特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

今見るしかない!:『続·ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』

 大阪市廃止の住民投票、否決されたのは良かった、と思います。
 ボクには大阪のことはよくわかりませんが大阪市廃止を推進するのは、雨合羽の松井にイソジン吉村、それに汚職やスキャンダルばかりの維新の議員や首長。それだけでもどういう連中か判ります。吉村なんか9月にワクチンができる、とか言ってなかったでしたっけ。

 まともな大人だったら、そんな連中の言う事なんか相手にしないはずです。

 朝5時に起きてNHKをつけたら松井が記者会見で『我々の敗北でした』とやっているところが流れてました。

 これには驚きました。大阪を良くしようと思っているなら、いきなり自分たちが敗北したとか勝利したとか言わない、と思うからです。本当に大阪を良くしようと思っているなら『構想が理解されなくて残念でした』くらいのことを言うはずです。
 松井や吉村、それに公明党の考えていることは『自分たちの勝ち負けだけ』。記者会見の冒頭に思わず本音が出た、のでしょう。

 前回より差が広がったとは言え、僅差です。邪教政党の公明党を味方につけて、維新は前回より遥かに有利だったはずです。当初は大幅に賛成が多かったようですから、良くひっくり返した。実際 大阪の中心部(都市部?)、30代、40代は賛成が多かった。一方10代~20代は賛否が拮抗している。ここは考えなくてはいけない。

●結局 今の30代、40代がガンなのかな??

 イソジンや雨合羽を真に受けるなんて、頭が悪いにもほどがありますが、僅差であることは事実。そういう人たちが大勢いるという事です。そのおかげで大阪市民は100億ものムダ金を使いました。


 今回の投票を総括すると、こういうこと↓だと思います。

 そして国民が政治に無関心なままだと、大阪も含めてまた、同じことが起きる。

 

 しょうがないから、明日は国会前へ行ってくるか(笑)。総がかりとかのオールド左翼連中ってバカさ加減は維新と大して変わらないかもしれないんだけど、菅みたいな新自由主義者を調子づけるのはムカつくし(笑)。



 さて、今週は今見るしかない映画です。アマゾン・プライムで『続·ボラット  栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画


 先週ご紹介した『シカゴ7裁判』で主演したイギリスのコメディアン、サシャ・バロン・コーエンが脚本・主演。07年に公開され、世界24か国でNO1ヒットになりゴールデングローブ主演男優賞を受賞、アカデミー脚本賞にノミネートされた大ヒット作『ボラット』の続編です。

 今作は大統領選直前の10月23日に公開され、アメリカで大ヒットを飛ばしています。配信開始初週の4日間で米国だけで推定160万世帯が視聴、同じく配信だけで公開されたディズニーの曰くつきの大作『ムーラン』をはるかに超えているそうです。
サシャ・バロン・コーエンは先週ご紹介した『シカゴ7裁判』で有名左翼のアビー・ホフマンを演じました(写真左)。来年の映画賞の呼び声も高い

 前作はサシャ・バロン・コーエン演じるカザフスタン人の架空ジャーナリスト、ボラットによるドキュメンタリー映画という形式を取ったフェイク・ドキュメンタリーでした。

 偽カザフスタン人のボラットアメリカを訪れて男尊女卑や反ユダヤ思想を発露させて人々を困惑させる様はひどいけど、面白かった。映画は大ヒットしましたが、本人は撮影中に何度も逮捕されたし、騙された人たちから多くの訴訟を起こされました。
カザフスタン政府も映画を発禁にするだけでなく訴えようとしましたが、『大人げない』ということで断念したというエピソードが残っています(笑)。その後 カザフスタンへの観光客が増えて、観光相が公式に感謝の意を表明したそうです(笑)。


