特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

怖〜い女性のお話(笑):映画『何を怖れる』と『ゴーン・ガール』

例のイスラム国の件、TVをつけると被害にあった人のご家族や関係者の話とか、わざとらしい安倍晋三の怒りの談話とか、同じような話ばかり流れていて、これは見てるとアホになる、と思った。事実関係や多面的な見方を伝えると言うより、見る側の感情を煽り立てるようなものばかりで、すごくいや〜な気持ちになる。
これはもう、TVはいつも以上に見ないようにするしかない!(笑)。一方 ネットを見ると安倍政権やアメリカの陰謀だ、とかわけの判らない陰謀論も飛び交っている。そういうこともあるかもしれないし、利用しようとしている政治家はいるだろうけど、書き込まれている話はきちんとした根拠があるわけでもなく、殆どは無知や思い込みからでっち上げた誇大妄想ばかりだ。

                                     
TVを見て安倍政権を支持する人たちもhttp://www.47news.jp/CN/201501/CN2015012501001745.html、ネットに妄想を書き込んでいる人たちもよく似ていると思う。どちらの側も事物を主体的に検証したり、立ち止まって考えてみる人が少ない、という点で共通している。そういうTVやネットの世論は何か他の事件が起きると関心はそちらへ向き、また同じことを続ける。TVに踊らされるのもネットに妄想を書き込んでいるのも所詮は同じで、流されている、のだ。
そんなことをやっているから原発も、秘密保護法も、安全保障も、日本の経済の方向性も、国民の間で議論はなかなか深まらない。政治家も政策の議論より、自分の議席維持が優先事項になる。その結果 責任者不在でどんどん物事が勝手に決まっていってしまう。太平洋戦争前もそうだったんだろうけど、今もそういう流れはどんどん広がっているような気がするな。議論でなく国民のムードで物事を決めて行ってしまう、これを『反知性主義』というのか『ポピュリズム』というのかは知らないけれど、恐ろしい話だ。この、流されるという問題はボクにとっても他人事ではない。本当の敵は自分たちの心の中にいるんじゃないか。

                        

                                          
                                           
渋谷で映画『何を怖れるドキュメンタリー映画 何を怖れる フェミニズムを生きた女たち

日本のフェミニズムの創始期から現在までの経緯を田中美津上野千鶴子、樋口恵子、井上輝子、駒尺喜美などフェミニストの人たちのインタビューをまとめたドキュメンタリー。

60年代後半から70年代初頭、フェミニズム創始期の学生運動の中でも女性が差別されていた話や女性学が学問として成立していく過程、それにいろいろな場所で自分たちの居場所を切り開いていった話は、聞いていて飽きなかった。結婚して家庭に入るのが当たり前だったころから、自分たちで職業を作っていったり、生きる場所を切り開いていったりしてきた人たちだ。やっぱり話は面白い。さぞ大変だっただろうな。特に身体障碍者の入場お断りというモナリザ展に怒って、ケースにスプレーをかけた女性(彼女はポリオを患っていた)の話も面白かった。そんなことがあったんだ。今から考えると障碍者の入場禁止もスプレーをぶっかけたのも呆れるくらいバカな話だが、被害がなかったから良かった(笑)。でも皆、極端に我が強いから身近に居たらボクは嫌かも(笑)。こういう人たちは良い意味でも悪い意味でも一線を踏み越えることも厭わず他人に働きかけようとするから、一人でいるのが楽しいボクとは相容れない。近くに居たら単純に疲れそう。映画のタイトルに絡めて言わせてもらうと、ちょっと怖い(笑)。
●インタビュー集の本も発売

何を怖れる――フェミニズムを生きた女たち

何を怖れる――フェミニズムを生きた女たち

                                                                                                         
まだまだ問題は山積しているにしろ、今や女性が男性と同じように働くのは少なくとも表向きは当たり前の時代になった。いつリストラされるかわからない不安定な時代に男だけが働いて家族を養うなんて自殺行為だし、差別化とか付加価値が重要な時代に優秀な女性の能力を活用できなかったら、そんな国や企業は存在すらできないだろう。職業生活の面からも、学問/理論の面からも、彼女たち、それに市井の一般女性たちの果たしてきた役割は大きかったのだ。その彼女たちが老いを迎えようとしている。
この映画を見ていると、長い戦いの果てに彼女たちがようやく穏やかな地点にたどり着いたような印象を受ける。実際は知らないけど(笑)。そう感じたのは、この映画のバックで流れ続けている現代音楽風の音楽がセンスが良くて心地良いのも影響しているのかも。上映されている時間が心地良いというのは大事なことだ。
                                                 
上映後のトークショーで監督は『こういうことがあったのを、若い人に知ってほしい』と言っていたけど、そういう面ではこの映画は物足りない。男女雇用機会均等法の話は直接は描かれないし、90年代以降のフェミニズムへのバックラッシュも描かれない。何よりも肝心の若い人たちが今、どう思っているか、という視点が欠けている。時代を切り開いてきたフェミニストたちの姿を描くのは良い。上野千鶴子の指摘は相変わらず冴えているし、かっては闘争のマドンナと呼ばれていたが今は四万十川のほとりの人口70人の集落で静かに暮らしている滝石典子氏なんかは魅力的な人だと思った。だが、これからそのバトンをどこへ受け継いでいくのか。映画館は超満席で観客は女性が9割以上、だが大部分が60〜70代の人たち、というのもそれを象徴していると思う。
                                               
