特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

まるで、この身も焦がされるように: 映画『サウダーヂ』

今日は素晴らしくさわやかな秋のお天気でした。雲がぽっかりと浮かんだ高い夜空も美しくて、久しぶりにわくわくしました。


渋谷のユーロスペースで映画『サウダーヂ富田克也監督作品 映画「サウダーヂ」 空族制作
インデペンデント映画にもかかわらず、日経、朝日、読売http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/cinema/cnews/20111028-OYT8T00554.htmの文化欄で大きくとりあげられるなど、今話題になっている映画。撮影資金の半分が一般からの寄付によるものだ、そうです。


舞台は甲府。商店街はシャッターが下りた空き店舗が目立ち、不景気で工場の派遣労働者や建設作業員の職は減る一方。その街で暮らす日本人、タイ人、ブラジル人たちの物語。


映画で描かれる甲府の街は目新しいショッピングセンターやロードサイド店の存在ばかり目立ちます。それ以外の産業はさびれ、地元のヤクザですら『生きていける隙間もない』と、音を上げている。


これが今の地方都市の典型といったら決め付けすぎでしょうか。ボクも地方に出かけるたびに、どの街も『ファーストフード化』していくのを見てきました。特に関東圏の新幹線の駅前はどこも同じ二階建てのぺデスタルデッキ、同じチェーンのビジネスホテル、ちょっと郊外へ行けば同じチェーンのショッピングセンター、ファーストフード店、レンタルビデオ+本の複合店、品揃えまで どこも殆ど同じ。そして、やたらと目立つパチンコ屋。

地元の人が選択すればいい問題だが、あまり好きな光景じゃないです。白々しい蛍光灯の明かりとけばけばしいネオン、マニュアルどおりの接客、まずい食い物(笑)。ボクはこれもまた一種の貧困だと思います。同じもの、手軽なものを押し付けられ受容する文化の貧困、精神の貧困。かと言って真剣に営業努力をしていると思えない、文字通り既得権に寄りかかって威張り腐る(笑)昔からの商店街の店がいい、というわけではありません。


 閑話休題


サウダーヂ』の前半部は劇映画と言うより、地方都市の光景を描いたドキュメンタリーのようです。
登場人物は土方の派遣労働で生計を立てるHIP HOPグループの若者、土方一筋のおっさんとエステ勤めの派手な妻、勤務する工場が暇になって昼間からぶらぶらしているブラジル人たち、母国の家族のために働くタイ人ホステス。昔と変わらず、人情と利益誘導で票集めする地元の政治家。
だが次第に街では建設工事が減り、工場のリストラが始まり、商店街の店がつぶれ、水商売も暇になり、胡散臭い商売がはこびり始めます。変化に押し流されていく登場人物たち。ボクには彼らがやたらとタバコばかり吸っているのと常に携帯を離さないのがとても印象的でした 。

この映画には名の知れた役者さんは出ていないし、上演時間は3時間近いが、それが全然苦にならないです。宮台真司が出演しているそうだが(笑)、ボクにはわからなかった。


終盤30分くらいから、映画は『映画』になります。
まるで身が焦がされるような焦燥にせきたてられるように、登場人物たちの運命は変わっていくんです。
土方一筋のおっさんはタイ人ホステスと恋に落ちる。建設不況で失業し、日本に希望をなくした彼は彼女に『一緒にタイで暮らそう』と持ちかける。だが日本に希望を持つ彼女は『私は日本でお金を稼がなくてはならない』ときっぱりと拒否します。
HIPHOPグループの若者はブラジル人バンドとの対バンに負けたことで、右翼化していく。髪を切り、戦闘服を着てアーミーナイフを持ち歩き、外国人をやたらと敵視する。だけど彼の惨めな日常は、そんなことではもちろん、何も変わらない。女にふられたことをきっかけに、彼はとうとうある事件を起こします。

この映画にはどぎつい描写はありません。淡々と、だが遠慮なく日常を描いている。登場人物たちの日常生活に入り込んだ薬物や葉っぱまで堂々と描いている。この遠慮のなさが、この映画のすごいところです。


生き辛い時代、といわれます。
映画『サウダーヂ』は経済的に没落していく地方都市の生活をリアルに描くことで、そこでの生き辛さを浮き彫りにしています。だが、それだけなんでしょうか。どうしようもない、惨めな日常、救いのない毎日を描いているのだけれど、この映画の後味は悪くないんです
『サウダーヂ』とは、ポルトガル語郷愁のことだそう。この映画の登場人物はブラジル人もタイ人も、日本人も含めて、誰もがこの世界に居場所がない。ボクも同じです。
映画のエンディング、警察に自首してパトカーに乗り込む際、右翼ラッパーが見せる笑顔はどこか清々しい。それは、彼らの居場所のなさ故ではないでしょうか。

ボクはそこに希望を見たんです。