 今作では独裁者であるカザフスタンの大統領が、トランプの歓心を得るためにアメリカへ行って贈り物をしろ、とボラットに特命を下します。プーチン金正恩、ボルソナーロ、トランプと仲良しなのは独裁者ばかりなのに俺が入ってないのはおかしい、というのです(笑)。ちなみに独裁者仲間には我らが安倍晋三は入ってませんでした。スケール小さいからかな。

 しかし前作でボラットはNYのトランプタワーの前でズボンを脱いで野グソをしています(マジです)。そこでターゲットを副大統領のペンスに切り替え、彼に女性を貢いで歓心を得ようとします。お話と言っても、実際にアポなし撮影を続けたフェイクドキュメンタリーです。宣伝ポスターですら、これです。

もちろん、トランプはこの作品に激怒しています。

 それに対してサシャ・バロン・コーエンは『無料の宣伝有難う。来年 新しい仕事を探しなよ』と返しています。


 ボラットは前作で有名になり過ぎてしまったため顔が割れています。そこで、突入取材はペンスに貢ぐボラットの娘という設定の女優さんも頑張っています。

 男尊女卑・反ユダヤ主義というキャラのボラットと娘は主にアメリカ南部の保守的な人々の間に入り込みます。例えば反人工妊娠中絶の団体、美容整形外科、カネさえ払えば参加できるインチキ臭い社交パーティー。このシーン↓は二人のダンスで会場は地獄絵図になります。

それにユダヤ人教会で極右の真似をして『ホロコーストはでっち上げだ』と主張したり(実際の彼はユダヤ人)

民主党小児性愛悪魔主義者だと主張する陰謀論=Qアノンを信じるトランプ支持者の家に押しかけたり、プラウド・ボーイズのような銃で武装したトランプ支持者たちの集会に潜り込む。
●反人工中絶の団体で。娘役の女優さん(中央)と変装したボラット(右)。二人はケーキの上に載っていた赤ちゃんの人形を食べてしまったということで押しかけたんです(笑)。

 本当にヤバいんじゃないかとハラハラします。ペンスの集会が行われるホテルにはKKKのマントをかぶって入り込み、途中でマスクを被ってトランプに変装、演説会場に入り、ペンスではなく『マイケル・ペニス、女を持ってきてやったぞ』と呼び掛けるんです。笑うしかない。

 ペンスはゴリゴリの宗教保守派で頭が悪いとバカにされることもありますが、トランプの取り巻きには珍しく、女性関係には謹厳実直なことで知られています。
●写真左がトランプに変装したサシャ・バロン・コーエン。肩には貢物の女性を載せています。
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そういう人にこういうことをやるのですから、嫌味がきつい。もちろん追い出されますが、よく無事だったなと思います。
●右はベビーシッターの黒人女性。これはマジで良い人でした。

 前作も本当にやばい(危ない)と思いましたが、今作はもっと危ない。コロナ禍の中で撮影が進んだそうですが、トランプ支持者の集会は武装している連中が大勢いるだけでなく、殆どマスクをしてない。それは流石のサシャ・バロン・コーエンも怖かったそうです。

 怖いといえば、これは凄い。彼がアメリカの有名TVショーで語っているのですが、実際に正体がばれてトランプ支持者たちから襲われそうになったそうです。トレーラーの中に逃げ込んで、撃たれないように頭を下げるところが映っています。
●7分過ぎ、トランプ支持者の集会に入り込んでカントリー歌手に変装したボラットが『オバマを牢屋にぶち込め。武漢ウィルスを注射しろ』と歌っているシーン(笑)。その後 変装に気づいたトランプ支持者に襲われそうになって避難するシーンが映っています。

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 女性をペンスに上納することに失敗したボラットはトランプの顧問弁護士、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニにターゲットを変更します。
 ちょうど今 一部のタブロイド紙でバイデンの息子のスキャンダルもどきの話が取り上げられていますけど、それはジュリアーニが証拠を見つけたと自ら売り込んだものです。極右のFOXニュースを除く大手マスコミやTwitterは証拠が不十分として掲載すらしないような話です。ジュリアーニはバノンと組んでいるらしい。そういうことをする人物です。
wedge.ismedia.jp

