特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『北斗の拳』(笑)と映画『もうひとりの息子』

始めに、明日8日も官邸前で抗議があるそうですが、残念ながらボクは明日は参加できません。


阪急阪神ホテルグループに始まった食品の偽装表示は帝国、オークラ、都ホテルに、近鉄など殆どの有名ホテルだけでなく、東京のデパートほとんどすべて(関西もそうかもしれないが)にまで飛び火している。日本の食品業界自体そういうもの、ではないだろうか。昔もアワビと言ってトコブシなんてこともあったし、日本で売られているブルーマウンテンのコーヒー豆の量は世界での産出量よりも多い(笑)という話も聞いたことがある。
もちろん偽装表示が良いわけではない。だけど消費者も有名ブランドを求め過ぎではないか。車海老がバカスカ取れるわけないじゃないか。そもそも日本のサービス業は生産性が低いことで知られているが、ぼったくり同然のレストラン、ホテルなんか観光地を中心に幾らでもある。もちろん素晴らしいお店もないわけではないが、そんな日本のサービス業を『お・も・て・な・し』なんて威張ってる人間の神経をボクは疑ってしまう。根拠のないプライドは実に醜いものだ。


                                             

さて、この前 床屋で漫画『北斗の拳』を読んでいた。マッドマックスみたいな未来の無法地帯で、無敵の拳法を見につけた男が悪人を倒していく漫画だ。主人公が『お前はもう死んでいる』と決め台詞を言うと、拳を受けた悪人が『ひでぶ』とか奇声を上げながら血を吹き出して倒されていくのが連載当時 大人気を博していた。
懐かしいと思って読んでいると、床屋の人がこんなことを言っていた。『この漫画、今の子供は珍しがって読むんですよ。今はこういう漫画は全然無いから、彼らには不思議らしいんです。』
なんでも、こんなにドバドバ血が流れたり、人がバンバン死んだりするような漫画はクレームがあるから、今はありえないのだそうだ。ボクは最近のマンガは知らないが、そういわれると確かにそうかも。
●こんなの、ただのギャグ漫画じゃないか(笑)

                                                                     
だけど、う〜んと思ってしまった。ボクは残虐描写も嫌いだし、『北斗の拳』も大好きというわけではない。けど、ギャグ漫画だと思えば楽しい漫画ではあった。『はだしのゲン』だってちょっとえぐいギャグ漫画と受け取られていただろう。当時の子供はみんなそうではないか。そんなものでしかないマンガなのに、残酷描写だからダメ、というと却って心配になる。そんなことで、この世の中を渡っていけるのだろうか北斗の拳を読んだくらいでどうにかなるわけではないが、そんな殺菌されたものしか触れた体験がないままで、この残酷で理不尽な世の中を渡っていけるのだろうか。現実にはソマリアリベリアのように『リアル北斗の拳』の世界もあるし、そういうところの住人が日本の船を襲ってくるのに対処したり、そういうところに製品を売り込んだりもしなければならないのだ。
たかだか漫画くらいでおたおたしててどうする。
ちょっと前の『はだしのゲン』騒動もそうだったが、そんな表現まで規制することは、ボクら自身が現実に目を塞ぐことにならないか。現実に目を塞いだら滅びる。資源の差など都合の悪いところを全部目をつぶって戦争を始めた大日本帝国もそうだったし、安全神話を妄信して原発に依存したのもそうだ。今度の特定秘密保護法だってそういう結果になるだろう。ボクは別に日本が滅びたってどうでもいいと思っているけど、現実に日本を逃げ出すとなったら結構大変だ。滅びるんだったら、ボクの身体が動くうちにしてもらいたい(笑)。
 


                     
                
銀座で映画『もうひとりの息子
映画『もうひとりの息子』公式サイト
1昨年東京映画祭でグランプリを取り、昨年 日本でも大ヒットした『最強の二人』に続いて、昨年グランプリをとった作品だそうだ。

                                                        
イスラエル軍に封鎖されたヨルダン川西岸地区に住むパレスティナ人家族とイスラエル人家族。ともに18歳の息子がいる。ある日 お互いの息子たちが取り違えられていたことが発覚する。18年前の湾岸戦争で避難する際 病院で取り違えられたのだ。衝撃の事実を知った本人たちと家族はどうするのか


