特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

TVドキュメンタリー2題:『「報道の魂」 -民主主義 何度でも-』と映画『ヤクザと憲法』

今日の東京は6センチの降雪で通勤が大変でした。雪国の人からみたらお笑い草なんでしょうけど、東京の人間からしたら6センチの雪なんて命がけです(笑)。こういう時は、運行を維持するために懸命に雪かきしたり、びしょびしょになりながら人混みの整理をしている鉄道やバス会社の人には頭が下がります。
●今日の通勤電車はこんな感じです(笑)昭和毎日:買い出し列車 - 毎日jp(毎日新聞)

                              

さて、台湾の総統・議会選挙で野党 民進党が勝ちました。ボクは詳しいことは知りませんが、2年前 政府が中国との通商協定を強引に進めることに抗議して学生たちが国会を占拠した『ひまわり学生運動』が大きな影響を与えたそうです。実際 ひまわり学生運動の流れから議員も5名も誕生しています。http://www.asahi.com/articles/ASJ1J5K1HJ1JUHBI01G.html
民進党は2000年〜2008年、初めて政権を握ったものの、トップの汚職など失政が続き、散々の体で下野したそうです。今回 政権を 奪回したのは、『党のトップが失政の責任を取って交代した』『中国とも共存する現実的な路線を選択した』、この2つが大きかったのだと思います。
政権を握ったものの、うまく行かなかったのは日本の民主党も同じです。ボクも政権当時の民主党に呆れかえった一人ですが、自民党以外の現実的な選択肢と言うと現時点では民主党しか見えないのも確かです(もちろん他にマトモな政党が出てくればよいのですが)。民進党もこれからがいばらの道だと思いますが、日本の民主党、いやリベラル勢力の再生を図る上で今回の出来事から見習うべきことは多いと思いました。


最近、TVキャスターの退陣が何人も重なっています。確かに安倍政権になって政権側の圧力は強まっているかもしれません。が、少しTVを過大評価しているのではないでしょうか。だいたい真面目にモノを考えるためにはTVなんて、殆ど役に立たない、と思うんですよね。良く引き合いに出される報道ステーション』なんて間違いも多いし、突っ込みも足りないし、あんなもの、大人が真面目に見るようなものじゃありません政府の圧力に悲憤慷慨(笑)するより、もっと自分の判断力を磨いたほうがいいんじゃないか、と言いたくなります。もともと物事を考えさせるような、まともなTV番組なんて数えるほどでしょう。報道・ドキュメンタリーで言えばNHKの『クローズアップ現代』(確かに、時々誤報やいい加減なものもありましたが)や『ドキュメント72時間』、TBSの『報道特集』、BS-TBSの『週刊報道LIFE』、それに深夜にやっている幾つかのドキュメンタリーくらいしか思い当たりません。
                                                                              
そういえば昨晩 TBS深夜のドキュメンタリー、『報道の魂』で『民主主義 何度でも SEALDs2年間の軌跡』と言う特集をやっていました。報道の魂。先日BS-TBSで放送したSEALDsの活動の様子、それに今夏『特攻隊で死んだ仲間が生まれ変わって国会前にいるんじゃないか』という感動的な投書を新聞に寄せた元予科練の加藤さん(86歳)にSEALDsの子が会いに行った様子が描かれていました。
番組はSEALDsの前身SASPLが特定秘密保護法に反対するデモで『民主主義が終わったのなら始めればいい』とコールするところから始まります。それが2015年にSEALDsに発展、抗議は大きくなっていきます。その夏 彼らは投書を寄せた加藤さんに逢いに行きます。投書だけでなく加藤さんの話は感動的でした。予科練では学生たちは人間ではなく、消耗品扱いされていたそうです。それでも特攻機は突入の瞬間 大抵モールス信号を『ツー』と押したままにする。『死にたくない、繋がっていたい』と思っていたからだ、と加藤さんは言います。
●加藤さん(86歳)はデモの光景を見て、鼻を詰まらせながら『俺たちはミジメだったなあ』と述懐します。

