特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

東京オリンピック反対!&秋の食欲:映画『大統領の料理人』

まず初めに、今週金曜25日の官邸前抗議はお休みします。ちょっと前、能年玲奈ちゃんが『笑っていいとも』に出たとき、うしろの花輪が一番目立ってた、やくしまるえつこ女史の『相対性理論』のコンサートへ行くので(笑)。楽しみにしてくださっている方、ごめんなさい。それにしても先週や昨日の大雨でも福島の汚染水は漏れたそうだが、何が『コントロール』だよ。
                                                                                                 
さて、この前、街へご飯を食べに行ったら、知り合いのシェフが嘆いていた。『東京オリンピックって迷惑なんだよね〜』
彼の小さなレストランはオリンピックが行われる競技場の近くにある。派手な装飾もなければ、地味な家庭料理がメインの、一見 何の変哲もない静かな店だが、席に座って周りのテーブルを見てみると田中康夫だったり、中野裕通だったり、ちょっと古めの有名人(笑)や俳優が一人でぽつんと座っていて、びっくりすることがある。
そういう有名人が店に来てもまったく特別扱いしない、そのシェフ氏曰く、『そういう時にオリンピックを見に来る人はたぶん日本の文化を見に来るんじゃないですよ。日本の雰囲気を味わったりするのじゃなく、競技場の行きや帰りにコンビニやファーストフードへ寄る人が増えるだけでしょう。』

なるほど、確かにそうかも。日本の雰囲気や文化を味わおうという人がオリンピックの大騒ぎの時に来るわけがない。発展途上国だったらオリンピックを機に道路などのインフラができたりするけれど(50年前の東京オリンピックのように)、今の東京にはカネで買えるものは殆どある。今 東京に足りないのは趣味の良いお店やレストランだったり、古い建物が残っていたり綺麗な花がちょこっと咲いているような雰囲気の良い路地だったり、体の不自由な人や老人が歩きやすい、ゆったりした公共スペースだ。でっかいハコモノ競技場やけばけばしいネオン、どこでも同じ店ばかり入っている再開発ビルじゃない。ましてオリンピックの会場の周辺では人ごみが増えるだけで住民には良いことは何もない(笑)。
よく言われる、景気への影響というのはオリンピック後に来る不況を考えたら、どっちが得かわからない。この、東北出身のシェフ氏も言っていたが『オリンピックに使うカネがあったら、福島のことに使うべきだ
これがフツーというか、人類だったら共通の感覚じゃないだろうか!
こんな恥ずかしいオリンピックでバカ騒ぎなんて、いい加減勘弁してほしいわ。


                                 
渋谷で、女性で初めてフランス大統領付き料理人になった主人公を描いた映画『大統領の料理人http://daitouryo-chef.gaga.ne.jp/
予告編を見ていたら、画面に出てくる料理が大変おいしそうだったので、つい見に行ってしまった。

                                  
文化人としても有名だったミッテラン大統領は美食家でもあった。彼は官邸の華美な料理ではなく、家庭料理を食べたい、として官邸に自分専用のプライヴェートシェフを置くことにする。抜擢されたのはペリゴール地方で料理学校を営む女性シェフだった。
実話ベースのお話。
●主人公は50代の女性

                                                  
彼女が抜擢されるまで大統領官邸の調理場には女性シェフは居なかったそうだ。当然 摩擦が巻き起こる。往々にして男の嫉妬のほうが醜いし、しつこいものだ(笑)。ホント、セコいオヤジどもって、どうにもならないよ。
だが、彼女はそれにもめげず自分の信念に基づいて料理を作り続ける。彼女の料理は『サーモンとちりめんキャベツのファルシ』(蒸し物)など素材の味を生かした伝統的で素朴なもの(ただし、すごく手はかかっている)。素朴だけど飽きの来ない『おばあちゃんのような料理』はミッテランの心を捉えていく。
フランス大統領の住むエリゼ宮を映画で始めて撮影に使ったそうだが、この目で見るフランス大統領の生活っていうのはちょっとびっくりした。建物も内装も豪華だし、誰もが彼の顔色を気にしながら、うやうやしく仕える様は、まるで現代の王様みたいだ。

