特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

2018年問題と映画『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』

昨日 アイルランド国民投票が行われ、6割強の賛成で同性婚が合法化されたCNN.co.jp : アイルランド、国民投票で同性婚合法化 世界初 - (1/2)カソリックが強いアイルランドだが、今回はカソリックの反対も功を奏さなかったようだ。映画『あなたを抱きしめるまでhttp://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20140324/1395662364や『アルバート氏の生涯誰もが仮装をして、生きている:映画『アルバート氏の人生』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)などを見ると、この国のカソリックが人身売買などナチス大日本帝国並みの悪辣なことをやってたのが良くわかる。実際 93年まで同性愛は違法だったそうだ。それから、たった約20年で同性婚が合法化された。インチキな聖職者どもの影響から脱した変化のスピードには恐れ入るし、自由のために頑張った人たち、また、それを受け入れたアイルランド人は凄い。さすがケルトの虎(笑)。頑迷な人(要するにバカ)の心は容易には変えられないものだけど、それでも物事は変えられるんだと、改めて思った。
                                                                                  
今回は、政界の与太話から。自民の関係者から聞いた話だけど、ボクには検証もできないし、状況が変われば、いくらでも変化する話だから、与太として読んでください。
今 政治の世界では2018年問題、ということがささやかれているそうだ。2018年には安倍晋三日銀総裁の任期が切れる。そのあとどうなるのかということが話題になっているらしい。安倍晋三の方はその後釜、日銀の方は金融緩和の出口戦略をどうするんだという話だ。あと3年も安倍晋三が政権でのさばっているのかと思うと戦慄が走るが、安倍晋三は18年以降は誰かに譲って裏からコントロールすることを考えているという。そのために安倍晋三が元老の山縣有朋のことを研究しているという話は一部の新聞や東洋経済(3/21)にも載っていたから、まんざらガセではないのだろう。安倍晋三の構想は最初の2年は経済、次の2年は安全保障、その次の2年は憲法改正だそうだ。今は財政再建やその他の副作用は無視、株だけ上げて目先の経済だけは維持して、来年は衆参ダブル選挙をやって、とにかく政治を右へ振っておく。そのあと誰かに禅譲してコントロールしようという構想だそうだ。現時点で想定している禅譲相手は谷垣。あいつは一応 ハト派ということになっているが、最近は完全に安倍のイエスマンだ。人間という物は権力をちらつかせられると、如何に変質するものかということを改めて感じてしまう。
もちろん今の世の中、経済だって天変地異だって国際政治だって、来年の事すら全く分からない。そもそも山縣有朋安倍晋三では知能指数が全く違う。こんな与太話がそのまま実現するとは思わないが、それだって日本人の良識にかかっている。野党の側は未だに候補者選びすらままならない状態のも確かだし。あいつらの思いどおりになるほど、日本人はバカなのか。どうなんだろう。橋下に投票するような奴が大勢いるからなあ。
小田嶋隆氏のtweet


                                                       
さて、昨年来 イスラム国の蛮行がネット・TVなどで公開されるようになって、信じられないような奴らがいる、と多くの人が思ったのではないでしょうか。最初はボクもそう思いました。
だが、甘かった。世の中そんなもんじゃなかった。青山でドキュメンタリー『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争』(原題 NARCO CULTURAL=麻薬文化)

北米自由貿易協定NAFTAが始まって以降 メキシコからアメリカへの麻薬輸出は増える一方、年間数兆円に上ると言う。メキシコの麻薬ビジネスは主に5つのマフィアに牛耳られており、マフィアのボスは世界の大富豪にも選ばれるほどだ。メキシコのカルデロン大統領は『麻薬戦争』を唱え、警察に加えて軍隊も動員、麻薬マフィアへの戦いを始めた。2000年代後半以降 死者は約6万人に上っておりメキシコは文字通り内戦状態になっている。映画は麻薬組織間の抗争で殺人事件が頻発している町、シウダー・ファレスで組織摘発に励む警官とロサンジェルスで麻薬マフィアを賛美するフォークソングナルコ・コリード)を歌う歌手、対照的な二人の姿を描く。