加藤さんはこうも言います。『憲法は希望だった。何もかも終わったところから希望は始まったんだ』。奇しくも冒頭の『終わったのなら始めればいい』という学生たちのコールとシンクロするのです。

                                       
番組は昨年12月6日の銀座のデモでKEEP CALM and NO WAR ★1206銀座大行進 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)、バカ右翼の街宣車が隊列に突っ込んできた時、参加者が『民主主義ってなんだ!』とコールして押し返すところで終わります。暴力的な白痴右翼を目の前にしても元気いっぱい、多くの人が笑顔です。この声と笑顔こそが民主主義なんだと思います。
売国右翼が突っ込んできた時のコール&レスポンス。笑顔です!


コンパクトな番組でしたが、感動的な30分でした(番組はネットで有料配信しています)。



良質なドキュメンタリーを作っているいくつかの民放のなかでも東海TVは秀作を生んでいるそうです。戸塚ヨットスクールの番組は東京でも映画として公開されて話題になりました。今回はそのドキュメンタリー番組から劇場公開された作品です(放送時のものとは内容は若干違っているそうです)。
東中野で映画『ヤクザと憲法』。映画『ヤクザと憲法』公式サイト

●ネットの紹介記事:高収入TVマンが“社会的弱者”のヤクザに100日密着「それマシンガンですか?」 | プレジデントオンライン

                      
東海TVが約100日間 堺の暴力団の事務所に密着ルポをしたものです。映画ではまず、撮影に際して監督が組長と約束した取り決めが流されます。
「謝礼金は一切支払わない」
「モザイクはかけない」
「撮影素材を事前に見せない」
ヤクザがどうしてこんな取り決めに納得したのでしょうか。

そのあとカメラは堺の暴力団事務所へ入っていきます。建物の周りにはビデオカメラがいくつも設置され、狭い階段を登らなければ事務所にたどり着けないようになっています。扉は鉄製、防弾仕様(笑)。暴力団の中でも本当にやばそうな、戦闘態勢の事務所です。
●事務所の様子

二代目東組二代目清勇会。玄関すぐわきの事務所には応接間と作業机、それに組員が3,4人たむろしています。カメラを抱えた、細くて弱そうなインタビューアー(監督?)は結構、ズバズバと質問をします。『事務所に銃は無いんですか』、細長いバックを見ると『これはマシンガンですか?』
率直な質問に組員は苦笑しながら『そんなものあるわけないだろう』と答えます。『銃は非合法なんだよ』とまで言うからには絶対、どこかにあるに違いありません(笑)。若い子が一人いますが、あとは年配の人ばかりです。やくざも高齢化していると言いますが、なるほどと思いました。
事務所の光景の次に出てくるのは会長です。彼は山口組との抗争で一般人を巻き添えにして15年の実刑を受けています。それが暴対法改正のきっかけになったそうです。だけどこの人、ルックスが格好いい。俳優みたいです。精悍な感じは61歳には見えません。
●ルックスはかっこいい。


カメラは会長が新世界を歩くのに同行します。彼の歩く姿は威張った感じもないし、そこいらのアンちゃんみたいな感じで、ヤクザには見えません。途中入った飲み屋では焼き鳥を食べながら飲み屋のオバちゃんと談笑します。彼女は会長とタメ口で話します。『ヤクザと言っても全然怖いことあらへん。警察は守ってくれへんもん。』 組長もゲラゲラ笑っています。ここでも全然威張った感じがないのが意外でした。そのあと会長とカメラは色町の方へ回るのですが、普段は絶対撮影できないような非合法なところでも、一緒だと全く平気だったのは流石です。
●カメラの前で組長がヤクザの組織図を書いて説明してくれます。全然知らなかったので勉強になりました(笑)。