最近の日本映画『そして父になる』と似たような話だが、状況の深刻さが違うどもりで悩むジョージ6世と下半身不随のルーズヴェルト大統領くらいは違うだろう(笑)。
パレスチナ側の家庭は父はエンジニア。だがイスラエル軍に封鎖されているため、まともな職がなく、自動車整備で細々と生計を立てている。兄弟は二人、兄は占領地の中で仕事がなく、18歳の弟はパリにいる親戚宅に寄宿して医学を学ぼうとしている。二人の下には小さな弟が居たが亡くなったという設定。はっきりと明示されないがイスラエルに殺されたようだ。
イスラエル側の家庭は父はイスラエル軍大佐、母はフランス系ユダヤ人、息子はミュージシャン志望で幼い妹たちが居る。この、あまりにも対照的な家族がどういう選択をしていくか、殆ど究極の選択に近い。

●病院から取り違えを告げられた両家。左がイスラエル側、右がパレスティナ側の家族

当然のことながら、事実を告げられても当初 両家は全く会話にならない。自分たちの土地や職を(要するに未来を)奪っているイスラエル側に対してパレスティナの人が冷静に考えられないのは当然だし、イスラエル側もパレスティナ側が自分たちに戦争をしかけていると思い込んでいる。両家の初対面は父親同士の怒号が飛び交うなかで幕が下りる。
親だけでなく、息子たち自身も大変だ。
イスラエル側の息子がパレスティナ人の子どもだとわかったら、今まで親しくしていたユダヤ教のラビが改宗しなさいと彼に迫るシーンがあった。ユダヤ教ってユダヤの考え方や習慣を受け入れるか否かの問題だと思っていたが、生まれも関係するとは知らなかった。なんてインチキな宗教なんだ!。それまで熱心なユダヤ教徒だった息子はショックを受けて、アイデンティティ・クライシスに陥る。またパレスティナ側の息子も友人や兄からも距離を置かれ、同じような状況に見舞われることになる。
●医者志望のパレスティナ側の息子。ハンサムでしょう。

●ミュージシャン志望のイスラエル側の息子。ま、スイートですな。

●ぎこちない両家の交流(笑)

                                           
そんな局面を打開していくのは自分が産んだ子供たちに会いたいとする母親たち。自分が育てた子どもは大事だが、自分の血縁上の子供もどうしようもなく愛している。政治も民族も関係ない。とにかく子供が大事。そんな母親たちの真情が少しずつ家族を変えていく。
                              
                                                        
子供同士が交流を始めるところがこの映画の肝だろう。どうにもならない父親たちを放っておいて、子どもたちはお互い行き来を始める。パレスティナで育った息子がイスラエルへ来ると社会の豊かさに文字通り目を回す羽目になる。女の子たちとのパーティもあるし、マリファナだって手に入る。ビーチでアイスクリームの売り子を1日やれば、父親の給料の1か月分だ。一方 イスラエルの息子がパレスティナへ出かけると、あまりの貧しさに衝撃を受ける。言葉は全く通じないし普段の食べものの入手すら楽ではない。まるで違う二つの世界を作っているのはイスラエルが造った分離壁。まさしく現代のベルリンの壁だ。
この映画のイスラエルパレスティナの子供が取り違えられ、18年間全くわからなかった』というプロットは、両者の間に立ちふさがる絶望的な壁が、実はいかにアホらしい思いこみや偏見に過ぎないものであるかを象徴的に良く示していると思う。
●二人の息子

●母と母


母親たち、息子たちを見ているうちに親父たちの態度も変わっていく。パレスティナの人に対して寛容になるイスラエル軍の大佐の変わりようは周囲の軍人から疑われるほどになる。


俳優さんたちの顔が良い。特に息子たちの顔が良い。パレスティナで育った息子はハンサムで賢そう。イスラエルで育った息子は軟弱だが人が良い。どちらも素直に世界を受け入れる心根を持っていて、それが二人の表情に良く現れている。この子達、それに子供を愛する母親たちの姿を見ているだけで、殺伐とした世界が救われるような気持ちになってくる。


                              
映画は将来への希望を語る、パレスティナ側の息子のモノローグで幕を閉じる。
女性たちがきっかけで絡まりあった糸が僅かにほぐれていく、というプロットは典型的だし、甘い、という考え方もあるかもしれない。だが こういう視点でしかこんな状況の血路は開けないのではないか。一人ひとりが時間をかけて分かり合っていくしか解決の道は訪れないのだと思う。口で言ってるだけなら簡単だけどね(嘆息)。
監督はユダヤ系フランス人の女性。製作はフランス、イスラエルパレスティナのスタッフによって行われたという。こういう映画が作られたこと自体が一筋の希望なのだろう。

                                         
日本ユニセフで行われたこの映画の試写会では上映後 パレスティナの大使とイスラエルの大使が握手した。
【イベントレポート】 映画を通してイスラエル大使とパレスチナ大使が並んで平和を願った感動の上映会。 - 映画「もうひとりの息子」公式ニュースブログ