特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『アベノミクスで賃金は増えたのか』と『夏の終わりの物語』:映画『とらわれて 夏』

猛暑の後は大雨、もう梅雨入りだそうで、いよいよ夏の足音が近づいてきた。今週と来週の官邸前抗議は所用のため欠席します。くっそ〜。
                                                                
さて、グッドニュース。2013年11月から14年4月にかけての半年で読売新聞の部数がなんと50万部も減ったという。
読売新聞、半年で約52万部減、紙新聞の未来を象徴する数字 | MEDIA KOKUSYO

もちろん他と比べてダントツの凋落振りで、政府の御用提灯ばかり担いでいた報いだろう。オバマ来日時の読売の『TPPは実質妥結』というスクープは結果として誤報ということになったが、裏話を聞くと、やはり読売は政府からリークを受けていたらしい。ところがアメリカ側の都合で締結を延ばすことになったため、結果として誤報になったという。TPPにしろ秘密保護法にしろ、政府の言ってることを垂れ流しているだけの新聞なんて読売に限らず、存在価値はない。

以前 某電通の管理職氏が『新入社員で新聞を読んでいるのは全体の半分以下』と嘆いていたが、若い諸君がくだらない新聞なんて読まないのは合理的な行動ではある。ちなみに週刊誌の主読者は今や60代だそうだ。確かに電車で週刊誌の中刷り広告の見出しを見るとジジイのセックス特集ばっかりやってるよな(笑)。
陰謀論とデマが溢れるネットも問題あるけれど、今まで規制に守られて甘い汁を吸ってるだけで殆ど社会の役に立ってこなかった大手マスコミが衰退していくのは悪いことではない。次はTVの番だ!(笑)。大手マスゴミが落ち目になって、色んなメディアが真の自由競争をして切磋琢磨するのが健全だと思う。


さて、毎月の賃金の推移を厚生労働省が調べた『毎月勤労統計調査』の4月までの速報は6月3日に発表される予定だったが、ネットでの詳細データ発表は予定より1日半遅れた。結果が芳しくなかったので遅れたのではないかと思う。だがマスコミの報じ方はこうだ。
●4月の現金給与総額、0.9%増 残業増え、2カ月連続プラス 日経デジタル 6/3
厚生労働省が3日発表した4月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、従業員1人当たり平均の現金給与総額は前年同月比0.9%増の27万4761円と、2012年3月(0.9%増)に並ぶ2年1カ月ぶりの高い伸び率だった。増加は2カ月連続。残業代などの所定外給与や期末賞与を含む特別給与が伸びた。
4月の現金給与総額、0.9%増 残業増え、2カ月連続プラス :日本経済新聞


これじゃあ、誰だってアベノミクス万々歳と受け取るだろう。でも実態はそのとおりなのか?少なくともボクの給与は上がってないぞ(笑)。内訳を良く見てみると名目賃金は前年比0.9%のアップだが、物価上昇を考慮した実質賃金は前年比−3.1%とアベノミクス始まって以来、最大の下落になっている。

アベノミクスが始まってからの名目賃金、実質賃金の前年比推移(2013年1月〜14年4月)(青がニュースの数字、ピンクが物価値上がりを含めた実質の賃金)

4月には消費税が上がっているが、国家公務員の給与は8%も上がっている(怒)それでこうなのだから、賃金の状況は相当悪いとしか言い様がない消費増税の陰で国家公務員の給与が4月から8%増で2年前の水準へ(THE PAGE) - Yahoo!ニュース

確かにモノは言い様だけど、この日経の記事は詐欺としか思えない。2010年の賃金を100とすると今年4月の賃金は名目値で86.8、実質値で82.7だ!この5年で賃金は2割も下がってるんだぞ!
昨年7月以降 国民の実質賃金は下がりまくりだ。アベノミクスで国民の生活水準はどんどん低下しているのだ。このまま行くとオイルショックの時のように、インフレと不況が同時に襲ってくるスタグフレーションになるのではないか*奇しくも日経6月4日付の大機小機『岩田副総裁の不気味な予言』に同じ指摘があった)。政府の中にショックドクトリンのように社会を不安定化させて自分たちの都合が良いように世の中を動かすことを考えている奴がいるのだろうか。安倍晋三にそこまで脳味噌があるとは思えないが。
                                                       
