特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『1114 No Base 辺野古緊急アピール@新宿東口アルタ前』と映画『アクトレス』

土曜日はパリでのテロ、韓国での大規模反政府集会、ベイルートでのテロと驚くようなニュースがありました。こういうテロが起きると頭が悪い奴が問題を移民に絡めたり、武力でどうにかしようとか言い出すものです。だけどフランスはシャルリ・エブドの事件があったばかりで警戒はしていたはずです。確かにISの連中は頭がおかしいのでしょうが、今回のような事件が起きるのは、問題は武力だけでは解決できない、ということを証明していると思います。それにしてもパリの件にしてもベイルートの件にしても、こんな大変なことが起きているのに日本のTVは定時ニュース以外に報じない。非常に違和感を持ちます。
                                                                                
土曜日、SEALDsの子たちが『辺野古基地建設に反対する全国一斉行動』をするというので新宿まで行ってきました。同様の行動は東京だけでなく、名古屋、沖縄辺野古基地ベース前、前日は神戸でも行われたそうです。
生憎 東京は雨模様でしたが、会場の新宿アルタ前は人で一杯でした。参加者は年配の人だけでなく、若い子、特に今時の恰好をした女の子も結構いる。男はダメだなあ(笑)。その日のステージになる街宣車の上では反原連のTシャツを着たおっちゃんがPAの準備をしていました(笑)。

                                                    
街宣はSEALDsの子が自分たちの声明を読み上げるところから始まりましたSEALDs辺野古新基地建設声明。そのあと沖縄出身の共産党赤嶺政賢衆院議員と沖縄社会大衆党糸数慶子参院議員、それに学者の会から専修大の白藤教授(行政法)のスピーチが続きました。
●順に赤嶺氏、糸数氏、白藤教授


共産党の議員のスピーチはただの事実の羅列で全く面白くなかったけど、沖縄の人のいいおっちゃんという感じでしたので、まあ 仕方がありません(笑)。白藤教授によると今回 沖縄防衛局が行政不服審査法に基づき国土交通大臣に対し審査請求をするとともに執行停止措置の申し立てをしたことについて、たった5日間で日本に約400人居る行政法の学者のうち100人が政府への抗議に名を連ねたそうです。確かに政府機関が国民のふりをして不服審査を申し込むなんて、どう考えても頭がおかしいだろって(怒)。安保法案もそうですが、こんなの法治国家でも何でもねえよ。
                                                                                          
それからスペシャルゲストということでソウル・フラワー・ユニオン中川敬氏がギターを持って登場しました。悪いけど、これは苦手。日本のフォークや自意識過剰の私小説の出来損ないみたいな、歌詞だけで訴えるような音楽(そんなもの音楽じゃねえよ)って耐えられないんです。ボクはディランやエリック・アンダーソンは好きですから(笑)、フォークがダメというんじゃないんです。往々にして日本のこういう音楽は押しつけがましくて幼稚だから嫌いなんです。中川氏は辺野古がどうのこうのという曲を何曲か歌ったみたいですが、気持ち悪いのでボクはずっとiPodを聞いてました。歌が始まって帰る人もいたので、ボクのように感じた人も多少は居たんじゃないでしょうか。そう考えれば渋谷のスチャダラパーは良かったなあSEALDs@10/18渋谷街宣と映画『ピッチ・パーフェクト2』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)。やっぱりビート、リズムは必要です。リズムはコトバ、世代を超えて共通ですから(弾き語りだってビートがある音楽はあります)

                              
そのあとは学生たちのスピーチが続きます。沖縄出身の子や辺野古で座り込みに参加した経験を語る子がいました。『沖縄は大好きだけど、沖縄の事なんかわからない私がしゃべっていいのか』といったことを喋っている本土の子もいます。ボクも同感です。本土の人間が沖縄の事を大声で語るなんてことはどうしたって躊躇いがあります。それでも彼らの話を聞いていて、彼らは『自己批判の罠』に捉われていない、と思いました。昔の学生運動には『自己批判』というものがあったと聞きます。学生である自分、先進国に生まれ暮らしている自分、恵まれた自分の存在を問い直す、というものだと聞いています。それはそれで貴い発想だと思います。だけど、その結果は何も生み出さなかった。自分を追い詰めた果てに、憎しみが他人に向かって内ゲバやテロに走ったり、あっさり会社人間に転向したり(笑)、いい歳こいて嫌韓本の読者になってるアホまでいる。自己批判自体は否定しないけど、徹底的に自分を追いつめる自己批判は新しいものを何も産まない、過度な自己批判は罠のようなもの、ってボクは思うんです。
●ボクのプラカード(笑)

                                                  
だけど SEALDsに参加しているような子たちは自分に疑問を持ちつつも『じゃあ、どうする』ということに眼が向いているように見えます。前を見ているんですね。勿論 彼らだって自分に疑問を持っている。でも客観的に考えれば、間違ってもいいから、言葉にすること、行動してみることは自己批判より大事に決まっています。                                                 
この日の街宣はコールがありませんでした。国会前で先頭に立ってラップをかましていた牛田君も街宣車の上に居たけれど、スピーチをする子の後ろでプラカードを持っているだけでした。同じ日に行われた福山哲郎志位和夫が参加した名古屋は盛り上がったみたいですが、新宿はあくまでもスピーチだけでした。その理由は商業施設が林立している新宿だから、なのかもしれませんが(判りません)、黙らないけれども声高に主張を唱えないことは彼らの沖縄への想い、なのかなと思いました。