 娘役の女優さんはTVレポーターに扮し、胸に風船を入れて胸を膨らませ、体にぴったりした服を着て(笑)、ジュリアーニ(写真右)にインタビューを申し込みます。

 インタビュー場所はホテルです。インタビューが進んで二人きりになると、ジュリアーニは彼女の腰に手を回し、ベットに寝転んでズボンを脱ぎ始めます。やらせじゃありません。そこにボラットが『彼女はまだ15歳なんだ』と言って乱入してくる(笑)。これはジュリアーニだけでなく、民主党のトップは小児性愛者だという陰謀論者のQアノンに対する当てこすりでもあります。
 これ、マジです。元から女性スキャンダルはある人ですが、ジュリアーニの面目は丸つぶれです。引っ掛かるほうも引っ掛かるほうですが、良く撮ったなと思います。

トム・ハンクスも出演しています。


 1時間半 本当にゲラゲラ笑いました。それでいて、ほろりと泣けるシーンもあるし、女性の社会進出も訴えています。コメディとしては何年に1本かの傑作です。大ヒットした前作をはるかに超えています。で、最後に『VOTE』(投票しよう)と出る。

 このコメディセンスと知性、それに勇気(笑)は日本のコメディアンも劇映画も逆立ちしてもかないません。それにトム・ハンクス、こんな映画に良く出演したと思います(笑)。
 アマゾンプライムで無料配信してます。はっきり言って、酷いけどサイコーです(笑)。

Borat 2 - Official Trailer (2020) Sacha Baron Cohen

『菅内閣の内実』と『栗拾い』

 秋も深まってきました。日が昇るのは段々と遅くなり、日が沈むのは早くなる。徒歩で通勤していると余計に、季節の移り変わりを感じます。
●登ったばかりの朝日。夏の間は疎んじていた太陽が、今は愛おしい(笑)。

 
 今週 インフルエンザの予防接種を受けました。注射を待っている間、周囲の人が『来年はコロナの注射もするようになるのかしら』と、言ってました。コロナの免疫は長く保たないと言う話もあるし、そもそもワクチンが開発されるかどうかも判りませんが、それでも成程~と思いました。

 インフルエンザの予防接種なんて、ボクがするようになったのはこの10年くらいです。コロナの予防接種が増えてもおかしくありません。今に10年に1種類くらい予防接種が増えていったりして(笑)。

 今朝の朝日新聞に、富山市議会の不正を4年に渡って描いたドキュメンタリー『はりぼて』の監督、冨山チューリップテレビの五百旗頭氏と砂沢氏のインタビューが載っていました。
 ほんと、今年のドキュメンタリーは『はりぼて『マナガツオの糠漬けとオレンジワイン』と真夏の怪談:映画『はりぼて』 - 特別な1日]
小川淳也衆院議員を描いた『なぜ君は総理大臣になれないのか映画『サンダーロード』と『なぜ君は総理大臣になれないのか』 - 特別な1日
、この2つに尽きます。これだけ素晴らしいドキュメンタリーが、しかも1年に2つも公開されるなんて前代未聞です。


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 『はりぼて』では記者たちが政治家を理詰めで追求する姿がとにかく印象的でした。中央政界ではそういう光景、今は全くないですよね。記事では冨山チューリップテレビの社員だった監督二人が『自社も含めた地方マスコミも市民も、今も政治家の不正を許してしまっている』と言ってました。

 中央の方がもっと酷い。特にマスコミ。組織として出来ないことがあるのは判るけど、できることも多いはずなのに。
 やらせばかりの質問に終始する記者クラブだって、皆が団結して政治家に質問をぶつければ不要論なんて出ないんです。昔 佐藤栄作の会見を記者たちが集団で退席したようにすればよいんです。
 『冨山の弱小ローカルテレビがここまでやったのに、朝日の記者は自分で自分を恥ずかしいと思わないのか』というのが、記事を読んでの感想でした。