かって『国民の生活が一番』と見るからにうそ臭いことを言ってた政治家もいたが(笑)、与党でも野党でも政治家はこの結果を誰も気にしてないのだろうか?大事なのはアベノミクスで国民の生活が何か改善されたのだろうか?ってことだ。普通は国民の内閣支持率が下がると思うんだけど、そういう気配すらもない(笑)。欧州の極右やアメリカのティーパーティーのように、生活が苦しくなっても大多数の国民はヤケクソになって極端な方向へ走るだけなのかもしれない
与野党共に国民のことなんかこれっぽっちも考えていない政治家とマスゴミ、それに健忘症のアホな国民のトライアングルで日本は衰退していくんだろうなあ。



                                                        
銀座で映画『とらわれて夏スリムボディーの神

舞台は80年代のアメリ東海岸マサチューセッツ州)。郊外の田舎町でシングルマザーと中学校進学を控えた少年が世の中を避けるようにひっそりと暮らしていた。彼女らの元にかって殺人を犯した脱獄囚の男が押しかけてくる。置いてくれれば危害は加えないという男は、母子の家を修理し、少年にキャッチボールを教え、料理も作る、心優しい男だった。少年は彼に父親を連想し、シングルマザーも優しい彼に徐々に心が惹かれていく。だが少年は、躊躇いながらも女としての感情を取り戻していく母を見て、自分が捨てられるのではないかという怖れも抱くようになる。そして- - -
                                                                    
この映画、当初はスルー予定だったが、監督がアイヴァン・ライトマンだった。ジョージ・クルー二ー演じるリストラ宣告人の孤独な人生を描いた『マイレージ・マイライフ(通り過ぎる)パッセンジャーのように:マイレージ、マイライフ - 特別な1日(Una Giornata Particolare)や、シャーリーズ・セロンが演じるイタ〜い独身の元美人(笑)を描いた『ヤング≠アダルト非転向(笑)のススメ:映画『ヤング≒アダルト』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)など、ポップだけど心理描写が深い、そして優しい映画を撮る監督だ。これは見に行かざるを得ない。
                                                                          
あらすじだけ聞くと安っぽいメロドラマみたいにベタというか、マヌケな気もする。だが実際の映画は全然違いました。シングルマザーが心に追った傷、それに心ならずも殺人を犯してしまった男の過去を丁寧に描いていくから、お話としては普遍的で充分に説得力がある話になっていた。
●脱獄囚と親子

シングルマザーを演じるケイト・ウィンスレット(『タイタニック』のヒロイン)、脱獄囚を演じるジュシュ・ブローリン、前半はどちらもうつむき加減で、他人に容易に心を許すような様子はない。だが二人の姿が非常に肉感的だ。服にぴっちり張り付くような二人の肉々しい体つき(笑)が、前半部の二人の心の奥底を象徴しているかのようだ。3人でパイ生地をこねてピーチパイを作るシーンはなんと味わい深いシーンになっていることか!
●晩夏の光の中で提示される男女の肉々しい肉体が美しい。

●パイをこねる

                                          
うつむき加減の母子二人とは対照的に、彼らの生活に土足で入り込んでくるような田舎の住人たちの姿も描かれる。彼らの生活がいかに孤立したものであるかが、いやおうにも伺い取れる。直接的な描写が全くないが暗喩に富んだ前半はそれゆえに豊かな表現に満ち溢れている。静かな展開だ。だが後半にかけて、男に警察の捜査の手が迫ってくるとサスペンス色が強くなる。少年も彼女もいやおうにも選択が迫られる。徐々に彼女の心の奥底が現れてくる。彼女はなぜ囚人に惹かれたのか。彼女自身も自分で作った心の檻に閉じ込められていた囚人だったからだ!

                                     
映画はトビー・マグワイア君(スパイダーマン!)が大人になった少年を演じて、その後の彼らの人生を語ることで締めくくられる。登場人物たちが掴んだものはごくささやかなものだし、当たり前のものに見えるかもしれない。大げさかもしれないが、ボクには、これが人生の『答え』のように思えた。一見 メロドラマに見せかけた、この映画のテーマは他人からだけでなく、自分からの『救済なんだ。そのことがわかった瞬間 不意をつかれたボクは、思わずうれし泣きの涙がこぼれてしまった。
                                                                           
今までと作風が異なるように見えるメロドラマ風のこの作品でも、ジェイソン・ライトマン監督は、世の中の不条理に異を唱えつつ、ちっぽけな人間がその中でどうやって生きていったらよいかを描いている。ボクはこの監督が今までにも増して好きになった。
原題は『Labour Day』。メーデーアメリカでは9月の第1月曜日だそうだ。夏の終わりの5日間を描いた美しい物語。こんな傑作を見逃さなくて良かった〜。