特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

読書『愛と暴力の戦後とその後』と映画『革命の子どもたち』

滋賀県知事選は幸いにも意外な結果となった。投票率が前回より10ポイントも低いにも関わらず、共産党得意の無駄な立候補による自民党支援も功を奏さず(笑)、非自民の候補が勝った。いろんな新聞を読んで考えてみたけれど、朝日が言っているように公明党の投票行動が低調だったことが原因だったのだろうか。今回の低投票率を考えれば反原発の票が増えたわけでもないし、集団的自衛権反対の人が目立って増えたというわけでもなさそうだ。勝った元民主党の国会議員も原発の海外輸出協定に賛成票を入れた人間だしお知らせ : 京都新聞、道はまだまだこれからといったところだろう。今回の教訓は自民と公明の分断、民主党を解散させて野党再編の核にすること、の重要性、だと思った。

                                                                  

台風が過ぎた後の週末ははっきりしないお天気だったが、夕焼け空が美しかった。最近は陽が長くなったから、夕焼けを見る時間も長くなったような気がする。窓を全開にしてポリー二先生のショパンの『24の前奏曲(若い頃の方)を聞きながら本を読んでた。昼の熱気を覚ますように吹き込んでくる強い風と端正な音が平日の雑事・雑音を押し流していくようだった。ボクの週末で意味があることなんて、これくらいのもんだ(笑)。


                             
この週末に読んでいたのは赤坂真理の『愛と暴力の戦後とその後』。

天皇の戦争責任に敢えて言及して話題になった、この人のベストセラー、『東京プリズン』は未読で、まだ書斎の床に積んだままだ(笑)。

愛と暴力の戦後とその後』は安保、学生運動、80年代、バブル、オウム、自分がかかわった住民委員会、改憲騒ぎや右傾化、そして日本の閉塞感など戦後の事象について彼女の感想を綴ったものだ。論理的ではないけれど、言葉が強い。いかにも小説家らしい、感性を優先させた文章だ。ボクとほぼ同年代だからなのか、天皇学生運動憲法など考えていることがずいぶん近いのでびっくりした。ボクは自分では孤立無援の変わり者だと思っていたので妙な気分(笑)。
例えば憲法について彼女はこう言っている。
『私はどちらかと言えば、現行憲法を護ったほうがよい、と考える。その理由は簡単で、自国の政権とその暴力運用能力を全く信じていないからだ。』
『日本軍は希望的観測に基づき戦略を立て、ウソの発表を報道し、国際法の順守を現場に徹底させず、多くの戦争で戦死者より餓死者と病死者を多く出し、命令で自爆攻撃を行わせた世界で唯一の正規軍だ。』『私たちは暴力運用能力の低さゆえに無駄な犠牲をあまりにも多く出したそしてそのことを検証しないし、そこから何も学んでいないのだから戦争がまた出来ると思わない。また戦争をしたらこの国は敗戦ではなく、自滅すると思う。』
この『自滅』というのが日本を表現する一つのポイントになっている。例えば『特攻』は軍上層部が立案し、巧妙に強要した『仲間殺し』、つまり『自滅』の類型なのだ。その構図は、ここにも表れている。
『沖縄を相変わらず本土のための捨て石に使い、自由主義がすべてを活性化する他人(アメリカ)の物語を自分の信念のように語り、自国民とその住む土地を、フクシマを公式の場で見捨てる。見捨てた方がコストの面で助かるのだ。口実としてオリンピックの東京誘致は最適だった。』

さらにこうも言っている。
『私は現行憲法、特に九条を護りぬこうという人たちに素直に与することが出来ずにきた。彼らの多くが言う「日本人の平和に対する願いが憲法に実った」という言い方にウソとは言わないまでも省略がありすぎるから。』
『日本人は戦争で疲弊してもう2度と戦争はしたくないと思ったかもしれないが、あくまでも他人(アメリカ)の言葉がその気持ちにフィットしたに過ぎない。』
『また日本人はその後、対岸の戦争(朝鮮やヴェトナム)で儲けられるのなら、それを歓迎した事実も私を傷つける』
そう、一部の人たちが、『平和を守れ』、と念仏のように唱えるのに、ボクが共感もつつも、違和感を覚えるのはそこにある種の嘘くささを感じるからだ。そして、こう言う。
『戦争は多量の破壊と喪失以外に何ももたらさないけれど、ごくまれに(平和憲法の思想のように)奇跡のような言説や概念を世に出そうとすることがあるのか、と改めて思う。』
『それには敗北から始めるという自らの立場をごまかさずに明らかにして、その前と後ろにあるすべての経緯を、すべての人に明らかにしなければならない。』


