特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『ブリッジ・オブ・スパイ』と映画『ムーン・ウォーカーズ』

いやあ〜寒いです。毎年書いている話ですが、人間もクマちゃん達のように冬眠したらどうなんでしょうか。体にも楽だし、この時期だけでも人間の活動が減れば、環境問題だって粗方解決するでしょう。目まぐるしい世の中ですが、もう少し、のんびり行きたいですよ。

                                       
昨日の宜野湾市長選の結果には考えさせられるものがありました。残念だけど、残念がってるだけじゃ能がない(笑)。ここから何か教訓を学び取らなければいけないと思います。得票差は前回選挙の数百票差から約6000票差に広がりました。ボクですら、宜野湾の市長選で辺野古反対を中心に訴える野党の選挙はややムリがあるとは思いました。朝日新聞によると 政府が支援する現職には若い人、それに辺野古移設に反対の人の24%が投票したそうですhttp://www.asahi.com/articles/DA3S12176451.html。この結果は参院選にも教訓になるのではないでしょうか。オール野党の態勢を組んでも安保反対や改憲反対だけじゃ、民意の受け皿にはならない。若い人は勿論、誰にだって生活がありますからね。
                                       
それと同じような結果は今夏の参院選に関する今朝の日経の調査にも表れています政権批判層、行き場なく 本社世論調査 :日本経済新聞

                                    
さすがにもう、アベノミクスの化けの皮は剥がれてきたようです。これだけ食料品が高くなれば当然ですよね。ボクの意見も慰安婦像以外は全てこの多数意見と一致します。ところが政党支持率はこうなっています。

前回13年の選挙と比べて、与党合計も野党合計も支持率を大きく下げています。自民党の支持は減っています。ですが野党の側も受け皿になれないのですね。増えているのは無党派です。与党も酷いが野党も酷い、これが国民の多数意見なんだと思います。

受け皿を作るにはどうしたらよいか、一つは野党共闘、それに加えて不満の受け皿としての政策なんでしょう。アベノミクスの化けの皮が剥がれた今がチャンスのハズなんです。選挙協力は最低条件です。それに加えて『格差解消』などの国民の生活を改善する具体的な方針を出せば、風向きはずいぶん違うと思うんですけどね。
                                

さて、昨日放送されたNHKスペシャル『新・映像の世紀』は面白かったです。第二次大戦後の冷戦で東西両陣営が共に秘密と嘘に覆われる世の中になっていった、と言うものです。東西両陣営が核戦争の恐怖に怯え、赤狩りや盗聴などで国民を弾圧・監視し、CIAとKGBは政府転覆や暗殺などの暗躍を繰り広げた。その結果が中東情勢など今に響いていることも描いていたし、ベトナムでCIAが民間人を2万人殺したことも、キューバ危機で当時 空軍の参謀総長になっていた東京大空襲の主犯カーティス・ルメイが核戦争を主張して沖縄に配備された核ミサイルが発射寸前になったことも知りませんでしたし。絶大な権力をふるったFBI長官のフーバーが女装趣味の同性愛者だったところまで描写してくれれば完璧だったんですけどね(笑)。

                     
この映画も冷戦を描いた作品です。六本木で映画『ブリッジ・オブ・スパイ

舞台は1957年。アメリカでソ連のスパイ、ルドルフが逮捕される。裁判が行われるが、国選弁護人として保険専門の弁護士ドノヴァン(トム・ハンクスが選任される。当時は冷戦の真っただ中、世論はルドルフの死刑を求めており、弁護士のドノヴァンへも嫌がらせや脅迫が殺到する。しかし、ドノヴァンはルドルフを生かしておけば将来役に立つと法廷を説得して死刑を回避させることに成功する。ドノヴァンは裏切り者として世論のバッシングを受ける。3年後 ソ連を飛行するスパイ機U2が撃墜され、パワーズ飛行士がスパイとして捕虜になる。ドノヴァンは極秘の公証人としてパワーズ飛行士との交換を依頼される。交渉の途中 恋人に会いに行った米国人留学生が東ベルリンで捕まったこと がわかる。ドノヴァンはCIAの反対を押し切って、彼も含めて解放させようと東ベルリンへ潜入するが。

そんなお話です。U2撃墜事件に触れられているので判るように、これもまた実話だそうです。スピルバーグの映画って、あんまり見ないのですが、シリアス路線での前作『リンカーン』に感銘したので見に行ってみました。

                        
まず目を惹くのは当時の時代背景です。冷戦の真っただ中、核戦争への恐怖が現実のものになっていました。一般のアメリカ人は狂ったようにソ連を敵視しています。ソ連も同じだったのでしょう。2016年のボクには想像ができない世界です。残っているのは第2次大戦の傷跡。ドノヴァンは人質解放の交渉の為にベルリンへ赴きます。豊かな西ベルリンに対して、東ベルリンは物資もないし、街も再建が進まず、破壊された建物が1961年になっても無残な姿をさらしています。東ドイツの人によると『見せしめの為にソ連が再建を許さないんだ』と言うのです。画面に映されたベルリンの壁を建設する様子も面白かった。手でレンガをくみ上げるようにローテクで壁を作っていく光景は、昨日のNHK新・映像の世紀でも映っていたものと同じでした。
●嫌々ながらソ連スパイの弁護を引き受けるドノヴァン(トム・ハンクス)。右側は妻

                       
映像がどこまで現実に近いのか、当時を見たことがないボクには判断できませんが、スピルバーグのことですからベルリンの壁の建設風景同様、かなりリアルなものなんでしょう。そういうものを実際に自分の眼で見るだけでもイメージが全然違います。冷戦というものは生易しいものではなかったし、かなりの人がイカレていた。核戦争の瀬戸際だったというのもうなづける話です。

