続けます。ホントに素晴らしい劇伴です。
●フィードバックを多用した音楽は『その街のこども』の続編のような感じです。美しい。

                                            
後半になると映画はドキュメンタリー的な描写に幻想的な描写が入りこんできます。その白眉は、まだ住民が戻っていない浪江の街で実際に撮影した盆踊りのシーンです。出演しているのはクレジットに記載がある浪江町NPOの人たちでしょう。短い夏を彩る東北の祭りらしい華やかな夜の光景が、今も住民が帰ることができない地域になっている浪江町で再現されます。その櫓の上で『GIGつもり』という歌を二階堂和美が歌います。この歌は福島出身の大友良英が実際に続けている復興活動の中から出てきたものです。
                                       
放射能はない つもり  爆発なんてない つもり
強い絆がある つもり  だから心配ない つもり
(中略)
311はなかった つもり   地震津波もない つもり
日本はひとつである つもり   それで安心な つもり
地球はつもりで回ってる  みんなはつもりで歩いてく
そういうつもりで眺めてみれば  僕らはみんな生きている

                                    
こんな歌詞の曲をよくNHKでオンエアしたなあ(笑)。
●これを本当に現地で撮ったんです。ボランティア出演した浪江の人たちの意地を感じます。


子供たちは小学校にたどり着き、フレコンバッグと瓦礫が積まれている校庭で小学生の時に埋めたタイムカプセルを掘り返します。彼ら・彼女らは小学生のときに夢見ていたこと、失ったことを瓦礫の中で思い返します。

                                                                 
誰もいない校舎の屋上に浅海は登っていきます。目の前には綺麗な海と青い空、原発の煙突、それにフレコンバッグと瓦礫が広がっている。理不尽な現実を目の前にして朝海はあることに気が付きます。廃墟を前にして、『生きる』と言うことを彼女なりに理解するのです。そのことで彼女は現実に『勝利』したかのようです。映画でも音楽でも絵画でも小説でも、時に芸術は現実を乗り越えることがあります。この映画には、人間が理不尽な現実を乗り越える瞬間が描かれています。それが例え一瞬でもいいじゃないですか。

                                    
映画の最後にもう一度『しあわせ運べるように』が流れます。旅の途中 高校教師は『この歌を歌わせるのは福島の人にとっては暴力だ』と気が付いています。ですが、浅海は今度は歌います。もう、この歌の違和感も押し付けがましさも感じられないのです。どういうことなのか、と思いますでしょ(笑)。それが芸術の力です。
                                                      
この映画は視線は優しいけれど、無謀でラディカルで、そして観る人の心を文字通り震わせます。途中で、ボクは何度も嗚咽しました。それしかできなかった。10年間の記憶を一夜の出来事に凝集させたかのような『その街のこどもとは完成度は違うけれど、5年間経っても消えない怒りと現実の理不尽さにイマジネーションの力を借りて抵抗するLIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』もまた、圧倒的な傑作だと思います。必見。