特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

水野和夫氏講演会『資本主義の終焉と歴史の危機』と『0612戦争法案に反対する国会前抗議行動』

この前 新聞の折り込み広告で樹木葬の広告を見つけました。ボクは以前 飼っていた犬と一緒にお墓に入りたいので、渋谷の先祖代々の寺の墓に入る気など毛頭ありません。そもそも今の葬式仏教ってどうしてもカネ儲け主義の匂いが濃厚で、納得できないんです。港区で坊主をやってる同級生が『税務署から、車はクラウンまでなら無税でいいけどベンツはやめてくれと言われている』と言っていたくらいです。いい加減にしろって(笑)。広告で見た樹木葬の場所はお寺が持ってる山林を整備したもので、地面に墓標だけ埋め込んで、あとは骨壺を野原に埋めるそうです。勿論 ペット同伴可。墓石もなく、ただ緑が広がる光景を見ていたら、なんとなく気持ちが安らぐ気がします。値段次第の戒名なんか要らね〜よ。自分が死んだあとなんて、それほど興味ないけど、こういうところで眠るならいいなあ、と何となく思いました。


                                   
さて、安保法制について、政府・与党の連中のいい加減な答弁には呆れるばかりです。呆れ具合はこの国中どんどん広がっているのではないでしょうか。中でも酷かったのがこれ。『国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官 礒崎陽輔 集団的自衛権について10代の若者に叱られる。若い女の子だと思って馬鹿にしてたら しばかれた挙句 ブロックしちゃったでござるの巻。担当補佐官がこのレベル!』 国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官 礒崎陽輔 集団的自衛権について10代の若者に叱られる。 - Togetter
同じくらい酷かったのが、国会で官僚を恫喝した民主党の小西ひろゆき民主・小西氏「政権を奪い返し、必ず処分する」 官僚に激高 - 産経ニュース 何で政権を失ったか、まだわかってない!いい歳こいて、人の使い方、ビタ一文も判らないのか?東大出の元官僚のくせにマネジメント能力ゼロなんだから、東大もお里が知れる。頭脳以前に人間性自体に問題があるとしか言いようがないです。ったく、もううんざりですよ。
                                                                                                                   
今回は、先週聞いてきた水野和夫先生の講演について書きます。ボクはこの人の話は凄く大事なことを言ってると思ってるんです。水野氏は三菱UFJ・モルガン・スタンレー証券のチーフアナリストで民主党政権下で内閣審議官だった人。この10年くらい、この人の単行本は勉強になるモノばかりでした。前々から生で話を聞きたかったんだけど、面白かった〜!
演題は「資本主義の終焉と歴史の危機」。
●主催者の講演の紹介ブログ 第13回6/4(木) 水野和夫先生 | 慶應MCC 夕学リフレクション
21世紀に入って世界秩序の崩壊が明らかとなってきた。ゼロ金利は資本主義の終焉を意味し、イスラム国は近代主権国家システムの崩壊を示唆している。まさに「歴史の危機」の真っ只中にいる。こうした状況下にあって、来たるべき新しいシステムはどうなるのか、そのヒントは過去の歴史のなかにある。『夕学五十講』講師紹介ページ


言うまでもなく水野氏の昨年の著書『資本主義の終焉と歴史の危機』が『経済学者・経営学者・エコノミスト109人が選んだ2014年ベスト経済書1位』(週刊ダイヤモンド)になったばかりです。ボクもこの本は新書とは思えない、充実した内容の名著だと思います。

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

科学でも経済でも政治でも何でもそうだと思いますが、本当に物事が判っている人は言いたいことを非常にシンプルに表現するものです(ただしシンプルだからと言って、正しいとは限らない。ex.橋下)。例えばピケティ氏の言いたいことを端的に表現するとこう、でしょう。

r(資本収益率)>g(経済成長率)

翻訳すると『この世の中は、元から財産を持ってる奴は普通の人より儲かるようになっている』(笑)。
                                                                                       
一方 水野氏が言ってることはこう、です。

近年 先進国の利子率が低下しているのは、そろそろ資本主義が限界だからだ。
翻訳すると『金利がゼロ近くまで下がってるんだから資本主義はもう終わり、経済成長なんか期待しても時間の無駄!』(笑)。
                                                             
