特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

【2010年を振り返って(3)】今年のベスト5

いつも貴重なコメントを下さっているtakammさんのツィートを拝見していたら、『外国人を多く雇用している旅館は反日』という書き込みが目に付いた。思いもよらない発想を目の前にして、ええ〜と心底驚いてしまった。
それじゃあ、ボクの周りは『反日』だらけだ(笑)。仕事は勿論、普段の生活だって昼飯を食べる洋食屋の中国人ウェイトレスとは仲良しだし、カレー屋へ行けばインド人コックが気の利かない日本人バイトをフォローしているのを見たり、スーパーへ行けば韓国の人がキムチのデモ販やってるし、そういうのが当たり前の風景だ。これからもっとそうなるだろう。
(どうせ中国産原料のファーストフードでも食べながら)やたらと愛国とか国粋主義的な発言をする人は単に無知だったり脳味噌の血の巡りが悪かったりするだけでなく、まず現実を冷静に見ようとしていないから、たいていの場合 日常生活もうまくいかない例が多い と思う。ま、ろくでもない日常と言う点では自分も他人のことは言えないが(笑)。
自分の境遇への不満の捌け口を外国人に向けることは、ドイツでもイギリスでもフランスでも、アメリカでもインドでもアフガンでも中国でも、洋の東西を問わず経済が閉塞状況になってくると起きる典型的な話だ。こういう何の役にも立たない排外的な発想が広まっているとしたら、日本もいよいよ落ち目ってこと(笑)。要するに社会が疲弊して負のスパイラルに入っている、ということなのだろう。


年末になって自分のブログを見返してみると、どうも映画や音楽のことばかりだ。
ブログを書き始めようと思った当初は、そんなつもりはなかった。ただ日々の楽しいこと、価値があることを記録していこうとしていたら、自然とこうなった。日々不愉快になることも多いが、他人の悪口はなるべく止めておこうと(笑)。
ただ楽しいことや書くべき価値があることって、ボクの日常では映画や音楽しかないんだよね(笑)。
今年はエリック・ロメール氏(『三重スパイ』良かった)も、谷啓氏も野沢’’ナッシュ・ブリッジス’’那智氏も亡くなってしまったのが悲しいが、出会った作品は充実したものが多かった。
そんな2010年のベスト5はこれ。順位はつけられないので時系列で。


●1月:映画『フローズン・リバー』(監督コートニー・ハント
主人公のシングルマザー二人が直面する、身を切るように冷たい日常と春の光との対比。ここに見事に描かれている人間の姿、強さにも弱さにも圧倒された。それを信じてしまってよいのだろうか。
今年の映画は他にも『アンヴィル』はサイコーだったし、『17歳の肖像』、『春との旅』、『クレイジーハート』、『瞳の奥の秘密』、『スタッフ・ベンダ・ビリリ』、『リトル・ランボーズ』、『ハーブとドロシー』、『シングル・マン』などが心に残った。あと、年末のNHKドラマ『セカンド・バージン』の元祖みたいな『50歳の恋愛白書』は脚本も良かったし、ロビン・ライト・ペン、ジュリアン・ムーアにモニカ・ベルッチという美熟女揃い踏みで目の保養をさせてもらった。『スプリング・フィーバー』はもの凄いエネルギー量と冷めた諦観が共存しているのが考えられないくらい素敵だった。

フローズン・リバー [DVD]

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●7月:恵比寿リキッドルームでの『今夜もブギーバック』(相対性理論スチャダラパー
誰も期待していなかった不意打ちのアンコール。そのシチュエーションとセンチメンタルなメロディーで、普段は押し殺している感傷と解放感が真夏の夜空に浮かび上がった。


●7月:TVドラマ『モテキ』(監督 大根仁)と映画『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(監督 入江悠
感情や価値感までカネに換算する新自由主義の間隙を突いた、胸が痛くなるような、ダメ人間の逆襲。引きこもりの派遣社員を演じる森山未來の演技はまるでディエン・ビエン・フーに大砲を担ぎ上げる兵士のようだ。野波麻帆嬢の控えめな下着姿はエロいだけでなく、もっとヒロイックな心象風景を象徴しているように見える。劇中の満島ひかりの『ロックンロールは鳴り止まないっ』は勿論、今年ぶっちぎりの最優秀歌唱賞。それらをひっくるめて、SR2の『ソープ嬢にもホープがある』というライムはボクのもの、でもある。

モテキDVD-BOX (5枚組)

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●10月:サントリーホールでのショパン『革命』(マウリツィオ・ポリーニ
齢68の御大によるロックコンサート並みの熱狂。完璧なテクニックがそれと交じり合うと、きらめくような音符がホールの天井から降ってきた、本当に。


●番外:『闇に吠える街〜The Promise:The Darkness On The Edge Of Town Story』(ブルース・スプリングスティーン 
ボクの生涯ベスト1に決まっているレコードのCD3枚+DVD3枚のリ・イシュー。それに日本語訳をつけて日本版を出してくれただけでもレコード会社に感謝する。
全部で6時間はあるDVDはとても全部見切れていないが、78年当時の神がかりのようなコンサートの模様はもちろん、旧作を2010年に再演したスタジオライブの異様なテンションの高さには驚くばかり。あの奇跡のようなマジックはこういうことだったのか、そしてまだ、そのマジックは生きている、ということなんだろうか。
約30年前のオリジナルより、今の演奏のほうがエネルギッシュで生き生きとしているのだ。

闇に吠える街~The Promise:The Darkness On The Edge Of Town Story(DVD付)

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