この本から、判りやすい結論を読み取れる人は多くないかもしれない。ここでは彼女は作家らしく、あくまでも自分なりの、個人的な物語を紡いでいるだけだ。そして、我々一人一人は生きていくために必要な、自分なりの物語を持っているはずだ、と言う。『まったく個人的であり、だからこそ奥底で普遍に通じるそんな力が。』
ボクは国家や右左を問わず組織は一切信じない。だが人間の持つ個人的な力は信じる。ボクの大好きな映画や音楽を政治や経済の話と同等に考えるのも、そういう理由からだ。



新宿で映画『革命の子どもたち映画『革命の子どもたち』公式サイト


日本赤軍重信房子とドイツ赤軍のウルリケ・マインホフ、2人の革命家/過激派とその娘でジャーナリストの重信メイ、ベティーナ・ロール、母娘の姿を描いたドキュメンタリー。

アイルランド人監督によって2011年に作られ、故若松孝二監督が日本公開を熱望していたという作品。

                                               
正直言って、その頃のことはボクはよく知らないし、あまり興味もない。ゴダールですら、そういう映画を作っていた時代だから仕方ないのかもしれないが、武装闘争で世の中を変えようなんて『脳味噌は大丈夫か?』という感想が先に立つ。ちょうど赤坂真理も全く同じことを書いていた。『赤軍派の物語は戦死者より餓死・病死者の方が多かった旧日本軍と同じだ。自己否定で始まるものは仲間殺し・自滅で終わる』、と。


もちろん 今の時代の価値観でバッサリ切り捨てるのは乱暴だし、イスラエル側がナチスのように暴力を奮っているパレスチナでは武装闘争しか手段はなかったことも理解している。おりしもイスラエルのガザ攻撃が激しさを増している。こうなってくると正しいことは一つしかない。武力行使はやめろ、ということだけだ。安倍晋三が偉そうに積極的平和主義と言うのなら、こういう時に仲介にでていかなくてどうする?世界各地で反イスラエル・デモ、ガザ空爆に抗議 写真26枚 国際ニュース:AFPBB News


どちらかというと重信メイという人が驚くような美人なので、ボクはそっちが目当て(笑)。昨年 勉強がてら『アラブの春』について、彼女の本を1冊読んだことがある。

                                                    
この本は鋭い視点もあったけど、シリアのアサドびいきのところなどは必ずしも全ての見解に賛成はできなかった。だが今にして思えば、シリアについてはイラクへ流れてきた反アサド派がアルカイダからも破門されるくらいの残虐な虐殺をやっているのを見ると、彼女の言っていることが正しいのかもしれない。とにかく、彼女がどういう人なのか興味があった。
重信房子

●ウルリケ・マインホフ。ドイツ赤軍と言うより『バーダー・マインホフ・グループ』の方が有名かも

                              
物語は当時の記録フィルムに、友人たちや娘二人の証言が組み合わさって進んでいく。当初は東ドイツから資金提供を受けて共産主義の宣伝をしていたが、後には決別してTVにも出演する有名コラムニストになったマインホフ。右翼の活動家だった父、左翼の母から生まれた重信房子。ともに運動を始めた経緯から、地下に潜っての活動、逮捕やその死が語られる。この映画で赤軍派/PFLPの訓練キャンプ風景が初めて明かされたそうだが、本当にこんな感じの訓練だったのだろうか。 兵士が焚火の上を歩く火渡りとかやってたが、これじゃ昔のTV特撮『レインボーマン』のインドの山奥の修行みたいだぞ(笑)。だが訓練キャンプがある原野の荒涼さ加減はすごかった。文字通り死の大地で、訓練をやってたんだ。関係者のインタビューはマインホフの側は友人や元ドイツ赤軍派重信房子の側は元日本赤軍議長の塩見孝也や元赤軍派兼映画監督の足立正生など。塩見孝也のインタビュー場所が新宿ゴールデン街というところが笑った。一生 このまんまなんだろうな。
●挿入された当時の記録フィルム。この人たちは何でジグザグにデモをやってたんだろう(笑)??

