特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

誰もが仮装をして、生きている:映画『アルバート氏の人生』

個人的には興味も関心もありませんが、柔道の女子柔道のコーチとやらが解雇されたのが大騒ぎになっていました。こういう体罰は男子にはなくて女子にだけあったらしい。そりゃあ、ゴリラみたいな男子柔道選手に体罰なんかしたら、体罰をした側の命が危うい(笑)。体罰をやっていた奴もそれをうやむやにしようとした柔道連盟もとことん、卑怯な奴らです。
オリンピックに行く飛行機の席はJOCの役員はビジネスやファースト、競技によっては肝心の選手はエコノミーっていう話もありましたが、日本のスポーツ界なんて所詮こんなもんじゃないでしょうか基本的人権は無視するわ、精神主義で頭が悪いわ、上層部は私利私欲や自分の地位を守ることだけは熱心だわ、要するに旧日本軍と一緒(笑)。腐り具合は東京電力原子力規制庁と同類かも。
だが、今回の件は、東京オリンピック招致の良い逆宣伝になりました(笑)。東京オリンピック招致、絶対反対!(笑)

                                                               
今日 家に帰ってきて9時のNHKニュースを見ていたら竹中平蔵が『雇用の規制緩和、自由化の必要性』を述べていました。気分が悪くなりながら我慢して見ていたが、今は規制が多すぎて雇う側が雇用を増やそうにも増やせない。要するに自由に労働者をクビにできるようにしたら雇用が増える、ということらしい。
今回のアベノミクスの理論的支柱(笑)とか言う浜田宏一も同じことを週刊ダイヤモンドで言ってましたが、政府の大きな狙いの一つは雇用、いや解雇規制の自由化でしょう。解雇規制を緩めても、北欧のように個人宛のセーフティーネットを手厚くするのならまだ理解できます。だが日本は唯一のセーフティネットである生活保護すら減額しようとしている(笑)
このまま行ったら、この国はとんでもない国になるんじゃないでしょうか。


日比谷でアイルランド映画アルバート氏の人生 酸で貴女の肌が生まれ変わる理由
昨年のアカデミー賞3部門にノミネートされたとは言え、じ〜み〜な映画だからガラ空きだろうと思って映画館へ行ったら、客席が殆ど埋まっていて驚きました。見終わってから、その理由が良くわかったけど。


舞台は19世紀後半のアイルランド、ダブリン。
高級ホテルの住み込みウェイターとして、40年以上も秘密を抱えて暮らす、Mr.アルバート
自分自身を消し去り、一生誰とも関わらないはずだった。

                                             
アメリカの女優グレン・クローズが30年前に自分が演じていた舞台劇の映画化だそうです。彼女がプロデュース、資金集め、脚本、主題歌(シネイド・オコナーだ!)の作詞、ロケハンまで手がけています。
原作者の作家ジョン・アーヴィングが来日した際 サインをもらいに行ったくらいの、ボクの生涯ベスト1映画『ガープの世界』で主人公ガープの母親役をやっていたグレン・クローズの印象は忘れられなせん。昨年この映画で彼女がアカデミー主演女優賞にノミネートされたときから見るのを楽しみに待っていました。

ガープの世界 [DVD]

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だが、この映画は『楽しみ』とは程遠い話でもあります。Mr.アルバートは実は女性。天涯孤独なストリート・チルドレン育ちの彼女は、失業と飢饉にあえぐアイルランドの社会で独りで生き抜くために、男装して生きてきた。ウェイターとしてこつこつ貯めてきたチップで自分で商売を始めることが唯一の人生の希望。
●初老のウェイターにしか見えない
                                                                                     
ここで描かれた当時のアイルランドの社会の描写は圧巻です。まともな仕事は少なく、多くの人がアメリカへ移民することを夢見ている。実際当時は名高いイモ飢饉とイギリスの圧政で多くの人が死んだらしい。堕胎を禁じるカソリックの抑圧で、身寄りのない子供は劣悪な環境の救貧院へ放り込まれる。身分の差は激しく、貧乏人は文字通りゴミ扱い。コーヒーやチョコレートは超ぜいたく品(知らなかった!)。労働者が些細なミスでクビにされるのを脅えながら働いている社会は、まるで今の日本を思い出させます。
●もうひとりの男装者(ジャネット・マクティア)と

                                            
この映画はとにかく役者さんたちの演技が見所。もう一人の男装者(ジャネット・マクティア)やウェイトレス(ミア・ワシコウスカ)など人間の2面性をよく表現していて、すごく良かったですが、やはりグレン・クローズ。見ていてハンサムだなあ、と思ってしまうときもあるくらい、男装がばっちりきまっています。それだけでなく、主人公の内面を表情としぐさだけで、これでもかと表現する演技には驚かざるを得ません 。説明するような台詞なんか全然ないんだけど、顔を見ているだけで主人公が抱えている恐れ、優しさ、喜びが、ひしひしと伝わってきます
そうやって伝わってくる主人公のパーソナリティは清らかだが脆く、悲しい。ボクは画面のなかの彼(彼女)をいとおしくてならなかった。
                                        
ミア・ワシコウスカも好演、あくどい事をやっても可愛さがにじみ出てくる。

                                                                      
前半、仮面舞踏会のシーンで『誰もが仮装をしているんだよ』という台詞があります。映画では主人公だけでなく、登場人物の多くは当時の社会の役圧の中で生きていくためには、自分の本音を隠し、仮装をしながら生きていかざるを得ないことが次第に明らかになってきます。

                                             
あらすじだけを追っていると、この映画は悲劇、もしくは悲喜劇のように見えます。だが、この作品で描かれているのは、心を閉ざして生きざるをえなかった主人公の『勝利』です。自分を隠して生きてきた主人公が心を開いたとき、何を得ることができたかグレン・クローズが最後に見せた、素晴らしい表情がそれを物語っています。人間の心の内面をこれだけ雄弁に語る映画を久しぶりに見ました。
                                        
それができたのはアルバート氏の人生』という映画が弱者の視点で作られているからです。自分で自分を蔑むまで追い詰められた人間の心の奥底にある小さな希望を拾い上げ、ただ、そっと寄り添う。そういう映画。

思い入れが激しくなってしまいましたが(笑)、ボクはこの映画は傑作だと思います。心が大きく揺さぶられました。
●なんでもない抱擁に込められた想いの深さに打ちのめされました。