メキシコでの『麻薬戦争』は日本ではあまり馴染みがない。だがアメリカではメキシコから流入する麻薬が数年前から大きな問題となっているし(アメリカで流通する麻薬の70%がメキシコ経由だと言う)、昨年はメキシコで麻薬組織に抗議するデモを起こそうとした学生が43人も殺されたことが日本でも大きなニュースになった。警察がバスに乗っていた学生を銃撃、一部を殺害したうえで麻薬組織に引き渡し、組織は残った学生を全員殺害してゴミ捨て場で焼き、ばらばらにした遺体を川に捨てたと言う。犯人として市長が逮捕された。市長も警察も麻薬マフィアに操られているのだ。CNN.co.jp : メキシコ学生43人失踪、犯罪組織が殺害して燃やして川に - (1/2)

この映画の原題は『ナルコ・カルチュアル』(麻薬文化)。直接的に麻薬戦争を描くのではなく、その周辺の風俗を描いている。舞台となるシウダー・ファレスという町は人口100万以上のメキシコ第2の大都市。だが麻薬カルテルの抗争で殺人事件が年間数千件発生しており、世界で2番目に危険な都市と言われているそうだ。テキサス州の都市エル・パソと川を挟んで立地していてメキシコの住民も川を渡って買い物に行ったりしているが、エル・パソの殺人件数は年間5件、見事な対照を成している。
●シウダー・ファレスの街

●血糊が飛び散った車内

この映画の主人公の一人はこの町で事件の現場処理をする警官だ。警官たちの多くは覆面をしている。彼らは組織による恐喝の対象になっているからだ。
と、言っても警官たちが積極的に組織と闘っているわけでもない。殺人事件が多すぎて93%は死体を処理するだけで捜査すらできないと言う。主人公の警官も現場で遺体を回収して、弾などの証拠を保全しているだけだ。それでも狙われる。ドキュメンタリーの中でも殺された同僚の葬儀が映されていた。主人公の上司、法医学担当のマネージャーも殺害予告を何度も受け、とうとう辞任してしまう。主人公も家族から警察を辞めてくれと言われているが、彼は生まれ故郷の町シウダー・ファレスを愛しているし、やめても不況で職がないから、警官を続けるという。

この映画で見ていると警察官たちはかわいそうでしょうがない。それほど組織を厳しく摘発しているわけでもないのに、家族ごと命を狙われている。銃やマシンガン、手りゅう弾どころか、バズーカも潜水艦まで持っている麻薬組織の力があまりにも強大なのだ。
●組織の摘発光景。殆ど軍隊を相手にしているようなもんだ。

映画のもう一人の主人公はロサンジェルスでナルコ・コリードを歌う27歳の男。『ナルコ・コリード』とは麻薬マフィアたちを賛美する歌詞をマリアッチ風の陽気で呑気なメロディに載せて歌う音楽で、メキシコ人移民が多いアメリカでは需要が高まっているらしい。日本でもやくざ映画というジャンルがあると同じ様に、麻薬マフィアはロビンフッドのように反体制のヒーロー像と捉えられている面もあるそうだ。彼らのCDはメキシコ国内では禁止されているが、アメリカではウォルマートでも平気で売られているから、陸続きのメキシコへも流れている。この歌手は前科はあるけれど、実際の麻薬マフィアのことは体験したことがない。情報源はネット!とアメリカ国内にいる麻薬マフィアだ。
●バンドの面々。一人はバズーカ、もう一人はマシンガンを背中に担いでいる。本物。

こいつのステージは呆れかえるような光景だった。背中にバズーカを背負って『奴らの生首を切り落とせ』とか歌っている。バックコーラスの姉ちゃんはマシンガンを持っている。それで『私たちは暴力反対なのよ』とか言っている(笑)。客は当然のことながら殆どラテン系。若い女性も多い!酔っぱらった客同士で喧嘩も良く起きるそうだ。アメリカでは黒人やイスラム教徒の人が差別されたり不当逮捕されたりしているが、本物のバズーカやマシンガン抱えてアメリカ南部をツアーしているこいつらはどうして平気なんだろうか?

