特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『自由にものが言える時代、言えない時代』と映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』

ちょっと前 古賀茂明氏がTVを降板する際に『官邸から圧力があった』と述べた件で、自民党がTV朝日とNHKを呼び出して、今度は本当に圧力をかけた(笑)そうだhttp://www.asahi.com/articles/ASH4K5CJFH4KUTFK00W.htmlポピュリズムを煽る下品な番組ばかりやっているTV朝日こそ、ボクは自民党御用達のTV局だと思ってたんだけど(笑)。
                                                                                                                                                      
果たして、古賀氏が言うように本当に政治からTV局に対して圧力はあるのだろうか(笑)。ボクの数少ない伝手をたどって、関係者に直接話を聞いてみた。
まず出演者。時々TVでコメントや解説をする人(複数)に、TV出演時に発言の制限みたいなものはありますかと尋ねたら、異口同音に『そんなものは全くない』ということだった。『脚本とか番組の流れはあるけど、こういうことを言ってはいけないとか、こういうことを言ってくれ、ということはない』、そうだ。実際 ボクが話を聞いた人たちは放送で政府批判を平気でやっている。ボクはそういう人としか付き合わないもん(笑)。そもそも政治家や役人が直接圧力をかけるようなバカなことをするわけがないのはちょっと頭を使えば判る。そんなことをするのは頭が足りない安倍晋三くらいだろう。

次に制作側。間接的だけど某民放のプロデューサーに実際に聞いてもらったところ、『直接的・具体的な圧力はないが、役所からTV局に電話がかかってくることはある』そうだ。免許制のTV局にとって、特に上層部にとってはそれは確かにプレッシャーではあるらしい。
                                                                                                                                
だが現場までビビるかどうか、それは別の話だ。
仕事をしていれば誰だって、理不尽な命令にぶつかることがあるし、そこで悩んだ経験はあるはずだ。上層部からの圧力に屈従するかどうかって、マスコミだけでなく普遍的な問題だ。映画パリよ、永遠にヒトラーのパリ破壊命令に従うかどうか悩んだコルティッツ将軍、映画シェフ!で決まりきったメニューを作ることを強いられた凄腕シェフ誰のために仕事をするか、何のために仕事をするか:映画『シェフ 三ツ星トラック始めました』と映画『パリよ、永遠に』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)事の大小はあってもみ〜んな同じだ。特にサラリーマンの場合 組織である以上 命令は聞かなければならないこともある。だけど、それをバカ正直にそのまま実行するかどうかは別だ。仕事場で若い子に『命令に盲従しないで、まず自分で考えなさい。君は上司に死ね、と言われたらほんとに死ぬのか(笑)』と説教(笑)することがある。そこで如何に自分の意思を入れていくか、あまりにひどい命令だったらサボタージュするか、それが腕の見せ所だし、働く人の責任でもある。それが仕事をしている意味だ言われたことしか出来ないんなら、そんな奴は機械に置き換えたほうがいいって(笑)。

                                                      
発売されたばかりの町山智弘氏と爆笑問題の『自由にものが言える時代、言えない時代』を流し読みしていたら、太田光が『この何年間か、TVではどんどん制限が厳しくなってきたけど、それが一概に悪いとは思わない。その制限の中で自分なりに表現をしていくのが腕の見せ所だ。』ということを言っていた。
その通りだと思う。少し前ラジオで、辺野古の件で安倍晋三のことをバカとか幼稚とか連呼した音楽映画二題:映画『味園ユニバース』と『はじまりのうた』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)太田光は、安倍晋三主催の桜を見る会?で安倍晋三と記念写真に納まってたらしい(笑)首相から太田光に接近 バカ連呼で?/芸能/デイリースポーツ online。それでいいのだ。

                                                                                                                                                 
政治が報道にプレッシャーをかけるのは確かに問題だ。ここまで露骨だと、やはり言論の自由は危うくなってくる可能性は高い。だがマスコミ、それを受け止める一般国民だって上司や権力の命令通りにしかやらない人種、つまり自分の考えがない人種が多くなってきたんじゃないか。そういう連中は政治のプレッシャーがあろうがなかろうが、行動に大した違いはない(笑)。左が流行れば左へ、右が流行れば右へ行く。自由にモノが言えないとしたら、そのようにあまり考えないで大勢順応する個人の意識の問題の方が大きいのではないか。
確かに今のTVマスコミは酷い。報道もバカみたいなニュースばかり取り上げるし、フリーダムな東京MXTVやテレビ東京を除けば、どのTV局も横並びの同じような番組ばかりだ。(ボクは直接見てないが)古賀茂明の言ってることもそれほどは的外れではないのだろう。だが、彼のやり方はあまりにも幼稚だし頭が悪すぎる。圧力の証拠をきちんと出しもしないで自分の言いたいことだけまくしたてて被害者面するのは、とても50過ぎの社会人とは思えない。この人のことはそれほど良く知らないけど、がっかりした。
                                        
そんなことより、遥かに大事なことがあるプレッシャーをかけられてもやる人はやる自分の能力と立場を活用して、やれることをやる。そのためにはどうしたら良いか、一人一人が胸に手を当てて考える。この前の土曜日 TBS報道特集の冒頭でロックファン(笑)の金平茂紀キャスターが自民党のマスコミへの圧力を堂々と非難していた。結局 自由にモノがいえるかどうかは人間の内面の問題の方が大きいのだと思う。