●本物の宮殿の風景。文字通り宮殿みたいだ(笑

                                                       
とにかく画面に映る料理がおいしそうで、おいしそうで。実話だから当たり前かもしれないが、制作側は料理のことを良くわかっている。例えば主人公が調理場で真空調理器を見せられて、無言で馬鹿にするシーンがある。素材を真空パックして低温調理する手法は最近 日本では流行っていて、ホテルやミシェランの星つきの店でも多く使われている。特に創作料理系の店は多いんじゃないだろうか。理由は誰でも失敗なく作れるから。素材の良し悪しがわからなくても、下処理の仕方も知らなくても、ソースの作り方がわからなくても、調理学校を出て数年の人でも料理人になれてしまう。と、冒頭のシェフ氏も嘆いていた(笑)。
主人公の料理は旬の最高の素材を使い、シンプルな調理で仕上げた伝統的な家庭料理。見かけは地味で派手なデコレーションや驚くような盛り付けはないけれど、調理の手間はめちゃめちゃかかっている。夕食つくりに忙しい?主夫として言わせてもらうが、結局 料理って愛情なんだよね(笑)。

●生ガキの盛り合わせの巨大なお皿。

●黒トリュフにうっとりする、似てないミッテラン(笑)

                                                         
だが 良いことばかりではない。今の世の中、旬の本当の素材を手に入れようとするとカネも手間もかかる。最近の食材は大量生産や冷凍保存されたものが大勢だ。例えば和牛の霜降りとか威張ってるが、あんなものは飼料を工夫して、牛をビタミンA欠乏症にさせて無理に霜降りを作っているものが多いらしい。脂っこくて気持ち悪くなるから、もともとボクは殆ど食べないからいいけどね。
http://www.env.go.jp/council/14animal/y143-17/ext01.pdf#search='%E9%9C%9C%E9%99%8D%E3%82%8A+%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3+%E4%BF%A1%E6%BF%83%E6%AF%8E%E6%97%A5'


こんな世の中じゃあ、真面目な旬のもの、丁寧に育てられたり収穫されたものを入手しようとしたら、産地ではない限り、非常に高くついてしまう。和食にも通じる話だ。
だから頑固に自分の料理を作り続ける主人公は周囲との摩擦が絶えない。官邸の調理場のセコい男シェフ連中に加えて、食餌療法を強要して脂やフォワグラを使わせまいとする医者、材料の費用を抑えようとする官僚、文字通り四面楚歌の状況に、さすがの彼女も段々嫌気がさしてくる。
                                      
そんなある日 深夜 ミッテランが一人、厨房を訪ねてくる。驚く彼女に届いたばかりの黒トリュフを出してもらい、トリュフバターをたっぷりつけたバゲットに載せて食べながら、『ボクも苛められているんだよ』と彼女に述懐するシーンは実に感動的だった。
●ワインとバゲット

                                        
彼女は激務による疲労で体調を壊し、敬愛するミッテランへの置手紙を残して退職する。その彼女が次に選んだ職場は何と南極越冬隊のシェフだった。それを選んだ理由が最後に明かされるが、ただでは転ばない彼女の姿は男前でかっこいい!。
                                                               
ミッテラン役のルックスが本物と違いすぎたり(役者ではなく哲学者だそうだ)、話の深堀りが足りない気もするが、一人の人間が孤軍奮闘する話にはボクはとても共感を感じる。一人の女性が50になっても、60になっても自分の人生の新たなチャレンジを果敢に続ける話って、見ている側だって気持ちいい。この映画を見ていると組織で働くとはどういうことか、その中で自分を生かしていくのはどういうことかが良くわかる。徒にケンカもせずに、かといって体制の言いなりにならないようにするにはどうするか。下手なビジネススクールより、よっぽど為になる(笑)。
そういうことを考えさせながら、見ているとおなかが空く作品(笑)。