 さて、今週は定期的に話を聞いている大臣の元政務秘書氏の話を聞きました。NHKスペシャルやニュースなどにも時折出演している人です。TVでの話と違いオフレコなので、裏が取れるものではないんですが、今までもそんなに外れていないので(安倍の次は菅というのも彼は当てています)、皆さんとシェアします。
 
●コロナについて
 今のような状態はあと2回冬を越すまでは続くのではないか。治療薬は今のところ見込み無し安倍晋三肝いりのアビガンは当初から心配されたように妊娠中の女性には深刻な副作用があることがはっきりしている。使えない。それにトランプに使われたレムデシビルは重症者には効かない。
 ワクチンも各社の開発が難航しており、開発→普及→免疫獲得には21年いっぱいかかるだろう。
 コロナ以前の世界に戻るのは当面ムリ。経済がもとに戻るとしても22年ではないか。

菅内閣の人事
 周到に選ばれた人選でかなり前から準備していたと思われる。新たに入閣させた顔ぶれを見ても、(菅と仲が悪い)麻生を牽制するための武田総務相(福岡選挙区)、石破派から事前に一本釣りしていた(総裁選の推薦人に名前が入ってない)田村厚労相、菅が親に世話になった梶山経産相、小此木公安委員長など、全て役割を持っている。また河野太郎麻生派だが、同じ神奈川県という事で前々から菅は目をかけている。後継の可能性も充分にある。

 内閣参与も自分が総務副大臣の時の竹中や高橋洋一、それに秘書官も当時の官僚に変えている。石破は総理の目はほぼなくなった。石破派は田村の様に他派閥から引き抜かれていくだろう。
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 なお、デジタル庁の初代長官は民間と言われているが、実は竹中、という噂が出ている。自民の中でさえ、抵抗はあるが、国会答弁ができる民間人、というと人材が限られるからだ。


菅内閣の性格
 菅は安倍路線を引き継ぐ気はない。引き継ぐと言った方がやり易いから、そう言っているだけ。
 就任してすぐ菅が官房副長官の杉田を呼び出して、内閣支持率が高いうちにまず2つのことをやれ、と命じた。それは『学術会議の人事福島の汚染水放出』だ。

 学術会議は最近ニュースに出ているように、菅は前々から介入しようとしていた。学術会議に入っている大御所の学者は反対しているが、大学の科研費を人質に取っているため、大学本体や若手の学者は本気で反対していない。更に政府は東北大学から中国へ技術が流れていることを疑っており、同大学への介入を狙っている。
 汚染水放出はもうすぐ、カネで漁協を黙らせる予定。今 予算措置の準備をしている。

 菅は無派閥であるため、他派閥が動いて足を引っ張る隙を与えないよう、常に具体的テーマを出していく方針。携帯値下げや不妊治療などもその一環だし、これからも、どんどん出そうとしている。菅の任期は来年9月の自民総裁選までなので、その前に解散総選挙を狙っている。今のところ 来年1月が濃厚。
先日 コロナ対策大臣の西村が年初の11連休に言及して、二階にきつくお灸をすえられたが、それは選挙絡みだから。
 ちなみにオリンピックは二階が絶対にやる、と言っている。ただし無観客の可能性もある。


 どうでしょうか
 彼が議員や役人、経団連仕入れている話なので、裏はとれません(何年も話を聞いてますが、今まで大筋は当たってました)。すくなくとも、日常 流れているニュースとはまた違った目で見ることができるのではないでしょうか。