ヤクザの月例会議というのが面白かった。まるで地方の営業所の営業会議みたいなんです。組長が前に座って、その月の売上?とか連絡事項を組員に伝えるのです。やくざも組織という面では企業と変わらないんだと思いました。その会議に出ていた49歳の元ペンキ屋の組員は、商売がうまく行かなくなったとき、組長が助けてくれたからヤクザになったそうです。『どうしてヤクザになったのですか』と言うインタビューアーに対して『今の社会で本当に困ったとき、あんたのこと助けてくれる人が居ますか?』と逆に問いかけます。その問いにインタビューアーは返答ができない。映画の後半、彼は詐欺容疑で捕まります。
                                     
●元ペンキ屋のワンルームにて。親切に受け答えしていた彼も服を脱ぐとこの通り

                     
カメラは山口組の顧問弁護士にも密着します。さぞ儲かっているのかと思ったら、全然そうでもないそうです。事務員のおばちゃんはカメラの前で山口組からは月10万しかもらってないと断言します。弁護士事務所の経営も苦しくて、かっては事務員が何人もいたのに、今はそのおばちゃんだけだそうです。他の客はやはり二の足を踏むから、顧客はどんどん減っているからです。しかも警察からは嫌がらせのような訴訟を何度もおこされています。ぼろい工場の3万円のドアを壊すことを教唆したとかしないとか、通常だったら事件になるかどうかわからない、そんな話です。そんな嫌がらせを受け続けて、彼はなぜ顧問弁護士を続けるのか。それは山口組の組長と人間関係ができているから、なんだそうです。
                                   
最年少、21歳の若い子は組の事務所の3階に住んで、月2万円の小遣いをもらって生活しています。丸刈りでメガネをかけた、真面目そうな子です。そんな彼は宮崎学の本を読んで憧れて入ってきたようです。それほどバカじゃない。そんな子が見通しも暗い業界にどうして入ってきたんだろう、と思ったんですけど、彼なりに考えがあるのでしょう。彼は60過ぎの幹部から子供のように可愛がられています。でも、しばかれる時は理不尽だしマジで怖い。ヤクザはきれいごとだけの世界ではありません。

カメラはヤクザの負の面も捉えています。ペンキ屋の組員のシノギのシーン(覚せい剤?)、その組員が恐喝で逮捕されるところ、事務所で野球賭博のカネの計算をするところ、若い子が上司に文字通り張り倒されるところ、警察が事務所に手入れに入るシーンもあります(警察のほうがヤクザより遥かに乱暴でした)。
●警察の手入れ風景。法的な権限がないにも関わらず、彼らは取材を妨害します。

ヤクザはなぜカメラの取材を受けたのでしょうか。組長は『我々には人権がないのか』と言うのです。銀行口座も作れない、ゴルフもいけない、出前も取れない、子供は幼稚園に行くのを断られる。『法の下の平等を保障した憲法14条はどうなっているんだ』と言うんです。その点については彼の言い分は正しい。
●葬式にて。組長の後ろは幹部が控えます。

                      
今 ヤクザは全国に約3万人、だそうです。思ったより少ない。弁護士事務所のおばちゃんが『今のヤクザはカネないで〜』と言ってましたが、画面で見る彼らは誰も金回りが厳しそうでした。彼らは絶滅危惧種なんでしょうか。確かに迷惑な存在ではあります。『任侠道』の文字が事務所にも大きく貼ってありますが、彼らは間違いなく一般人に迷惑をかけている存在です。やはり、できればいなくなってもらったほうがいい。しかし、ここにしか居場所がない人もいる。それもまた事実。それを自己責任と片づけて放置したり、社会的に抹殺することに果たして社会にとってメリットがあるのか。彼らを排除するだけで問題の解決になるのでしょうか。やくざでなく、半グレとか他の形態になるだけではないのか。そして次に排除されるのは我々かもしれません。
●事務所3Fの居住区に張ってある『任侠道』の文字

普段は見たことがない世界、画面で見るだけでも単純に面白かったです。だけど、ただ面白いだけでなく考えさせられる優れたドキュメンタリーでした。こういうものがなぜ全国ネットでゴールデンタイムに流れないのか。それこそがTVの価値じゃないでしょうか。また視聴者もなぜ、そういうものを求めないのか。映画館はほぼ満員が続いていて、大ヒット上映中?だそうです。