●ちょうどこの前 同じ場所でボクもデモに参加したばかりだ(笑)。

                                                    
マインホフは70年代に逮捕され、獄中で自殺したと言われている。というのは、当局に殺された、という説も根強くあるからだ。彼女の死を描いた『秋のドイツ』というドキュメンタリーを見たことがあるのだが、それを見た限りでは彼女が自殺したというのは信じられないところもある。
●逮捕時のマインホフ

重信房子は2000年に日本の潜伏先で逮捕された。オランダのフランス大使館を占拠したハーグ事件の共同謀議の罪で懲役20年の刑を受けて控訴中。ちなみに同事件にかかわった有名テロリスト『カルロス』(『ジャッカルの日』のモデル)は獄中から彼女は全くの無実で、そのアリバイを法廷で証言しているそうだ。


マインホフも重信房子も非常にカリスマがある人だ。特に知的だけど病的に神経質なところもあったマインホフと比べると、重信房子は快活さと実行力があったことがうかがえて、彼女が自然と組織のリーダー格になっていったのは頷ける。日本で逮捕された時の堂々とした態度を見てもそう思ったが、この人は生まれついてのリーダーかも公安警察の中にも重信房子ファンが大勢いたというのは納得できる。それに人相の悪い手配写真ではわからなかったけど、この人、美人であるだけでなく、すごく魅力的な人だ(笑)。
重信房子。2枚目はメイと。


                                                                    
そんな母親たちを娘たちはどう、見ていたか。マインホフの娘で、今はジャーナリストになっているベティーナ・ロールは批判的だ。『母は正しい目的のために、間違った方法を選んだ』、『母たちグループのテロリズム活動はコカイン中毒と同じようなものだ』、『自分が子供を持ってから、母は子供を持つということをわかっていなかったんではないか、と思った。』という。彼女はマインホフと決別・離婚した父に育てられた。ドイツ赤軍が根拠地にしていたパレスチナへ連れて行かれそうになったが、すんでのところで連れ戻されたという。
●ベティーナ・ロール氏

                    
それとは対照的なのが重信メイだ。彼女は母親の活動を積極的に肯定はしないまでも理解はしている。そして『今はメディアも多様化しており、権力側が一方的に情報を独占していた当時とは違う。だから自分は母とは違うやり方で戦っていきたい。』という。
レバノンでインタビューに答える重信メイ

                          
日本赤軍が根拠地をパレスチナへ移した後、重信メイパレスチナ人の父との間で生まれ、そこで育った。イスラエルの暗殺を恐れて、幼少の時から偽名で育ち、いろいろな家庭を転々とする暮らしだったという。イスラエルの連中は何の罪のない子供まで狙っていたわけだ。実際 彼女の周りにはイスラエルの手紙爆弾で大けがをした人もいたという。国家が個人に対してテロをやるって、どうなってるんだ(怒)。彼女が母と一緒に暮らせたのは中学生くらいまでの実質6年間くらいだそうだ。
●こ、これは可愛い- - -

                                            
彼女はレバノンの大学へ進んだが、イスラエルに誘拐される恐れも出てきたので日本へ帰国した、そうだ。子供の時から死線を潜り抜けて生きてきたからなのか、柔らかな口調で明快に話す人だ。その中に凛とした強さを感じる。日本で軟弱に暮らしているボクなんかとは次元が違う。

この映画はアイルランド人の監督が撮ったということもあって、過度なセンチメンタリズムもなく、二人の過激派とその娘たちの姿が淡々と描かれていて、判りやすくて好感をもった。ちょうど良いバランス感覚ではないか。




終了後はトークショー。さっきまで画面に映っていた重信メイ足立正生が登壇する。足立氏の容疑は旅券法違反のみだったので、すでに出獄して映画も作っている。パレスチナ重信メイの父親代わりとして一緒に暮らしていた時期もあるそうだ。彼は『(学生からいきなり活動家になって)本当の生活というものを何も知らないままだった私たちは、彼女の成長とともに本当の人間の暮らしというものを学ぶことができた』と述べていた。なるほど。
重信メイ足立正生

                                                   
司会者から、母親に否定的なベティーナ・ロール氏との違いを尋ねられて、重信メイ氏が答えた言葉が非常に印象に残った。『自分は実の家族とは長い時間を過ごせなかったが、住まいや家族を転々とするなかで、周りの人たちから本当に沢山の愛情を受けて育った。会ったことがないからわからないけれど、べティーナ・ロールさんとはたぶん、そこが違うのだと思う』
●圧倒的な美人だ(笑)



                             
子供の時から当たり前のように死の危険にさらされて育ってきた人が、まさか『愛情』のことを口にするとは思わなかった。彼女にとっては愛情の重さもボクなんかとは違うのかもしれない。と、同時にそういう愛情をはぐくんだ、50年以上、そして今この瞬間も戦争が続いている場所について、つくづく考えさせられてしまった。



●予告編

●おまけ:映画館を出たら、ちょうどデモ隊が通った。この『0705安倍政権打倒デモ』は盛況だったらしい。