確かに利子というものは将来の儲けの期待値だから利子がゼロ近くまで低下したってことは、もう儲かることは大して期待できない、ということです。1600年頃 ジェノヴァで1%台に金利が下がった。その時点で地中海諸国を中心とした『地中海資本主義』が終わった。その後 株式会社が発明されイギリス、オランダを中心とした近代資本主義が始まった。経済成長が再度始まり、金利も上昇していく。
現在 日本、ドイツ、北欧、スイスなど十数か国で金利はゼロ近くまで低下しています。水野氏は、これは近代資本主義の限界を示しており、時代の変り目である『歴史の危機』ではないか、と指摘しています。ちなみに『歴史の危機』とは水野氏が引用しているスイスの歴史家ブルクハルトの概念で、中世から近代など時代が大きく変わる境目の事を指しており、その境目はおおよそ100年程度かかる、そうです。
ピケティ氏も水野氏も元ネタの一つがフランスの歴史家ブローデルの大著『地中海(ボクは未読。半年かけて読んだ友達から感想を聞いただけ。3000頁あるんだもん)なのが面白いです。経済はカネだけではなく人間の営み、と捉えたら、歴史を政治や権力だけでなく民衆の文化や風俗などからも総合的に捉えようとするアナール学派の影響を受けるのは当然かもしれません。


当日のお話の骨子はこんな感じでした。
1.今 何が起きているのか

・今 起きているのは『近代システムの崩壊』である。近代システムとは主権国家(民主主義)+資本主義だが、どちらも危機に瀕している。
・20世紀までは世の中は膨張方向へ進んでいた。ところが21世紀になって911テロ、リーマンショック、311(原発事故)、テロの頻発と今までの経済成長や秩序が脅かされる方向へ進んでいる。背景にあるのは資源国を中心とした新興国の台頭だが、それは資本主義が地球の隅々まで浸透しつつあることを示している。今 残っているフロンティアはアフリカだが、これも時間の問題だろう。
・日本では小泉政権以来 毎年『成長戦略』が作られているが、全て失敗した。金融資産を持たない世帯はどんどん増えて、2014年には全体の30%に達している。これは即ち『国家が財産の保護対象としているのは全体の7割だけになっている』ということだ。つまり主権国家私有財産を守る資本主義的な秩序が危うくなっていると言える。株価を優先するアベノミクスはまさに、そういう政策だ。バブルがあと2回くらい崩壊すれば日本も欧米並みの格差社会になるだろう。
●増加する日本の無産階級(1963年から2014年までの金融資産を持ってない世帯の割合。当日のスライドを作り直しました)

2.資本主義とはどういうものだったのか
・資本主義の定義は『資本の自己増殖運動』である。つまり、資本の成長の余地が狭まるにつれ、金利は下がり、システムの限界に近づくことになる。現在 日本、ドイツ、北欧、スイスなど先進国10か国以上で金利がゼロに近づいているが、システムとして成長の限界に近づきつつあるのだと思う
・ピケティが証明したのは、『資本主義は相続による身分社会』ということである。国民を総動員しなければならない戦争の前後だけ、たまたま富の再分配が進んだが、元来 資本主義は主に相続財産によって人間の身分が規定される社会である。例えば派遣労働は3年間の身分制と言っても良い。
・最近はBOPなど新興国市場の拡大が言われているが、あれは先進国の中産階級が壊滅した代わりに新興国市場が広がっているだけだ資本主義はそもそも富を中央へ収奪する仕組み(コレクション)で、全員をハッピーにする仕組みではない
・資本主義は、時代ごとに最も勢力がある覇権国、先進国ほど金利が低く、金利が最も低い国が入れ替わるとき覇権国も入れ替わってきた。例外は日本で、日本だけは覇権を取り損ねたが、近代のシステムの最先端(限界)にいることは間違いない。(下図参照)。
●オープンな近代から『閉じた』新中世へ(当日のスライドを作り直して若干加筆)

3.じゃあ、どうする
・近代のシステムは限界に近づきつつあり、アベノミクスのように下手な延命策をとってもまたバブル崩壊を起こすのが関の山だ。311の原発事故も近代の科学技術や管理技術が限界に達したことで起きたバブル崩壊みたいなものだ
・近代は際限のないカネ儲けのための『より遠く、より早く、より合理的に』が支配的な概念だった。これからは『よりゆっくり、より寛容に、より近くへ』という概念が重要になってくるのではないか。国家像も近代の国民国家から、再び『帝国』の時代、『新中世』になるのではないか。この『帝国』とは権威と権力が分離した状態、多民族国家と定義している。中世も権力は王・皇帝、権威はローマ法王と分かれていた。
・いずれ世界はグローバリゼーションの勢いが衰えてブロック経済化が進み、その中で自給自足の閉じたシステムを形成していくようになるのではないか。具体的にはドイツを中心としたEU、アメリカなど3〜4つの地域帝国が主なプレイヤーか。
・高齢少子化が進む日本は全国を5〜6つの経済圏に分けてブロック化(例えば移動を制限、大学の地方分散)、金融取引への課税、高齢者の活用を進めていけば良いのではないか。
・歴史を振り返っても時代が本格的に変化するには100年はかかっている。現在の変化も始まってまだ30年程度、新しい時代が見えるまであと70年程度、3世代くらいかかるだろう。結局我々は一人一人がやれることをやっていくしかないと思う将来のことは私には判らない(笑)。


