特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『マジック・イン・ムーンライト』と『インヒアレント・ヴァイス』

日曜日の東京は久しぶりにさわやかなお天気でした。暑くもなく涼しくもなく、微風が吹き続ける穏やかな午後。ユジャ・ワン嬢の少しエキセントリックな、だけど端正なピアノを聞きながら本を読んでました。ずっとこのままでいられたらいいのに(泣)。休みが終わるのは早い。今日から関東も梅雨入りだそうです。*今週金曜の官邸前抗議はクダラナイ用事があるのでお休みします。

Transformation (Stravinsky/Scarlatti/Brahms/Ravel)

Transformation (Stravinsky/Scarlatti/Brahms/Ravel)

                                                
土曜日のTBS報道特集の『安保法案特集』、良質な番組でした。元自民党幹事長の山崎拓慶應小林節自衛隊の元統合幕僚長のインタビューを中心に、安保法案をめぐる今の国会の議論がいかにいい加減か、ということを浮かび上がらせたものだった。中でも出色だったのが山拓イラク特措法を通した当時の自民幹事長、山拓イラク自衛隊を派遣した判断は間違っていたと断言した。大量破壊兵器は見つからなかったのだから、結果として判断は間違っていた、というのだ。今まで山拓なんてアホの極悪人だと思っていたけど(笑)、判断の誤りを認識できる知性は見直したよ。そして今の国会の議論は与野党ともに各論に終始していて、立法府としての大筋、安保法制は憲法に沿っているかという議論がなされていない。』と指摘していた。自民党の元幹事長で防衛族タカ派山拓ですら、こういう判断が出来る。だが、それと引き換え今の政治家がいかに酷いか、って言いたいところだが、そんなことは言っても何の役に立たない。それより1億倍大事なことは『右左関係なく幅広い人たち、例えば山拓のような人まで巻き込んで、幅広い最大公約数をいかにまとめていけるか』ということなんだと思う。原発でも安保でもそうだが、反対派に多い狭い範囲のお仲間同士で文句を垂れているだけの連中って我慢がなりません。
武力行使の基準すら不明瞭なあんなバカな法律、強引に通そうとしている連中なんて所詮は少数派のハズだ。今の国会の議論も所詮は何時間やったかのアリバイ作り、政府は端から議論をする気すらないのかもしれない。今から国会の勢力図を変えるなんてことは出来なくても、これで国民が黙ってたら日本は未来永劫、民主主義になんかなれないよ。                             

                                                           
                                       
この前 某組合の人に先日の渋谷区の区長選の話を聞きにいった。なんで無所属の40代の候補が自民の候補、野党(民主、共産、生活)の候補に圧勝したのか。今まで渋谷区は自民党以外の候補が区長になったことはない。だが今回の自民の女性候補自民党都連の幹事長で親父が元渋谷区長)は、選挙運動中から『勝って当然』という偉そうな態度で各方面に顰蹙を買っていたそうだ。彼の組合も表向きはその候補を支援したが、みんな内心は頭に来ていてあれじゃ勝てるわけがなかった、と言う。かと言って野党の候補だと地元と役所とのパイプが途切れて区政がぐちゃぐちゃになる可能性があるので入れたくない、そこでバリバリ保守だけど同性パートナーシップ条例を推進した現職が推薦した無所属候補に多くの人が投票したんじゃないか、という話だった。ちなみにその無所属候補は首長としての能力は未知数だが、ずっと地元でNPOをやって区議になった。要するに多少は社会経験があって(政権時代の民主党みたいに世間知らずはダメ)頭がまともな候補が出てくれば、いくらでもひっくり返せる可能性がある、ということなのだ。保守王国の渋谷でもそうなのだから日本全国でも当てはまる話ではないか。
その中で安倍晋三を支持する人って50代後半から60代男性が多いという話が出てきた。彼曰く、多少なりとも戦争を知っている70代や若手はそうでもないが、50代後半から60代の男性は勇ましい話が好きな人が多い、という。
確かに世論調査を見ていても安倍晋三の支持層はそんなもんかなという気がする。ボクは人それぞれだと思うから、世代論なんか一切信じない。だが仕事で会う70代はそれなりに見識がある人が多いけど、60代、特に団塊世代は立派な人とただのバカと、極端に二分される感じがすることはある。それでなくとも団塊世代学生運動の顛末、それに運動が終わって以降 多くの人たちが逆に保守的になっていったことを考えると、団塊世代というものはボクにはどうにも疑わしく見えて仕方がない。付和雷同の人たちが安倍晋三みたいに安易な答えらしきものを提示する政治家を支持したくなるのは何となく判る気がする。 勿論それを証明するデータを持ってるわけじゃないし、ただの印象論だけど(笑)。今日発表のNHK世論調査によると安倍晋三の支持率は先月より3ポイント下がって、まだ48%(嘆息)。ちなみに安保法案に賛成が18%、反対が37%。


