特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

楽園で生きるのも楽じゃない。:映画『ファミリーツリー』

大飯原発の再稼動は再稼動の必要性も安全性もまったく不明瞭なままだ。役人や政治家の頭の中にはフクシマの教訓はまったく生かされていないらしい。特に民主党政権になって、政府が国民に対して無理矢理言うことを聞かせようとする、高圧的な態度を強く感じるのはボクだけだろうか。でも、そんなことで失望もしないし、あきらめもしない。そうしたら奴らの思う壺だからだ。大声を上げるのは性に合わないが、これからも静かにNOと言い続けるだけだ。『想定内』(笑)だよ。

                                    
それでも、できれば自分に不要だと思うものとは、余り関わらないように暮らしたいと思っている。仕事もプライヴェートも人付き合いは苦手だし、わずらわしいから、最低限にするよう努力する(笑)。休日の殆どの時間は耳栓かiPODを嵌めて世の中の雑音に煩わされないようにする。携帯電話も腕時計も持っていないし、自家用車はとうの昔に処分してしまった。コンビニに寄るのは半年に一回、くらいだろうか。
そういう半隠遁生活?がいいのか悪いのか良くわからないし、大きな人生の損失をしている気もしないでもない(笑)。

                                   
そういう気分にぴったりなのが(笑)この映画。『サイドウェイ』や『アバウト・シュミット』などを撮ったアレクサンダー・ペイン監督の新作『ファミリーツリー』、原題は『Descendants』(子孫たち)映画「ファミリー・ツリー」オフィシャルサイト 2012年10月5日(金)ブルーレイ&DVD ON SALE

ジョージ・クルーニー演じる主人公は仕事一筋の弁護士。ハワイの王家の末裔である彼は先祖から相続した、自然がそのまま残されている莫大な土地を観光業者に売却すべきか悩んでいた。そんなある日 彼の妻がモータボートの事故で瀕死の重傷を負う。今まで仕事にかまけて家庭を顧みなかった彼は、長女から妻が浮気していたことを聞かされる。どうにも収まりがつかない彼は妻の浮気相手を探す旅に出る、そんなお話。

                                 
ドロドロした陰惨な話になりかねないストーリーだが、そういう映画では全くない。
画面には文字通り、この世の楽園のようなハワイの美しい大自然がいつも映っている。青い海、むせ返る様な緑。フランス映画でよく見る地中海のものとはまた違う陽の光。そういう光景に寄り添うように流れているアコースティックギターの音色。


自然と音楽に包まれて、お話はゆっくり、淡々と進んでいく。 でも前半はこの世の楽園に似つかわしくない、雑事に追いまくられるエピソードばかり。
主人公は妻の事故をきっかけに、始めて子供たちに正面から向き合うが、時既に遅し、子供たちは完全にグレている。11歳の次女は学校の問題児だし、17歳の長女は男と麻薬にはまって寄宿学校に押し込まれている。長女が無理やり連れてきたボーイフレンドは口の利き方を知らないバカ坊主だ。訳のわからない彼らを目の前にして主人公は途方にくれる。子どもたちは堅物でold styleな親父をもてあます。だが、浮気相手を探す旅の中でお互いがだんだん心を通い合わせていく。 お話が美しい自然にシンクロしていく。

最初はどうしようもないクソガキにしか見えない子供たちに、次第に主人公が相談を持ちかけたりして頼っていく過程、そして子供たちが成長していくところがとても面白い。見ている側も段々、彼らがいとおしくなる。ただ原題が『Decsendants』(子孫たち)とあるが、土地売却のエピソードはお話としては多少余計な感じもしたんだけど、どうなんだろう。
                                          
ジョージ・クルーニーの演じる主人公は常識人だけど、やっと見つけた浮気相手への一撃なんかはすごく子供っぽい。辛い体験の前では主人公も子供たちも、あまり差がないのだ。言葉で多くは語らないけれど、主人公が悲しみ、笑い、怒り、最後には心の平和を得る表情の豊かさは、今までのジョージ・クルーニーでベストかも。アレクサンダー・ペイン監督の前作『アバウト・シュミット』も良い映画だったけどジャック・ニコルソンの怪演ぶりに、ややお話が食われていたのを考えると、今作でのジョージ・クルーニーのストイックな演技はこの映画によりマッチしていると思う。
主人公が静かに妻を許し、別れを告げるシーンが美しいこと。
こうやって、ごちゃごちゃ感想を書いているのが恥ずかしくなる(笑)。まるで爽やかな微風が流れているような映画だった。

●TVを見ながら毛布とアイスの取り合いをする。こういうのってあるよね(笑)


この映画では劇的なことは起きないし、極悪人もヒーローも出てこない。誰もが適度に善人で、誰もが不完全だ。
市場競争や雑事に追いまくられる毎日、確かに人生って楽じゃない(泣)。だけど不必要なものや無駄な感情を捨て、現実を淡々と受け入れることで、また違った顔が見えてくることもある。映画『ファミリーツリー』はそういうことを静かに、だけど説得力を持って示している。すご〜く後味が良い映画だった。ボクは大好き。