この映画もある意味、やる人の話だ。
日本橋で映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密

舞台は第2次世界大戦当時のイギリス。ドイツ軍の猛威が吹き荒れる中、イギリスはドイツ軍の暗号解読のためのチームを結成する。ドイツ軍は『エニグマ』と呼ばれる暗号機を使っており、あまりにも膨大な組み合わせの暗号であるため解読が困難だった。ケンブリッジ大の数学教授だったアラン・チューリングは暗号を解くための機械を開発することを提唱する。

最初にこのお話は実話である、との表記がでる。基本的なあらすじ、コンピュータの原型を開発した一人であるアラン・チューリングが同性愛だったことは知ってたので、あんまり期待しないで見に行ったが、これが心に染み入る実に良い映画だった。
●暗号解読のためにチューリングのほかにもチェスのチャンピオンや女性数学者などユニークな人材が集められた。

                                                
お話は彼のパブリックスクールでの少年時代、暗号解読に励む戦争中、それに彼が同性愛で逮捕された1950年代初め、その3つの時代が交錯して進んでいく。そのころの時代のパブリックスクールでの同性愛と言えば、80年代の大傑作映画アナザー・カントリーを思い出さずにはいられない。部隊はパブリック・スクール自由主義者の主人公、ガイ(ルパート・エベレットくん)とコリン・ファースが同性愛で結ばれるが学校に弾圧される。やがて恋人のコリン・ファースはスペイン市民戦争で戦死、体制への怒りにかられた主人公はやがて共産主義者になり外交官としてソ連の大物スパイになる、という実話をもとにしたお話だった。理想主義者だった彼が体制に裏切られながらも、自分の内面の真実(アナザー・カントリー)を懸命に守り通そうとする姿にはボクは本当に影響を受けました。『アナザー・カントリー』の主人公は英上流階級内の有名なソ連スパイ網ケンブリッジ・ファイブ』ケンブリッジ・ファイブの二律背反 - 英国ニュース、求人、イベント、コラム、レストラン、イギリス生活情報誌 - 英国ニュースダイジェストの一人、ガイ・バージェスだ。ケンブリッジ・ファイブのメンバーはこの『イミテーション・ゲーム』でも研究チームの一員として登場する。

アナザー・カントリー HDニューマスター版 [DVD]

アナザー・カントリー HDニューマスター版 [DVD]

●『アナザー・カントリー』より。左が主人公ガイ(ルパート・エヴェレット)、右が恋人役、今をときめくアカデミー賞俳優コリン・ファース



この映画の感触もそれと良く似ている。チューリングは数学の天才だけど、変わり者で社会への適応能力に著しく欠ける。心の中にはパブリックスクール時代に死別した恋人との愛情が永遠に残っている。純粋な彼を軍や政治が翻弄する。
●右から主人公のチューリング、MI6(高そうな背広だ)、チューリングを助ける数学者ジョーン・クラーク。

                                                     
当初は反目していたチューリングたちだが、女性でも仕事を持ちたいと主張する数学者ジョーン・クラークの仲立ちもあって次第に助け合っていく。結果 とうとう難攻不落とされていたエニグマ暗号を破ることに成功する。ところが暗号を解読しても、イギリスは敢えて解読していないふりをする。チューリングたちに統計解析させて犠牲にする輸送船団を選びながら、重大な部分のみドイツの作戦の裏をかいていく。それは最高機密としてごく一部の人間しか知らされなかった。結果 ドイツは終戦までエニグマを使い続けたという。だがチューリングたちは大勢の人を犠牲にすることに苦悩する。さらにソ連は暗号解読チームのメンバーをスパイにする。チューリングはそれに気が付くが同性愛の件でソ連に脅されて手が出せない。だがMI6は戦争の勝利を確実にするために、政府にも極秘で情報をソ連に流させていた。脚本と言うより実話かもしれないが、ここいら辺のストーリーは実にすばらしかった。その反面 エニグマ解読に至るまでの脚本は少しシャープさが足りないように感じるが、それをカバーしているのが俳優陣の好演だ。
                                                                                                                   
女性人気が高いというベネディクト・カンバーバッチを見るのは初めて。爬虫類みたいな顔をしてると思うんだけど、なんでこの顔が人気あるんだろう。だけど、この映画では地味だけど実に細やかな演技をしていて好感が持てた。アラン・チューリングという人の心の輪郭をなぞるような繊細な演技で、この人がこんなに演技ができる人だとは知らなかった。

キーラ・ナイトレイも実に良かった。女性はあくまでも補助的な役割しか与えられなかった時代、自立する女性を目指す数学者ジョーン・クラークという強烈な個性を持つ人をエキセントリックだけど品良く、それに知的に演じている。相反するような要素を共存させるような演技ができる人もなかなか珍しいのではないか。今年『はじまりのうた音楽映画二題:映画『味園ユニバース』と『はじまりのうた』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)を見て以来、この人が大好きになってしまったのだが(笑)、この映画での彼女も実に素敵でした。

戦後の1952年、チューリングは当時は違法だった同性愛で告発され、ホルモン剤で化学的去勢処置を受けさせられる。絶望した彼は1年後に自殺したが、彼の名誉が公式に回復されたのは2013年だったと言う。ちなみに『アナザー・カントリー』の主人公ガイがソ連へ亡命したのは1951年。そういう時代だった。
                                                                                            
この映画が心を揺さぶるのはゲイと自立する女性、この時代にマイノリティであった者同士の心の交流があるからだろう。お話はかなり史実に忠実なようだが、その点にスポットを当てたのはまさに脚本の勝利だ。この映画の脚本家が脚色賞を受賞したアカデミー賞授賞式で『今 自分が孤立して悩んでいる人でも、自分の居場所はどこかにあることを絶対に忘れないでほしい』という感動的なスピーチをしていたが、この映画はまさにそのことを訴える作品だった。真実はきっと人間の内面にある