 立憲民主はコロナ禍での経済対策として、時限的に年収1000万以下の所得税減税と消費税を下げろ、と言っています。近年 負担が集中している中間層に資する所得税減税のほうはともかく、消費税の方は、ボクは『バカじゃないか』と思いました。福祉の切り捨てにつながりかねない財源の問題だけでなく、消費税を下げたり、戻したりしたら、また買い控えが起きる。急にそんなことをやったら需要も変動するし切り替えの準備もある。メーカーも流通も現場は大変です。現場はテレワークなんかできないのに、コロナ禍の時にそんなことできるか
 そもそも消費税を下げて消費が増えるなんてエビデンスは全くありません。消費税を上げたら消費が一時的に減るというエビデンスと混同しています。勘弁してくれ。

 それだったら菅が言ってるように、最低賃金の全国一律アップ(D・アトキンソンが言ってるように)の方が遥かにマシです。収入増だけでなく、地方と都市との格差是正ゾンビ企業の退出と言った長期的な効果もあるからです。
それにGO TOキャンペーンは感染の問題をはじめとして賛否はあるし(個人的には下品で大嫌い)、一部のネット業者が儲かると言う大欠陥はありますけど、地方への経済効果という面では意味があるのかもしれませんし(まだ判らない)。

 事前に思っていた以上に菅は高圧的だし、新自由主義的、とボクは思っています。竹中や高橋洋一みたいな、ペテン師だが曲学阿世だかの連中の顔を又見ることになるとは思わなかった。

 今日 9月の失業者が発表されました。失業は着実に増えつつあり、求人は減りつつある。


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 これから年末にかけて雇用調整助成金が切れたら失業者は激増、あと100万人増えると予測されています。中長期的にも格差は一層拡大し、世の中は不安定になる。世の中がロクでもない方向へ進む速度は一層加速されるでしょう。

 が、もろ手を挙げて野党を支持する、という感じでもない、のが正直なところ。やっぱり、国民がもっと関心と知識をもって政治を監視してないと、野党が政権を執ろうが、この国はあまり変わらないだろうなーと思います。



 さて、今週は久々にリアルで金曜官邸前抗議を実施するそうですが、今回 ボクはお休みです。今週もオンラインかと思ったので、1週間前に『キノコ狩り』のお店の予約をしてしまった。2日前にやると言われても(笑)。

 こちらはこの前行った『キノコ狩り』のあとの『栗拾い』(笑)。
 デザートのモンブランは下の台がメレンゲです。パイやタルトに比べて軽いので、これはアイデアだな、と思いました。メレンゲの上に生クリーム、更にお店の子の実家の栗(笑)を載せて、マロンクリームを絞ったもの。
 モンブランは好きですけど、極端に甘かったり脂分が多くて、食後感が重いものが多いのが難点でした。これなら軽くて、食後にはぴったりです。自分で作ろうと思えば出来そうなのが良いですね、作りませんけど(笑)。

スプリングスティーンの新譜:『Letter To You』と来年のアカデミー賞候補第1号?:映画「シカゴ7裁判」

 10月も最終週、年末の足音も聞こえてきました。
 通勤の帰り道、今までは夕焼け色だった景色も、めっきり夜景になってきました。もう、冬の色です。
●秋の洗足池。


 先週末の街は人が本当に多かったです。こんなので大丈夫か?と言いながら、手洗いして、我々は生活を続けていくのでしょう。

●よく知りませんが、吉本でもシルクみたいな人はいるんですね。文章も読んだけど非常にわかりやすかった。流石は元パンクのファンでロンドンに渡っていただけのことはある。


 個人的には週末は23日に発売されたばかりのスプリングスティーンの20作目の新譜を聞いていました。45年間バックを務めるEストリートバンドとは8年ぶりに組んだ作品です。

 今年71歳。たった4日間で、ダビングなし&一発録りされた演奏は良い意味で70年代末の頃の熱気あふれる頃の音なのも驚きですが、テーマとしては彼の10代や20代からの仲間の死が色濃く反映された作品でした。

