特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

強欲とタガメ女:読書『強欲の帝国』と映画『ブルージャスミン』

ちょっと前のニュースだけど、大事なことなので書いておく。6月1日にデモから帰ってきて確認のためつけた(笑)TBSのニュースで『白血病を発症した広島原爆の被爆2世のうち、父親が被爆し、戦後早い時期に生まれた人ほど、発症の危険性が高いとする研究結果が出た』というのが報じられていた。これはちょっと衝撃的だった。
http://mainichi.jp/select/news/20140602k0000m040093000c.html
今まで、放射線の被曝による遺伝的影響はない、とされてきたが、この結果が確かだとすると話は変わってくることになる。ここでパニックを起す必要はないが、放射線の身体への影響はまだ完全にはわかっていない、ということは確かなのだと思う。無関心は傲慢への入り口なのだ。
 
                                                                                                                        
さて、今回のテーマは『強欲』です(笑)。
まず、チャールズ・ファガーソンの『強欲の帝国』。

強欲の帝国: ウォール街に乗っ取られたアメリカ

強欲の帝国: ウォール街に乗っ取られたアメリカ

と言っても、著者に聞き覚えは無いとは思いますが(笑)、チャールズ・ファガーソンは映画『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』で2010年のアカデミー長編ドキュメンタリー部門を受賞した人。映画が本職ではなく、元はMITやハーヴァードで研究員を勤めたあと起業してソフト会社を作り、その会社をマイクロソフトに売却したという経歴。
主旨に賛同したハーヴァード卒のマット・デイモンがナレーションをしている映画の内容は、リーマンショックは巨大金融とそれに操られた政治家、学者が引き起こした。つまり彼らはインチキ証券を売り抜けて多額のボーナスを稼いで最後には税金で救済された一方、庶民は雇用や貯金をなくして大損をした。巨大金融、政治家、学者はみんなグルだったインサイド・ジョブ)というもの。確かに本当なんだよ。公開当時 メガバンクの幹部級の間ですら話題になっていたし、ボクが映画館に観にいったときも当時 金融財政担当大臣だった与謝野馨が客席にいたのが非常に強く印象に残っている。与謝野馨は監獄の夢を見るか?:映画『インサイド・ジョブ』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)

この本は監督がその内容を増補してまとめたもの。世の中を考える上で大事なことが書いてあると思うので少し詳しく内容を書きます。
1970年代後半から 規制緩和と大手への寡占化で投資銀行や保険会社など金融業の力が強まっていき、規制緩和や富裕層への減税など自分たちに有利な政策を作らせるようになった。さらに経営幹部らの報酬が短期的な業績に基づき現金で支給されるようになると、詐欺的な方法で株式や債券などクズ同然の金融商品を売り、バブルを作って莫大な富を強制的に略奪するようになった。更に経済学者や格付け会社はそれを助け自分たちも利益を受けた。リーマン・ショックでバブルがはじけると一部の企業は潰れ、多くの人が家を失ったり失業したが、残った大手金融企業は税金で救済され、経営幹部は天文学的なボーナスを手に入れ続けている。詐欺的な手法を行った投資銀行や保険会社の幹部は誰一人として刑事訴追されていない
                                                                               
著者によると、規制緩和によりデリバティブなどの規制緩和と経営者への高額報酬が認められたこと金融バブルと詐欺的な収奪を引き起こしたという。
例えば金融商品。貧困者向けのサブプライムローンがバブルを引き起こしたと言うが、さまざまな金融商品が発売されている。たとえば債務者の収入証明が不要な『ノードキュメント・ローン』まであるという。さらにそのローンを細分化して証券として投資家に売り出す。その証券に対する保険も売られている。規制緩和と言っても滅茶苦茶だよ(笑)。当然 貸し倒れリスクは大きいが、銀行にしてみれば痛くもかゆくもない。証券化された債権には保険をかけているからだ。貸し倒れになったところで、保険金が入ってくるから関係ない。規制緩和って言ったって、限度があるだろうが。

例えば経営者クリントン政権の財務長官だったロバート・ルービン投資銀行と商業銀行の兼業を禁止したグラス・スティーガル法の廃止を担当し、規制緩和に大きく貢献した。財務長官を辞めたあと大手銀行のシティグループの副会長になり、10年間で120億の報酬を受け取った。ちなみに最近の経営者は高額のボーナスを現金支給されるため、そのあと自分の会社が倒産しても関係ない。毎年数十億円ももらっていれば充分だろう。だから短期的な利益だけを追求するようになる。倒産したベアースターンズ(投資銀行の会長は未だに資産を600億円も持っているという!ちなみに倒産前は自社株だけで1000億円持ってたそうです(笑)。
                                                                      
