特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『さようなら』と『007 スペクター』

今日 4日から出勤です。ああ、これをあと何回、繰り返さなければいけないんでしょうか(泣)。よく定年が嫌だと言ってる人がいますけど、全く信じられない。ボクは今から指折り数えて定年を待ち続けています。
                                          
お正月は毎年、実家近くのホテルに親戚一同が集まるんです。20年以上 同じホテルなので定点観測みたいでもあるのですが、今年はホテルに来て居る人が今までにも増して歳を取っているのを感じました。我々の親戚も含め、やたらと杖を突いたり、車いすの人が多い。お正月だから子供たちもホテルの廊下を走り回ってはいますけど、圧倒的にお年寄ばかりです。ホテルと言うより老人ホームみたいで、都心の少子高齢化の進行を目の当たりにするかのようでした。新年早々暗いことを言うのもなんですが、これじゃあどう考えても、このホテルも日本の先行きも暗い(笑)。他にも品の良さそうなワンピースを着た中年女性が老婦人に『お義母さま』と声をかけているのを見て『おお、TVドラマみたいだ〜』とか思ったりして、普段見慣れない光景はそれなりに面白かったです。
●ホテルの玄関にて:多くの人がこの前で写真を撮っていました。最近は門松を飾っている家も少なくなったと思います。


今日から国会ですが、やはり選挙のことが気になります。
選挙情勢を分析してくれているこのサイト2016年参院選情勢――野党共闘にかかわらず与党過半数がすでに濃厚。閣外改憲勢力と合わせて3分の2までの到達の可能性も。改憲か護憲か、接戦区と比例で最後の1議席の勝負に - はるノート選挙分析によると、今夏の参院選では与野党の改選数からして、野党が共闘しても過半数はおろか、自公・大阪維新改憲に必要な3分の2を取るのを防げるかどうか微妙 (2014年選挙の投票結果をベースとする)だそうです。ボク自身、このデータの検証はしてないんですけど、2014年の低投票率に加えて、大阪維新改憲色を一層明確にしてきていますから、現状はこれくらいと考えるのが良いかもしれません。このざまじゃ、1議席だって惜しいですから『民主のバカ右派を叩き出せ』とか言ってる場合じゃないかもしれない。現実は安保法案を潰すどころか、今は改憲の瀬戸際らしい。
●今回の選挙の見通しが厳しいのは野党の改選議席が多いためです。改選で改憲勢力が半分の議席でも獲得すれば簡単に3分の2に到達します。

                             

だから今は投票率を上げることが最も重要だし、そのためには国民の関心を高める対立軸を打ち出していくしかありません。安保や立憲主義だけで国民の関心を高めることが出来るのか微妙だと思いますし、今国会で野党が訴えるという『軽減税率の税源』や『政治とカネ』が国民の関心を十分に惹く、とはボクは思いません。それでなくとも新聞=マスコミは軽減税率では政府の味方をするでしょうし。ボクが考えるとしたら、政府との対立軸は『格差』、『経済』、『若者』でしょうか(て、いうか民主党世論調査くらいやれよ。1000万くらいかければ最低限のものは出来るんじゃないでしょうか)。
トランプやル・ペンなど、ポピュリズムの風が世界中で吹き荒れていると言われています。軽減税率の賛成者のほうが多い日本だって、ポピュリズムと言う面ではあまり変わりがありません。現実には改憲を防ぐよう目一杯の努力をしながら、10年くらいかけてリベラルな勢力(というか常識人の勢力)の再建、新生を図っていくしかないんでしょう。
                                                                                                       
さて、新年にふさわしい(笑)映画の感想を。新宿で映画『さようなら
映画『さようなら』公式サイト 11月21日(土)全国ロードショー

                                                        
深田監督の前作『ほとりの朔子』は多くの人が人生の一時期に感じるであろう、ある種の焦燥感や諦観をうまく表現した、忘れがたい映画でした。エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』の設定・スタイルを本歌取りしながら、見る価値がある映画になっていました。
●どっちも大好き!

                                           
今回は民主党政権の内閣参与だった劇作家の平田オリザのアンドロイドをテーマにした原作を元に、監督が脚本を書いたものだそうです。

舞台は将来の日本。複数の原子力発電所が事故を起こし、放射能汚染が日本全土に広がっている。国民は難民として国外へ避難する順番を待ちながら、不安を抱えながら暮らしていた。主人公のターニャは高原の山荘で話し相手として両親が買い与えたアンドロイドと一緒に暮らしている。彼女は南アフリカからの難民として日本に入国した経緯もあり、避難の順番が遅れている。主人公の周りに残っているのはシングルマザーや在日朝鮮人避難の優先順位が低いと思われる者ばかりになり、人が減った社会も徐々に機能を失っていく‐- -
●主人公のターニャ(右)と唯一の話し相手であるアンドロイド。太陽電池で動くアンドロイドは足が故障して車いすを使っているという設定。


原発事故で日本人が難民化する、という設定は秀逸だと思います。これが他人事とは思えない。口では不満を漏らしつつも、結局は政府が決める避難の順番を大人しく待っている日本人たちの姿もきっとこうなるだろう、と思わせます。日本人たちは色々な国、例えばインドネシア、オーストラリアとばらばらに散っていきます。表向きは避難する順番は抽選、ということになっていますが、実際に残っているのは子供を産まないであろう年代のシングルマザーや在日朝鮮人の主人公の恋人、そして主人公のような難民が目につきます。主人公は南アで黒人が政権を取った後、母国に居辛くなって日本に逃れてきた、という設定です。