会場からの質疑応答で重要な問題が出ました。ボクも水野氏の議論の欠点ではないか、と思っていた点です。それは『将来 大きなイノヴェーションが生まれたら、また成長路線に戻れるのではないか』ということです。それに対して水野氏はこう仰っていた。

蒸気機関やコンピュータなど社会を変えてきた大きなイノヴェーションは種が捲かれて成果が出るまで数十年以上はかかっている。今のところ、そういう種は見当たらない。唯一考えられるのはAI(人工知能だ。2045年頃AIは人間の能力を超えて、自らAIを作りだす能力を持つようになると言われているが、そうなったら人間がハッピーになるのか暗黒社会になるのか、もう判らない。AIが新しい資本主義を作るかもしれない1600年代初頭 近代は神を追放することで生まれた(ルネサンス2045年に起きるのは人間の追放かもしれないでも、その頃 私は生きてませんから(笑)。

                                           
水野氏の著書は経済だけでなく、歴史や人類学など様々な概念を組み合わせて書かれていますけど、この日の話は執筆当時よりネタが増えていて、話についていくのが大変でした。ネタは著書にあったブローデルウォーラーステインカール・シュミット、ブルクハルト(歴史の危機)だけでなく、ピケティ、ドラッカー(成果は常に組織の外部にのみ存在する)、スーザン・ソンタグ(コレクションとは常に必要を超えたものだ)、へドリー・ブル(新中世主義)etc。
                                                            
個人的には水野氏の話が、最近読んだエマニュエル・トッド(フランスの歴史学者、人類学者)の話(↓)と奇妙に一致しているのが面白かったです。トッド氏はソ連の崩壊を予言したことで有名な学者だが、近年 彼はグローバリゼーションやEUに反対し保護貿易を唱えている。また経済好調なドイツの台頭は、EU全体をドイツが経済的に支配しつつある『ドイツ第4帝国だ』と、している。ドイツは国内では比較的平等な社会だが、他国や他の経済圏に対してはそうでもない、と言っています。
この日、水野氏も同じ第4帝国という言葉を使っていました。第4帝国とはショッキングなネーミング(笑)。勿論ここで言う『帝国』はいわゆる大日本帝国やドイツ第3帝国みたいなものではなく、権力と権威が分離した多民族国家、という意味です。
グローバリゼーションに問題はあることは確かでしょう。だが、その弊害を既存の国家だけで何とかなるという発想は認識が甘いだろう。むしろ市場との相克で国民国家の役割は年々縮小している。今や純粋に自国だけで有効な経済政策を決められる国が地球上のどこにあるか。せいぜいアメリカと北朝鮮(笑)。一つの国家にこだわるのはもはや時代遅れかも。

●頭が悪い奴は嫌ドイツ本と思うかもしれないが、そんな視野偏狭なものとは違います。『戦後のアメリカの権力はドイツと日本という2大工業国をコントロールすることで成立してきたが、ドイツは既に離脱した』という前半は目を見張らんばかりに面白かった。後半は今いち。今週木曜の日経夕刊で中沢孝夫氏が絶賛5つ星。

                                              
水野氏の話は根拠はきちんとしているけれど『世界や時代に対する見方』の一つに過ぎないから、データで証明できるようなものじゃありません。そんな狭い分野のものでもない。また、過去に起きたことが将来また起きる、とも限りません。だが水野氏のこういう意見は、物事に対するベースの考え方、時代に対する補助線として、ボクは非常に納得できます。資本主義が限界を迎えつつあると言う認識は、昨年ローレンス・サマーズ元米財務長官がIMFなどで指摘した『先進国全体で経済成長と金融安定性の両立が困難になっている』(長期停滞論)とも共通しています。
水野氏の『資本主義の終焉と歴史の危機』が書かれて1年以上たっているので、その先が少しでも聞けたのは嬉しかったです。始めて話を聞いた水野氏は、丁寧なゆっくりとした口調でニコニコ笑いながらドギツイことを言うのが印象的でした(笑)。