メリルリンチ(今は買収された)ベアースターンズ(倒産)リーマンブラザース(倒産)シティグループ(政府が救済)AIG(政府が救済)などの幹部は投資リスクを殆ど意識していなかったという。商品が複雑すぎて全容を把握している者は殆どいなかったためだ。その代わりに幹部はゴルフ、酒、接待、クスリなどに明け暮れていたという。前述のベアースターンズの会長は『マリファナ中毒の誇大妄想狂』と周囲から呼ばれていた。会社が倒産寸前になった6週間の間に20回もゴルフをやっていたゴルフ狂のメリルリンチの会長の退職金は160億円。ディカプリオ君の映画『ウルフ オブ ウォ―ルストリート』なんてかわいいものだったのだ。
一方 世界最大の投資銀行ゴールドマン・サックスは組織的に投資リスクをきちんと把握していた。バブルが崩壊する数年前から危険な債権を売り払い、AIGなど他の会社が倒産するほうへ賭けて大儲けしたという。ブッシュ政権の財務長官ヘンリー・ポールソンはゴールドマン・サックスの元会長で彼のゴールドマン在籍中の報酬は500億円だ(笑)。                                                                                                                                                                                                                                                  

                                                                          
そのゴールドマン・サックスは幹部に民主党共和党支持者を同数配置し、献金も万遍なく行っているそうだ。結局 共和党民主党も金融業界に牛耳られている。
金融への規制強化(ボルカールール)を未だに実行できないオバマ政権だが、それには理由がある。著者はオバマの人事を指摘している。ニューヨーク連邦銀行(日銀みたいなもの)の総裁はゴールドマン・サックスのチーフエコノミスト、国家経済会議の議長はゴールドマン・サックスを担当していたコンサルタント、証券取引委員会の法執行局長はドイツ銀行の法務責任者、国務副長官はシティグループCFO経理担当役員)、国務次官はゴールドマン・サックスの副会長、もうキリがない!ちなみにTPPで日本でも有名になったマイケル・フロマン通商代表はシティグループオルタネイティヴ投資部門(*デリバティヴなどのインチキ投資)の幹部だったそうだ!


                                                                             
                                          
このような状況への処方箋として、著者はこんなことを挙げている。
『教育の機会と質を高めること。富裕層しか通えない学費が高い私立大学だけが十分な資金を得られる状態では、アメリカは経済競争力を持つことも賢明なリーダーを持つこともできないだろう。』
『金融部門の規制強化。高額報酬や法執行機関の強化、金融取引への課税を行うことで業界の政治力は縮小し、有能な人材がより建設的な活動に供給されるだろう。』
『政治に対するカネの影響を制御する。ロビー活動や政治献金に税金を課し、退職後に金融へ人材が流れないように公務員の給与を引き上げる』、
『個人税制・法人税制の改革。特に相続税の大幅引き上げが必要』、
『独占禁止政策の規制強化。停滞している大企業を分割し、成熟産業への新規参入を促進する仕組みを作る。』

                                                                                   
著者は金融業界が国を牛耳る状態は20年〜30年近く続く可能性はあるにしても、長期的には持続不可能だろうという。バブルと崩壊が繰り返されるだろうし、今後はアメリカ優位の経済体制は中国やインドの台頭で成り立たないだろうからだ。
そして、世の中を変えるために個人にできることはたくさんあるという。政治的には、デモへ行く、政党への献金拒否、ウォ―ル街占拠運動などの団体への支援、まともな候補者への投票、個人のレベルでは貯蓄に励み、カネを地場銀行や信用組合に預ける、慎重かつ倫理的に投資する、子供に十分な教育を受けさせること。そしてアメリカを変えるためには、既存政党の中の反乱、第3党の台頭、超党派の社会運動、これら3つが補強しあうことが必要だとしている。

                                                  
                                  
酷い話だけど他人事ではない。フロマンの件だってそうだし、日本全体だってアメリカみたいな方向へ進んでいる。幸い日本の金融関係者はアメリカの連中ほど頭良くないから助かっているが、郵政民営化だってそうだったし、我々の年金の積立金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)にもっと株に投資させろ、とかキナ臭い話はいくらでもある。例えば自分の勤務先がハゲタカファンドに買われることだってあるかもしれない。 規制緩和は良い面もあるけれど、規制緩和をやりすぎるとどういうことが起きるかは良く知っておいた方が良い

                                                                                                                           
この本は耳慣れない金融商品の固有名詞が出てきて少し難しかったけど、丁寧な脚注がついているのでボクのような素人でも読めました。読む甲斐は絶対あります。世の中を本当に動かしているのは誰かを考える上で、この『強欲の帝国』もしくはDVD『インサイド・ジョブ』は必読・必視だと思う。

●この『俺たちシリーズ』でも金融業界がやってきたことの大筋は判る(笑)。オープニングでは俗悪資本主義の象徴、トランプ・タワーをぶち壊し、エンディングでは『世の中を良くするためには結局 我々一人一人が戦っていくしかない』、『ゴールドマン・サックスは手ごわい』(笑)だもの。
ラスボスは誰だ!:『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)

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次は『強欲』に関する映画(笑)。渋谷で映画『ブルー・ジャスミン映画『ブルージャスミン』公式サイト
ウッディ・アレンの新作、主演のケイト・ブランシェットが今年のアカデミー主演女優賞を取ったことで話題の作品。