●ターニャ(左)は南アからの難民、恋人(新井浩文、右)は在日朝鮮人。二人には避難の順番がなかなか回ってきません。

病弱な主人公は高原の山荘に独り住んでいます。時折 恋人や友人が訪ねてはきますが、普段の話し相手はかって親が話し相手として買い与えたアンドロイドです。このアンドロイドは現実に大阪大学が開発した女性型アンドロイドで、TVなどで度々見かけたことがあります。言葉は普通にしゃべれますし、表情もそれなりに表現できます。最初はなんでアンドロイドなんか出すのか意味が分からなかったのですが、人が段々減っていく中 物語の中でアンドロイドの存在感が画面の中でどんどん増していくのです。


                                             
映画では美しい自然の光景が執拗に(笑)挿入されます。人が見えなくなった田舎町やすすき野、高く澄み切った青空、日本の光景って綺麗なんだなと改めて思い起こさせます。人間社会と対照的な美しさですが、その光景は放射能で汚染されています。食料やガソリンが不足し始め、電気が止まり、郵便も止まる。日本という社会は静かに崩壊していきます。この静かな崩壊の過程は恐ろしいものではありますけれど、映像で見ると非常に魅力的にも見えるんです。それはなぜでしょうか。

そして、誰も居なくなる。残っているのは自然と太陽電池で動くアンドロイドだけ。画面の中でアンドロイドがやっているのは何なんでしょうか。演技なのかプログラム通り動いているだけなのか、一体何なんでしょうか?
●阪大が開発したこのアンドロイド、時々TVなどに出てくるようですね。ちょっとマツコ・デラックスに似ている

                                             
主人公が見たいと願っていた花を見に行こうとするアンドロイドの姿を『希望』と称する映画評もありましたが、ボクにはそう思えなかった。登場人物が全て死んだら、普通、映画は終わりです。でも、この映画は終わりじゃない。観客はアンドロイドを見ているのか?自然を見ているのか?ボクはいったい何を見ているのだろうか。大した映画体験です。


                                                       
誰も居なくなった世界は悲劇かもしれないけれど、それはそれでいいんじゃないか、とも思えてしまいます。それでも世界は続いていく。現実世界でも映画でも、普段は人間が存在しているのは当たり前です。けれで、実はそうでもないのかもしれません。誰も居なくても世界は続いていく。所詮 人間なんてちっぽけなものです。そういうことも含めて、ボクは面白かった。ネヴィル・シュートの大名作SF『渚にて』を思い出すような映画でした。

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もう一つは、六本木で映画『007 スペクター

メキシコ、ローマ、オーストリア、モロッコ、ロンドンと企業とタイアップした世界名所めぐりをしながら、ジェームス・ボンドが悪人との戦いと美女とのロマンスを繰り広げます。
まあ、お話の筋はいいんじゃないでしょうか(笑)。昔の007って男尊女卑的なイメージ、女性がまるで商品のように扱われていて、どうにも馴染めなかったんですが、最近は女性上司がでてきたり、女性が一人の人間として描かれるようになったり、だいぶ近代化されました。なによりも今の007役ダニエル・クレイグのルックスが品があって結構好きなんです。スーツが死ぬほど似合うハンサムというだけでなく、敵方に拷問を受ける顔が何となく嬉しそうなところ(笑)が良いんです。彼が拷問を受けるシーンは毎回ありますから、たぶん制作側もチャームポイントを判っているんじゃないでしょうか(笑)。

今回のヒロインはレア・セドゥ。正統派美人というわけではないけれど、個性的で実にいい女だなあ、と感心しながら見ていたら、『アデル、ブルーは熱い色』で強烈なレズビアンカップル(主人公の相手役の美大生)を演じて、カンヌでグランプリをとった人でした。精神的にも経済的にも自立した女、ボンドと対等に恋に落ちる女(当たり前ですけどね)を魅力的に演じて居ました。
●『アデル』で凄いシーンを演じていたので、ボクはこの人はレズに違いないと勝手に思ってたんですが、違ったみたい(笑)

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上司役はレイフ・ファインズだし、悪役はクリストフ・ヴァルツに、『パレードへようこそ』、『ジミー 野を駆ける伝説』に出てた個人的に好感度抜群のアンドリュー・スコット君だし、観ていて実に楽しかったです。
冒頭のシーンだけで1000人以上のエキストラとか、世界の観光名所で暴れまわるところとか、お金が滅茶苦茶にかかっています。製作費は3億ドルとか言われてます。普段ボクが見る映画とは全然違う(笑)。エンドクレジットには会計係の名前が20人くらい並んでいます。映画というより産業です。クレジットと言えばダニエル・クレイグの衣裳担当も10人以上並んでいます。あれだけ格好良く見えるのはそういうからくりなんですね。
ダニエル・クレイグレイフ・ファインズ洋服屋のカタログから出てきたみたいです。


                                           
ボクは過去の007シリーズへのオマージュとかスパイ・アクションとかそういうものは1ミリたりとも興味ありません。8割がたは動く洋服カタログ、兼世界名所めぐり (残りはレア・セドゥちゃん)として見てました。クライマックスで『なんで、モーターボートがヘリより速いんだよ』なんてことは言いっこなし(笑)。前作の『スカイフォール』の方が主題歌も内容も良かったとは思いますけど、たまにはこれだけお金がかかった映画も面白かった。満足しました。