特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『週末のTV番組』と『写真家チェ・ゲバラが見た世界』、それに『六本木の美女とパリの美女』:映画『ロスト・イン・パリ』

この週末はボクが住んでいる地域でもひょうが降りました。その19日、こんなニュースが流れました。
2014年以来、毎年8月にジュネーブ軍縮会議核兵器廃絶を世界に訴えてきた日本の高校生平和大使の演説が、今年は見送られた』。理由は高校生に、核兵器禁止条約に日本が参加しないことに言及されるかもしれないから(笑)だそうです。

https://this.kiji.is/271394795680957949


安倍晋三は、長崎市長被爆者の人たちに日本が条約に参加しないことに怒りを表明されたからビビっているんでしょう。高校生にまでビビる日本政府ってサイテーですよね。安倍晋三中学生かって(笑)。結局 この国の一番悪いところは、差別でも事故でも『なかったことにすること』そして国民もそれをあっさり認めてしまうそして、同じ間違いを繰り返す(笑)。
大統領の差別容認に対して、メジャーなTV局全てで司会者たちが番組の中で堂々と抗議するアメリはえらい違いです。

*こちらで司会者たちの翻訳付きのコメントが見られます(2部構成でそれぞれ1分程度)。以前ブログでも取り上げたスティーヴン・コルベア、サイコーです。で、日本では?
Chihiro on Twitter: "🇺🇸 米4大トーク番組の人気司会者たちがシャーロッツビルの事件に触れ、それぞれユーモアを交えながら、しかし真剣に差別に対する考えを述べました。日本のワイドショーでは見られない光景。日本語字幕を付けたのでメディア業界にいる人たちはぜひみてください。パート1あり↑… https://t.co/KWS5kAgngA"



その 19日 土曜日のTBS『報道特集』は『原爆小頭症』の特集でした。
妊娠初期に原爆で被爆したお母さんから生まれた子供たちには障害をもって生まれてきた人たちがいたそうです。知らなかった。その子どもたちは原爆の被害者としてなかなか認められず、差別と偏見に晒されてきました。地元の放送局のディレクター、秋信さんが地道に報道を続けた結果 国が原爆症と認定するまで、30年以上もの長い時間がかかりました。

報道特集 | TBSテレビ


番組で流された昭和天皇の様子が忘れられません。記者会見で秋信さんから『原爆投下をどう思われますか』と問われて、散々口ごもりまくった挙句『残念だけれど、戦争だったから仕方がなかった』という答えには天皇制の本質が現われてると感じました。戦争末期 政府内では『言葉は悪いが、原爆投下は天祐』って言われてたんです(本土決戦を主張する陸軍に反対して、無条件降伏を主張した海軍大臣、米内光正が天皇に奏上した言葉)。勿論仕方なかった面はあるかもしれないけど、国を戦争に導いた責任者の一人がいう言葉だろうか。まともな人間なら『申し訳ない』の一言があっても良いはずです。もし皇居に原爆が落ちても『戦争だから仕方なかった』と彼は言えるのでしょうか。その場合はボクもこの世に生まれてないかもしれませんが(笑)


それに、日曜日のNHKスペシャル戦後ゼロ年 東京ブラックホール』も素晴らしかった。
NHKスペシャル | 戦後ゼロ年 東京ブラックホール1945-1946


現代の若者が終戦当時にタイムスリップする設定のドラマ仕立てです。戦後 焼け跡になった東京で、お腹を空かした人々が連合軍の残飯を食い漁ったり、売春が横行する様子がちゃんと描かれていました。70年後の東京ではカラスですら栄養たっぷりの残飯を食べているという指摘は鋭かった(笑)。当時の国民の困窮は、終戦後 政治家や軍人が陸海軍の物資の70%を横流ししたことが一因である、とMITのジョン・ダワー先生が語っていました。
当時がどうだったかはボクも散々年寄から聞かされました。ボクの90過ぎの叔母もGHQに勤めていたんです。劇中 女の子が『戦時中みたいに我慢しちゃダメだよ』と言っていました。それにモノローグで『我々は戦時中の悪夢から人間性を取り戻したのだ』という台詞が流れていました。今こそ、当てはまる言葉だと思いました。


この 週末は恵比寿へ写真展『写真家チェ・ゲバラが見た世界写真展『写真家チェ・ゲバラが見た世界』へ行ってきました。


約80人で独裁政権を倒したキューバ革命の英雄、ゲバラは男前なのと同時に(笑)、カメラ好きでも知られていて、行く先々の光景をカメラに写していました。アルゼンチンの医学生時代、その後の南米放浪の旅、キューバ革命、革命後の外交使節としての海外歴訪、そして新たなゲリラ戦の舞台となったコンゴ、そしてボリビア
●会場はロビーのみカメラ可。


200点以上もある写真は彼の南米放浪時代の物が多かったです。彼は遺跡が好きだったのとアメリカ資本の不条理には最初から着目していたんだなと思いました。日本を訪れたのは1959年。広島を始め、日本を写したものは数枚しかありませんでしたが、当時の南米との対比を考えると面白かった。時代にどこかまぶしさがあった50〜60年代の初頭。一番 面白かったのは各時代の彼のセルフ・ポートレイトの特集かな。

●1958年、執務室にいるゲバラを写したこの写真からは彼の深い孤独が伝わってきます。

●出口付近には来場者の寄せ書きが書かれていました。ボクもゲバラは超立派な人だと思ってますけど、今時『革命』とか言ってる人は時代錯誤だと思います。目指すべきは(死人が出る)革命じゃなく、斬新的な改善です。現実を見なさい。