                                                  
渋谷でウディ・アレンの新作『マジック・イン・ムーンライト

舞台は第2次大戦前のフランス。売れっ子の魔術師(コリン・ファース)は友人から、大金持ち宅にやってきた若い女性占い師(エマ・ストーン)の真偽を調べてほしいという依頼を受ける。主人公は南仏の大金持ち宅に向かうが、女性占い師に恋に落ちてしまった。

いつものウッディ・アレン節。美しい南仏の景色とクラシックな衣装を着こなしたコリン・ファースエマ・ストーンとの絡みは見ていて単純に楽しい。

今回はアレンならではの心のひだまで意地悪く凝視するような人間描写もないし、大笑いするようなギャグのキレもないし、前回の『ブルー・ジャスミン』のようなシェイクスピア劇のような風格もない。だが見ていて単純に楽しい。南仏の観光映画と言っても良いくらいだ。特にエマ・ストーンアメリカ人らしい素直な可憐さを醸し出していて、これは良かった。ちょうど同じ時期に見た『バードマン』では元ヤク中役(もしくはビリギャル)だったので違和感はあったけど(笑)。
エマ・ストーンは今回は可憐な少女役。

コリン・ファースもいかにもシニカルなイギリス人らしい『性格が悪い役』をばっちり演じていたけど、ハンサムすぎて憎めない。良くも悪くも、気楽に楽しめる 、そういう映画でした。
●美しい南仏で美男美女がデートしてるだけでも目の保養でした。


もうひとつ、渋谷でポール・トーマス・アンダーソンの新作『インヒアレント・ヴァイス

舞台は70年代初期のLA。私立探偵の主人公(ホアキン・フェニックス)は不動産王の愛人になっている元カノから、殺人事件に巻き込まれそうなので助けてほしい、という依頼を受けるが

ノーベル賞候補に何度もあがっていると言う覆面作家トマス・ピンチョンの『LAヴァイス』を映画化したもの。
●探偵と元カノ。70年代ファッション。もみ上げが長い(笑)。

ボクはこの監督は苦手なのであんまり期待しないで見に行ったが、これがめっぽう面白かった。今年のアカデミー賞2部門(脚色賞、衣裳賞)ノミネートだけある。お話には山もなければオチもない70年代初頭の風俗をマニアックに描きながら、一癖も二癖もある登場人物たちがだらだらと(笑)活躍する、その微妙なさじ加減が面白い。特に悪徳刑事役のジョシュ・ブローリン、いつもチョコバナナを舐めながら、でかい図体で暴力を振るいまくるキャラクターが実に面白かった。かといって直接的な暴力描写が殆どないところが絶妙で、映画全体のまったり感を壊さないところが良かった。登場人物たちはやたらとマリファナをふかしながら、でれでれ日を送っている。事件はその合間に起き、いつの間にか終わっている。
●相変わらずゴリラのようなジョシュ・ブローリン

夕陽に包まれた70年代LAの退廃的な雰囲気が良く表現された(ボクはそんなによく知ってるわけじゃないが)、趣のある映画だった。一方 日本を振り返ると、80年代でも90年代も2000年代でも、回顧したくなるような時代ってあるだろうか。バブルなんて只のバカ、今から見たら失笑ものにしかならないだろう。『インヒアレント・ヴァイス』は時代の雰囲気を良く再現しながら、突き放した感覚がある。不思議な映画だけど面白かったです。