●主催者側の当日の講演内容紹介水野和夫教授に聴く、『資本主義の終焉と歴史の危機』 | 慶應MCC 夕学リフレクション

●別の講演、鳥取県立大での水野氏の講演録(2014年6月)http://hamada.u-shimane.ac.jp/research/32kiyou/10sogo/seisaku29.data/01_mizuno.pdf#search='%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%B3%E3%81%AA%E8%BF%91%E4%BB%A3%E3%81%8B%E3%82%89%E9%96%89%E3%81%98%E3%81%9F%E6%96%B0%E4%B8%AD%E4%B8%96%E3%81%B8'
*今週、今 非常に話題になっている『伊藤リポート』を書いた経済学者の話を経●連の経営者セミナーで聞いたんだけど、内容も人間性も実に対照的でした(笑)。このこともまた、どこかで書きたいと思います。



                                                                                                              ということで、今週ボクは仕事のパーティを逃げきれず(泣)、官邸前抗議はお休みです。だが、官邸前抗議が終わった後、学生たちが『戦争法案に反対する国会前抗議行動』をやると言っています。それなら、つまんないパーティが終わってからでも間に合う。元々ボクは仕事関連では一滴も飲まないことにしています。そのあと家に帰って、美味しいワインをゆっくり飲むんです。我ながら嫌な奴です(笑)。
                                                                                                   
抗議の主催は秘密保護法の時立ち上がった『自由と民主主義のための学生緊急行動 (SEALDS)』 SEALDs。あの時 彼らは論理的な反対意見を述べていたので、非常に感心したのを覚えています。実際に彼らのデモへも行きましたが、印象は同じでした。何より先週 あの小林節が彼らの抗議に出てスピーチしたというのが衝撃でした。ボクが学生時代、改憲派と言うことであんなにバカにしていた小林節(当時は助教授)が抗議デモでスピーチしている!(彼にとってもデモは初めてで、わざわざ奥さんに断って出かけたらしい)。
そりゃあ、ボクだって黙ってられません(笑)。

                                         

●抗議風景 官邸前抗議とは違う種類の熱気が広がります。






                                                                                               
丁度 ボクが国会前に着いた時は古賀茂明がスピーチしていたところ。曰く『私は頑張ってくださいなんて言葉は嫌いです。一緒に頑張りましょう』。この人は最近 脳味噌大丈夫かと思っていたけれど、この発言は正しい。その後 東大の小森陽一教授が『今日 教室で学生から、一緒に抗議に行きましょう、という手紙をもらった。東大は何て良い学校なんだ!と思った(笑)。』とスピーチしました。彼は上野千鶴子などと一緒に安保法制に反対する学者の会安全保障関連法に反対する学者の会の呼びかけ人でもあります。他にも今日は津田大介もスピーチしたそうです。
                                               
とにかく参加者の平均年齢が若い(笑)。声に力がある。高年齢者が多い再稼働反対の官邸前抗議に慣れていたので、少しびっくりしました(笑)。あっちではボクは若手だもん(笑)。戦争で最も被害を蒙る可能性があるのは20代だから、彼らが怒るのは当然ですが、実に頼もしい(笑)。エマニュエル・トッド氏などは『デモや抗議活動の頻度は社会の構成員の年齢の若さに比例する』という説を唱えているが(確かに統計上 アラブでも日本でも平均年齢とデモの発生回数は相関関係にある)、この日 古賀氏が言っていたように『被害をもっとも蒙る若い人たちが怒る。年配者は時には楯となって、それを一生懸命サポートする。』。世の中を変えるには、そうい組み合わせは確かに魅力的に見えます。ボクもたっぷり(笑)?カンパしてきましたよ。
●抗議風景2:勿論 さっきまでの『再稼働反対』のプラカードを『戦争反対』のプラカードに持ち替えて参加する人も居ました。






                                                                                           
彼らのシュプレヒコール、『勝手に決めるな』、『屁理屈言うな』は原発にしろ、格差拡大にしろ日本のすべての問題に共通する本質的なことだと思います。ボクは、清濁併せのんで反原発を進めていこうという反原連の人たちは信頼していますが、残念ながら反原発を標榜している人でも、脳味噌ゼロの反体制左巻きチンパンくんや、どこかの組織が言うことをオウムのように繰り返す連中がいるのも確かです。正直言って昔からああいう連中が足を引っ張っています。だけど、この場にはそういう低能はいません。今日居た人たちは自分の言葉で、自分の考えでしゃべっている。今日の参加者は主催者発表で1000人以上。ボクが見た限りでも1000人は軽く居ました。
                                          
少し蒸し暑い今日の夜、ボクはストーンズStreet Fighting Manの歌詞を思い出しました。学生さんたちからは古いと言われるかもしれませんが(笑)。
Cause summers here and the time is right for fighting in the street, boy
夏が来て市街戦には絶好の季節になった
●主催者の学生団体 SEALDSのツイート