そのあとは 六本木で友達と宴会です。
写真に写っている美女はこのブログには2度目の登場です。東欧出身の彼女はかって友人の会社にインターンに来ていました。今は某国の大学で助教授を務めています。久しぶりの来日です。いつもむさくるしい宴会ばかりですので(笑)、こういうゲストは大歓迎です。
●せっかくの屋外テラスでしたが、若干蒸し暑かった。


彼女は麻薬戦争で治安最悪と言われるコロンビアから帰ったばかりで、色々話を聞かせてくれました。街中に山ほど居る泥棒・スリは女性を狙わないそうです。ラテン系の連中には男としての矜持があるから(笑)だそうです。でも、誘拐や撃たれるリスクは男女一緒です(笑)。ボクはちょっと前に観た東欧を舞台にした映画『ありがとう、トニ・エルドマン『下がり続ける内閣支持率』と映画『ありがとう、トニ・エルドマン』 - 特別な1日(Una Giornata Particolare)で対抗しました(見ておいて良かった)(笑)。日本にへばりついている我々とは環境も見方も違いますから、お話はとても刺激的です。
●モヒートとフムス(中東の豆料理)。生のミントを使ったモヒートは爽やかで美味しいですよね。


彼女のような人と話していると感じるのは、独裁体制が如何に国を破壊するか、ということです。彼女の故国には彼女のように優秀な人が大勢いるし天然資源もある。だけど国の中ではなかなか良い仕事が見つからない。独裁体制は国民の生活を改善しようともせず、自分たちは贅沢三昧。経済面では産業を育てないで、クダラナイことにばかり資源を費やしたからです。独裁政権が倒れても、そういう愚行の影響は何十年も続きます。
北朝鮮中国共産党をお手本にしているかのような安倍晋三の政治の行く末を考えたら、日本もそうなりかねません。金融緩和や国の借金の拡大、それに少子化対策の無策の影響はこれから何十年も続くでしょう。戦前の日本だって大勢の人がアメリカやアジア各国、それに朝鮮や満州に出稼ぎに行ってました。そう考えれば彼女の国のことは他人事じゃないんです。
モヒートのミントの香りと強いアルコールで、片言の英語と日本語が混じりあう真夏の夜は更けていきました。


もう一つは88歳のパリの美女のお話です。渋谷で映画『ロスト・イン・パリ

カナダの雪深い町から未婚の中年女性フィオナ(フィオナ・ゴードン)が、何十年も前に別れた叔母のマーサ(エマニュエル・リヴァ)に呼ばれてパリにやって来る。無理やり老人ホームに入れられそうなので助けてくれ、というのだ。フィオナは真っ赤なドデカいリュックにカナダの国旗をちょこんと立てて、まさにパリにやってきた田舎者。記念写真を撮ろうとしたフィオナはセーヌ川に転落、リュックを無くしてしまう。そのリュックを拾ったホームレスのドミニク(ドム)はフィオナに一目惚(ぼ)れし、慣れない彼女のマーサ探しを手伝ってやろうとする。


公開されて以来 日経など各種の映画評でも評価が高い映画です。監督・脚本・主演をこなしているのは夫婦の道化師、ドミニク・アベル&フィオナ・ゴードンという人たち。
●左がカナダからやってきたフィオナ、右がパリのホームレス、ドミニク。二人はひょんなことからつかず離れずの大騒動に巻き込まれます。

●フィオナは失くした荷物と失踪した叔母を探してパリをさまよいます。


叔母のマーサを演じたのは88歳の女優エマニュエル・リヴァ。この映画は今年の1月に亡くなった彼女の遺作でもあります。彼女を見るために見に行ったんです! ボクの生涯ベスト10に入る超名作『24時間の情事』の主演女優です。
●ナチの傷跡と核の恐怖が広島の街で重なります。リヴァさんだけでなく、相手役の岡田英次も死ぬほどカッコいい。明治や大正の日本の男って、時々鬼のようにカッコいい人が居るんです。


●この写真集もサイコーです。映画を撮影した1958年当時の広島を彼女が写真に記録したもの。今は無い原爆スラムなどにも彼女は足を運んでいます。ゲバラが広島を訪れる1年前です。

HIROSHIMA 1958

HIROSHIMA 1958


話題を戻します(笑)。
美しいパリの街、それも夏のパリの街を、道化師の二人が高齢のおばを探してコミカルな冒険を繰り広げます。道化師だけあって、指の先まで動きが計算されている感じです。

個人的にはギャグがくどい、と感じましたが、悪くはないです。脚本も丁寧で色々なところに敷いた伏線もちゃんと回収されます。満員の客席からは絶えず笑いが沸き起こっていました。


今年1月に亡くなったエマニュエル・リヴァさんは美しく映っていました。2012年の『愛、アムール』で史上最年長でアカデミー賞にノミネートされた時は、年老いて認知症になって時折失禁する元ピアニスト、という壮絶な役でしたが、ここでの彼女は気品があって、尚且つコミカルです。生き生きしている。

軽やかにダンスのステップを踏みながら逃避行を続け、男とデートをし、キスをし、セックスする。なんと可愛らしい88歳。
●逃避行の最中も昔の男(左)とデートします


彼女の遺作がこの作品で良かった、と思えるようなエンディングです。いくら文芸作品とはいえ、クソジジイに絞殺される『愛、アムール』が最後じゃ、ちょっと辛すぎる。


個人的には監督のギャグ自体はいまいちでしたけど、初夏の明るい陽光に照らされたパリの街で撮られたポップなコメディは楽しくないわけがありません。なかなか見る機会が少ない映画かもしれませんが、機会がありましたら是非。