●この子たちのスピーチは凄く良かったなあ



●霞みの中の新宿

●抗議風景



●この日の街宣を伝えるニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151114/k10010306091000.html
http://mainichi.jp/select/news/20151115k0000m040018000c.html




今週の映画は、銀座で『アクトレス

大女優マリア(ジュリエット・ビノシュ)は個人秘書兼マネージャーのヴァレンティン(クリステン・スチュワート)と世界を股にかけて活躍している。そんな時 彼女は自分の出世作『マローネの蛇』という舞台劇への出演をオファーされる。かって彼女は中年女を誘惑し自滅させる若い女役を演じたが、今度は中年女役を、というのだ。ヴァレンティンとスイスの景勝地の山荘に籠って稽古を続けるマリア。やがて、若い女役のアメリカ人女優(クロエ・グレース・モレッツ)がスイスにやってくるのだが。

映画の構成はまるで舞台劇のように3つに分かれています。

一幕目はマリアとヴァレンティンがマリアの栄誉を称える授賞式に出かけるところから始まります。電車の中でも、出演や取材の依頼への対応からプライヴェートまで、ヴァレンティンはマリアのために献身的に仕事を続けます。一方 マリアは何やら物憂げです。仕事のこと、プライヴェートのこと、大女優と言えども悩みは尽きません。たどりついたのはスイスの高級ホテルです。ファッション雑誌の取材にセレブが集まったパーティ、華やかな女優さんの姿。アラフィフのジュリエット・ビノシュのドレス姿がこれまた、眩いばかりに美しい。昔の男までハエのように寄ってきます。そのパーティで『マローネの蛇』の出演を持ちかけられる彼女。かっては小悪魔のように誘惑する若い女性役を演じた 彼女は、今度は中年女性役です。彼女はオファーを一蹴します。
●美しい〜

華やかな画面に美しい女性、それにアンビバレントな美しい女性の姿、良かった〜。映画が始まる前にグッチのプロモーションフィルムが流れたのですが、第1幕目はそれがグレードアップして、そのまま流れているかのようでした。

二幕目は華やかな世界から一転して、スイスの山荘が舞台になります。マリアとヴァレンティンは山荘に籠って、脚本の読み合わせをします。若い女性が中年女性を誘惑して破滅させる脚本ですが、それが現実の二人の関係に合わさってきます。
●ショートカットにしたジュリエット・ビノシュは一幕目とは打って変わった中年女性の姿を見せます。

                           
美しいアルプスの自然の中には、一幕目から打って変わったような普段着姿の中年女性、そして若い女。ぶつかり合う普段着の感情、密やかな欲望。舞台劇の名称の『マローネの蛇』というのは、実際にスイスのマローネ峠周辺で発生する、初秋の早朝に山の谷間を白い雲がまるで蛇のように長くのびていく現象。その雲が生じると天候が悪化する兆しだ、と言われているそうです。二幕目は二人が現実の『マローネの蛇』を見に行くところでクライマックスを迎えます。
●中年女性と若い女が舞台劇を演じるようにバチバチした葛藤を見せます。


●これがマロ―ネの蛇(この写真は映画とは関係ありません)


                                               
三幕目の舞台はロンドン。いよいよ舞台劇『マローネの蛇』が始まります。そこで若い娘役のアメリカ人女優がスキャンダルを引き起こします。有名芸術家の美人妻のいる作家と不倫関係にある彼女ですが、その妻が自殺を図ったと言うのです。ここでも演劇と現実が交錯します。マリアたちの元にもマスコミやパパラッチが押し寄せて、劇の上映すら危ぶまれます。
●奔放な小悪魔役はぴったり。キックアスのあの娘がこんなに大きくなって(笑)


3人の女優さんが、これでもかとばかりに演技と美を競います。ジュリエット・ビノシュの美熟女ぶりと自分の年齢に当惑する姿、クリステン・スチュワートのいかにもヤンキー娘然とした自由奔放さ(少し前の『アリスのままで』でも同じような役をやってました)、クロエ・グレース・モレッツちゃんの品のある小悪魔ぶりと楽しめる要素が一杯です。一幕目のジュリエット・ビノシュのゴージャスさ、二幕目の二人の女優さんの潜在的な恋愛関係と憎悪は確かに見ものです。この映画でクリステン・スチュワートアメリカ人女優として初めて、フランスのセザール賞助演女優賞を受賞したそうです。奔放な彼女の存在が、ビノシュ演じる主人公の内面に渦巻く演劇に関する思いや若い女性への鬱屈した感情をうまく浮き彫りにしていると思います。

●こちらはオリジナル版のポスター。日本版と解釈が全然違って面白いです。
 
                                                           
舞台となるスイスの自然やホテルは、ニーチェトーマス・マンアインシュタインなども好んで訪れた有名な景勝地だそうです。画面には自然のままの野原が広がっていて非常に美しかった。更にシャネルが提供したドレスや美術も文字通りゴージャス、見どころが沢山ある、複雑だけど楽しい映画でした。