特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

京都桜旅行?と映画『ネブラスカ』

金曜夜から急に寒くなった。花冷えとはよく言ったもので、季節が1か月くらい戻ったような感じだ。この週末は京都へ一泊旅行に行ってきた。桜の季節で人はいっぱいだったけど、昔から一度食べてみたかったスッポン鍋を食べて、あとは人ごみを避けてどこへも行かず、宿で桜を見ながらゴロゴロしてただけだった。おかげで水野和夫先生の新著『資本主義の終焉と歴史の危機』を読み切ることができた(新自由主義の本質を喝破する野心的な本でした)。やってることは東京にいるときと変わらないんだけど(笑)、気分転換にはなりました。日曜朝の京都の最低気温は3度。寒かった〜。

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

●スッポン鍋



●桜・桜・桜






                               
そういえば、前回ご紹介した内閣府の審議会『選択する未来http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0224/shiryou_01.pdfに関するマスコミの記事を見かけた。曰く『国の審議会でこのような冷静な議論は稀』、だそうだ(笑)。成長幻想の源は、間違った経済目標:日経ビジネスオンライン
奇しくも水野和夫先生も同じことを言ってたが、変な成長幻想に踊らされるのはいい加減やめたほうがいい。まして日本はもう、世界の何位の経済大国と威張ったり(笑)、エネルギーをガバガバ使ったり、でかい公共工事をする必要はないムリせず、身の丈で生きていけばいいじゃないか
                                                                                            
                        
新宿で旅の映画を見る。『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅http://www.nebraska-movie.jp/
ファミリーツリー』や『サイドウェイ』など地味だが心温まる秀作を撮ってきたアレクサンダー・ペイン監督の新作。一見地味〜な作品だが、アカデミー賞は6部門ノミネート、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞。

                                  
舞台はモンタナ州の片田舎。雑誌のインチキ懸賞に騙されて自分に100万ドルの宝くじが当たったと信じ込んだ父親が、1000キロ以上離れたネブラスカ州まで賞金をとりに行くと言い出した。説得を聞かず徘徊を繰り替えす父親の姿に、ローカルTVのキャスターをやっている長男は父親を老人ホームに入れようとする。性格は優しいが仕事も女性関係もうまくいかない次男は、言い出したら聞かない頑固な父親を車に乗せてネブラスカまで連れて行くことにするがーーー
                                                                 
そんなお話。大好きなアレクサンダー・ペインの映画だから観にいったけど、今回は父と子の話と聞いて、最初はあまり気が進まなかった。親子の話ってちょっと苦手だ。この映画も見ているうちに最初は少し、イライラする。親父はバカでアル中で頑固、その癖 人に甘えて迷惑ばかりかける。息子は人が良いだけが取り得で、なんか自分を見ているようで嫌だ(笑)。結果として、そのお人よしがお互いをダメにしている。そんな共依存みたいな関係性は見ていて気持ちがあまりいいものではない。
                                            
●お人よしの息子は父親を連れて、車で旅に出る。二人の前には何もない大平原だけが広がっている。

                               
前半はそんなダメダメの父と息子(笑)とは全く対照的な母親(ジェーン・スキップ)の激辛の毒舌ぶりに圧倒される。84歳の老婆の露骨な下ネタも辞さない下品な毒舌ぶりを聞いていると、バカじじいやお人よしの次男がだんだんかわいらしくなってくる。
●超毒舌&下ネタ全開の母親。彼女も名演でした。

                                                
ボケじじい役のブルース・ダーンはこの映画でカンヌ映画祭の主演男優賞を取っている。それが納得できる真に迫るボケっぷり、つまりボケてない(笑)。ジジイと息子の旅は父親たちの生まれ故郷の街へ立ち寄ったことで、次第に家族のルーツを辿る旅に変わっていく。かって働いていた工場を訪れたり、親たちが昔付き合っていた相手と出会うことで、親たちが生きてきた過去が息子にもわかってくる。アホ親父にも毒舌ババアにも、人には積み重ねた年輪があり、それなりの理由がある。だがバカジジイが自分が宝くじにあたったことを言いふらしたことで、それを真に受けた町の人たちの間でひと悶着が起きる。
●ボケジジイだけどカンヌ映画祭男優賞受賞(笑)

                                            
一見何の変哲もない映像もお話も実は練りに練ったもので、最後の展開は感動的だ。だがそれだけではない。ボクはお話そのものより、この映画の持つ『感触』が素晴らしいと思った。全編白黒の画面は一見 地味に見える。しかし白と黒のコントラストが異様にはっきりしている。白黒画面が凡庸なカラー画面より、遥かに鮮やかな印象を残すのだ
本当に何にもないモンタナやネブラスカの空や平原。まともな仕事もない寂れた町、そこで取り残されたように暮らす老人たち。工場で働いているのはメキシコ系移民たちで、街のレストランへ行けばジジイが字幕だけのカラオケで昔の歌(C・ローパーのTime After Time)を歌っている。アメリカのド田舎にまでカラオケがあるんだ〜。飲むものはビールばっかり、食べものはステーキとかローストとか単純でまずそうな料理ばっかり。ほんとに何にもない超田舎町の光景。みんな人は良いんだけど聖人君子でもなく、富を羨む卑しさもある。こういう風景を見ていると、経済成長とか、バブル経済とか、そういうものとは一切関係なく生きているアメリカの現代のある部分が伝わってくる。
                         
その中で生きてきた平凡な人たち。お金もないし、善人でもないんだけど、戦争も不況も乗り越えてなんとかやってきた。それでいいじゃないか。ちなみに監督のアレクサンダー・ペインは実際にネブラスカ生まれ。小津安次郎に影響を受けて、そういう映画が撮りたいと思ってやってきたそうだ。恥ずかしながらボクは小津安次郎の映画は詳しくないけれど、平凡な人々の日々の営みと心の痛みを淡々と描いたこの映画は心に忘れがたい印象を残す。見ているときより、帰宅してからじわじわと心に染みてくる。そんな映画は始めてだ。平凡な日常を繊細かつ鮮やかに切り取った、そんな映画はめったにあるもんじゃない。一見のんびりした、ゆる〜い感触なんだけど、実は白黒の画面割から脚本まで、隅から隅まで計算されつくした完成度がやたらと高い映画。これもまた傑作かも。アメリカ人もデリカシーあるじゃないか(笑)。