フェミニズムの大きな成果の一つは、この映画の冒頭でも引用される『個人的なことは政治的なことである』というテーゼ?を導きだしたことだ。それは老若男女を問わず普遍的な問題だし、今も変わらずに横たわっている問題だ。職業生活でも日常生活でも、ボクが直面している問題でもある。老フェミニストたちの心境を語るだけで終わってしまうのはもったいないと思うのだ。

と、辛口なことも思ったけれど(笑)、映画としては充分に面白かったし、各地の上映会で多くの人に広まれば良いと思います。
●上映後のトークショーにて。映画を撮った松井監督

●井上輝子和光大名誉教授。映画にも出てくる彼女は『女性学』という講座を大学で始めて開いた人だそうだ。『(映画に出てくる)極端な人たちより、平凡な人たちが積み上げてきたことが大事なんです』と言ってた(笑)。良いこと言う。



                                
新宿で映画『ゴーン・ガール』@大ヒット上映中

ミズーリの田舎町に住む夫婦。結婚5周年の記念日に妻(ロザムンド・パイク)が謎の失踪を遂げ、夫が(ベン・アフレック)が一人取り残される。のどかな田舎町の不可解な失踪劇にマスコミ、周辺住民の捜索活動が続くが、次第に夫妻の不仲や夫のDVの疑惑が浮かんでくる。被害者だった夫は容疑者として扱われ、次第に追い詰められていくが- - -
●行方不明になった妻を探して夫は記者会見を開いて、協力を訴える。

監督は『ソーシャル・ネットワーク』のデビッド・フィンチャー。音楽も同じくナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーアメリカでは原作小説共々大ヒットしたらしい。
日本でも劇場には滅茶苦茶 人が入っている。なんでも夫婦やカップルでは絶対に見に行ったらダメだ、と言われているらしい。 スリラー、もしくは陰惨な話を想像していったら、全くそんなことは無かった。むしろ人生の不条理を描いたコメディで、ボクはゲラゲラ笑いながら見ていたくらいだ。そういう客はボク一人だったが(笑)。
●何事かをたくらむ妻のこの表情を見て。こわ〜。

前半はミステリー仕立てだ。幸福そうな夫婦だったのに、なぜ妻が失踪してしまったのか。被害者である夫は善人なのか、何か隠しているのか。お話は妻が残した日記をもとにした幸せな過去と、現在の物語がシンクロする形で語られる。
夫婦の愛情と行き違い、経済的な問題、様々な問題が山積していく。画面も美しい。粉砂糖の舞い散る中でのキスのシーンなんて、完璧な美しさ。それが後でブラックに変わるんだけど(笑)。
●幸せそうな二人。図書館でのデート

                                        
俳優二人が非常に良い。まず夫役のベン・アフレック。パッと見はハンサムなんだけど、実はいい加減であんまり頭が良くない男、っていうのはどうしても本人のパブリックイメージと重なってしまう(笑)。と言いつつ、演技も大変頑張っていて、妻が失踪した記者会見であまり悲しそうにしていない表情を見せてしまうところ、逆転の記者会見の誠実そうな男ぶりなんかは大変面白かった。
●失踪した妻の探索を訴える記者会見で微妙な表情を見せる夫

                             
それに妻役のロザムンド・パイク。昨年『ワールド・エンド 酔っ払いが世界を救う』に出ていたが、その時はあまり印象に残らなかった。ここではアメリ東海岸の上流階級出身のクール・ビューティぶりがぴったりなのだ。冷ややかに陰謀を進めていく彼女の明晰さは、これまたクールな音楽・雰囲気とも相まって印象に残るというか、サイコー。それにスタイル抜群の超美人ぶりも見ていて実に楽しかった。文字通り目の保養。この映画は彼女のためにあるようなものだ。
●超美人、それに冷酷で頭が切れる、だけど、それだけではない妻

ミステリーは中盤にあっさり、ネタばれしてしまう。ミステリーにあまり興味がないボクとしてはそこも良かった(笑)。 そこから展開される、頭脳明晰な美人妻が悪人ではないがダメ男の夫を追い詰めていくところは面白くて仕方がない。そして妹の手を借りての旦那側の反撃。ついでにTVのワイドショーを中心としたマスコミのバカさ、大衆の頭の悪さもこれでもかとばかり描かれる。
●今度は夫を犯人扱いしてマスコミが押しかける。

                                         
ラストも悟りきったというか、結婚生活の真実を突いたとか言われているが(笑)、ボクはそれより、どんな酷い人生でも笑いながら(冷笑しながら)生きていくしかないっていうところ、に共感した。自分を取り巻く世界も、そして自分も、どうせ酷い、ロクでもないんだもん(笑)。
俳優の演技、画面の美しさ、音楽、お話、どれをとっても非常に完成度の高い、めちゃくちゃに面白い映画。ゴールデングローブ賞の主演女優賞にロザムンド・パイク、それに脚本賞にもノミネートされていた。とにかく欠点がない、それでいて、圧倒的に楽しい映画だった。