 まだ感想を書けるほど内容を消化してませんが、作品のテーマは『避けることが出来ない死と共にどうやって生きていくのか』のようです。人生の後半戦に入ったボクも他人事とは思えません。
1曲だけ、トランプと思われる人物を自分の利益しか考えないペテン師呼ばわりする曲もありますが(笑)、作品では主に、残された時間も出来ることも限られてくる中で、自分はどうやって生きていくか、が語られています。

Bruce Springsteen - Letter To You (Official Video)

 今夏の民主党大会では彼の映像と911をテーマにした曲''The Rising''がオープニングに使われたそうですが、元来は今頃、彼はジョー・バイデンの応援で激戦州を回っていたはずです。本人はバーニー・サンダース支持だそうですが、先週 自分のファンが多い激戦州、ペンシルバニア州向けにバイデン支持のビデオを作って公開、1週間で35万回再生されました。
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 コロナ禍でオバマ氏の時のように集会などでの応援はかなわなかったわけですが、作品の内容には選挙より内省がふさわしい。死もさることながら、我々は民主主義を本当に望んでいるのか、それが問われていると思います。
●ブルースはトランプは負けるだろう、と言っています。そうなれば良いのですが。
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 ということで、 渋谷で映画『シカゴ7裁判

chicago7-movie.com
 1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会の会場近くに、ベトナム戦争に反対する市民や活動家たちが抗議デモのために集まった。当初は平和的に実施されるはずだったデモは徐々に激化し、警察との間で激しい衝突が起こる。デモの首謀者とされたアビー・ホフマン、トム・ヘイデンら7人の男たち(シカゴ・セブン)は暴動をあおった罪で起訴され、裁判にかけられる。

 シカゴ7の裁判は『アメリカ史上最も狂った裁判』と言われています。ベトナム戦争当時 シカゴで行われた民主党大会で起きた暴動についての裁判です。7人のデモ参加者を見せしめに有罪とすることで、市民の直接行動を恫喝するためのものでした。

 ベトナム反戦を訴える人たちが集まって暴動が起きたシカゴの民主党大会のことは、ボクはCSNY(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)の歌で知りました。歌になるくらいアメリカでは有名な話です。

 それをテーマにしたこの作品、当初はスピルバーグが監督を務める予定でしたが
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 スケジュールの遅れで降板、脚本を担当していたアーロン・ソーキン(「ソーシャル・ネットワーク」「スティーブ・ジョブス」「モリーズ・ゲーム」など)が監督を担当しました。実録ものには本当に定評がある人です。
●オリンピック候補選手が政治家や有名スター相手のコールガール・クラブを運営していた実話をもとにしています。際物に見えますが、実は徒手空拳の女性が男尊女卑社会と如何に戦うか、という物語でした。

モリーズ・ゲーム(字幕版)

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  • 発売日: 2018/10/05
  • メディア: Prime Video

 出演は『ファンタスティック・ビースト』などの美男俳優エディ・レッドメインに、俳優兼コメディアンのサシャ・バロン・コーエン、『50/50』などのジョセフ・ゴードン=レヴィットマイケル・キートンなど。政治映画とは思えないような超豪華俳優陣にはびっくりです。
●最新作「ボラット2」でトランプの変装をして、ペンス副大統領の集会にアポなし乱入するサシャ・バロン・コーエン(左)。彼はトランプの顧問弁護士ジュリアーニにもハニートラップのドッキリを仕掛けて、トランプに非難されています。オックスフォード卒のインテリですが、こういう人です(笑)。