                                          
アメリカもソ連の当局者も正常な判断力をなくしています。役所特有の官僚主義も相まって、彼らは短期的な視野でしか物事を判断できないのです。CIAや国務省の役人はこう考えます。スパイはさっさと死刑にすればいいし、パワーズ飛行士は捕まっても自殺しなかったとんでもない奴だ(U2の飛行士は自決用の毒薬を渡されて飛行したそうです)。女の子に逢いに行って東ドイツ当局に捕まった若い学生なんかどうでもいい。国家の目先の利益のためなら犠牲はやむを得ない。何よりも役人にとって所詮は他人事です。
●法廷でのドノヴァンとルドルフ

                                         
日本の原発事故だってそうですよね。福島の被害者に払うお金があんまり大きくなったら財政的な問題が生じる。電気を供給する東京電力も潰すわけにはいかない。だから20ミリシーベルトまでの除染で充分とか、東電の賠償費用を電気料金に上乗せしようという発想が出てきます。短期的な経済メリットの問題かもしれませんが、何か間違ってないか。
●東ベルリンへ入ろうとする人々の列。市井の人々の暮らしの描写が効果的です。

                                           
そんな中で一部の人は理性を保ち続けます。ドノヴァンはアメリカ中から嫌われながらも、自分の仕事を黙々と遂行します。自分の家に石を投げ込まれても、電車の中で冷たい視線にさらされても、彼は自分の仕事を自分が正しいと思ったやり方で進めます。
●ドノヴァンは一人 東ベルリンへ潜入します。公には出来ない交渉のため、誰のサポートもないんです。

                                             
ソ連のスパイのルドルフもそうです。機密情報と引き換えに彼は無罪放免をCIAから持ちかけられます。しかし、彼はそれを拒否して服役します。獄中で沈黙を守りながら、彼は淡々と絵を描き続けるのです。
ソ連KGB東ドイツ双方を相手にしたドノヴァンの一歩も引かない交渉で、パワーズと学生はルドルフと交換になります。パワーズとルドルフは東西両ベルリンをつなぐ橋の上で解放されます。ルドルフはソ連に帰っても裏切り者として殺されるかもしれません。それでも彼は敢然と橋の上を歩んでいきます。
ソ連スパイのルドルフはひたすら自分の使命を果たそうとします。
                                                                                                                           
脚本はコーエン兄弟。派手ではありませんが、しっかりとしたプロットが感動的なお話を支えています。
時代の変化が激しいと世の中の大多数の人は流れに流されるものです。愚か者が振りまく憎しみやデマに惑わされます。そんな中だからこそ個人の敢然とした勇気が世の中を変えていくことを実感させる映画でした。今年のアカデミー作品賞の候補にも挙がっていますが、観ている人に勇気を与える作品です。面白かったです。


                               
こちらも、60年代を描いた映画です。観たのは昨年ですが非常に面白かった。渋谷で映画『ムーンウォーカー

1968年アポロ11号が月面着陸の為に打ち上げられたその時、アメリカは極秘裏にある計画を進めていた。月面着陸が失敗した場合に備えて、着陸が成功したという映画を制作しておくというのだ。そのためにベトナム帰りのCIAの工作員ロン・パールマン)が『2001年宇宙の旅』を撮ったばかりの有名映画監督スタンリー・キューブリックに交渉することになったが

ロン・パールマンってすごいルックスの人です。この顔が出てくるだけで、もう圧倒的な存在感があります。『ドライブ』での悪役も怖かったですけど、『パシフィック・リム』ではこの人の顔は『カイジュウ』より怖かったのは記憶に残っている人も多いと思います。身長190センチ、ゴリラのような肉体も相まって、一度見たら絶対に忘れられない顔です。顔だけで商売できるって、まさにこの人のことだと思います。
●顔だけで飯が食える男!ロン・パールマン

                                                        
今回の作品ではベトナム帰りのCIAの秘密工作員。眉毛一つ動かさずに人を殺す強面です。その彼が秘密映画を作るためにイギリスへ向かいます。『2001年宇宙の旅』を撮ったばかりのスタンリー・キューブリック代理人に会うはずが、手違いで売れないロックバンドのマネージャーを代理人と勘違いしてしまいます。このマネージャー、ホモでクスリが大好きで、仕事は全然できない。ギャングから莫大な借金の取り立てにあっています。彼は口八丁手八丁で秘密工作員から制作費用をふんだくりますが、それを巡ってギャング、さらにはCIAとの抗争が始まります。
●インチキマネージャー(右)と友人に化けさせた偽キューブリック(左)

                                                  
60年代末期の脱力した風俗とロン・パールマンの強面との対比が滅茶苦茶に面白いです。花柄模様のシャツにサイケデリックな色彩、フリーセックス、マリファナにLSD。それに対する堅物の秘密工作員。つい先日までのベトナムのジャングルとのあまりの違いに戸惑うばかりです。

                                              
とにもかくにもマネージャーとその周辺の人材を動員して月面着陸の偽映画を作らせるのですが、連中のあまりの酷さにCIAは業を煮やし、秘密を守るために関係者一同の全員抹殺を決意します。それにギャングが絡んで、大抗争になるのです。
●後ろの背景は絵(笑)。昔 映画の看板などで、やたらとリアルな絵ってありましたよね。

                                        
こういうコメディ映画はあらすじを書けないのが残念ですが、昨年見たコメディの中では『キングズマン』と双璧なくらい面白かった。予算といい、配役といい、対照的な作品ですが。面白かったですよ〜