想田和弘監督が推薦コメントで延べていた言葉を借りると、『文字通り、頭がクラクラする』。シウダー・ファレスでは組織がやりたい放題。死体なんかまったく珍しくない。男も女も子供も全く関係なく、殺している。ただ殺すだけではない。三国志とか史記など中国の小説や歴史書を読んでると、捕虜や罪人を刻んで挽肉のようにしてしまった、と言う描写が出てくるが、麻薬マフィアの連中は現実にそれをやってネットで公開している。イスラム国がやってる、生きた人をそのまま燃やすなんて普通みたいだ。その一方、アメリカでは頭の悪い連中がビールを飲みながら、麻薬マフィアを称える歌に明るく熱狂している。またそれを金儲けに利用している連中がいる。
                                                  
文字通り、驚愕の世界で、びっくりした。これを見てるとイスラム国なんて可愛く見える。また、それでもシウダー・ファレスの警官のように世の中を良くするために地道に戦っている市井の人がいる。それがこの世の中だ。直接的に残酷なシーンはあまりないが衝撃的な映像ばかりで、世界は広いということが判っただけでも収穫だった。人間は美しいこともするけれど、こういう酷いこともするイスラム国の連中を何か特別扱いするのは間違いだし、そういう連中は他にもいるしこれからも出てくるだろう。日本だって太平洋戦争中は実際に似たようなことをやってたわけだし、世界中からは今でいうところのイスラム国扱いされていたのではないか(笑)。


近年 メキシコ側では右から左へと政権が変わったが、相変わらず麻薬戦争が続いているらしい。マフィアの方は軍隊や警官、秘密部隊までリクルートして、武器も豊富に持っているし、政治家&裁判官も買収&脅迫されているから、難しい問題らしい。一方アメリカでは高校教師が麻薬製造を始めるというTVドラマ『ブレイキング・バッド』が大人気になってるくらいだから麻薬需要は旺盛なようだ。最近アメリカ各地でマリファナ解禁が進んでいるのもメキシコマフィアの資金源を少しでも断つことが狙いの一つだと言う。この『麻薬戦争』はそう簡単には収まらないのだろう。

冷静に考えてみると、麻薬戦争はこんな構造みたいだ。
1.80年代コロンビアのメディシンカルテル壊滅
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2.メキシコへ麻薬産業が移る
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3.90年代初NAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコで北米自由貿易協定)締結
  ↓
4.競争力のない産業は壊滅。失業者大量発生
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5.メキシコではマフィア、麻薬産業の従事者増大&アメリカでの麻薬需要増大
  ↓
6.マフィアは儲かり、一層政府と癒着
  ↓
7.アメリカからメキシコへ武器がどんどん流入&麻薬がメキシコからアメリカへどんどん流入


どうやら、頭がクラクラしてるだけじゃいけないらしい(笑)。NAFTAはこんなところにまで絡んでいる。TPPはその拡大版だ。勿論 日本で麻薬を巡って内戦になるとは思えないが、経済や雇用が悪化して社会が不安定になっていくのは他人事とは思えない。
*ちなみにボクはTPPは良い点もあれば問題点もある、と思ってます。特にネットでは訳の判らない理由でTPPに反対している人がいますけど、ああいう人たちには賛成しません。NAFTAという前例があるのだから、もっと真面目に考えろと言いたい。それにTPPより、市場が社会を呑みこんでいく流れをどう考えるか、カネから民主主義をどう守っていくかのほうが問題です。
大変優れたドキュメンタリー。面白いというと語弊があるが、驚くと同時に考えさせられる、大変興味深い映画だった。上映時間はあっという間だった。