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 元来は大統領選直前に劇場で大規模公開される予定だったそうですが、コロナでネットフリックスの配信に切り替わったとのこと。見る機会がないかと思いましたが、なんとか1日1回の劇場公開を見つけて行ってきました。
 早くも来年のアカデミー作品賞や主演男優賞の声も挙がっていて(ヴァラエティ紙)、期待値マックスです。
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 映画は当時の記録フィルムの引用から始まります。これがびっくりするくらい、切れ味が鋭い。
 毎日毎日 ベトナム戦争の死傷者の数が報道されます。今のコロナ感染のようなものでしょうか。そしてベトナム市民の犠牲者など戦争が大義がないものであることと同時に、徴兵のやり方が写される。ガラガラポンで数字を決めて、該当する数字が誕生日の人間が徴兵されるんです。冗談じゃありません。くじ引きで徴兵されて大義の無い戦争に駆り出され、命や体の一部を失うかもしれないんです。

 なぜ、当時の若者たちがベトナム戦争に反対したかが、2,3分の描写で一発で良くわかります。後々の戦争、例えばイラク戦争などと比べて、当時の反戦運動が激しかったのは徴兵制も一因、という事が良くわかりました。

 68年当時の大統領選には共和党ニクソンが立候補していたのに対して、民主党はジョンソン政権の副大統領、ハンフリーが候補になろうとしていました。今から考えるとジョンソンは公民権法を成立させるなど功績は残しましたが、ベトナム戦争継続で党内では人気がなく、立候補辞退に追い込まれていました。立候補する予定だったリベラルなロバート・ケネディは暗殺されてしまった。
 代わりにハンフリーが立つことになったのですが、副大統領だった経歴から判るように、反戦色は濃くない。若者たちの間では不満が高まっていました。

 シカゴで行われる民主党大会に異議を唱えるため、大勢の若者、活動家が集まりました。
 州知事は警察だけでなく軍隊も動員、夜間外出禁止令を出し、強硬な弾圧に乗り出します。デモ隊は投石、警察は警棒で市民を殴りつけるなどの暴動状態になり、結果 数百人の死傷者が出て、警察8人、市民側8人が起訴されます。
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 映画では8人の容疑者の裁判と暴動が何故起きたか、が交互に描かれていきます。
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 訴えられたのは、民主党内から改革していこうとする比較的穏健なSDS(民主学生同盟)のトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)、
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過激な青年国際党(イッピー)のアビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)(写真左)やジェリー・ルービン、
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普通の民主党の中年活動家デリンジャー、それに黒人解放を訴えるブラックパンサー党のボビー・シールら。組織も思想も全く異なる人たちです。

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 ジョンソン政権当時は『警察側の弾圧が暴動のきっかけを作った』として彼らの起訴を見送っていました。しかし翌年 政権に就いた共和党ニクソン政権は強硬姿勢をとって、8人を暴動の示唆だけでなく、より罪の重い共謀罪で訴えます。共謀どころか、彼らは顔見知り程度しかありません。明らかに見せしめのための裁判です。

 主任検察官を務めることになったのは将来を嘱望されていた若手検察官シュルツ(ジョゼフ・ゴードン・レヴィット)。彼は『共謀罪の適用は無理だ』と上層部に反対しますが押し切られ、裁判が始まります。 
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 最初から仕組まれた裁判です。裁判官のホフマン(フランク・ランジェラ)は当初から被告たちに対して強圧的かつ差別的な態度をとります。
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 悪口を吐いたボビー・シールは法廷で手錠とさるぐつわまではめられます。これには被告側だけでなく、検察官のシュルツも抗議、ボビー・シールは裁判から外されます。そもそもボビー・シールは演説するために4時間だけシカゴに滞在しただけで、デモには関係なかったのです。
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 弁護士を務めるクンスラー(マーク・ライランス)は不利な裁判にも屈せず、粘り強く戦っていきますが裁判官のホフマンはまともな審理をしない。
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 最後の手段としてジョンソン政権当時の司法長官のクラーク(マイケル・キートン)を証人として呼ぼうとします。しかし元の司法長官が裁判で証言するなど前代未聞です。

