特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

パン屋で見る世の中の仕組みと映画『人生ブラボー』

安倍晋三が唐突にTPP参加とか言い出したが、どういう根拠なのか、有権者に全く説明がない。第2の開国だとか抽象的な話は聞こえてくるが、具体的にどういうメリットがあって、どういう留意点があるか、そういう話は聞こえてこない。
小泉時代の『構造改革』もそうだったし、小選挙区制を導入した『政治改革』もそうだった。抽象的なキャッチフレーズが先にたつとロクなことがない日本人は論理的な議論は不得意、と思うのはボクだけだろうか。

                                             
昨日『レ・ミゼラブル』を見た後、六本木ヒルズのなかのパン屋へお菓子を買いに行った。ボッタクリ資本主義の象徴のような、再開発ビルは大嫌いなんだけど、たまにはお土産でも買って家庭の平和維持活動をしようという殊勝な心がけ(笑)、です。
ボクの前でレジに並んでいた、いかにヒルズの客層(笑)という感じの毛皮を着た若いお母さんと娘との会話が面白かった。彼女たちは『パパの分は帰りにマクドナルドに寄って買っていけば良いわよね〜』と言い合っている。自分たちは一個300円の菓子パンとか800円のサンドイッチとか滅茶苦茶な値付けのものを山ほど買いこんでいるのに(笑)。結局 世の中の仕組みはこうなっているんだなあ、と実感した(笑)。ちなみにほぼ満員の店内を良く見回してみたら、居るのはオール女性、男はボク一人でした(笑)。
                                                                                       
                                              
疑心暗鬼で見に行った、世評が高い『レ・ミゼラブル』はなるほど、面白かった。セットも出演者も豪華な、ビッグ・バジェットの映画らしい映画という感じ。今日 アカデミー賞を取ったアン・ハサウェイの『夢破れて』は短かったが表現力溢れる見事な歌唱で涙が出たし、配役も豪華なだけでなくアナーキーなコメディアン、サシャ・バロン・コーエン(昨年 アカデミー賞の授賞式で金正日の扮装で出席してつまみ出されたおっさん)が出ているのも面白かった。アン・ハサウェイって興味なかったんだけど、昨年『ワン・デイ』を見て以来 どうも気になる存在だ。
時節柄 この映画で若者たちが蜂起するところはどうしても、自分が参加するデモに重ね合わせてしまうし、蜂起した若者たちが移り気な市民に見捨てられて敗退、というシーンもちょっと他人事とは思えない(笑)。出演者がみ〜んな復活!のエンディングはあざといけれど、人為の積み重ねが歴史を作っていくというところを戯画的だが、よく表現していたと思う。
トム・フーパー監督の前作『英国王のスピーチ』はテイストが優等生過ぎて、ボクは今いち乗れなかったんだけど、今回は監督の資質と企画がぴったりマッチしたという感じ。(原作となった舞台では出来ない)出演者の顔ドアップを多用したことと、2時間以上のお話を歌だけで展開した潔さがこの映画の勝因だろう。
アカデミー賞といえば長編ドキュメンタリー部門、パレスチナの『5つの壊れたカメラ』は受賞を逃して残念でした。受賞した『シュガーマン』も面白そうなので、まあ、いいか。

                                        
さて、銀座で映画『人生ブラボー人生ブラボー!お金を借りるなら銀行カードローンが便利です

舞台はカナダのケベック。肉屋を営むポーランドからの移民一家の末っ子、ダヴィッドは、いい年こいて遊び歩いている家族の落ちこぼれ。警察官の恋人からも愛想をつかされている。彼は以前 小遣い稼ぎのために精子ドナーになっていたが、ある日 彼が精子を提供した子供が何百人にも上ることが発覚し、子供たちから正体を明らかにするよう訴訟を起こされる。途方に暮れる彼だが持ち前の好奇心が湧いてきて、訴えてきた子供たちの姿をこっそりと尋ねていく----。
                                                   
舞台がケベック州ということで、登場人物は皆 フランス語を話している。流れる音楽もボクの大好きなザ・ナショナル(NYのオルタナロックの雄)の一曲を除いてフランス語のものばかり。ところが画面に写っているのはアメリカ文化圏のものなので、良い意味で違和感があって、すごく新鮮だ。このダイヴァーシティ溢れる画面?に騙されて(笑)、ボクは途中までヨーロッパ映画だと勘違いして見ていたくらいだ。
                                                
主人公のダヴィッドは仕事はダメだし、カネにもだらしない、サッカー狂いのどうしようもない奴だけど、気立てが良くてどうしても憎めない。仕事をサボって、自分を訴えている生物学上の子供たちを訪ねていくうちにいつの間にか仲良くなってしまう。だが借金はどんどん膨らんでいく(笑)。そんな彼を周りの人々はなんとかしてやろうと、てんやわんやの話が展開していく。齢をとるにつれて人間関係が面倒くさくなってきたボクは、お人よしで人懐っこい彼のことが少し羨ましかった。
●自分の生物学上の子供の一人がサッカー選手になっていたことで主人公は調子に乗り出す。

●調子に乗って、自分を訴えている子供たちの集会にも入り込む。
 

                                                   
お話は最初からある程度わかっていたから、中盤まではちょっとだるい〜という感じもないわけではない。徹底してウスラ馬鹿な主人公が自業自得でドツボにはまっていく様を見ていると、余計にそう感じる。そもそも資本主義に毒されて疑り深くなっているボクはヒューマニズムみたいなものにはまず、猜疑心を持って接することにしているのだ(笑)。
 
                                             
だから、もう一つの出産を巡る感動のエンディングには意表を突かれた。カネも完成度もクソくらえ、思い切り無防備に提示されるヒューマニズムに驚くほどの説得力がある。良い悪いではなく、完成度抜群のレ・ミゼラブルとはまったく対極的だ。ちょっと考えられないような、この終盤の展開でボクは『人生ブラボー』が大好きになった。『ウォォ〜』という雄たけびをあげたくなる感じです(笑)。最期に流れる、出演者自らが弾き語る歌も力強くて温かい、とにかく素晴らしかった。フランス語の剥きだしのフォーク・ロックが観客の心を力強く温かく包み込み、もう一回やってみよう という気持ちを分け与えてくれる。『人間なんていい加減でダメでどうしようもないんだけど、それでも信ずるに足る』という、この映画のスピリットを象徴しているかのようだった。

                                  
この映画は早速ハリウッドでリメイクが決定したそうだけど、緩くておおらかで、だけど明日への力強い希望に溢れた、この味が出せるかなと言う気もする。映画の完成度じゃなく、スピリットの問題なんだよな。文字通り意表を突くような作品、ボクは大好きです。
●主人公と彼女の雄弁な後ろ姿。