NYで超豪華なセレブ暮らしを満喫していた事業家の妻、ジャスミンは夫(アレック・ボールドウィン)が金融詐欺で逮捕されて全てを失い、サンフランシスコの妹(サリー・ホーキンス)の元へ越してきた。だが労働者階級でシングルマザーの妹の元での居候生活は、生来の高慢さと過去のプライドが邪魔をして再就職も周囲との人間関係もうまくいかない。そんなある日ジャスミンはパーティーで前途有望な外交官(ピーター・サースガード)と知り合い、再婚してセレブ返り咲きのチャンスを狙うが。
       
●アカデミー助演女優賞にもノミネートされた妹役のサリー・ホーキンス(右)と。

                                         
映画はジャスミンのかってのセレブ暮らしと現在のサンフランシスコでの居候生活が交互に描かれながら進行する。この演出は良かった。ウディ・アレン作品の近年の作品の中でのセレブ生活の描写は本当に豪華で半端ない。『シルクかダニエルズを予約して』なんて台詞を誰が書けるだろうか(どちらもNYの3つ星レストラン)。そういう虚飾に満ちた目が眩むようなセレブ暮らしだけ見てるのもむかつくし、ビールとTVのスポーツ中継が生活の中心の労働者階級の暮らしをずっと見ているのも、結構辛いものがある。要するにボクは典型的な中産階級なんだな(笑)(*中産階級というのは中途半端=伊丹十三が言うところの軽蔑の対象です)。食べものやファッションも含めた暮らしぶりだけでなく、登場人物のキャラクターまで見事なくらい対照的で、ここいら辺の描写は真に迫っていて本当にうまい。テンポの速さといい、ディテールといい今回のウディ・アレン監督の演出は絶好調!
●セレブスタイルのケイト・ブランシェット

                                                                                                            
ケイト・ブランシェットのファッションは見ていて楽しかった。セレブ時代のゴージャスなファッションは勿論、サンフランシスコで零落した暮らしをしていても、エルメスのバックとシャネル・ジャケットのドレスダウンした着こなしも素敵だった。お話の中でこれらのアイテムは零落した主人公の最後の残されたプライドで、ミジメさの象徴でもあるんだけど。勿論アカデミー賞を取ったこの人が演じる、ジャスミンのキャラクターはバカで高慢で依存的で強欲で、たいていの人はむかつくと思うんだけど、スタイル抜群のケイト・ブランシェットはあるときは美しく、あるときはミジメに、あるときはエラそうに、そして心が病んでいく様を見事に演じわけている。シャワーで濡れた髪のままで舗道のベンチに座り込んでうわ言を呟く姿はたぶんスッピンじゃないだろうか。ここまでやるかって感じ。

そう、これは『タガメ』の話だ。

タガメ女とは『田んぼに生息してカエルを捕獲するタガメのごとく、収入や社会的地位のある男性を捕獲し、「幸せな家庭」というタガにがっちりとはめて自由を奪い、リソースを吸い尽くす女性』のこと。「幸せな結婚」という偽装工作で男をハメる「タガメ女」とは:日経ビジネスオンライン
一昔前ならいざ知らず、経済がどんどん不安定になり給与がドンドン下がって『専業主婦は億ションより贅沢』といわれる昨今専業主婦は、「億ション」よりも贅沢だ | 「親より豊かになれない時代」のサバイバル術 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準タガメ女も男性優位社会に咲く仇花なんだろう。まさかウディ・アレンタガメ女のことを知っているとは思えないが、主人公の『ジャスミンは夜に咲く花なの』という台詞には偶然の一致以上のものを感じてしまう。
                                                                          
他にもアレック・ボールドウィン演じる金融詐欺を働く夫は完璧なはまり役で、この人が出てくるだけで胡散臭くなるのはたいしたもんだ。この映画の隠れた背景はアメリカの投資銀行やファンドなど他人のカネで法外な大金を稼ぎまくるインチキさ加減だが、押し出しも立派で黙っていれば善人ぽい(笑)アレック・ボールドウィンはそれにぴったりだ。
●詐欺師顔のアレック・ボールドウィン

                                                                                 
セレブ外交官役のピーター・サースガードキャリー・マリガンちゃんのアカデミー賞ノミネート作『17歳の肖像』で詐欺師役をやっていたので、『おお、これは米英詐欺師対決か!』と思ってみていたけど違った(笑)。でも、それっぽいところが外交官という役柄にぴったりだった。他にも妹役のサリー・ホーキンスなど脇を固める役者さんも細かな演技が印象的で素晴らしかった。
ピーター・サースガードはセレブ外交官役だがどうしても胡散臭く見える。先入観は恐ろしい。

                                                           
今作ではウディ・アレンはもしかしたら女性嫌いじゃないかと思わせるくらい主人公に対して容赦ないが(実際は全くそんなことないスケベ爺だ)、それだけでなくセレブも労働者階級もめった切りだ。人間嫌いとしては共感する(笑)。とにかく絶好調な演出で、辛口でシニカルなウディ・アレン節が炸裂した、コンパクトでよく出来た、面白い映画でした。