 映画は裁判とシカゴの事件が交互に描かれていきます。背景など説明らしい説明はありませんが、被告たちの考え方やキャラクター、政権・検察側の思惑が観客にもよく判ってきます。そして平和的だったデモが警察の暴力で暴動に変っていくさまが描かれる。

 人気のエディ・レッドメインくんや大物コメディアンのサシャ・バロン・コーエンを起用した被告側の描写は非常に面白い。
 体制内から改革しようとするトム・ヘイデンと反体制そのもののアビー・ホフマンは目指すところは同じですが、全く相いれない。二人のキャラの違いや対立はドラマに重みを増しています。この二人の演技合戦は強力で、どちらかはアカデミー主演男優賞にひっかかるんじゃないか、と言われています。あとマヌケそのものに描かれている有名詩人のアレン・ギンズバーグも笑わせてくれます(笑)。
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 こういう映画は政府側を一方的な悪者に描きがちですが、もっと複雑に作られています。検察側も司法省側も思惑があるところが良いです。実際は単なる極悪非道だったようですが、ここは脚色・脚本の勝利です。わざわざ演技派俳優のジョゼフ・ゴードン=レヴィット君を起用しただけのことはあります。
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 そして、マイケル・キートン。出番は短いですが、満を持して登場してビシッと決める。これだけカッコいいキャラは久々に見ました。
 あとイッピーたちにハニートラップを仕掛けるFBIの潜入捜査官(ケイトリン・フィッツジェラルド)も良かった。この人も架空のキャラだそうですが、現実はデモ隊に覆面捜査官を大勢潜り込ませるなど、政府はなりふり構わず弾圧しようとしていたんです。


 シカゴ7の事件はアメリカでは超有名ですが、日本では殆ど知られていないでしょう。しかし、詳しくなくても映画を見ているうちによくわかる。それくらい非常によくできている。で、最後は感動で、ギャン泣きさせる。きちんとエンターテイメントになっている。うまい脚本です。


 ちなみにシカゴ7の裁判は映画で描かれた初審では共謀罪は無罪、暴動示唆では有罪、最終的には全面無罪になります。
 第1級の娯楽映画でもあり、政治映画でもあり、現代を告発する映画です。例えば 猿ぐつわをされたボビー・シールが『息ができない』と呻くシーンがありますが、これはブラック・ライヴズ・マターそのものです。強圧的な裁判官や事実を捻じ曲げようとする司法省も現在と一緒でしょう。ボクは日本とそっくりと思いました。
 そして警官に取り囲まれ、暴力を受けるデモ隊を豪華ホテルのバーから他人ごとのように眺める当時の民主党の面々。民衆と全く遊離している政治家たち。これだって日本の政治家と一緒じゃないですか。

 当時も今も権力のやり口は変わっていません。そして市民運動の美点や限界も良く描かれています。SDSもイッピーもブラックパンサーも運動はどこかが間違っている。けれど、どこかは正しい。そこでどうするのか。何が一番大事なのか。クライマックスで明らかになります。
 こんな内容でエンタメとして普通に面白いのだから、大したもんです。


 ちなみに監督は、脚本を書いている時 映画に現在を反映させる気はなかったが、今の時代の流れが当時の時代にシンクロした、と言っています。
「1968年についての映画にしたかったわけではない。懐古趣味や歴史の授業のような映画にしたかったわけでもない。今現在をテーマにしたかった。しかし、今が1968年のようになるとは想像もしていなかった」(アーロン・ソーキン監督)

 警察や検察の強圧的な弾圧、腐敗した民主党、黒人差別、今につながることばかりです。民主主義が危機に瀕している今、この映画から感じる点は多いと思います。映画の出来だけでなく、こういう映画を作っちゃうところが本当に素晴らしい。これはもう、完成度の高い傑作の類です。
 
 ネットフリックスで配信が始まっています。今は忙しくて無理だけど、定年になったらネットフリックス、絶対入っちゃうな(笑)。
 
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