特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

東電の再建?と映画『ル・アーブルの靴みがき』

料金値上と原発再稼動を前提とした東京電力の経営再建計画を国が承認したそうで、人を舐めた話です。お詫びに値下げするのが筋ってもんでしょう。東京電力経済産業省も全く変わっていない、ということです。だけど、不思議。そもそも、東京電力なんか再建しなきゃいけないんでしょうか?

頭にきたので、東京電力の最新の決算短信(昨年の12月末時点)を見てみました。
●簡略化した東電のバランスシート(単位=10億)

右側の純資産が979十億、自己資本比率はたった7%、もう会社が瀕死の状況にあることがわかります。普通だったら銀行は一切貸さないです。左側の資産の部を見てみると原発賠償機構の交付金が1,022十億載っている。含み資産がどれほどあるかは判らないが、交付金が無ければ既に債務超過で倒産しても不思議じゃないです。さらに見てみると原発が711、核燃料が854。原発を止めたら、これが全て不良資産、ゼロになります。
これでは今の東京電力は誰が経営者になっても原発を止めるということはしないです。ボクが社長になっても(笑)、そんな決断は出来ない。原発を止めると言うことは会社を潰す、ということと同義だからです。 どんな反対運動があろうと彼らは原発を動かそうとする。また隙あらば賠償や事故対策、廃炉作業も手抜きしようとするでしょう、会社存続のために。東電だけでなく、企業と言うのはそういうものです。


つまりこういうことです。東京電力の再建なんか不要です。まず必要なのは東電の完全国有化であり、原発部門の切り離し、発送電分離。賠償機構を通じてだらだらと税金を投入し、結局は負担を国民に押し付ける今のやり方は国民にとっても、モラルが上がらない仕事に従事する東京電力の社員にとっても良いことがありません。被災者・一般国民だけでなく東電の一般社員(経営者は刑事罰に問われるべきだ)の人生まで傷つける政治家・役人の責任は重い。いまだに官製発表を垂れ流すだけの記者クラブマスコミも同罪。明細すら出さない関電の需給見通しくらい検証しろよ、間抜け記者ども。関電はわざわざ真夏に水力発電所を点検で止めるらしいじゃないですか(笑)。
                         

渋谷で映画ル・アーブルの靴みがきhttp://www.lehavre-film.com/
映画館には朝1回目の回、30分前に着いたのですが、大行列が出来ていてびびりました。並んでいるのは年配のカップルが多い。確かにそういう客層にマッチするような映画でした。

フランスの港町、ル・アーブルの路上で靴みがきを営む老人。金欠病で街の人たちとも必ずしもうまくいっていない彼が、ある日アフリカから密航してきた少年と出会う。彼は警察に追われる彼をかくまうことを決意する、と 言うお話。


                                         
ここに出てくる登場人物の殆ど、主人公だけでなく街の住人は自分たちも貧しい暮らしをしているにも関わらず、着の身着のままの子供を目の前に見ると放っておけなくなります。食べ物をカンパしたり、かわりばんこに匿ったり、それまで靴磨きの主人公を冷たくあしらっていたのがウソみたいになります。
救われる立場である少年がル・アーブルの貧しい人々にも影響を与えるという逆転構造になっています。フランス人ではない、フィンランドのアキ・カウリマスキ監督の作品だからかもしれないが、フランスは開かれた社会、と言うことが非常に強く感じられる作品でした。
                                      
ちなみに先日 落選したフランスのサルコジ前大統領は移民への強硬姿勢が売り物でした。経済が不調になってくると移民などの少数派をスケープゴートにするのは世の常だが、そんなことをしても問題は解決するわけがありません。日本にも言えることですが、グローバリゼーションの世の中で移民の流入を制限したら、今度は企業が安い人件費を求めて海外へ出て行き、国内の雇用はもっと減少するに決まっています(笑)。


この映画で描かれているフランスの社会の姿には考えさせられます。確かに身分証明カードが無ければ犯罪者として警察に追われる身になります。だが市民権さえあればパンを万引きするような老人でも、きちんとした医療を受けられる。税金払ってねーだろ、とか自己責任とか、セコイことを言う奴はいない。

一方 日本では、困っている人を税金でサポートすることに反対する人の割合が先進国の中でも際立って多い、らしい。絆とか助け合いとか言ってるくせにね(笑)。
日本が長きに渡り低迷している原因は、社会の寛容さが足りない、つまり多様性がないことにあるとボクは思っています。企業や政治の中枢に女性や外国人が少ない、といった単純なことではないです。女性だって『格差社会は当然、過労死は自己責任』と言い放つ奥谷禮子小泉時代の規制改革会議委員、人材派遣会社のザ・アールの社長)みたいなロクでもない奴がいるんですから!
多様な意見を汲み取り、オープンな議論をしないのが日本の諸悪の根源、だと思います。新しい付加価値を求めて世界中が競争している中で、多様な意見を認めていかなければ新しいものなんか出てくるはずがありません。いまだにきちんとしたデータを出さず、異論を認めず、まともな議論すらしない電力会社や経済産業省の体たらくがその典型です。まして大の大人が君が代を歌っているかどうか口元をチェックしているようじゃお先真っ暗。(問題も一杯あるが、革新的な製品を産み出している)アップルの社是をご存知でしょうか。『Think Different』だよ。